第33話 冒険者ギルド
暴徒鎮圧。
……とまではいかないが、兵士たちはそれに近い能力を持っていた。
斥力場らしきもので民衆を押しのけたり、猫じゃらしのようなものをはやして興奮する集団心理をしずめたりとかそういった能力だ。
ともかくそんな兵士たちの協力により、なんとか押し寄せる民衆の群れを突破し、ようやく俺たちは冒険者ギルドに到着した。
彼らはとにかく優秀だ。
優秀すぎるせいか、斥候役の一人が中に入ってしまった。
内部の安全を確認するためだ。
あまり騒ぎを大きくしたくないが、こんな状況ではもうしかたないか。
俺はあきらめ、兵士たちを引き連れてギルドへ入る。
「なぜ冒険者ギルドに兵士が……って、クロルさま!?
おい、みんな! 整列だ!」
と、いつものように冒険者たちが全員整列してお出迎えしてくれる。
「クロルさま、あなたさまはいったいどれほどお偉いお方なのですか……?!
ならず者の多い冒険者たちを、これほどまでに統率なされているとは……!」
「あー、えーと、これは……」
どう説明したら良いものか迷っていると、受付嬢たちが駆け寄ってきた。
これさいわいと、俺は説明を放棄する。
「すまない。先に用事を片付けさせてもらう」
「は……、はい」
呆然としている兵士たち一行を尻目に、受付嬢全員が並び俺におじぎをする。
「お待ちしておりました。クロルさま」
「とりあえずクエスト達成の報告をしたいのですが、よろしいですか」
「はい、承知いたしました。
この件は、ただいまのご報告のみで結構です。
後はこちらで処理をいたします」
「そっか、それは助かります。
それから、俺宛に言伝が届いていると思うんですが」
「はい、姫さまからお預かりしている物がございます」
「姫さま……?! シュガー姫さまですか?!
アルタイルさまのみならず、クロルさまはシュガー姫さまともご親交がおありなのですか!?」
興奮気味の上級兵が、鼻息を荒くして受付嬢に尋ねる。
だが回答はもらえず、受付嬢たちに引っ張られていずこかへと消える。
兵士たちも一緒だ。
「彼らをどこへ連れて行ったんですか?
あまり邪険にしないでくださいよ。ここに来るまで世話になったのですから」
「ご安心ください。あの方たちには、これからやっていただく仕事があるのです。
ですので、その現場にお連れしたまでのことです」
「そうですか、それならいいのですが。……お礼を言いそびれてしまったな」
「クロルさまからねぎらいのお言葉があったと、彼らに伝えておきましょう。
ではクロルさま、こちらのお召し物にお着替えを」
受付嬢たちが大小の箱を開き、その中におさめられた服を見せる。
どれもこれも立派な服だ。
ということは、今すぐ『姫さま』に謁見することになるのか?
そう思って箱を一つひとつ確認していくと、あまり具合のよろしくない物が混じっているのに気がついた。
「えっ、マジで……。これに着替えなきゃ、ダメですか?」
「はい!『たとえ嫌がられても、絶対に着せてきなさい』との命を承っております」
「そっかー……。分かりました」俺はうつろな目でうなずく。
すると受付嬢たちは、俺の周りを絨毯のようなもので隠し、着替えスペースを作る。
そして女の子たちが俺の服をそっと脱がせ始める。
「えっ、ここで着替えるの!?
っていうか、ちょっ、ちょっと、何するん! 自分で着替えられるよ!」
「そういうわけには参りません。これがわたくしどもの仕事でございます!
どうかわたくしたちから、仕事を奪いませぬよう」
よく見れば、かわいいメイドさんたちである。
清楚なお嬢さんたちである。
こんな子たちに身の回りの世話をやかれるのは……、そんなに悪くない気分だ。
されるがままになっていると、香水をかけられ、眉をととのえられ、化粧までされ、そして最後には、王冠までかぶせられて……。