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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第03章 王都マグロンタターク
14/39

第14話 王都散策

ここから第03章に突入します。

第03章は二十ニ話程度の予定です。


今回は導入回。サブタイトルどおり王都をぶらぶらと散策します。

この世界のことに、ほんの少し疑問を抱いたりもします。

本格的に話が動き出すのは次の第15話からです。


それとはじめての猫ちゃん登場!



 それから二日後か三日後くらいに、俺たちは王都へ到着した。


 日付があいまいな理由は、夜に出発したからというわけではない。

 俺の容態が急に悪化してしまったことに原因がある。


 俺は何度も意識を失い、目覚めるたび頭痛がどんどんひどくなっていった。


 目覚めても時刻が分からず、昼か夜かさえも区別がつかない。

 どれだけ眠っていたかという体感も、おぼろげではっきりしない。


 そんな状況がしばらく続いたので、時間の感覚がおかしくなってしまったのだ。



「ん……、ここはどこ?」


「クロルさまがお目覚めになったぞ!」


「姫さまにお知らせを!」


「温かいお茶を! 早く!」


「お茶は、いらない」



 たったそれだけ話したきり、すぐにまた気を失ってしまったこともあった。

 どこかの湖のほとりで休憩中の時だったと聞く。



 入れ代わり立ち代わり女の子たちにチヤホヤしてもらえるという夢のような状況も体験していたそうだ。

 だが、あいにくと俺はそのことを覚えていない。



 そういえばエースのAさんとバインドのBさんが、謝罪にきたこともあったな。

 特にBさんは、俺の体調不良の原因が自分にあるのではないかと、ひどく落ち込んでいた。

 そして二人から、罰をくれとせがまれたのだった。

 極刑すら受けいれる覚悟があると、Bさんは語った。

 俺を苦しめたことで、騎士団内部で肩身がせまかったのかもしれない。

 ちょうどその時頭痛がピークに達していた俺は、そこに考えが至らなかった。

 だから俺は二人にこう告げた。

「二人の行動は、シュガー姫を守ろうと思ってやったことだから、罪に問うことはない」

 すると俺に忠誠を誓わせてくれ、と泣きつかれてしまった。

 姫様に次ぐ第二の主になって欲しいと、Aさんからも頼まれてしまった。

 まわりの雰囲気もあってか、俺はその要求をのまざるを得なかった。

 そしてどういうわけか、騎士団員たちはそのことを高く評価したようだった。

 俺の人気がさらに高まってしまったと聞く。


 それから後になって、あれだけのことで忠誠を誓われてしまうものなのかと、俺はアズキさんに尋ねた。


「騎士団というのは、武芸者の集まりのようなものです。

 みな強さを追い求め、日々鍛錬を積み重ねています。

 自分よりも強い者を目標にすえ、あこがれを抱くのです。

 ですから、絶対的な強者であるクロルさんを神格化するのも当然のことです。

 ……冒険者も、似たようなものですけどね」


 アズキさんはそう解説しながら、わざとむくれてみせた。






 そしてそれから何度目かに目覚めたとき、騎士隊は王都に帰還していた。


 となりにはアズキさん、それと数名の騎士の子たちが控えていた。

 他の子たちは、王宮へ向かったそうだ。


 挨拶をすませると、騎士団の子たちはいずこかへと報告に向かった。




 時刻はお昼過ぎだ。




「従軍任務の延長として、しばらくの間クロルさんの身の回りの世話をするようにとおおせつかっております。

 しかしながら任務報告などのため、わたしは明日から王宮に通わねばなりません。

 ですから今日のうちに、宿の手配や王都の案内などをさせていただきます。

 しばらくの滞在費は、王宮から支給されますのでご安心ください」


「ああ、うん、そうしていただけると非常に助かります。

 ところでアズキさん、また口調が固いです。

 もっとやわらかくお願いします」


「では、お許しをいただきましたので」


「どうぞどうぞ」



 するとアズキさんは近づいてきて、俺の両ほほをつねる。



「心配したんですよ」アズキさんの口調が戻る。ネコが近寄ってきそうなやさしい声だ。


「いやいや、やわらかくつねってくれとリクエストしたつもりではないのですが……」


「体調、だいぶ戻ったきた様子ですね」



 アズキさんが微笑み、手を離す。


 確かにだいぶ復調した感がある。

 頭痛もようやくおさまってきている。

 アズキさんは接触通信で、俺の体調を読み取れるのかもしれない。



「それでは、このまま馬車で移動しますか?」


「馬車もいいね。でもちょっと歩きたい気分かな。

 しばらく寝たきりで運動していなかったから、足腰を動かしておきたいんだ。

 病み上がりってことでゆっくり歩くことになるけど、それでもかまわないかな?」


「そうですね。わたしも少し歩きたい気分でした。

 わたしもずっと馬車の中でしたから」






 往来を歩いてみると、とても注目されることに気がついた。


 当然だ。こんなにかわいい女の子を連れて歩いているのだからな、と俺は納得した。


 なかなかに気分がいい。


 みんなが道を譲り、俺たちに微笑んでくる。



 女の子たちが、手を振ってくれる。

 男たちも一瞬表情を曇らせるが、すぐにとりつくろってこちらに笑いかけてくる。

 子供たちは両手を上げ、ピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。



 それにしても、これって注目されすぎなんじゃないか。

 単に綺麗な女の子を見ただけで、こんな反応は返ってこないよな。


 ……つまりこれだけアズキさんが有名だということか。

 人気者だということか。

 歓待の主役はアズキさんで、俺はそのおまけなのだ。


 ちょっとアズキさんに嫉妬しちゃうな、これは。



 少しねたましくなった俺は、含みのある顔をアズキさんに向けてみる。

 すると俺の心情を察したのか、恋人同士のように手と手をからめてくる。


 それを見て、群集の男たちがため息をつく。

 女の子達が喜色ばんで噂話をはじめる。




【これであなたも主役ですよね。

 パートナーの地位や評判は、そのまま相手のものでしょう?

 これでみんなあなたのことを、わたしと同等に評価してくれるはずよ】



 アズキさんの心が伝わってくる。接触通信だ。


 パートナーの地位は相手のものだって?

 何か納得できないものを感じるな。



【あら、それはわたしの方が深く感じているのですけれども】



 ……まあ、こんなところで子供みたいな駄々をこねても仕方ないか。

 今日のところはこの歓迎っぷりを楽しむことにするさ。


 でもな、覚えてなよ、アズキさん。


 今度絶対、アズキさんをゴージャスでエレガントでキャッツパラダイスなところに案内してやる!

 その時になって『こんな待遇、身分不相応です』だなんて泣きつくなよ!

 さっき言ったセリフを、そのままアズキさんにつき返してやるかんな!



【分かりました。約束ですよ。期待してますからね】



 そんな余裕ぶっていてもいいのか?

 俺は『姫さまのご友人』だぞ。



【ええ、ですからとっても楽しみです】



 そう言われてしまっては仕方ない。

 俺もこの歓迎ムードを楽しむ余裕ができたというものだ。




 宿へと案内してもらい、それから着替えを買いにいく。

 生活雑貨をそろえたころ、俺のお腹がゴロニャーンとないた。



「このとおり、おなかがすきました。軽く食事をとりたいです」


「えーと、この時間ですと、空いている食堂は少ないですね。

 屋台料理ならすぐに食べられると思いますが、いかがいたしましょう。

 でも久しぶりのお食事ですよね。

 お肉とか重たいものをいきなり食べても大丈夫ですか?」



 ちょうど少し離れたところに屋台が出ていて、おいしそうな香りが漂ってきた。

 鶏肉のから揚げのようだ。

 普段ならおいしく召し上がりたくなるところだが、なんとなく胃が拒絶しているように感じた。



「確かにしばらく食べていなかったので、もう少し胃にやさしそうなものがいいね。

 病人食に限りなく近い常食って言えばいいのかな。

 おかゆとまではいかないけど、刺激が少ないものを食べたいんだ。

 ごめんなさい、わがままで」


「いえいえ。それでは、ご飯と玉子焼きなどはいかがでしょう。

 ふわふわの玉子焼きが食べられますよ。

 それとも、パンなどがよろしいでしょうか。

 やわらかなサンドイッチを出してくれる店があります。

 あるいは、麺類、おうどんとかもいいですよね。

 シンプルなきつねうどん、さっぱりとしたなめこおろしうどんなどがおすすめです」



 あいまいな注文を出すと、具体例を出される。アズキさんは優秀だ。


 さて、ご飯、サンドイッチ、おうどんか。

 どれも魅力的だが、胃が白米モードに入ってしまった。

 というわけで、銀シャリだな。



「玉子焼きがいいですね。ご飯を食べたいです」


「了解しました。ではご案内しましょう」


「助かります」



 ゆっくりめのペースで十五分ほど歩いた先に、その食堂はあった。

 食堂というよりも、料亭という感じの店だ。


 屋根つきの門がある。柱が二本だから、棟門とか呼ばれるものなのだそうだ。

 その門の上に大きな看板が出ていて、『百山猫』と記されている。店の名前らしい。


 この棟門、手入れが行き届いていて、雰囲気がよい。

 思わず雨宿りでもしてみたくなるような風情がある。



 こんな店、予約とかなくて大丈夫なのか。

 そう案じながら店に入ると、ちょっとおっとりした感じのおばちゃんがとてもいい笑顔で出迎えてくれた。



「いらっしゃいませ。

 この時間だと玉子焼きくらいしか出せませんが、よろしいですか」


「はい。それをいただきにきました」


「あら、そうでしたの。お召し上がり?

 では、お好きなところにお掛けくださいな。

 二人前ですね。

 大盛り、普通盛りどちらになさいますか?」


「えーと……、普通盛りを二人前でお願いします」




 おばちゃんはお茶を出して店の奥に引っ込む。

 トントンタタタニャンニャンニャンと食事を準備する音が聞こえてくる。


 店内はこざっぱりとしていて、好感が持てる。

 幅の広いゆるやかな階段をみつけた。二階席があるようだ。

 上からの眺めはとても気持ち良さそうだが、今度来たときの楽しみにとっておこう。


 どこからともなく黄色いネコが顔を出した。

 まるで玉子焼きのような色合いで、白い靴下を履いている。

 黄色いネコは当然のように俺の膝の上で丸くなり、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。

 かわいいやつだ。



「おまちどうさま」



 茶碗に盛られたご飯、玉子焼き、白菜の漬物が目の前に並ぶ。


 久しぶりの白米である。スキル缶の寿司以来だな。



「いただきます」


「いただきます」



 味噌汁があったら最高だが、これだけでも充分だ。

 お茶を飲んで喉を湿らせ、まずはごはんを一口。


 うまい。


 粒が立っていて、それでいてやわらかく、香ばしい。


 白菜の漬物に手をだす。



 まずは芯の部分。


 これもいける。絶品である。漬かり心地が最高である。


 パリポリとかみしめると、じゅわりと汁がこぼれる。

 そのうまみあふれる塩気だけで、ご飯を何杯でも食べられそうだ。



 続けて葉の部分。


 これもいい。とてもいい。特に芯とは違った食感が楽しい。


 息をするたび、白菜独特の香りが鼻から抜ける。

 うまいものを食べているという実感が、心の底からわきおこる。



「これは期待していた以上においしいね」


「気に入っていただけてよかったです。玉子焼きもおためしください」


「うん」



 バターとチーズの良いにおいのする玉子焼きをひとかけ、口に放り込む。

 玉子焼きはとろりふわりと口の中でやわらかくくずれていく。


 出汁入りの厚焼き玉子だ。


 塩加減もほどよい。


 うん。極上だ。この店の玉子焼きは正解だ。



 しかもよく見れば、玉子焼きにいくつかバリエーションがあるようだ。

 見て分かるものだけで、三つ葉入りとハム入りがある。


 ほかの玉子焼きにも何かしかけがありそうで、わくわくと胸が躍る。




「大盛りでも良かった。無理してでも食べたくなるくらいおいしい」


「気に入ってもらえて何よりです。

 そうだ、おにぎりにしてもらいましょうか。

 アイテムボックスに入れておけば、夜食にぴったりですよ」


「それいいね。是非お願いしたい」


「すいません。持ち帰り用に、おにぎりを作っていただけますか?

 アイテムボックスがあるので、多めに欲しいのですが」


「はい、テイクアウトですね。

 えーと、そうですね。

 二十五個くらいならいけますけれど、いかがいたしますか?」


「では二十五個でお願いします。二個と三個ずつを五セットで」


「では、出来上がりまでちょっと時間をもらいますね。

 お気に召していただけたようで、何よりです」



 というわけで、たくさんのおにぎりを作ってもらって食堂を出た。



 だいぶ陽がかたむいている。


 帰りは少し寄り道をしながら、主要な店や施設を教えてもらう。

 武器屋、喫茶店、本屋、冒険者ギルド、薬屋、劇場などなど。



 宿に戻り温泉に入って身体をあたためると、眠気が押し寄せてきた。

 ベッドに入ると、羊を数える暇も子猫を数える暇もなく眠ってしまった。



 こうして王都の第一日目は終わった。











 王都二日目である。



 目を覚ますと、既に陽は高くのぼっていた。

 どうやら十二時間以上眠ってしまったらしい。


 だがそのおかげか、体調はほとんど完璧である。

 頭痛もなくなった。



 ということは、封印解放しても大丈夫だろうか。

 一ヶ月くらい間をあけろという話だったが、念のため確認してみるか。


 俺は、封印解放と念じてみる。




【現在、第一段階までの解放が可能です。


 第一段階解放:人間百人分程度に相当、制限時間 3秒


 警告:制限時間が非常に短いため、危機的状況に備えて、解放機能をロック中です】




 二回目に解放する直前と、ほぼ同じ状態だ。

 あれだけのことができるなら、万が一窮地におちいったとしても脱することができるはずだ。

 とはいえ数日間体調を崩すデメリットを考えると、頼りにすべきではないだろうけどね。




 水でも飲むか、とテーブルの水差しを取ろうとしたら、メモ書きを見つけた。



『王宮に行ってまいります。

 夕方には戻りますが、遅くなるかもしれません。

 お暇でしたら、書物をお読みになるか、劇場に行かれるのをお勧めします。

 アズキ』



 そういえば昨日、王宮から呼ばれているとか言っていたな。


 報告なんてちょちょいのちょいで済みそうなことだが、王宮なんてのがからんでくると時間がかかりそうだ。

 かなり大きな事件もあったから、なおさらだろう。



 メモの下には一冊の本が置かれていた。

 『武士道チョコパフェ猫じゃらし』と題されている。

 ぱらぱらと拾い読みしてみるが、どうやら軽めの恋愛小説のようだ。



 さて今さらだけど、この本もメモ書きも『日本語』で書かれている。

 今まで気にする余裕がなかったけれど、会話も日本語だ。


 それだけではない。

 食事とか着物とか、色々な文化も日本的である。

 洋服を着ていた子も見かけたから、日本的ってのは少し変な表現だが……。


 これはどういうことだろう。

 この世界独自の文化ってのがあるはずじゃないのか?


 ……まあ気にはなるが、今のところ優先順位は低いな。

 日本的で困るわけじゃない。むしろ馴染みがあって都合がいい。

 得体の知れない食べ物とか出されても困るしね。


 それに、先に知りたいことがいくつもある。

 柱の神のこととか、神兵とか、奇跡とか、スキルとか、そして姫のこととか。


 なぜこの世界が日本的なのか。

 それをアズキさんに尋ねても答えを得られるとは思えない。

 だけどそのうち、何かの折りに話を振ってみるか。




 ともかく、せっかく天気もいい。

 猫があくびしそうなうららかな陽気だ。


 本を読むのはあとまわしにして、明るい今のうちに外出しておこうか。




 まず食事は……、オニギリでいいか。


 現在、アイテムボックスの中には、オニギリ二個と三個入りの包みがそれぞれ五個ずつ入っている。

 起き抜けだし、二個でいいだろう。


 ちょいとオニギリを取り出して、朝食だか昼食だかをとる。


 大き目の玉子焼きは、オニギリから無遠慮にはみ出している。

 綺麗に具の隠されたものと比べて見た目こそ劣る。

 だが、一口目から幸せになれる様式だ。


 しかもアイテムボックスにいれてあるため、冷めない。温かい。

 中に入れている間は時間の流れが止まるらしく、出来立てをいつでも堪能できるのだ。






 幸せな食事を終え、身支度を整えて街に出る。



 さあ、散策開始だ。どちらへ向かおうか。



 アズキさんのお勧めどおりに観劇に行くのもいい。

 だけどどんな劇が演じられているのか、何の情報もないんだよな。

 事前に多少の勉強をしてからでないと、楽しめないタイプの演劇かもしれない。

 それに喜劇なら良いが、悲劇という可能性もある。それなら今はあまり見たくない。

 つまるところ、情報不足過ぎる。

 今回はパスかな。



 買い食いも楽しそうだ。

 昨日食べ損ねた鳥のから揚げにチャレンジするのもいい。

 だがあいにく、今しがた食事をとったばかりだ。

 一人で飯を食べるのも、正直なところちょっとさびしいと感じていたところである。

 だからこっちもパスだな。



 うーん、どうしようか。

 どうせ行くことになるのだし、冒険者ギルドの下見にでもいってみるか。




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