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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第03章 王都マグロンタターク
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第31話 おさんぽ


「取り乱してごめんなさい。

 アルタイル、あなたがやらなければいけなかったのだということは理解しています。

 あなたが心を痛めているということも理解しています。

 でも、わたしの心の準備はできていませんでした。

 時間をください。気持ちを整理したいのです」



 アズキはうつむき、背中を向けて黙り込む。



「了解いたしました。帰還いたします」



 俺たちは王都へ向けて出発する。


 みんなそれきり無言のままだ。


 大空を神兵たちが駆け回っている。

 おそらく後始末をしているのだろう。残党狩りだ。

 何らかの理由で町や村を離れていた人がいるはずだ。

 そうやって今回の惨劇をまぬかれた人々を、駆逐しているのだ。


 この惑星上から、禁じられた古き言葉を話す人々を根絶やしにしようとしているのだ。



 俺はただ、その光景をながめていた。



 それにしてもあいつらって、似ているようで全然違うよな。




「……クロルさま。クロルさま」


「ああ、すまん。考え事をしていて気がつかなかった」


「クロルさま、王都へはここから徒歩でお帰りください」



 いつの間にか俺たちは、どこかの木陰に舞い降りていた。

 アルタイルの指差す方角に王都が見えるが、うんざりするほど遠すぎる。



「どうしてだ?」


「お忘れですか。

 クロルさまは、昨日クエストで王都を離れたことになっております。

 公式な王都再入場の手続きが必要です」


「……ああそうか、そうだったな」



 それを言うなら、幼女アルタイルが一緒でないと不都合がありそうだ。


 だが、まあそれでもいいか。

 一人になってゆっくり歩いて帰るのも、悪くない。

 今はむしろ、そうしたい。


 落ち込んでいるわけではないが、さすがに今日の出来事は色々とショックだった。

 俺もアズキ同様、考える時間が欲しい。受け入れる時間が欲しい。



「それから、王都へ帰還後、冒険者ギルドにお立ち寄りください。

 クエスト完了の報告をお願いいたします」


「ギルドだって? 明日にしてくれ。

 それとも、今日行かなきゃダメか?」


「本日中、それもできるだけ早くにお願いいたします。

 実は姫さまからクロルさま宛てに、言伝が届いているようです」



 そういえば、約束をしていたんだった。


 謁見の機会を設けてくれることと、そこで全ての説明をしてくれること。


 これは後回しにはできないな。



「そうか。それならしょうがない、面倒だが行くしかないか。

 アズキはどうする? 俺と一緒に歩いて帰るか?」


「アズキさまは王都の中にいることになっておりますゆえ、わたしがお運びいたします」


「そうか。アズキはそれでいいか?」



 アズキは小さくこくりとうなずいた。



「分かった。じゃあまた後で」


「はい、それでは」



 アルタイルがアズキとともに、王都へと帰っていく。



 さて、陰気になっててもしょうがない。

 何か食べて、飲んで、無理やり陽気なテンションにしておくか。






 軽い食事をして、休憩をとってから、ゆっくりと歩きはじめる。

 どうやら予想以上にかなりの距離を歩かねばならないようだ。


 それでもいい。一人の時間が欲しかったからね。


 だがそれにしても遠い。


 王都の警備は厳重らしい。高台の上の見張り塔から周囲を警戒している。

 だからこれくらい遠くに俺をおろす必要があったんだろうな。

 近くだと見つかってしまう。




 軽い運動で血行が良くなってきたからか、少しだけ気分がよくなってくる。

 頭が回転しだす。


 姫さま、つまりシュガーに会ったら何をたずねるか、今のうちに考えておくか。



 俺は何者なのか。お前も何者なのか。柱の神とやらは何なのか。


 ……いや、もう答えは出ているようなものか。

 今さら問いただすようなことでもない。


 んー。


 今日新たに色々なことを知ったせいで、考えがまとまらない。



 ……アルタイルに話を聞いたときと同じように、向こうも準備をしているはずだよな。

 その準備してあることを話してもらえば、それでいいんじゃないか。


 そうだな。

 多分それがいい。


 お忙しい姫さまのことだ。

 時間を無駄にしないように、話をまとめてあるはず。


 突拍子もない質問をして困らせてやるのも面白いが、それこそ時間の無駄か。

 そういったことは脳内で考えるだけにとどめておこう。




 脳内で考えるだけということはつまり、これからたっぷりと妄想するんだけどね。


 さて、シュガーを困らせるような質問は、どんなものがあるだろう。


 そういえば以前『姫さまの弱点は何だと思うか』とたずねられたことがあったな。


 弱点か。

 悪くない困らせ方だ。


 でも直接『弱点を教えてくれ』なんて質問をしても、答えてくれるはずはない。


 ならば間接的にたずねるのはどうか。

 たとえば『シュガーのスキル構成を教えてくれ』とか。


 ……それでもシュガーは答えてくれないだろうな。

 それに困らせる効果も薄い。却下だ。



 いや、待てよ。

 シュガーのスキル構成?


 何かつながりそうな気がする。

 謎が解けそうな気がする。



 少し前までは、超魔道法とやらは、スキルに寄って実現されたものと思っていた。

 だが、それは違っていた。

 衛星砲の発射権限を一時的に譲り受けているだけのようだ。

 だとすればシュガーのスキル構成は、王族として必要なものを備えているのだろうな。


 うーむ。正解に近づけたようで、遠ざかったような気分だ。


 アズキの持っていた『効果増強スキル』とやらを、たくさん積んでいるのかと思っていだのが……。




 アズキといえば、あいつは多分アイテムボックス二つ以上持っているよな。

 だって財宝を収納するとき、明らかに二回分発動をさせてたから。

 あいつ、いくつスキルを保持しているんだ……?


 待て待て、横道にそれるな。


 いや、むしろそれるべきか。


 だったら、アルタイルのスキル構成……。


 空を飛んだり、シャボン膜を張ったり、手から衝撃波のようなものを出したり。

 甲冑の遠隔操作もスキルだろうか。

 それから、ショートテレポートもあった。他に何があったっけ。

 えーと、ダッシュスキル? 足が早いって言ってたもんな。

 でも、アイテムボックスは持っていないみたいなんだよな。

 完全に戦闘特化なのだろうか。



 こうして考えてみると、似ているようで全然違うよな。




 ん……。似ているって、誰と誰がだ?


 俺とアズキか? それとも、俺とアルタイルか?




 あっ、そうか。

 つながった。


 謎がひとつ解けた気がする。


 それは突拍子もない話で、まだ仮説にすぎないけれど、可能性は充分にある。


 それを受け入れる心の準備は整った。

 いや、無理にでも整えておくしかない。


 心の準備は大切だということが、今回のことで良く分かったからな。




今回思わせぶりな話になってしまいました。

どんな謎なのか、どう解けたのか、それを正しく読み解くのは難しいかもしれません。

実際に謎が解決するのは少し後になります。


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