第17話 シャボン玉
俺たちは今、直径三メートルほどのシャボン玉の中にいる。
このシャボン玉は、本来アルタイルたち神兵のステルス用のものだそうだ。
ステルス目的ということもあって、このシャボン玉は迷彩効果があり人目につきにくい。
さらにおそろしく堅くて、かなりの防御力も有している。
もちろん座ったりもたれかかったりしても、破れる心配はない。
おかげでここまで飛んでくるのにとても助かった。
シャボン玉が足場や壁となるおかげで落ちる心配がないし、風もしのいでくれるから快適だったのだ。
そして完全に密閉することで、高高度の環境対策にもなるという優れものである。
というわけで現在、高度一万メートルに向けて、ゆっくり上昇中。
もちろん、圧力低下と寒さを完全に防げるというわけではない。
耳鳴りもしてくる。だんだんと寒くなってくる。
気温の低下にあわせて、買い込んできた革の衣服を二重三重に着込んでいく。
頭部はシャボン玉の小さいバージョンを張ってもらう事で対策完了の予定だ。
その時には、多分宇宙服を着たような格好になっているだろう。
さて、すでにかなりの高度だ。
空間を密閉しているためでもあるけれど、だいぶ息苦しくなってきた。
酸素饅頭を食べて、状態を緩和する。
「フリーフォール、楽しみですな。
時間はおそらく三分間程度になると思います」
「……三分か、けっこう長いな」
「何せ一万メートルですからな」
「万が一のときはよろしく頼むよ」
「おまかせください」
着地予定地点は、地盤のしっかりした雪原である。
着地というよりも、墜落とよぶべきか。
「そろそろです。覚悟はいいですか?」
「いい、やってくれ。かなり冷え込んできた。寒い」
「では……」
俺たちを囲んでいたシャボン玉が、はじけるように消える。
自由落下がはじまる。
どんどん加速中なのだが、恐怖心はない。
この世界に来た時に、同じようなこと体験してるからだろうか。
アルタイルがいつの間にか鎧を脱いで幼女バージョンとなり、満面の笑みを浮かべて俺の横にやってきた。
スカイダイビングが楽しいのか、あるいは俺といるのが嬉しいのか。
空を飛べるアルタイルにとっては、後者の占める割合が大きいのかな。
アルタイルはぐるぐる回ったりさかさまになったりと忙しそうだ。
ふと気付くと、俺の横に並んでどこかにむけて手を振っている。
おそらく映像でも撮影しているのだろう。まったくもう、承諾なしか。
黒い渡り鳥の群れが見える。
高度は数千メートルだろうか。鳥たちはかなりの高度を飛んでいるようだ。
現在、多分時速二百キロほどだろう。
アルタイルが俺の手を引き、さらに加速する。
さて、現在の無敵スキル発動時間は五秒間。
当然だが、発動は早すぎてはいけない。
着地のほんの数秒前が望ましい。
バウンドしたり、地面が崩壊する可能性も考えないといけない。
アルタイルとつなぎあっていた手が、ギューッと握られる。
合図だ。カウントダウンを始める。
三……、ニ……、一……、ゼロ!
無敵スキル、発動!
ドシュッ、ダーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
静かな雪原に、轟音が鳴り響く。
無敵発動中でなければ、鼓膜がやぶれていただろう。
もっとも、衝突音が大きすぎたことからくるショック自体は防げなかったようだ。
神経が高ぶっているのか、頭がくらくらする……。
あれだけ重ね着していた革の服が、ほとんどズタボロである。
アイテムボックスに着替えを用意してあるけれど、取り出す気力がない。
「パパー、おつかれさまー、たのしかったねー」
「よく聞こえない。耳がなんだかキーンとしている」
【大丈夫?】
アルタイルが俺の頭をもちあげ、膝枕をしてくれる。
ああ、これって接触通信か。なんだ、お前も使えるのか。
ともかく、ありがとう。多分しばらくすれば治る、と思う。
帰ろう。すごく疲れた。
ふかふかベッドでゆっくり休みたい。
【うん、それじゃ急ぐね!】
すまないな。ありがとう。
シャボン膜が張られ、俺たちは浮かび上がる。
俺はこのままネコろがっていよう。
さて、念のためにステータス確認しておこう。
……おし、上がってるな。
【レベルアップおめでとー!】
うん、サンキュー。
じゃあ内容を確かめるから、ちょっと待ってくれ。
【無敵スキル
レア度:☆☆☆☆☆
レベル:2/10
解説:
完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない
発動後、五秒間、物理ダメージを完全に無効化する
スキル再発動には、十五時間というクーリングタイムが必要
クーリングタイム中:残り約十五時間
レベルアップ課題(条件および特典):
隕石の直撃を受ける ☆☆☆☆☆
→スキル発動時間が五秒間増える
無敵スキルをあとニ千ニ百ニ十ニ回発動する ☆☆☆☆☆
→時間以外の全事象に無敵となる。また影響を受ける事象を選択可能になる
スキル発動時間切れ間近に、即死級のダメージを無効化する ☆☆☆☆☆
→危険に応じて、自動的にスキルを発動するオートガードが可能になる
擦り傷レベルから致命傷レベルまで、どの段階に反応するかを選べる
レベルアップ履歴:
即死級のダメージを無効化する ☆☆☆☆☆
→スキル発動時間が三秒間増える
高低差二千メートル以上の落下ダメージを無効化する ☆☆☆☆☆
→クーリングタイムが十時間減る】
おお、努力の甲斐があったよ!
レベルアップ課題が三つとも星五個だ!
これでようやく本当に、レベルアップ内容を選べるようになったってことだな!
ありがとう、アルタイルの協力のおかげだ!
【パパがよろこんでくれたら、ありゅたいりゅもしあわせなのです!】
そうかそうか。いつもどおりにあざといな。
さて、どれがいいかな。
待ってろ、今読み上げる。
【あ、大丈夫ですよ。んー、これは悩みますねー。
全事象からの無敵化がお勧めですが、オートガードも捨てがたいです。
発動時間五秒延長は、もう少しよくばりたいですね。このレベルだと七秒は欲しいです】
あれ? ひょっとして、お前見えてるの?
【ええ、接触中であれば。さて、どれを選びましょうか】
そっか。
うーむ、こうしてみると、確かに☆五個の課題を三つだして選べるようにしておくべきだと分かるね。
条件達成の難しいものが、どうしても紛れ込む。
【そうですな。真ん中のものは、達成に時間がかかりすぎます。
どれだけ急いでも数年かかるでしょう。
それにこういうタイプの課題は、どうあがいても『高評価』をされません。
したがって、次のレベルでの星の減少が危惧されます。
実質これは見送りですな】
ああそうか。条件の高評価クリアを続けなきゃいけないのか。
【はい、そうです。
もちろん明らかにアタリの課題であれば、あえてそういったものを選ぶこともアリだとは思います】
なるほど。
全事象から無敵になるという特典自体はかなりよさげだ。
しかし、課題の達成完了まで年単位でかかる上に、次の選択肢がなくなる。
デメリットが二つ重なるのはつらい。
となると隕石か時間切れ間近で無効化の二択か。
でも隕石は難しそうだ。
【いえ、隕石なら簡単です。われわれにお任せください。
衛星たちを使って、月から手ごろな石を落とさせましょう。
ただ、大気圏突入時に隕石が高温となりますので、何らかの熱防御策がほしいです。
衝突を一瞬で済ませればそれも不要ですが、それだと高評価を受けにくいでしょう。
やはり大質量隕石の完全直撃がいいですな。
それと今回の件で、轟音に対する備えも必要だとわかりました。
その対策もあったほうがいいでしょう】
……とんでもない大きさの隕石をぶち当てられそうだな。
大陸さえ吹き飛ばしかねんサイズの隕石とかもってきそうな勢いだ。
やめておこう。
【おやめになりますか?
では、以上を踏まえまして、オートガードの取得が良さそうですね。
発動時間の正確なところは計測済みですから、わたしにおまかせいただければ……】
次に発動できるのは十五時間後だから、どのみち明日以降だな。
体調がもどっていたら頼むよ。
では帰るまでちょっと寝かせてくれ。
なんだかとても眠い。