第五話
次の日、天馬俊作は学校へ来なかった。
朝のホームルームで担任の佐々木先生が風邪で今日は欠席だと話していた。転校してきて二日目で休みということで僕を除いた他の生徒は若干困惑した様子であった。特に女子からは落胆した声が聞こえた。
今はこの昼休みで太郎は弁当の箸も進まず、ぼんやりと黒板を眺めながら昨日の天馬との会話を思い出していた。
『俺はお前の子供なんだよ』
『えっ…それってどういう事?』
『詳しく説明していたら話が長くなるから簡単に説明しよう』
『うん』
『久坂太郎、お前は記録上84歳で死ぬ』
『えっ!! ちょっ…』
『まぁ、待て。これは驚く事じゃない。単なる寿命だよ』
『…あ、うん』
『話はこれからだ。お前は84歳で死ぬ前に後の世界戦争に発展するきっかけを作るらしんだ』
『せ、世界戦争?』
『ああ、俺のはそのきっかけを止めに未来から来たんだ。あのロボットに乗ってな』
『未来から…』
『そして、それが起こったのはお前が40代後半だと俺は聞いている』
『あの、その、きっかけって?』
『…わからん、俺も詳しくは聞かされていない。それが起こる前に久坂太郎を抹殺するという任務を受けた。わざわざ軍にいた子孫である俺を指名してな。子孫であるお前も同罪だの久坂太郎を殺せば両親の安全を約束してやるとか言われてこの時代にやってきたが…この様だ』
『……』
『まさか、この学校にあんな強い生徒がいたとは思いもしなかったぜ』
『じゃ、未来の世界はどうなってるんだ?』
『どの国も戦争の真っ最中だ。この国とこの国の仲が悪いとかじゃない。どの国も占領できる国があれば我先にと潰していってるのさ』
『そんな…日本は?』
『未来ではこの国は違う国に植民地とされている』
『ウソだろ!』
『本当だ。それにほとんど確かな国境なんてなくなっている。国の軍の武力が行き届いている範囲が国境とも言えるがな』
『…未来…戦争…きっかけが僕…』
『まぁ、信じるか信じないかはお前次第だ』
『……』
「おっす!」
「うわっ」
太郎は突然の声に我に戻った。
「なんだ、木村か」
「何ぼーっとしてるんだよ」
「いや、別に…」
しかし天馬の話を何度思いだしてもにわかに信じがたい。あれから保健の先生が帰って来たのそれ以上話はできなかったが、確かなことは天馬俊作に襲われたという事実だ。もしかしたら女の子が助けてくれなかったら本当に殺されていたのかもしれない。そういえばあの女子生徒も気になる。
「まーた、ぼけっとしてるよこのバカは」
「何だよ。俺の勝手だろ」
木村はニヤッと笑うと、
「女の悩みかね?」
「ばっ違うって、」
木村は腰を引きながら、
「まさか…お、男の悩みか。そっちの気があったのか太郎!?」
「アホか!!」
木村の話は突飛過ぎて困ると思い、まだ八割ほどあった弁当を急いで口に運ぶと胃に流し込んだ。
「やけ食いとは末期だな、こりゃ」
咀嚼しながら太郎は天馬俊作にもう一度会って話をしようと決意した。