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続編の番外編[ジャムパンとお孫さん]



ジャムおじさんとお孫さんのお話です。

ちょろっとだけ、クライスさんの過去での悲しい描写があります。


まあ殆どがじっちゃんと孫のほのぼの話です。

こそっと妖精さんも居ますが(笑)


それでも宜しかったらどうぞ。





ああ。ここの空も、随分と鬱陶しい色になったものだ。




「ち、父上ーっ!!?」




……シリウスは、相変わらず五月蝿いな。


……ああ、痛みなんて何時ぶりだろう。


……シャルーラが居なくなってから、全ての感覚が遠のいていたのに。




騎乗していたドラゴンから振り落とされてすぐ、腰に激痛を感じて()は気を失った。



何か、夢を見た様な気もするが……忘れてしまった。



目覚めてから医者に言われたのは、ドラゴンの尻尾によって腰骨が砕け、細かく砕けた骨が神経に影響を与え……左足が、不自由になったという事だった。


魔法の力を使っても、人の手で手術をしたとしても、細かい骨のかけらを完全に取り除く事は無理らしい。



……命は助かったのだから、それで良しとしてくれ。そう言われた。

事実、子供達は喜んでいた。生きていて良かった、と。



……自分の事なのに、全てが他人事の様に感じられ…………不覚にも。


子供達が喜ぶ前で、()()()()()()事を、残念に思ってしまった。


……その時、美しく育った末の息子の……涙の溢れない、泣き顔を。俺は今だに忘れる事が出来なかった。




――――――――――――――――――――――





「ジャムのじっちゃ!こぇおいしーね!」

「…………そうか。」


口周りをパンくずとイチゴジャムで彩る、将来美少女間違い無しな見た目の幼い少年が、俺の膝の上で笑っている。


シャリティアと美津が作った菓子パンに齧り付き、美味しいと言いながら頰を膨らませていた。



昼休憩の後、そろそろ午後の仕事を開始しようとした時に女神夫婦が訪れた。勿論、女神が美津のおやつを求めたからだ。


従業員達も慣れたもので、「それなら自分達が残りやっときますから、お給金プラスお願いしますね〜」とさっさと行ってしまった。ちゃっかりしてる。



中庭で休憩していた為、美津達はおやつの追加を作る為に屋敷に戻っていった。

いつもならクミルも母親に着いていくのに、今日は何故か、俺の膝の上によじ登ってパンを食べ始めた。


……おやつには、少し早い気もするが。まあ幼いうちは食べた方が良い。ひもじい思いなど、させるものじゃない。



美津の母親である美智子が、クミルの頭の上でうつ伏せの大の字姿で寝ているので、クミルの後頭部をゆっくり撫でる

……いつも思うが、何故落ちない。



「う?……ジャムのじっちゃも、たべる?これ、たべる?」

「……いや。私は腹一杯だから、クミルが食べろ。」

「うん!……もぐもぐ……うふふ、うま〜。」



クミルはクルーレと女神に似て、甘いものが好きだった。特にジャムを使ったパンやクッキーを好んでいた。

後味があっさりしているから、量を食べてもそれ程苦しくはならないと思うが……クルーレは、食べ過ぎだな。

一人でジャムパン八個は、食べ過ぎだ。なのに太らない。不思議だ。



「……ほら。ミルクも飲め。」

「はぁい!……えへー。」



口元に、ミルクの入った吸い口付きの蓋ありコップを近付けてやれば、何が嬉しいのかクミルは俺の顔を見上げて笑っている。

俺の顔は恐ろしいから、殆どの子供に泣かれるのだが。


……泣かなかったのは、自分の子供達だけだった様な気がする。



……頭の上に乗っているなら、これだけ角度がついたら普通、滑り落ちる筈なんだが。

美智子は何故、クミルの頭から落ちないのだろう。髪の毛を握っている様子も無いのに。


……身体に吸盤でも付いてるのか?



「もぐもぐもぐ……ね、ジャムのじっちゃ。」

「……なんだ。」

「じっちゃ、このぼう、いつもあるねー?……これ、だいじ?」


そうしてクミルが指差したのは、愛用している仕込み杖。


「…………ああ。これが無いと、歩けないからな。大事だ。」

「ぅ?…………なんで?」

「昔、腰……ここを強く、ぶつけてしまってな。それから左足が、上手く動かないんだ。」



クミルの腰を撫でながら説明すると、俺の顔を見ていたクミルは驚きながら膝から降り、俺の腰を一生懸命に撫で始めた。



「いたいの、とーんでけぇー。とぉんでけぇー!」

「……いや、痛くはない。大丈夫だ。」

「……うー。んーん!いたいの、とんでくまでやるの!やるの!」

「……いや、今は痛くない。」

「んーん!いたいの、わかる!つぶつぶ、わかるもん!」



クミルはとーんでけぇー!と歌いながら、一生懸命俺の腰を撫でてくる。……少し、くすぐったい。




……今日は、夢見が悪かった。怪我をした日の夢だった。



あの日、シリウスが城に知らせを出してシャリティアとクルーレ、あと何故か馬鹿王が見舞いに来た。


馬鹿王が泣き喚きながら突進してきて、クルーレが俺を庇って蹴り飛ばしていたのを覚えている。


丁度その時、半分夢の中だった俺は……親として、男として、最低な事を考えてしまっていた。


俺を庇った時に少し触れてしまっていたから、クルーレも気付いていただろう。



あれは…………泣き喚きたいのに、許されないと自身を戒め、我慢している顔だった。



そのせいで、今日はクルーレの顔を見ると当時の申し訳なさが蘇り……肩を叩く事も、まともに目を合わせる事も出来ずにいる。



……クミルは、そんな俺の感情の揺れに敏感に反応しているのだろうか。

だから今も、側に居るのだろうか。


……子供とは、色々と見ているものだな。



「ふ、…………クミルは、クルーレと美津に似て、優しいな。……私は、本当に大丈夫だ。」



シャルーラを見送った時、俺の顔に涙は無かった。


それよりも、疎遠になっていた末の()()……俺達を思い遣って、葬式に参加しなかったクルーレが……ちゃんと、飯を食っているかどうかを気にしていたと思う。



……シャルーラも、息を引き取る前に同じ事を言っていたから。



その時シャリティアは既に嫁に行っていたし、シリウスも身近で様子を見ていた。


遠くで暮らす、傷付きやすく繊細なクルーレが、兎に角心配だった。



……美津と美智子、それにクミルのおかげで、もうそんな心配は必要なくなったがな。



「……うーぅ。……もうちょと…………あとここ…………つぶつぶ〜くっつくのよ〜。」

「…………ふ、もういいぞ。くすぐったい。」



それから数分後。やっと気が済んだのか、クミルは俺の膝の上に戻ってきた。


撫でられすぎて腰が少し熱いくらいだな、と思いながら……先程までの光景は、遠くから見たら幼い子にじじいの尻を弄らせるという恐ろしい姿にしか見えなかっただろうな、と俺は思っていた。



……俺は、変人(レオン国王)の仲間入りなどしない。誰にも見られなくて、良かった。



俺がそんな事を考えてるとも知らずに、一仕事終えた満足顔でクミルはジャムの乗ったクッキーを口に放り込んでいる。



「むぐむぐ……うふー。ジャムのじっちゃ!もうへいきなのー。クミル、えらい?……えらい?」

「…………ああ。ありがとう、クミル。」

「……えへ。いっしょにおさんぽ、いこうね!」

「……ああ。ゆっくりな。」

「う?もうじっちゃ、なおったからだいじょぶよ?」

「……そうだな。」



頭を撫でながらクッキーを差し出せば、雛の様に首を伸ばして食べてくれる。……俺の孫は、可愛いな。



「クミルー!父上ー!」



声に振り返れば、屋敷から出て来たクルーレが居た。

その両手の皿には、それぞれ追加のパンとホットケーキが乗っている。



……あれは、女神の分だよな?

まさかクルーレ……お前まだ食べる気か?



「きゃー!かあちゃんのホットケーキ!!!」



……クミル。お前もまだ食べるのか?

確かジャムパン二個と、今もクッキーを食べてるだろう?



そしてクミルは勢いよく膝から飛び降り、クルーレに走り寄ろうとして、……木の根につまづいた。




あ。

そのままこけたら、頭がすぐ横の幹にぶつかる!




意識するよりも身体が先に動いた様で、木の幹にぶつかると思った瞬間にクミルは俺の腕の中だった。



「…………クミル、危ないだろう?……おやつは逃げたりしない。走るなとは言わんが、周りをよく見てからだ。……出来るな?」

「ぅう……ごめんなしゃい。くすん。」

「分かれば良い。……痛いところは、無いな?」

「……うん。いたくない。……あいがとぅ、じっちゃ。」

「ああ。…………ん?どうした、クルーレ。」


妻命、息子命なクルーレが、何故か直接無事を確認せずに、両手に皿を乗せたままその場から動かない。



「…………………………………………ぁぁあああ姉上えぇぇぇー!!?」



そして、叫びながら美しくその場でターンして屋敷に戻っていった。

両手の皿もそのままに。



「…………ふ。お前の父親は、あんなに叫ぶ男だったかな。」


麗しいではなく、喧しいが正しい姿だぞ?


「うふー。とうちゃん、たのしいのー!」

「……ああ。楽しい男に育ったな。」



クルーレは、よく叫んで、よく泣いて、……良く笑って。


シャルーラ(ははおや)に良く似た、賑やかな男に育った。

……子供達の中で、一番似ている。




そう言ったら、クルーレは泣くだろうか。……口で言うのはむず痒いから後で、肩を抱いてやろう。


それからおやつを持って、皆を連れて。

妖精の森にある湖のほとり、そこに眠るシャルーラの所に遊びに行こう。


……きっと、楽しい。







そして、シャリティアがドラゴンも泣いて逃げるだろう顔で俺達の前に現れ。

俺が、クミルを助けた時から実は両足で立ち上がっていたと気付くまで、あと一分。


クミルの言っていたつぶつぶ……骨のかけらが、あるべき場所に戻っていて。

信じられない事に、シャリティアと美津の治癒魔法をクミルは見て覚えたらしいと知るまで、あと数日。



賑やかな幸せが続くのは良い事だと思うから、深く気にするのを俺は止めた。


因みにこの時の美智子は、湖に到着するまでクミルの頭に眠った状態でくっ付いていた。器用すぎると思う。







……もう少し、先になってしまうが。逢えた時に出来る土産話がまた一つ、増えたからな。


楽しみに待っていろ。シャルーラ。









クライスさんの見ていた夢は、正夢に近い、幸せな現在です。

シャルーラさんの、望んだ幸せ一杯な未来の夢ですね。




スティーアさん家の子供達・クライスさん調べによりますと。


シリウス→父三割・母四割・天然三割


シャリティア→父七割・母三割


クルーレ→父五割・ヤンデル五割…からの

父二割・母六割・ヤンデル二割に落ち着いたと思ってますね(笑)





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