出会い
小学生スケーターと三十路スケオタとの不思議な出会いから始まる物語!
氷を削る音が好きだ。煌びやかな衣装が好きだ。美しく舞う少女達の熱い戦いが好きだ。そしてなにより、ロリが好きだ。
そして何故か私は初めましての女子フィギュアスケーターの原石に突然抱きつかれたのだろうか?
32歳のサービス業で働く九重咲耶はフィギュアスケートが好き。やるのではなく見る方。若い頃は男子ばかり見ていたし、初めて好きになったスケーターはオリンピックの銀メダリストの男の子だった。だからこの先も男子フィギュアばかり見るかと思ったが違った。そう、今イチオシは女子フィギュア。それもテレビでよく試合がやるようなシニアではない。さらにその下の下のノービスBの女子フィギュア。
説明しよう!フィギュアスケーターには年齢区別があって年齢によって出られる試合が変わってくるよ!
よくテレビでやっている試合はほとんどがシニアといって15歳以上の選手!
シニアの下がジュニアといって13歳以上18歳まで!だから16歳でジュニアの選手もいれば、15歳でシニアの選手もいるよ!不思議!
でも、ノービスというのはその更に下の年齢の子達でノービスAというのが11歳以上12歳以下、ノービスBというのが更に下で9歳以上10歳以下だよ!
ちなみにフィギュアスケートの年齢はその年の7月1日に誕生日が来ているかで変わるよ!例え同じ小学5年生でも誕生日が5/6と10/24なら5月の子はノービスA、10月の子はノービスBと変わってしまうんだ!ややこしいな!
そんな訳でノービスBの地方ブロックの試合がたまたま近くのスケートリンクで開催される事になりダイヤモンドの原石を発掘すべき訪れたのはよかった。どの子も可愛くてひらひらの衣装を身にまとい氷の上を舞う。シニア程のダイナミックなジャンプやスケーティングスキルはないが、この年から既に人を惹き付ける魅力あるスケーティングを披露する子は居る。そして今日最も目に止まった少女はハーフの女の子。長い金髪をお団子にして薄紫色の衣装に身を包み氷上舞う中谷絵理。ジャンプもしっかり綺麗に決めていて今大会のSPは1位。そして演技後の挨拶では少しだけぱっちりブルーの瞳と目が合った。少しだけ。別にやばいファンの絶対目が合った!とかではない。断じてない。堂々とした演技と挨拶を見てこの子は伸びるだろうなぁと何様だよな意見を勝手に思いつつ明日も楽しみだな、なんて考えてリンクを出口に向かってる時に事件がおきた。
金髪蒼目のロリこと中谷絵理に抱きつかれたのだ。冒頭に戻る。
何故だろうか?知り合い?そんなはずない。私の友達にも子供を持つ子はいるが、こんな可愛いロリを孕むようなハイスペック容姿の持ち主は居ない。何故だ、ぶつかっただけだろうか?だとしたら何故こんなにガッツリ腰に腕が回っている?あれか?ままと間違えちゃったかな?まぁ私くらいの年のままもいるよね?そうかな?
「あの、どうしたの?お母さんじゃないよ?私…」
恐る恐る声かける。今はロリに話しかけるだけでも通報案件らしいので慎重に…。
「そんなの知ってる。母親はこんなに若くない」
「あ、そうなんだ。じゃあどうしたの?さっき滑ってた絵理ちゃんだよね?すごく素敵だったよ。明日も頑張ってね」
スケート好きならやはり素敵な演技を見たら褒めたくなる。質問しつつも良かったと伝える。これが場数踏んだスケオタのコミュ力だ。
「ありがとう。また、見に来てくれる?」
「うん、明日も見にいくよ。フリーも頑張ってね」
「頑張る。優勝するから今度はぎゅっとしてくれる?」
なんなんだ、このロリは。初対面の私に抱きついてきてこんな殺し文句を?!え、親御さんどこ!私どうするべき?!
頭の中をフル稼働で正しい答えを探すが見つかる訳がなく、彼女が離れていくまで結局答えは出せなかった。
翌日のFSの試合を見るためにまたスケートリンクに足を運んだ。地方試合は殆どが選手の家族や親戚、一部のスケオタ程度で満席になることもなく、無料で入れて席も自由な事が多い。この日もそこまで人もおらずリンクサイドの一番近いところで彼女の出番を待った。あんな出会いをしてしまえば嫌でも意識してしまうので昨日とはまた違った緊張が私にも走る。
-13番 ソフトアイスクラブ所属 中谷絵理 -
名前がコールされ彼女はリンクの中央に立った。ポーズを取る前に一瞬こちらを見た気がしたがそんなの気にする暇もないほどドキドキした。
左手で両目を隠すような体制が彼女のスタートポーズだったようでその瞬間、曲がリンクに響き渡った。
曲はベートーヴェンの『エリーゼのために』
昨日とは違う真っ赤な衣装に身を包んだ彼女は今日も誰よりも観客を魅了して勝利を掴んだ。
ささやかな表彰式の後になんとなくリンクを去れずにいた。決して期待している訳では無い。彼女な昨日の約束を待ちわびてるとかではない。断じて。なんとなく帰りにくくてリンクの出入口付近で待ちぼうけてしまう。
「あの、すいません」
私の母よりも上であろう老人に声をかけられた。期待していた分がっかりしたとかではない。
「はい、なにか?」
「昨日、絵理が嬉しそうに若い女性と話したと言っていて、もしや、貴方ではないかと思いまして…」
「あーはい。絵理ちゃんとお話させていただきましたね」
というか抱きつかれたよ。言えないけど、保護者かな?
「やっぱり。絵理もうすぐ着替え終わると思うのでお時間ありましたらまた話してあげてくれませんか?あの子人見知りでなかなか話せる人いないみたいで…あの子があんなに人と話した事を嬉しそうに言うのは初めてなんですよ」
「そうなんですか…私もぜひ絵理ちゃんとお話したいです」
どうして彼女がこんなに私を気に入ってくれてるのかわからないけど、やっぱりロリに好かれるのは悪い気しないな。
「ばー!あっちいってて!」
出てきたのは先ほど滑っていて昨日抱きついてきたロリ、こと中谷絵理だ。先ほどお団子にしていた金髪は下ろされていて綺麗にウェーブがかかっていた。お人形さんのようで好みのドストライクだ。
「はいはい、先に戻ってるからね。バス停の場所覚えてる?」
「覚えてるから!ばいばい!」
見た目に反して気象が争いようだがツンデレなのだろうか?最高かな?
ばーと呼ばれた女性が見えなくなると彼女ふーと一息ついた。可愛い。
「ねぇ!見てた?私のフリー」
大きな瞳で私を見上げて話す彼女はすごく可愛かった。自然な上目遣い最高。語彙力なくなる。
「見てたよ。凄く綺麗だったね。優勝おめでとう。次は関東ブロックだね」
説明しよう!
ノービスやシニアのカテゴリに関わらず選手達は地方予選を勝ち抜いて全日本選手権に駒をすすめる。シニアやジュニアには東日本・西日本選手権というのが存在するがノービスにはないので関東ブロックを突破すれば全日本ノービス選手権に出場が決定する。ノービスの選手である彼女もきっと全日本を目指しているのだろう。
「もちろん全日本ノービスで優勝するよ。頑張るから!でも、保の前に約束守ってよ!今日優勝したらぎゅっとしてくれるってやつ!」
「え、本気で?」
「本気の本気!ね、ぎゅーって」
そういって両手を広げるロリ。なぜこんなに気に入られたかわからないが、こんな可愛い子に強請られて我慢できるやつがいるなら会ってみたいね!例え捕まってもいいや!レッツゴークレイジー!
「絵理ちゃん頑張ったね、お疲れ様。ぎゃーー」
「ぎゅー」
ぎゅーと抱き締めた彼女はとても嬉しそうか顔をしていたけれど、なんだから少し大人びた表情をしていて私が少し寂しくなった。
未来の天才フィギュアスケーター中谷絵理と私の出会いだった。
ありがとうございました!