第24話 鎖
あまり時間がとれなかったので、短めです。
その代わりに、次回は二話分を予定しています。
今回の内容は前回に引き続き、アズキと二度目のお出かけシリーズまとめ編という感じです。
アズキは遠くをながめている。
疲れてボーッとしているのか、聞こえないフリをしているのか、どちらか分からない。
だがしばらくすると、わざとらしく頭をポリポリとかきながら話してくれた。
「えーとね、教えていなかったけれど、スキルの枠数って生まれにより個人差があるの。
ある学者さんの説によるとね、シン能力者百人のうち、九十九人は三枠。
そしておよそ百人に一人、最初から四枠で生まれてくる人がいるそうなの」
「へー。となると、四枠の子はスキルスター二十五粒で五枠になれるのかい?」
「ううん。そうじゃないわ。
四枠の子がスキル枠を増やそうとしたら、百二十五粒のスキルスターが必要になるの。
だから四枠の子が得したのは、三枠から四枠に増やすためのスキルスター二十五粒分だけってことになるわね」
「そっか。そこは変わらないのか。
でも金額にすると二十五万マール相当。
若いうちの一ヶ月以上の労働分と考えれば、地味に嬉しい幸運だろうな」
「うん。それでね、話はもう少し続くの。
実は千人に一人の確率で、五枠の子がうまれてくるそうなのよ。
こちらは合計百五十粒分だから、かなりお得感が増すわね」
「おー、そうだな」
「さて、ここでクイズです。
百人に一人が四枠、千人に一人が五枠ときたら、次はどうなりますか?」
「もしかしたら、一万人に一人は六枠なのか」
「正解!
六枠は一万人に一人、七枠は十万人に一人の割合だそうよ。
そしてわたしは、とても幸運だったの」
含みのある言い方だ。
アズキが何枠で生まれてきたのか、言及していない。
八枠なら百万人に一人だが、それ以上の可能性もあるということだろう。
いや待て。百万人といっても、シン能力者百万人の中の一人ってことだよな。
人間という枠でくくったら、いったいどれくらいになるのか……。
まあ、追求はやめておこう。
「そうだったのか。アズキがうらやましいな。俺は凡人の三枠だ。
アズキは剣技スキルの習得もオーラの扱いも、人並み以上だったよな。
本当に天才なんだな」
「その二つに関しては、クロルの方が上だけどね」
アズキは口を尖らせて、不満げな表情をみせる。
そして眉間にしわを寄せ、俺に近づいてくると、腕にしがみついてきた。
まだ疲れが抜けないのか、そのまま体重をあずけてくる。
俺に対する抗議なのか、それとも甘えたいのか、あるいはその両方か。
俺の肩にちょこんと乗せてきた小さな頭をなでてやりたいものだ。
「さて」とアルタイルが渋い声を出す。
なんだよ、いたのかアルタイル。
せっかくちょっといいムードになりかけていたのに。
妹とか弟とか欲しくないのか?
……いや、神兵っていっぱいいるんだっけか。
今さら弟妹が一人二人増えても、感激は薄いだろうな。
「では、レベル上げはしばらくお休みですな」
「そうだな。『奇跡』と『スキル缶』と『スキルスター』、この三つを集めよう。
最優先は『レベルダウンの奇跡』だな。
あっと、それだと俺ばっかり強化することになっちゃうか」
「わたしのことは、気にしないでいいわよ。
今回のレベルアップで、以前からどうしても欲しかった能力を得られたもの。
この能力があれば、あの剣帝ともやりあえるようになっていたはずよ。
だからしばらくの間、使い勝手を試しつつ、レベルアップの方向性を検討したいの。
もしかしたら、スキル構成を調整することになるかもしれないわね」
「そうか。ちなみにどんな能力を手に入れたんだ? さしつかえなければ聞かせてよ」
「いいわよ。
今回レベルアップさせたのは拘束スキル。
そして得た能力は、『ブラッドチェーン』よ」
「ブラッドってことは血に関係した能力だな。
さらに拘束スキルで得た能力。
……だとすれば、自分の血を付着させることで、相手の動きをとめられるようになったとかかな?」
「おー。さすがクロルね。ご明察。だいたいその通りよ。
一ミリリットルにつき一秒間、相手の動きを止められるわ。
血を媒介として使うから無茶なことは出来ないけれど、これで相手に直接触れなくてもよくなったのよ。
これはわたしにとって、すごく大きな進歩なの」
「そうなのか」
「うん。相手に触れるってのは、リスクも大きいのよ。
相手もわたしと同様に接触系スキルを持っていたりするからね。
その対策に虎穴スキルを取ったんだけど、全てを防げるほど万能ってわけでもないみたいなの。
時間差で効いてくる接触毒なんてのがあるらしいのよ」
「それは嫌だな。俺もくらいたくない」
「普段から血を小瓶にとりわけておいて、アイテムボックスに入れておいてもいいわね。
いざってときに投げつけられるもの。
まあ普通に投げるだけでは毒か何かだろうと警戒されるから、工夫がいるでしょうけどね」
「うん、ありかもしれない」
「そして何より一番嬉しいのは、ショートテレポート持ちの相手にある程度対応できるようになったってことよね」
アズキはアルタイルを指差しながら、そう言った。
「確かにそうでござるな。
血を付けられたら、テレポートで逃げた先でも動けない状況は変わらないでござる」
「そこを狙い撃ちってわけか。なるほど」
というわけで、『スキルレベル上げはしばらくお休み』である。
剣技スキルのレベルアップも、『ナデール鋼』とやらを斬れる剣がないのでこのまま放置だ。
次の無敵スキルレベルアップの準備を、少しずつ進めていこう。
アルタイルに頼めば、必要な物資をかき集めてきてくれそうだが、その手は使わない。
俺自身この世界のことを何も知らなすぎるので、見聞を広めたい欲求が高まっている、ということもあるからね。
俺たちは王都に戻った。
アズキのブラッドチェーン用の小瓶を探したり、色水を入れて投げつけたりして試したのだが、その話は割愛しよう。
そして話は、次の日の朝に飛ぶ。