第28話 ツタ
リーダーらしき赤い神兵は、大砲のようなものを抱えている。
その赤い神兵が、最初の砲撃を行った。
砲撃というよりも、レーザー光線のようなものの照射と言った方が正しいか。
旅人のいた場所に赤い球体があらわれた。
球体は、ビーム照射の時間経過とともにふくれあがっていく。
それとほぼ同時に、三体の神兵が大地に杭のようなものを打ち込んでいた。
打ち込まれた三箇所から地面に模様が広がっていき、巨大な魔法陣のようなものを形作る。
そして魔法陣の上空から、何かが高速でおりてくるのが見えた。
最後の白い神兵だ。
その右手が光り輝いている。
どうやら直接攻撃を叩き込むつもりのようだ。
飛行機雲のような残光をのこしながら、白い神兵が大地に吸い込まれる。
ズドォオオオオオオオオン!!!!!
すさまじい爆発が起きた。
砂塵が円柱を形づくって、天高く巻き上がっていく。
魔法陣に防壁の役割があるのだろう。
周辺には影響はないようだ。
その中から、右腕を失った白い神兵が翼を広げて飛び立ってくる。
「……終わったの?」
「第一段階終了というところです。
敵は本体が滅ぼされると同時に、タネを蒔きます」
「タネって……?」
不意にブンと、奇妙な音がした。
同時に強烈な違和感を覚える。
この違和感の原因は何だ?
俺はその原因を探す。
……今まで見ていた視界がずれている。
遠くに見える山脈の配置や、神兵たちの位置。
そういったものが少しずつ違っている。
そうか。
これが違和感の正体か。
俺たちを包むステルス膜ごと、アルタイルがショートテレポートを行ったのだ。
でも、それは何のために?
突如、先ほどまで俺たちがいたらしき空間を、黒いツタのようなものがおおった。
なるほど、『タネ』か。そいつが発芽して、俺たちを攻撃してきたようだ。
その攻撃を避けるために、テレポートで緊急避難したのだ。
「かなり凶悪なタネをまかれてしまいました。
この広域一帯を焼き尽くさねばならぬようです。離脱します」
超加速で俺たちはその場から退避する。
どういう技術か分からないが、加速によるGをほとんど感じさせない。
「このあたりまでくればいいでしょう。
あれをご覧ください」
遠くのほうに、天を衝く巨大な黒い影がみえる。
あのツタが、あっという間に生長したのだ。
さらに神兵の援軍が現れ、その黒い影を取り囲む。
精確な数は分からないが、十体以上の増援があったようだ。
神兵たちは上空から、色とりどりの砲撃を加えている。
「あれは……。さっきまでのあの旅人だというの?」
「ええ、そうです。
あの旅人の成れの果て、と言ったほうが正しいですな。
もはや考える力を持たず、ただ周囲のものを食い尽くすことしかできない存在です。
……さて、衛星砲を使います。
砂漠でよかった。近隣への影響は最小限ですみそうです」
「衛星砲って何?」
アルタイルが片手をふりあげる。その手の先で、何かがきらめいている。
おそらくあの振り上げた腕が、発射トリガーになっているのだ。
「衛星砲、発射します。まぶしくなりますのでご注意ください」
アルタイルが黒いツタの方角めがけて腕をふりおろした。
とたんに世界が真っ白に染まる。
ステルス膜が光の透過率を下げたせいもあるが、ようやく目が慣れてきた。
天上からまばゆい光が降り注いでいる。
降り注ぎ続けている。
「この光景は見たことがあるわ。
まるで姫さまの超魔道砲みたいね。
もっとも、あれはこんなに大規模なものじゃないけれど」とアズキがつぶやく。
「まるで、ではございません。
そのものでございます」とアルタイルが訂正を入れる。
「そのものって、一体どういうこと……?」
「今は時間がありませんゆえ、説明は後ほどさせていただきます」
俺には大体想像がついていた。
あの光、以前見た柱の神からの光線によく似ているのだ。
おそらくシュガーと名乗ったあの姫さまは、柱の神の力を借りていただけなのだろう。
それをスキルによるものだと勘違いしていただけだったのだ。
二十五秒ほど続いた光線の放射が、ようやく止まった。
煙やら何やらで見えにくいが、砂漠の真ん中が広範囲に赤く変色している。
高熱によって砂が溶け、マグマだまりのようになっているらしい。
「殲滅、完了しました。
この砂漠は、これでしばらく使い物になりませぬな」
「ねえアルタイル、結局あの旅人は何だったの?
あの黒いツタのようなものも、いったい何だったの?」
「敵です。敵であるとしか言えませぬ」
「敵……」
「さて、おふたかたへのお願いごと、いえ、用事はまだ一つ残っております。
よろしいですかな?」
「これで終わりじゃないの?
わたしたちにまだ何か見せたいとでもいうの?」
「そうです。そんなところです。
クロルさまとアズキさまに、見ていただきたいものがあるのです」
いつの間にか数十体に増えた神兵とともに大編隊を組み、俺たちは赤く変色した砂漠を後にする。
右を見ても左を見ても神兵だらけ。
これだけの数の神兵に囲まれると、ためいきさえ出てこない。
ただただ圧倒されるばかりだ。
神兵一体一体の容姿は全く異なっており、能力も異なっていることを連想させる。
白いもの赤いもの黒いもの、翼の生えたもの、やたら硬そうなもの、虹色に輝くもの、雷光を身にまとうもの、ぼんやりと輪郭がにじんでいるもの、黒い渦につつまれたもの、やたら長いもの、周囲に何本もの剣が浮かんでいるもの。
あの神兵は観測特化型だろうか。こちらの神兵は水中戦特化型かもしれない。
想像力が刺激され、見ているだけで飽きない。
ひょっとして俺たちに見せたいものとはこの神兵の大群なのかと、アルタイルに問いたくなるほどだ。
「クロル、大丈夫? さっきからずっと黙ってるけど」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だ。
色々と驚かされることばかり見せられたから、事態を観察するだけで精一杯だったんだ」
「そうね。わたしもそうだったわ。
それでアルタイル、わたしたちをどこへ連れて行くつもりなの?」
「ちょうど見えてきました。あれをご覧ください」
そしてアルタイルが指し示すその光景に、俺は見覚えがあった。




