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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第03章 王都マグロンタターク
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第19話 破壊と再生

いいムードをぶち壊すギャグ回です。

苦手な人はご注意ください。



 これが世間一般で言うところの弟子と師匠の関係なのかどうかはさておき、弟子と師匠の間で関係が持たれた。



「二十分というのは短いな」



 ボソリとそんなことをつぶやくと、いつになくやさしそうな笑顔でアズキが俺にもたれかかる。



 もうすぐ、二人きりの世界から戻される。

 ずっとこのままでいたい。


 ほどよい倦怠感につつまれながら二人で抱き合っていると、世界の雑音が響き始める。



 時間切れだ。



「このまま眠ってしまってもいいかな」


「クロルがそうしたいなら、そうしましょうか」



 そうしてアズキの手をにぎりしめると、突然部屋の扉がバタンと開いた。


 何事だ? と二人でそちらを見ると、幼女が顔を出す。



「パパー!」



 アルタイル幼女バージョンである。

 俺の顔を認めると、満面の笑顔で手を振りかけよってくる。



「消えちゃったから心配してたんだよー」



 そういえばこいつら神兵は、遠方から常時五体以上で俺を警護しているんだった。

 だが隔離の間を発動したため、俺を見失って困っていたらしい。

 そしてようやく隔離の間が解除されたので、確認のためすっ飛んできたようだ。


 まったくこの世界では、誰が覗いているか聞き耳を立てているか知れたものではないな!

 隔離の間を使っていて本当に良かった。心からそう思うよ!

 もっと欲しいな隔離の間の奇跡!



 アルタイルはあざとさを強調しつつ、トテトテと転びそうな足取りで俺の隣まで来る。

 そして無邪気そうに笑ってみせる。


 コイツ……、どこまで計算して行動しているんだ?

 こうして再接近してきたのも、ひょっとして別の目的があるのか?

 まさか俺たちの身に危険が迫っているとか?


 頭の中で思考がぐるぐると回転する。


 いや、思考よりも感情の方が問題だ。


 いい雰囲気のところをぶち壊された怒りを、コントロールしようとしているがうまくいかない。


 やはりここはきつくたしなめておくべきだなと口を開こうとしたそのとき、先に爆弾をぶち当てられてしまった。



「えーと、ふたりで、えっちぃことしてたの?」



 核心をつかれ、俺とアズキは硬直する。



「ふーん、なるほどー、そっかー」



 アルタイルは俺たち二人の身体を毛布越しにしげしげとながめている。

 その瞳に、何やら怪しげな文字が浮かんでいるように見えた。


 やめろ! 事後の身体をスキャンするんじゃない!



「そっかー。ってことは、パパのお嫁さん?」


「……ああ、そうなるな」俺はためいきをつきつつ、そう答える。


「パパはありゅたいりゅのパパで、お嫁さんはパパのお嫁さん。

 さんだんろんぽーですいりすると、ありゅたいりゅのママだ! ママー!」



 アルタイルは満面の笑みを浮かべると、ベッドに飛び乗ってきた。

 しかしアズキはアルタイルを警戒して広いベッドの端にとびのく。


 それにしても、三段論法ってそれでいいのか?

 雑すぎないか? 義理の関係とかそういうのもあるだろう?



「あの……、この子……、誰?

 あなたのことをパ……、パパって……」



 ようやく硬直のとけたアズキが、俺を非難するような目つきでたずねてくる。


 さて、本当のことを言うべきか、言わざるべきか。


 言うしかないよな。

 そうしないと、俺が誤解される。




「えーと……、話してしまっても、いいのか?」


「だいじょうぶだよ! かんいけっかいはってある!」



 簡易結界とやらが何かは知らんが、アルタイルがそう言うのならいいのだろう。

 それにさっき、『ありゅたいりゅ』と自分の名前も出しているしな。



「そうか。ならいいか。

 なあアズキ、聞いての通り、こいつはアルタイルだ。

 お前も知ってるだろう?

 あの鎧を着た、この国の守護神とか何とかいう……」


「は……? この子がアルタイルさま……?」


「わたち、ありゅたいりゅー!」


「うわさで聞いてると思うが、今日何年かぶりで会ってな。

 コイツの言うことは、なんというか、話半分にきいてやってくれ」



 正確には数日振りだが、細かいことはいいだろう。



「パパとママとありゅたいりゅー、さんにんかぞくー、せいぞろいー」



 三人で勢ぞろいって、もっといるんじゃないのか。

 いや、細かいことを突っ込んだら負けな気がする。



「アルタイル、それでおまえは何しに来たんだ?」


「いっしょにねるー!」


「それだけか?」


「うん! たいどーきょかもらったでしょ?」


「……そうか。分かった。

 じゃあ、もう寝ようか」



 俺は二人に背中を向ける。

 だが、アズキはその説明で納得してくれなかったようだ。



「寝ようか、じゃないわよ! そんな話、信じられるわけないでしょ!

 アルタイルさまは、もっと理論的に話をするお方よ!」


「あー、うん、そうだね……。じゃあアルタイル、窓の外に本体を持ってきてくれ」


「ほんたいじゃないよー、かっちゅーだよー」


「そっか。ともかくその甲冑とやらを見せてやってくれ。

 アズキもそれを見れば信じざるを得ないだろ」


「わかったー!」



 空から何かが降下してきた気配がする。

 窓の外でギュンと音がして、その何かが止まる。



「窓を開けてみな。ああ、服を着てないか。

 じゃあ俺が開けてくる」



 俺は長ズボンだけを身にまとい、窓のところへおもむく。

 そして窓の戸をあけると、暗闇にアルタイルの甲冑の姿が浮かび上がる。



「ほら、これが証拠だ。

 というわけで、その子が俺たちと一緒にいるというなら、そうさせてやるしかない。

 俺やアズキがどうこうできる相手じゃないからな」



 アズキはいまだに半信半疑といった表情だ。

 しかし、こうまで決定的な証拠を出されては、信じるしかないと気付いたらしい。



「クロル……、あなた、いったい何者なの?」アズキがたずねてくる。



 その問いを受けて、アルタイルの言葉を思い出す。


 『俺が何者であるか、それはママから教えてもらうべきだ』とかいう言葉だ。


 ありえないとは思うが、アズキのことをアルタイルがママと呼んだ。

 ひょっとしたら、何かを知っているのかもしれない。



「……念のため、お前に聞き返そう。

 俺って何者なんだ?」


「何それ、質問返し? ああ、そうね。あなたは記憶がなかったのよね。

 あなたは……、クロルは、わたしの大切な人よ。世界で一番大切な人よ」



 ふむ、やはりアズキは知らないようだ。

 いや、俺がアズキの大切な人であるということを教えてくれただけで充分か。



「じゃあ、それでいいじゃないか。

 お前が分からないなら、それ以上のことは俺にも分からない。

 何せ知っての通り、俺には記憶がないからな。

 じゃあ寝る、おやすみ」



 俺はさっさとベッドに戻って、目を閉じた。


 余韻もへっくれも、もはや全てぶち壊れてしまった。

 こういうときは、もう寝るしかない。



「おやこさんにん、かわのじー」



 ベッドの中央で、アルタイルが楽しそうに宣言する。

 分かってはいたことだが、どうやらこのまま居座るつもりのようだ。


 明日になったら、状況が少しでも良くなっていると信じたい。




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