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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第03章 王都マグロンタターク
23/39

第23話 二十五(ニャンコ)の法則

ニャンコの法則ですが、覚えておく必要はありません。

ただ単にニャンコニャンコ言いたくなっただけです。



 嫌な予感がする。



「ちょっと待て! 何をする気だ!」



 俺は振り返り、甲冑アルタイルを牽制する。



「さ、今度のレベルアップは、パパの番だよー。

 約束どおり、無敵スキルのレベルアップ、さっさとすまそー」


「なんだ、クロルの番って、そういうことか」


「あー、なんだレベルアップか。そうだったな」



 安心しかけたその時、俺は甲冑アルタイルによって羽交い絞めをかけられていた。


 嫌な予感がますます激しくなっていく。



「じゃあ、むてきになってー」


「おい待て、事前説明とかないのか」


「なんで?」


「なんでって、説明がないと不安だからだよ。

 いきなり羽交い絞めにされたら、誰だって怖くなるさ」


「そっかー、分かった。えーとね、パパが無敵になるでしょー?

 それで、わたちが時間ギリギリにこうげきするの。

 でもぶつかったいきおいで、パパがふきとばされちゃうでしょ。

 時間ギリギリだから、ふきとばされたあと、パパは無敵じゃなくなっちゃうの。

 何かにぶつかったりしたら、まずいでしょ?

 だから、そうならないように、かっちゅうでパパをおさえておくの」


「なるほど……。要するに、俺は前後から押しつぶされるのか」


「だいたいそんなかんじー。

 それとね、こんかいのかだいの評価、だめーじ量におおきくいぞんするの。

 だからほんきでいくねー」


「……分かった。覚悟はできた。では、頼む」


「あっ、ちょっとまって」



 アルタイルが俺の服をまくりあげ、お腹を露出させる。

 そのお腹に手をあてて、アルタイルが俺を見る。



「これでいつでもいいよー」


「こういう心臓に悪いことは、さっさとすませよう。いくぞ!」



 無敵、発動……!


 俺の身体がまばゆく光る。


 残り時間は、三、ニ……。


 ゼロ!


 アルタイルの手が、ゆらめいた。



 俺の背後で、ドゴンと音が響く。



 幸運なことに、俺の意識はまだ残っている。

 ……どうやら無事に終わったようだ。



「えへへー、ちょっとしっぱいしちゃった」


「失敗!?」



 咄嗟に俺は、自分の胴体を確認する。


 ……大丈夫だ。

 つながっている。


 ダメだったのは、甲冑アルタイルのほうだった。


 ズザザザザザと音をたてて、甲冑アルタイルが粉々に崩れ落ちていく。



「やりすぎちゃった。しゅーふくするから、ちょっとまってて」



 幼女アルタイルが甲冑を組み立てていく。

 だが、明らかに部品が足りていない。

 いくつかパーツがロストしてしまったようだ。



「しばらくはこの格好のまま、失礼します。

 中に入らないと、甲冑再生作業ができませんゆえ。

 また、しばらく口数が少なくなりますがご容赦を」


「あ、ああ、わかった。ありがとう」



 さて、それじゃレベルアップの確認をするか。



【無敵スキル

 レア度:☆☆☆☆☆


 レベル:3/10


 解説:

  完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない

  発動後、五秒間、物理ダメージを完全に無効化する

  スキル再発動には、十五時間というクーリングタイムが必要


  オートガード発動を任意で切り替え可能

  現在のオートガード発動条件:全治一ヶ月以上の怪我が予想される危険に反応(推奨)


 クーリングタイム中:残り約十五時間



 レベルアップ課題(条件および特典):


  課題☆五個のレベルアップを、何か一つレベルダウンさせる ☆☆☆☆☆

     →スキルを細切れに発動する『スキルキャンセル』がこのスキルで可能になる

      クーリングタイムと発動可能時間が比例連動するようになる


  五秒間連続で、即死級ダメージを無効化し続ける      ☆☆☆☆☆

     →スキル発動時間が三倍になる(十秒間増加)


  人口千人以上の町をひとつ滅ぼす             ☆☆☆☆☆

     →クーリングタイムが三分の一になる(十時間減少)



 レベルアップ履歴:

  即死級のダメージを無効化する              ☆☆☆☆☆

     →スキル発動時間が三秒間増える


  高低差二千メートル以上の落下ダメージを無効化する    ☆☆☆☆☆

     →クーリングタイムが十時間減る


  スキル発動時間切れ間近に、即死級のダメージを無効化する ☆☆☆☆☆

     →危険に応じて、自動的にスキルを発動するオートガードが可能になる

      擦り傷レベルから致命傷レベルまで、どの段階に反応するかを選べる】




 レベルアップ特典内容三つの中では、『スキルキャンセル』がすばらしいものに思える。


 これは騎士団のクヌギさんが、イージスの盾で使っていた効果と同じだろう。

 オートガードと組み合わせれば、非常に使い勝手がよくなるはずだ。


 他二つの特典も非常に魅力的だが、『スキルキャンセル』にはおよぶまい。



 だが、その課題が問題だな。

 レベルダウンのやり方を知らないぞ。



「ん? 次のレベルアップの検討?」


「うん、アズキも加わってくれるか。助言をもらえると助かる」



 俺はアズキのために、次の課題と特典を読み上げる。



「レベルアップ条件、とんでもないばかりね」と、アズキがやや引き気味につぶやく。



「ああ、そうだな。

 街をひとつ滅ぼすって、完全に悪者だよね」


「クロルさまがそちらを選ぶのであれば、そのように取り計らいます。

 いかがいたしましょうか。

 クーリングタイム十時間減少というのは、地味ですがかなり魅力的ですよ」


「アルタイル……。

 その口調だと本気なのか冗談なのか判断しづらいから、変なジョークはやめなさい」


「これは失礼いたしました。

 混乱させて申し訳ございません。

 どうぞ、話を戻してください」



 さてそんな冗談のあとなので、きちんと宣言しておいた方がいいな。



「次は『スキルキャンセル』を狙おうと思っている。

 この能力は、オートガードと相性がいいはずだ」


「そうね。それがいいと思うわ」


「拙者も、同意でござる」



 アルタイルは甲冑の中に入ると口調が安定しないなあ。

 この口調も冗談のつもりなのだろうか。

 話がすすまないから、突っ込みをいれずに流すけれども。



「それで課題について、教えて欲しい。

 『レベルダウン』って、具体的にどうやるんだ?

 それと、この課題を達成するには、無敵スキルのレベルを下げればいいのかな?」


「二つ目の質問から説明いたしましょう。

 まずこの場合のレベルダウンとは、他のスキルで難易度星五のレベルアップをしたものを下げる、という意味になります。

 クロルさまの場合ですと、たとえば剣技スキルで星五のレベルアップを達成してから、それを下げることになります」


「ふむふむ」


「そしてスキルをレベルダウンする方法ですが、これは少々難しいですな。

 基本として、『奇跡』に頼るしかないでござる」


「なるほど、奇跡か。

 それで、その奇跡はすぐ手に入るようなものなのかい?」


「残念だけど、『レベルダウンの奇跡』は入手がかなり困難ね。

 需要がとても高いのよ。

 レアスキルの育成やりなおしや、達成不可能な課題が出た場合のリセットなどでみんな欲しがるわ。

 それなのに、数が多く出ないの。

 つまり供給が全然追いついていないってことね。

 だから冒険者ギルドに調達依頼を出しつつ、わたしたちでも探すことになるでしょうね。

 それでも半年くらい余裕でかかると思うわよ」


「そうか。となると、あきらめえて別の課題でレベルアップすべきだろうか」



 残りの課題は二つ。

 街を一つほろぼすという課題と、五秒間連続でダメージを無効化するというものだ。

 前者は論外だから、選ぶなら後者だろうな。



「悩ましいところね。

 レアスキルを育てるなら、レベルダウンの奇跡はいずれにしろ欲しいわ。

 クロルの無敵スキルだけど、わたしの予想では早い段階で手詰まりになりそうよ。

 その時になってから『レベルダウン』を探すよりも、早めに準備しておくべきね」


「確かにそうだな。

 ところで一つ教えて欲しいんだが、そもそも『奇跡』ってどうすれば手に入れるんだ?」



 その質問は、ややズレたものだったのだろう。

 アズキがいぶかしげな表情で俺を見つめる。

 俺はあわててフォローをいれる。



「いや、その辺で買ったりする以外に、どうやって入手するのかなって。

 いったいどこから供給されてくるのか、その最初の出所を教えて欲しいなって」


「……基本はモンスターを狩ることね。そうすればごくごく稀に拾えるわ。

 ただ奇跡のランクは、倒したモンスターの強さに比例するの。

 だから『レベルダウン』クラスだと、ダンジョンボスランクを狙わないといけないわ」


「なるほど、そういう仕組みか。よくわかったよ。ありがとう」


「ついでに教えてあげるけど、スキル缶もほとんどがダンジョン産よ。

 高ランクはやっぱり階層ボスから出るわね」


「ついでついでに、どうやったらスキル枠を増やせるのかも、おしえてもらえるかな」


「……ああ、そっか。そこから説明しないといけなかったのね。

 スキルの最大数は、スキルスターっていうものを規定数食べればいいのよ。

 今の話の流れで推測できるとおり、これもモンスターを倒せば手に入るわ」


「なるほど、スキルスターか。規定数っていうのは?」


「えーと、アルタイル。

 甲冑修復中のところ悪いけれど、そろそろ説明を代わってもらってもいいかしら。

 いつもならかまわないんだけど、さっきの戦いの疲れが残っててへとへとなのよ」


「了解つかまつりました。

 クロル様は現在、スキルスターを二十五個食べれば、スキル枠が一つ増えます。

 そこから追加で百二十五個を食べればもう一枠増え、さらに六百二十五個追加で合計六枠になります」


「すごい勢いで増えていくんだな。えーと……、五倍?」


「左様です。

 下二桁が必ず二十五になるため、二十五ニャンコの法則と呼ばれております。

 二十五、百二十五、六百二十五、三千百二十五、一万五千六百二十五……。

 と続きます。

 ちなみに流通相場はスキルスターひと粒で、およそ一万マールです」



 成人男性が一日働いて得られる給金が、およそ一万マールとされている。

 対比するものによって異なってくるが、大雑把に一円=一マールと考えて良いだろう。


 なお、たこ焼きは一パック三百マールだ。参考まで。



「枠一つ増やすだけで二十五万マール、二つ増やすなら合計百五十万マールが必要か。

 ん、ちょっと待て。アズキ、お前のスキルって……」




 俺の知る限り、アズキのステータスはおそらくこんな感じだろう。



【名前:

   アズキ


 スキル:

   剣技

   ダッシュ

   アイテムボックス

   足場

   虎穴

   拘束

   効果増強

   消滅】



 つまり、アズキのスキルは少なく見積もって八枠以上だ。


 接触通信は単独スキルかもしれないが、拘束や虎穴で獲得した能力としておこう。

 拘束と虎穴はどちらも接触系だから、一つのスキルという可能性もわずかにある。

 けれどもアルタイルの話しぶりからすると、おそらくそれぞれ単独のスキルだろう。


 というわけで、五回目のスキル枠数追加に必要なスキルスターの数は一万五千六百二十五粒。


 金額に換算して、一億五千万マール。

 さらにそれまでの分もあわせれば……!




「アズキって、二億マール近くの大金を自分に投資しているのか?

 優秀な冒険者ならそれくらい稼げそうだけど、さすがにすごいな。

 ……まあこの世界では、スキルの枠数が強さに直結する。

 二億という数字には驚いたけど、それを考えると現実的な数字か」



 俺はアズキの反応を観察しながら、素直に感想をつぶやいた。




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