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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第01章 神へと至る道
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第02話 そして異世界へ

 第02話では、主人公が情報不足のまま異世界におりたち、自らに宿る不思議な能力と向き合います。

 そして巻き込まれた異種族間戦争に終止符を打ちます。


 登場人物同士のからみはほとんどありません。

 バトルや能力などの話がメインです。



 第01話とは雰囲気がかなり違います。ほぼまるきり別物です。

 多少のグロもあります。

 以上、ご注意ください。



 ドン、という大きな破裂音とともに、俺は放り出された。



 膨大なエネルギーが、嵐のように吹き荒れている。

 とてつもない力の奔流ほんりゅうが、周囲をかけめぐっている。


 その渦の中に巻き込まれているのか、俺の身体を見ることすらできない。



 何が起きている?



 首を動かしてみると、濁流だくりゅうの中のような景色が動く。


 顔をかばおうと、俺は無意識に手を動かす。



 すると暴走するエネルギーの流れが、手の形に姿を変えて襲い掛かってきた。




 一体全体、何が起きているというのだ?




 俺に襲い掛かってきた巨大な手の動きが止まる。



 ……ああ、そうか。これは俺の手だ。

 俺の身体中を、膨大なエネルギーがかけめぐっているのだ。


 これまでのことは、その感覚が見せていた虚像きょぞうだったのだ。



 そのことに気がつくと、夢から覚めるように肉体感覚がもどってくる。



 ここはどこだ?


 ……思い出せない。


 俺は誰だ?


 ……名前すら、忘れてしまっている。


 なぜこんな状況になっているのだ?


 俺はそれを思い出そうと、必死に記憶の糸をたどる。

 すると唯一の記憶、少女との会話がよみがえる。



『さて、そろそろ時間です。

 異世界跳躍の時間です』



 ……そうか、思い出した。


 どうやら異世界跳躍とやらが完了したようだ。



『記憶そのものをエネルギーとして……』



 少女の言葉がもうひとつ、よみがえる。


 なるほど。

 異世界跳躍のエネルギー源として、俺の記憶が使われたのだ。

 とすると、この身体中に感じるエネルギーは、その残滓ざんしということだろうか。




 目を開く。


 青空が見える。

 体中に風を感じる。


 どうやら、落下中らしい。


 身体をひねり、向きを変える。



 遠方に見える地平線が、おだやかな丸みを帯びている。


 大地に目をやる。

 広大な平原で、小さな生き物がたくさんうごめいている。


 人間のようだ。何か争っているように見える。戦争だろうか。



 それよりも、このままでは大地に激突してしまう。

 この高さからでは、助からないだろう。


 どうすればいい?

 いや、どうにかしなければ……。


 パラシュートが欲しい。

 いや、それじゃダメだ。あの戦乱のさなかに降下しても助かるまい。


 もっと別の何か……。そうだ、翼が欲しい!

 もしも鳥になれるなら、問題を一気に解決できるのに。




 いや、せっかくなら鳥なんかよりもっと別のものがいいな。




 ……ドラゴンだ。


 願わくは、竜になりたい。




 そう思った途端、身体の中をかけめぐっていたエネルギーがあふれ出てきた。

 エネルギーは白い綿毛のように姿を変えながら、俺を包みこんでいく。


 そして俺は、あっという間に真っ白な竜へと変容した。


 大きさは五、六メートルほどだろうか。

 ゾウかキリンほどの大きさだ。





 竜の視覚が俺に接続される。感覚の混乱はない。


 竜の眼が良いのか、視界はかなりクリアだ。視野も広い。

 仕組みは分からないが、ほとんどすべての対象にピントが合っている。


 身体操作にも不満はない。

 精密な動作はまだ無理だが、二枚の翼はほぼ思い通りに動く。


 反射動作も充分だ。

 無意識のうちに広げた翼が大気をつかみ、落下速度は緩和されていく。



 なぜ俺は竜になった?

 ほんの一瞬、そう願ったからか?

 そもそも、なぜ竜になったと自覚できたのだ?

 そんなことより、俺は人間に戻れるのか?


 いや、そんな考察よりも、もっと優先すべきことがある。

 こんな物騒な場所から逃げだすことが、今は最優先だ。




 竜となった俺は、戦場の上をゆっくりと滑空する。

 両陣営、いくつもの部隊が複雑にからみあって戦っている。


 戦地は広い。広すぎる。

 このまま滑空を続けるだけでは、安全圏にゃんぜんけんへ脱出するのは難しそうだ。


 飛距離を伸ばすには、羽ばたいて高度をあげるしかないだろう。


 だが、なんというか自信がない。

 竜としての本能が告げているのだ。

 羽ばたけば、必ず失敗して墜落ついらくする、と。


 いや、墜落とまではいかずとも、せっかくの高度をムダに下げることになるだろう。



 滑空だけなら紙飛行機でもできるが、そこから先はとても高度な運動だ。


 いや、訂正しよう。滑空だけでもかなりむずかしい。


 少し首を曲げるだけで、風の抵抗が変わる。

 進行方向が大きく変わる。

 指先一つ動かすだけで、微細な気流の変化が起こる。

 速度が、運動エネルギーが失われる。


 羽ばたきには、この何十倍も繊細な身体操作が必要だ。

 竜に成り立ての今の状態では無理だ。

 圧倒的に経験が足りない。単純な話、練習不足だ。



 手詰まりだ。どうする?

 失敗覚悟で羽ばたきにチャレンジしてみるか?



 ……やはりリスキーすぎるな。


 それよりも良い考えがある。

 上昇気流をみつけるのだ。


 うまく気流に乗れれば、高度を上げられるはずだ。

 高度が上がれば、当然飛行距離も伸びる。

 羽ばたきチャレンジよりも、マシな案だろう。


 だが、どうやって探す?


 その疑問を抱いた途端に、竜の眼が輝いた。

 瞳孔が大きく開いた。


 全ての対象と同時に焦点が合う不思議な眼が、大気中にただよう小さな粒子一つひとつを認識していく。

 さらにその粒子の動きを、詳細に把握していく



 これは……、どういうことだ? 何をしようとしているのだ?



 そうか! 分かったぞ!

 これで気流の動きを読めるのだ!


 俺は全方位の大気の流れを、高速で分析していく。

 空を飛ぶ竜にとって、それは本能的なことだったのだろう。

 その情報は、水が砂地にしみこむように、竜の脳内で処理されていく。



 十秒、いや、二十五秒先の風の流れが読める。


 高度を犠牲にして下降しながら加速し、右斜め前方へと進もう。

 そうすれば、大きな上昇気流に乗れるはずだ。



 そこから先は……、どうする?

 どんな進路を取る?


 ……もっと情報が必要だ!




 竜の眼が大気をとらえ、さらに情報が集まっていく。


 情報が集まるにつれ、予測の精度が上がっていく。

 直近の空間から地平の彼方まで、大気の動き全てが手に取るように分かる。


 バタフライエフェクトなんて言葉があるが、蝶の羽ばたきで何が起きるのか今の俺には全て理解できる。

 それどころか、俺の動作ひとつで世界の全てをコントロールできるかのような万能感が高まってくる。



 今なら、羽ばたくことも可能かもしれない。やってみるか?


 ……いや、それを試すにしても、もう少し高度を上げてからにすべきだな。

 今はひとまず、上昇気流にのることが最優先だ。






 高揚感につつまれていたその時、こちらを見上げている集団をみつけた。



 俺がこの世界に顕現したときの巨大な破裂音を聞いて、空に注意を向けていたのだろう。

 それでたまたま俺のことに気がついたようだ。


 その集団は、人間ではなかった。


 おおまかな形は人間に似ているが、緑色の皮膚を持ち、見るからに忌まわしい醜悪な生き物だ。


 あたりを見渡すと、人間もみつかった。

 どうやらこの緑色の軍団と人間たちが争っているらしい。




 その緑色の生き物が、鋭利な槍を俺に向けて投げつけてきた。

 投槍器を利用した、強烈な一撃だ。



 緑色の怪物は、想像以上の怪力を持っているようだ。

 槍はとてつもない速度で、ぐんぐんと迫ってくる。

 しかも有り得ないことに、槍は減速どころか加速してきているようだ。


 槍が加速する原理は不明だが、このままでは間違いなく接触する。


 この高度なら安全だと、油断していたのがまずかった。



 槍はかなり大きく、毒らしき黒い液体が塗られている。

 竜の身体をつらぬくことは難しいが、傷つけるくらいならたやすいはずだ。



 いや、のん気に観察している状態ではないな。


 本当に毒だったらまずい!

 危ない! 身を守らねば!


 滑空とはいえ、飛行という運動は繊細な姿勢制御と高度な集中力を必要とする。


 単純に同じ姿勢を保っていればいいというわけではない。

 風の強さや向きに応じて、細かく姿勢を変えなければいけないのだ。



 考えてみてほしい。

 単純な二足歩行でも、めまいがするだけで困難になる。

 気分が悪い中、水泳をすればおぼれるのは必至だろう。


 では、空を飛行中に同じような状況になったらどうなる?




 そうなのだ。つまり、毒を受けて気分が悪くなれば、飛び続けるのは不可能なのだ。


 そしてこの集団狂気のうずめくなか、飛行能力を失って墜落したら、どんな目にあわされるかわからない。


 毒の槍を回避できるか? いや、間に合わない!






 ……竜なんかじゃダメだ。もっと巨大な……!






 俺がそうさとった途端、竜の身体は巨大にふくれ上がった。

 雲に到達するほどの、生物と呼んで良いか分からない何かに変わった。


 直径百メートル、高さ数千メートル。

 いや、もっと大きく、もっともっと高い。


 ……もはや塔だ。


 そんな塔が、突然出現した。


 あまりにも急激な体積の膨張で、大気が不安定になったためか、雷鳴が響き渡った。

 いや、音速を超えて塔が大気をおしのけたために発生したソニックブームかもしれない。



 塔と化した俺の巨体が、ゆっくりと大地におりていく。


 突然の異常な出来事で戦場は静まりかえり、争っていた二種族は俺から大きく距離をとった。




 いったい何が起きている……?



 突然『プニャン』というかわいらしい音が鳴り、同時にウィンドウのようなものが開く。


 ウィンドウには何かが表示されている。


 小さな丸、そしてそれを中心に、さらに大きな円が猫かれる。

 いわゆる同心円ってやつだ。


 同心円の数はどんどん増えていく。


 これは何だ?

 この中央の小さな丸がこの塔だと仮定すると、周辺の地形図だろうか。


 違うな……、いったいなんなのだ。


 あっ、そうか。

 これはこの星を含む惑星系の模式図だ!


 彗星か小惑星のものらしき楕円形の軌道が、どんどん追加されていく。


 どうやらこの惑星に衝突するおそれのある天体の軌道を観測、計算しているようだ。




 巨大な塔の身体は、俺よりも優れた頭脳を持ち、独自の情報処理活動を開始していたのだ。



 いや、その計算を行っているのも、巨大な塔の一部分でしかない。

 この塔の中で俺に一番近い部分が、その計算を任されているだけのことだ。


 空を見上げれば、いくつものウィンドウが俺を取り囲むように開いている。

 その一つひとつが何かを観測し、何かを演算しているのだ。



 塔全体で何を考え、何を実行しようとしているのか。

 それを把握することは、かなり困難だ。


 ってか、そんな悠長ゆうちょうなことを言っている場合じゃないな。


 俺本来の自我は、既に隔離され、全体とのつながりを失いつつある。

 それはつまり、俺が消え去りかけているということと同義だ。






 このままではまずい! 俺という存在が消滅してしまう!






 俺は必死に意識を保とうと、もがいた。


 するとぼんやりながら塔の『意志』が伝わってきた。



 ……塔の身体は、戦争をしている二種族のことから興味を失いかけているようだ。

 だが両種族とも、突然出現した塔に好奇心を覚えたらしく、ゆっくりと近づいてくる。


 不意に、高さ数メートルはあろう火柱がまきおこる。

 火柱は塔と化した俺の周りに円をえがく。



《近づくな。この炎に二度焼かれることは、その者の消滅を意味する》



 言葉で、というよりも、『意味』そのものの警告が周りの生き物全ての心に響いた。



 それは半分、俺の意志だ。


 塔は周囲の存在全てを焼き尽くそうとしていた。


 それを瞬時に理解した俺が、その惨劇を拒んだ。

 塔の決定に、強制介入した。


『いきなり滅ぼすのはダメだよ。

 せめて一度でいいからチャンスをくれてやろうよ』


 そんな俺の意思が加わった結果、こんな周りくどい『警告』が発せられたのだ。




 炎につつまれたものたちの衣服は溶け、警告を意味する刻印がその全身に焼き付けられた。

 そして、見えない圧力によって、炎の外に弾き出された。


 最初の一回は、それですんだ。


 それでもなお再びこの炎にふれれば、警告どおり存在は消滅する。



 火柱は外側にゆっくりと拡大していく。


 警告を出したにもかかわらず、緑色の生き物が数十体、二度炎に焼かれて消えていった。

 人間のほうも数人、正常な判断をできぬ者たちが消滅した。



《この領域への立ち入りを禁じる。小さきものどもよ、立ち去れ》



 俺は塔に、警告をもう一度出させる。



 すると人間の陣営から一人の者が『飛び出し』てきた。

 文字通り、空を飛んでいるのだ。

 何かをブツブツとつぶやいていて、その手にはカードのようなものが握られている。



 なるほど、空を飛んでくれば炎には焼かれないな。


 だが、いったい何をするつもりなのだろう。

 そのまま突っ込んでくる気なのか?


 呪文のようなものの詠唱が終わると、男の手の上に巨大な光の槍が出現した。

 長さ数十メートルはあるだろう。


 そして男は、炎の圏外からそれを塔へ向かって投げつけようとしている。



【分析結果:

  超高エネルギーの荷電粒子の集合体。

  山岳を一つ二つ消し飛ばす威力があると推定される。

  脅威度はゼロ。

  だが類似事案の発生抑止のため、制裁の必要ありと判断】



 何度か塔の意識に介入したために、変なチャンネルが開いたらしい。

 塔からの情報が、自動的に流れ込んでくる。



【防衛機構発動:

  攻撃の無力化を実行。

  敵対種族の殲滅を開始】



 おい、塔、ちょっと待て。

 攻撃をしかけてきたあの当人はともかく、種族殲滅はやりすぎじゃないか。


 三度目の強制介入を行う。

 間に合うかどうかは怪しいところだ。


 いや、俺が甘っちょろい対応をさせたから、なめられているのか。


 たしかに制裁は必要だろう。


 でもせめて、もう一回、チャンスをくれてやろうよ。

 不意打ちしてきたとかならしょうがないけど、警告くらいはしてやろうよ。






 光の槍が、男の手から放たれる。


 すると突如、時間の流れが遅くなったように感じられた。


 しかし光の槍は、ゆっくりと時間が進む中でさえ、超スピードで向かってくる。


 その槍が、突然静止する。

 そして、時を巻き戻すような動きで、男自身に向かって跳ね返される。


 何が起きているのかはさっぱり分からないが、塔の防衛機構が働いたのだろう。



 ブーメランのようにはねかえされた攻撃で、その男は消し飛ばされた。

 山が二つ三つ、その巻きぞえをくらって吹き飛んだ。




 ここまで全ての動きがスローモーションで見えていたが、防衛機能が解除されたためか、時は以前の流れを取り戻す。




《我は柱の神なり。

 以後我に向かい敵対するものは、その同族を全て焼き尽くす。

 偵察も敵対行動とみなす。

 今すぐ立ち去れ、小さきものどもよ》




 塔、いや、『柱の神』が警告を発した。

 俺の了解を得ずに、だ。

 これはよくない傾向だろうか。

 俺の介入力がおとろえつつあるということか。



 さて人間達は、戦意を完全に喪失したらしい。

 失意でうなだれつつ、ゆっくりと遠ざかっていく。

 さすがにあれだけのことを見せられては、仕方のないことだろう。



 だが、緑色の者達はとどまり、石や槍を投げつけるなど無駄で無意味な抵抗をしている。



 ああ、うん……。さすがにこれは俺が介入してもムダだ。


 俺の介入力は弱まりつつあり、たとえ今から止めさせても間に合わない。

 それに、あまり矛盾する命令を出すのは、おそらく控えた方がいい。



 柱の頂から熱線が放射され、緑色の怪物ごと大地を焼いた。

 熱線は地平の彼方へも数度発射され、遠方で巨大な爆発が巻き起こるのが見えた。

 おそらく緑の一族を滅ぼしたのだろう。


 人間達はその惨劇におそれおののいて、あわてふためき逃げていく。




 柱たる神は、これで完全なる平穏を手にした。

 そしてこの惑星の維持に関する諸問題の解決に、総力をあげて取り組み始めたようだ。



 このまま柱の神の一部として、人生をまっとうするのもいいかもしれない。

 悠久の時の間に、俺の自我は本当に消滅してしまうだろうが、それも悪くない。


 何せ、今の俺は『神』に介入できるポジションだ。

 面倒なことは、ぜんぶ柱の神にまかせればいい。

 俺は『神の気まぐれ』の部分をつかさどって、人々や国々を助けたり守ったりしていればいい。

 どこかの少年か少女に加護を与えて、その行く末を見守るのも楽しそうだ。



 一瞬そう思いかけたが、俺は考え直す。


 ちっぽけな、ささやかなことではあるが、やりたいことが残っている。



 俺は、あの少女に復讐を果たしたい。

 あのくすぐり少女を見つけて、くすぐり倒したい。



 おそらく、あの少女もこの世界に来ているのだろう。

 だったら、この異世界の果てまで彼女を追いかけなければいけない。


 俺はそれを心に誓ったのだ。



 まあ単に、やられっぱなしなのが間尺に合わないというか癪に障るというか……。




 でも、どうすればいいんだ?

 柱の神の力を使えば少女は見つけられるかもしれないが、こんな巨体では復讐は難しいぞ。



 すると不意に、『再封印』という少女の言葉がよみがえった。



 なるほど……!



 俺は全てを理解した。


 そうか。俺自身を封印しろ、ということか。


 ほんの少し願っただけでこんな身体になるほどの異能の力を持つ俺だ。

 『再封印』とやらも、不可能ではないはずだ。


 そうだ!

 この巨大な柱の身体を解体して、俺の身体を再構成すればよいのだ!

 全てを封印して、また人間の身体に戻ればよいのだ!


 さあ柱の神とやらよ、俺の命令を受け入れよ!




【自己封印要請は拒否されました。

 その要請内容は、実現不可能です】




 ……実現不可能だと?

 いや、そんなはずはない。


 記憶にはないが、俺は既に一度、この状態から自分自身を封印したことがあるはずだ。

 その根拠は、『再封印』についている『再』という言葉だ。




【自己封印要請は拒否されました。

 その要請内容は、実現不可能です】




 同じメッセージが繰り返される。


 戦争やら何やらで、後手に回りすぎたか。


 だがもう一度だ!


 俺に残された介入力を全て使って、自分自身の封印を願う!




【要請内容検討中……:

  妥協案の提示を行う。

  ・柱の神

  ・大地に放たれたし五十七神兵

  ・宇宙に送られし十五衛星

  以上、われわれの存在を、自己封印後も存続させることを乞う。

  世界維持に関する諸問題を解決するために、われわれの存在が必要でもある。

  この提案に同意できない場合、われわれは自己存続のためにオリジナル消去の検討に入る】



 オリジナル消去……? オリジナルって、ひょっとして俺のことか!?


 しかも俺の知らぬ間に、五十七神兵とか十五衛星とか、勝手に増殖していやがった。

 これは俺の統制力を既に超えたのだと、暗に示しているようなものか。


 となると、提案を断ったら、本当に俺自身が消去されかねないな。



 ……まあ、塔やら何やら残しても、デメリットはほとんどないだろう。

 それにお前たちのような意志を持ちつつある存在が、自らを消去しろと言われたら、抵抗するのも当然の話だ。

 俺の封印要請を拒否してきた理由も分かった。


 それならしょうがない。

 提案を呑もう。



【提案受諾を確認、封印プロセス進行中……:

  過去の反省を踏まえ、七段階に分割した封印を推奨する。

  これにより封印時間が短縮され、限定的な解放が可能となる。

  同時にいくつかの諸問題も解決される。

 追伸:

  サンキュー、パパ、愛してる】



 うん。よく分からんが勝手にやってくれ。


 あの少女に再び出会えるのなら、もう全て任せるよ。


 っていうか、パパって誰だよ。俺のことかよ。

 俺はお前みたいなワガママ息子、作った覚えも認知した覚えもないぞ。


 それからね、呼称統一してくれよ。

 オリジナルだとかパパだとか、コロコロ呼び方かえるなよ。混乱するよ。



【自己封印プロセス進行中:

 完了まで二百九十九プニールの期間がかかると推定される。

 追伸:

  わたしは娘です。おやすみなさい、パパ】



 二百九十九プニール?


 それって何日間? いや、何年間?


 それと娘って言われても騙されないぞ! 柱には性別なんかないだろ!

 あと、パパって呼ぶな!



 だが、いろいろ言いたいことを伝えきる前に、俺の意識は消え去った。




 この第02話で第01章は終了です。

 次の第03話から本編開始です。


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