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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第02章 二百九十九プニール後の世界
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第11話 指さし

第02章は十話予定でしたが、諸事情により十一話に変更します。

この話を含めて残り三話です。


 男の顔に見覚えがあったようで、一人の女性騎士が指をさしながら怒号を飛ばす。



「あ……、お前は、剣帝のダングース……!」


「ん……? あー、いいねえ。その名前で呼ばれるのも久しぶりだ。

 嬉しいねえ。せっかくだ、ゆっくり話をしようか。

 やっぱり話の通じる女ってのはいいもんだぜ」


「裏切り者と交わす言葉などない!」

「相手にするな! おそらくは陣形をととのえるための時間稼ぎだ!」


「つれないねえ。だったらかかってきなよ、ほら」



 剣帝ダングースと呼ばれた男は、大剣を地面に突き刺した。

 そして自信たっぷりの顔つきで、わざと無防備に身体をさらけだしてみせる。


 だが、その誘いに応じるものはいない。



「なんだよ……。こねえのか。

 それじゃ今のうちに、いい女をみつくろっておくか。

 まずはイージスのねえちゃん、お前は高く売れそうだ。

 おい、いい女だって褒めてやってるんだから少しは喜べよ。

 あとは……、そっちのお前もなかなかいいな。

 なんだよ、わりといい女が多いじゃねーか。

 ……あん? なんで男がいるんだ?

 捕虜か何か知らんが、とっ捕まった間抜けだな。

 まあいいか、男は殺す。女は売りさばく、それが……」



 キン!



 得意げに話していた男のところへ、とてつもないスピードで人影が重なった。


 人間のものとは思えない、尋常ならざる動きである。

 おそらくダッシュスキルか何かをつかったのだろう。


 しかしそのすさまじい突撃も、剣帝と呼ばれた男を倒すには足らなかったようだ。


 男は女性騎士の攻撃を、地面に突き刺したはずの大剣で受け止めていた。




「ヒュー、やってくれるね。

 まさか剣帝と呼ばれたこの俺に、ここまで接近できるとはね。

 情報にはなかったが、お前がこの騎士団のエースか?」



 攻撃をしかけたのは、見覚えのある騎士である。

 馬車の中で俺を見張っていた女性だ。女性騎士Aさんだ。


 そうか、Aさんはエースさんだったのか。


 女性騎士Aさんの剣と男の大剣の間に、赤と青のオーラが入り乱れている。

 おそらく何らかのスキルが干渉しあっているのだろう。



「戦時国際法および条約違反だ。捕虜の扱いに関する規定違反と、軍服の不統一。

 山賊と同じだな。神兵さまのさばきをうけるがよい。

 いや、その前にわたしの剣の錆になるだろうがな!」


「でかいくせに細かいことを言ううるさい女だな。

 だが安心しろ、そういう女が好きってのもいるからな!」



 男の大剣が怪しく光り、赤い触手のようなものがのびる。

 それは女性騎士Aさんの剣をとらえ、ゆっくりと腐食させていく。



「ヒャッハッハッハー! 確かにお前の剣は錆付いちまったみてーだな!

 どうする? その剣で戦い続けるか?」


「ちぃっ」



 たまらずAさんは後方にとびのく。


 しかしその着地点めがけて、剣閃が一瞬のうちに放たれ襲い掛かる。



「キャッ!!」



 ズン!


 鈍い音が響く。

 鎧に直撃したようだ。



「くふっ」


「ヒャーッハッハッ、図体の割りにかわいい悲鳴をあげるじゃねーか。

 気に入ったぞ。

 よーし、一ついいことを教えてやろう!

 お前らの頼みの綱である神兵とやらは、助けになどなぁ、来れないはずなんだよなぁ!

 ならならちょうど今頃、国の反対側で大蜂起した山賊狩りの真っ最中だからなぁ!」


「な……なんだと……」


「そうそう! そういう声を聞きたかったんだぜぇ!!

 そんな風に、わずかな希望が絶望に変わる時の声色は大好物だ!!!

 ファーッハッハッハッハッハッ!」


「ぐぅっ」



 Aさんはよろめきながら立ち上がる。

 どうやらかなりのダメージを受けているようだ。




 ところで、さっきから話に出てくる『神兵』って、もしかしてアレのことか。

 柱の神から分離したとかなんとかいう神の兵か。

 俺はその姿をまだ見たことがないけれど……。




「さて、一つ教えてやったんだから、そっちも一つ答えてもらおうか。

 エンシェントドラゴンと戦ったんだろ? なんでお前らピンピンしてやがるんだ。

 ほとんど損害なしみたいじゃねーか。

 いったいどうなってるんだ? 誰が倒した?

 漆黒竜を無傷で倒せるほど、この騎士団は強そうにみえないのだがねぇ」


「知らぬ!」


「ああ、そうかい。

 これだからギルドのやつらはなぁ。

 まったく当てにならんぜ」



 剣帝ダングースは再び剣閃を放つと、もう興味を失ったとばかりに後ろをみせる。


 着弾。


 Aさんは必死に予備の剣でそれを受け止めるが、防ぎきれずかなりの重症を負ってしまったようだ。


 すぐさま騎士団の女の子達が救援に向かう。

 だがダングースは背中を見せたまま、そこへもう一度剣閃をはなつ。


 狙撃手が敵をあぶりだすために、わざと瀕死の相手を見えるところに放置する。

 それと同じようなことをしているつもりのようだ。


 何度目かの救援隊がようやくAさんたちを救い出したようだが、こちらの被害は甚大だ。



「おっと、ようやくそろったか。まったくノロマばかりで困るぜ」



 男の背後から、様々な格好をした男達が続々と現れる。


 一見すると商人のように見える者がほとんどだ。しかしよく見ればみな武装している。


 明らかに敵だ。その数、数十人。



 こちらにも騎士団の子たちの応援が集まってきているが、多くはない。

 多勢に無勢だ。



 戦闘が始まったが、女の子達は次々とやられていく。



「いいかー、お前らー、殺すなよー、売り物にならんからなー。

 ……って、こいつらに言っても分からんか。……まったく」



 現れた男たちは、異国の言葉でブツブツ何かをつぶやいている。

 意味が分からないが、まるで呪詛をはきかけられているような気分になる。

 俺は不快感を覚えた。



「さて……。

 できれば使いたくなかったが、チャージ付きのイージスは面倒だからな」



 男は一枚のカードを懐から取り出し、それを見せびらかすように掲げた。



「あー、念のために忠告してやるが、動くなよ?

 狙いがはずれたら、殺しちまうからな。

 さっき使ったのよりも威力が弱いが、それでも貫通は貫通だ」



 男はクヌギさんを指さしながら、そう警告した。



「クロルくん、逃げてください……」



 切羽詰った声の調子で、クヌギさんが俺にそう告げた。

 だがすぐに小さく首を振って、おだやかな声に戻る。



「って今更言っても遅いですよね。

 巻き込んじゃって、ごめんね」



 男はクヌギさんに狙いをつけたまま、呪文のようなものを読み上げる。



「『滅びの園に集いし闇の賢者どもよ、古き神々の光を再現せよ!』」




 詠唱のようなものが完了すると、カードが怪しげに光り輝き、崩れるように散らばっていく。

 その粒子は男の指先に集結し、奇妙なうずを巻きながら何かを形作る。




「さあ、お楽しみの時間だ。いい声で鳴いてくれよ……。『森羅万象を貫け!』」



 ズギュン!



 宣言と同時に、指先から放たれた一筋の光がクヌギさんの肩のあたりを貫いていた。


 イージスの盾にもヒビが入り、粉々に崩れ去っていく。




 クヌギさんが無言で倒れこむ。


 男の意に反して、クヌギさんはうめき声一つ上げずに耐えたのだ。



 それが気に入らなかったのか、男は舌打ちをすると続けざまに剣を振った。


 剣閃である。


 ドスッという鈍い音とともに、剣閃はクヌギさんの脚に着弾する。


 だがクヌギさんは、その痛みにも沈黙を貫き通す。



「……よし、命中。

 その状態じゃイージスは使えないと思うが、念のため無力化させてもらったぜ。

 これで仕事は完了か。まったく、つまらねーな」



 剣帝とかなんとかいう男が、不満げにそうつぶやいた。


 こいつ、女は傷つけたくないとか言っていたが、やっぱりただのサディストのようだ。

 しかも悲鳴フェチときている。どうしようもないやつだ。





 さて、視認できる敵、三十名以上。


 戦闘可能な味方の数、十数名。



 騎士団の女の子達はもちろんそれなりに強いのだが、いかんせん敵の数が多すぎる。

 敵はその人数差を活かして、多対一の状況に持ち込んでいるようだ。


 一人、また一人と、女の子達が倒されていく。



 絶望的な状況である。


 そんな中、誰かが背後から俺の肩にそっと触れる。



「クロルさん、わたしです。アズキです」


「アズキさん、ご無事でしたか」


「ええ。ですが、すでに敗色濃厚です。

 もう騎士団で活動できる人員も少なくなり、あなたの処遇はわたしに一任されました。

 ……逃げましょう。

 わたしもあなたも、軍人ではありません。

 ここで逃亡しても、罪には問われません」


「ああ、うん、そうしたいが、多分無理だろうね。

 おそらく全方位を囲まれている。

 それに、飯をご馳走してもらった恩を返していない」


「恩返しがしたいのなら、なおのこと逃げましょう。

 我々が逃げることによって、姫様の逃走を間接的に手助けできるのです。

 敵の注意を分散させることになります。おとりになれるのです」


「そうか。そういう考え方もあるか。

 ところで、ちょっと刀を借りるけど、いいかな?」


「わたしの刀ですか? 護身用に欲しいということでしょうか。

 しかし半端に武装するよりも、何も持たない方がむしろ安全です。

 この状況では、騎士団員からも誤解されかねません。ですから渡せません」


「いや、預かり中の折れた刀のほうだよ」


「え? そんなもの使い物にはならないですよ。

 刀を預ける時に、それとなく伝えておいたじゃないですか!

 ……まさか戦う気ですか?

 ですが、わたしたちに戦闘は許されていませんよ!

 そ、そうだ! クロルさんの持っていたあの魔剣なら!

 あれをどうにか手に入れれば……。でも、どうすれば……」


「魔剣かぁ。確かにあったら便利だろうけど、なんというか、もったいないな」


「もったいない、だなんて……! 敵にはあの剣帝もいるのですよ!?」


「いや、魔剣を返してもらう時間とか手間とかがもったいないって意味だから」


「どちらにしろ同じことですよ! クロルさん、あなたは思い上がりすぎです!

 いくらシン能力の才能があろうとも、折れた刀と覚えたてのスキルで何ができるというのですか!」


「ま、まあまあ、落ち着いて。

 いや、こうして話をしている時間の方がもったいないか」



 俺はアイテムボックススキルを発動する。

 ゲートに手をいれ、刀を引き出す。

 女の子達にみつかったら誤解されちゃうから、できるだけ目立たないようにだ。



「ちょっと! 本当に、本気なのですか!?」


「ごめん、静かに願います。

 みんなにみつかってしまうよ」



 できるだけこっそりとやっていたつもりだったが、それを目ざとく見つけた者がいた。



「あーん? なんだい、にいちゃん、やる気かい?

 しかしそれにしちゃあ、しょぼい武器だな。

 よく見りゃ折れてるじゃねーか。いったいなんのつもりだ?」



 剣帝とかなんとかと呼ばれていた男がそう叫んだ。

 名前はなんだっけ……。えーと、ダンボールだっけか。

 ダンボールは手下が現れて以後、戦闘には参加せず司令官のように周囲を気にかけていたようだ。


 俺はダンボールを無視し、アズキさんに告げる。



「どこの国の軍隊かは知らないが、あいつらは山賊と一緒の扱いでいいみたいだ。

 俺のことを殺すとも言った。

 ならば反撃は当然の権利だ」


「理屈ではそうかもしれないけれど、それ以前にかなうわけがありません!

 戦いを目の当たりにして、血迷ったとでもいうの? 逃げますよ!」


「逃げるにしても、敵の数を減らしてからの方が成功率が上がるさ」


「無理です! さっきの戦闘を見たでしょ?

 相手は近接戦闘に特化した化け物ですよ!

 いえ、あなたがやるなら、わたしが!

 わたしなら! わたしの能力であいつに触れさえすれば!」


「いやいや、大丈夫だいじょうぶ。だからちょっと落ち着いてってば」



 興奮したアズキさんをなだめていると、あの男が俺たちのほうに近づいてくる。



「おいおい、無視かい。

 話なんかしている間にさっさと逃げ出せばいいものを。

 まったく……、戦場ってのはどうしてこう、人の判断力をにぶらせるのかねぇ。

 ……まあ俺にとっては、嬉しい話だがなぁ」



 ダンボールは喜色満面で近づいてい来る。

 その顔に恐怖しているのか、あるいは俺が逃げ出さないことに恐怖しているのか、俺の服をつかんでいるアズキさんの手が震えている。


 俺はその手をやさしくつかむ。




 大丈夫、俺には力がある。




 接触通信で俺の心を読みとってくれていることを願い、そう念じて手を放した。




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