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続編の番外編[おかえり]




最終話[ハッピーエンド]にて、黄色い妖精さん復活までのおよそ一年間の軌跡。


実は簡単には復活しなかったお母ちゃんと、スティーア家のちょっとしたお話です。









残りの鉱石をマッハで砕いて、王子様の魔力をティアラちゃん仕様に馴染ませる為一晩待ち。


夕飯食べずに寝床に引っ込んだので、大量に、ティアラちゃんの好物(イコール旦那様の好物)ばかりの朝食の後に庭に集合した私達。


皆の目の下のクマは、ご愛嬌です。




「…………お願い、レオ。」

「分かった。」




さながら身内の手術を待つ私達と、執刀医のティアラちゃん達。

数分なのか数時間なのか。兎に角動かず話さず二人に背中を向けて待ち続ける私。……目の前のクルーレさんから、手が離せない。


両手でしっかり、クルーレさんの右手の指を縋るように握る。真剣な表情で、私の旦那様はティアラちゃんたちから視線を動かさない。


……私の両手を、左手でゆっくり労わる手つきで撫でてくれるの、嬉しいです。ぐす。




「…………美智子っ!!!」




ティアラちゃんのその言葉で、私の涙は決壊した。




お母ちゃんに、確かに魔力は注がれた。

それでもやっぱり、元は王子様から貰った魔力。……前とまったく同じとはいかないらしい。



「まだ、美津達には見えないし、意識もない不安定な状態なの。……このまま、数ヶ月……ううん、何十年の時間が必要なのかもしれないわ。」

「それでも……お母ちゃん、ここに居るんやね。」



私は、自分の後頭部に触れてみる。

まだ、なんの感触もない。

意識はなく、眠り続けてるらしいお母ちゃん。



……うん、それなら大丈夫。



「私、待つの苦じゃないタイプやから!」



いつでも良いよ。


お腹が減ったら。お喋りしたくなったら。遊びたくなったら。


好きな時に、起きたら良いから。


私も、クルーレさんも、赤ちゃんも。家族皆で、ずっとワイワイ賑やかにしながら待ってるから。



だから、起きたら。

おはようとただいま、ちゃんと言ってね。


お母ちゃん。








そうして。私とクルーレさん、シャリティアさんはスティーア家でこのままお世話になる事にしました。



クルーレさんがお城から離れるのを嫌がるレオン様をたしなめたのは、なんとオリヴィエちゃん。



「もう!皆に迷惑かけないで下さい!……仕事なら、私も手伝いますわ!ね!オックス様!」

「あー…………、はい。出来る事はお手伝いしますよ。」

「オックス……それに、お、オリヴィエ…………うおおお立派になってぇぇぇぇ!!!」



土下座ポーズで泣きじゃくる、熊の出来上がりです。



「……ぐすっ。良し!オリヴィエ、オックス!ドラゴンにこの熊くくりつけろ!俺が一緒に荷物と運ぶから!」

「「はい!」」

「ワシは熊でも荷物でも無いぃい!でもよがったあオリヴィエ〜!!!」



半泣き殿下の一声で、皆何とか落ち着きそうです。

……仲直り出来て良かったね!オリヴィエちゃん!



なので、私達の荷物は何回かに分けてお城から届けてくれると殿下にも言ってもらい。

少し早いですが、私の旦那様、育児休暇頂きました。




それから毎日、家族皆で農家さんライフ。




張り切って早起きしてからの肉体労働は……何でか全員に却下されました。す、少しは動いた方が身体に良いのに。

この時のお兄様の笑顔が一番怖かった、と思ったのを知ってるのは私の旦那様だけでした。




私は椅子に座った状態での、果物選別担当に回されました。傷の有無とサイズで分けられた籠に入れていく作業です。



最初に何個か触れて、クライスさんに細かい確認した後に作業開始。



果実を傷付けないように、収穫作業は手作業。

(クルーレさんは収穫担当。木登り上手いし早い)

その後、刈り取った果実を魔法でふよふよと私達検品担当の所に運ばれて来ます。私も社員の皆さんと一緒に、張り切って果実をそれぞれの籠に入れていきます。


そこで私は……従業員の方々に、褒められました。昔から働いてるみたいやって。即戦力やって。……えへ!



ま、まあ。私もともとスーパーで働いてたんで。

検品作業とかは慣れてるんですよ。


世の奥様方、イワシのパックに小アジ、いたらアウトでしょ?……え、嬉しい人もいる?いやー、ダメダメですからね!


一回どっかのスーパーがやらかして、ニュースにもなってますから。……フグは、ガチでアウトや。


後は……お造り用に捌いてもらったお魚も、虫さん取り除いたりしてましたね。どうしても生き物やったから、いる時はいる。

私、ミミズ系嫌いやのに。


それにお魚系は、痛むの早いの結構あるし。そういうの見極めて、早めに割引シール貼るのも私のお仕事でした。



そんな話を休憩中に話したら……クライスさんの表情が、心なしかキラキラしてきた。ダンディなお方が、眩しい。


おおう。ダンディーのキラキラは、心臓に悪い。


ここで私の背もたれになってる旦那様に嫉妬されるかもと思ったら「そうでしょ、父上は素敵でしょ!?」と笑顔で喜ばれ……うん。旦那様、お父様大好きですね。まさかのジャム効果?……う、うーん。なんか複雑。



ま、まあ血飛沫祭りは回避やし。気にせんとこ!



ティアラちゃん達も早々に[国民全員に混乱を招いたことに対しての謝罪の旅]へと出発。


立ち寄る村や町で慈善事業宜しく魔法で出来る労働をしこたまやらされたり(王子様が)そのお礼として貰った特産品をお土産に遊びに来て(女神様が)……私の後頭部を確認して、淋しそうにまた旅に出るのを繰り返し。



すっかり忘れていた設定、座敷わらし扱いの王子様のおかげで町民達に快く寄り道させられてたので、謝罪の旅は新婚旅行みたいな感じで進んでいき。


旅が終わったのは、私が妊娠して、丁度八ヶ月目に突入した頃。






秋が過ぎ、短い冬も終わり。

もうすぐ春が訪れる、そんな日に。




スティーア家の一室で、大きな産声があがった。







私は早産と思って赤ちゃんの心配をしたけど、……愛情こもった魔力を沢山頂いていた私なので、ただ成長が早かっただけらしいです。

ああ恥ずかしい!



「…………くすん。」



産まれた我が子を腕の中に囲う愛しい旦那様は、耳出しながら静かに泣いてる。……あ、赤ちゃんのほっぺ、ぺろぺろ舐めてる。あれ無意識やな。



「ありがとう、美津…………お母、様も、……ありがとう、ございます。ぐすっ。」

「……ふふ。どういたしまして。」



お母ちゃんは、まだ眠ったまま。

その姿は、ティアラちゃんと王子様以外には見えないけど。ちゃんと、私の頭に、……ここにいる。


ティアラちゃん曰く、時々寝返りしてるらしいから……もしかしたら耳は聞こえてて……今の私達を、夢の中で見てくれてるかもしんないね。





「おはよう[クミル]……産まれて来てくれて、ありがとう。」




産まれたのは、将来美人さん確定の、旦那様そっくりの顔に黒髪黒目の可愛い可愛い男の子。


名前は、クミル。あだ名はクーちゃんか、クミちゃん。



クルーレさんの中にいつまでも存在しときたいから、クルーレさんの名前の中に私と……お母ちゃんの名前を入れて、クミル。



私の説明に、クルーレさんは号泣してから即決してくれました。




この日から、スティーア家は赤ちゃん中心の生活に早変わり。

お仕事も、頼れる古参の従業員の方々が率先して行ってくれて、クライスさん達も孫との生活を優先してくれました。


シャルーラの分も可愛がる、と初孫を抱き上げた状態で真顔で言ってくれたクライスさんに、クルーレさんはやっぱり耳出したまま、感動の涙を流していました。






そして始まった、スティーア家での子育て生活。






愛子のクルーレさんと聖女の私の子供なので、念の為に獣人用と人用二つの育児書で勉強していました。


クミルは泣いても笑っても犬耳が飛び出る事がなく、人寄りに産まれたんだなぁ、と私は少し残念に思いながらの子育て。

可愛いお耳、見たかった。残念。




……なのですが。


なんということでしょう。

クミルの成長が早すぎて、容量の少ない私の頭はキャパオーバーになりそうです。



だって、だって!

つい昨日まで私のおっぱい求めてへばりついてたのに、もう離乳食始まんの!?

確かにもう歯も生えてきたけど!おっぱいあげる時めっちゃ痛いけど!?




まだ産まれて一ヶ月やで!?母乳ってもっとあげるもんちゃうの!?マジでええの!?異世界ミステリーなん!!?




「もしかしなくても、先祖返りでしょうね。」

「…………へっ?」




先祖返り。

確か……今は人の血で薄まってる獣人の血が、何代目かに現れるっていうやつ?

個人差はあれど、姿は人のままが多くて、でも身体能力的には純血の獣人並みっていう?


先祖返ってくる獣人がもんのすっっっっごく強い魔力無いと起きない現象やって、本にも書いてあったよ!!?





「……俺の母様が原因かもな。」

「王子様の……えっと、ナタリア様?」

「ああ。母様は[おひめさまと雪妖精]に出てくるお姫様の末裔……ご落胤の末裔ってところか。」



母様は綺麗な銀髪だったろ?と、ティアラちゃんに連れられて一緒に遊びに来ていた王子様のこの言葉に、家族皆で絶句しました。



……やべぇある意味この王子様、両国のサラブレッドやん。バレたらややこしい事に巻き込まれる確率めっちゃ高いやん!?


そんなめんどくさそうな事で、きゃっきゃうふふな家族生活邪魔されるの嫌なんで。



「その話は、ご内密に。特にティアラ!ぜえったいにうっかり発動さすなよ!?発動させた場合……私は一生、おやつ作らんからな!私のおやつはクルーレさんとクミルの二人占めやからな!今の話は、記憶から抹消してや!」

「なにいってるの、みつ。わたし、なにもきいてないわ。なにもしらないわ。」

「なら良し!!!」

「……ティアラ……。」


王子様の哀愁漂う横顔、気持ちは分かるけど、今は無視!

家族優先、赤ちゃん優先なのです!許せ!



それならば、と獣人用の育児書を読み直し、あーでもないこーでもないと子育てに励む私達。



全てが初めてで、しんどくて、辛くて、でも……この大変なのも、子供が大きくなったら良い思い出、嬉し恥ずかしな馬鹿話になるんやろーなーと思いながら。



新しい、この世界で出来た家族の手助けで子育ては続く。



もう癖になってしまった、後ろ頭を撫でながら。

私はクルーレさんと一緒に、笑った。





そんなこんなですくすく育ち、産まれて半年になったクミルは、少し硬さのあるクッキーなどもボリボリ噛み砕ける様になりました。

しかも一人で立って歩け、短い距離なら走れるくらいになったのですが……言葉だけが、出ない。


産まれた時の方があーうーぎゃーばー言ってたくらいで、……特にこの一ヶ月、クミルの声を私達は殆ど聞いていない。


私やクルーレさんが抱き上げるとにっこり笑ってくれるので、まあ私個人としては大丈夫と思うねんけど……クルーレさんの落ち込み方が半端ない。


「私が…………何か、間違いを……?」


自分の出生が規格外だと自覚がある分、余計に気にしちゃって。落ち込むし。

哀愁漂う後ろ姿……ちょっとだけ、可愛い。



それでも、ずっとこのままは困る。

うーん。……何でもいいから、喋ってくれへんかなー?



「なーなークミル。あそこにいるの、お父ちゃんやで。お・と・う・ちゃ・ん!……呼んだらきっと、すっーごい楽しい、高い高いしてくれるよ?」

「!!!」(キラキラにぱーな笑顔)


抱っこ好きのクミルは、特に高身長のクルーレさんに抱き上げられるのが大好きなので、てててっと可愛い足音響かせて、耳出してしょんぼり紅茶を飲むクルーレさんの足に抱きついた。



季節は、夏真っ盛り。

昼食を終えてまったり長めの休憩の後は、野菜を植えてる畑の方の作業が残っているだけ。


この一ヶ月、ティアラちゃんの突然訪問も落ち着き(遊びにばっかり来て王子様が拗ねた為。今頃、山の麓に出来上がったばかりの家でラブラブしてる筈)食堂でお姉様とお兄様、クライスさん達と共に微笑ましい表情でクミルを見つめ、穏やかに、私達は食後のお茶を楽しんでいた。




「くるちゃ、だっこぉ!」



クミルの意味のある言葉に、クルーレさん以外、全員お茶を吹いた。



「く、く、クミル!!!……み、美津!クミルが喋りました!だっこぉって!!!」


クミルを抱き上げたクルーレさんは、ご機嫌です。

最近は耳出したままで過ごす事も慣れたクルーレさんは、キラキラ笑顔と桃色ほっぺのトリプルコンボで私をオトしに来ます。


……ときめきよ、今は静まれ!!!



「う、うん!聞こえたけど……くるちゃ?」



くるちゃとは、なんじゃい?



「く、クミル?お父ちゃんやで?パパやで?」

「う?……んーん。くるちゃ!」


ぶんぶんと首を横にふる息子。……頑固やな。

あー、私のクルーレさん呼びで覚えちゃったんかな?

それなら……私だったらみちゅ、かな?


「な、なら私は?お母ちゃん……ママやで?」

「ん?……んーん。」


首を横に振りながら、クミルは私を呼んでくれた。……とても、きれいな発音で。












「みっちゃん!」



クミルは笑顔で、私を指差してる。



「「………………………………、ぇ?」」



私と、クミルを抱き上げたクルーレさんは固まってしまった。


だって。

スティーア果樹園の従業員さんは確かに、フレンドリーに接してくれるけど。それでも私の事は、名前の美津か、通り名みたいな黒騎士の奥様って呼ぶ。


何回か繋げた、鏡の向こう側に居る野郎共だって名前呼びやから。




だから。今も昔も。

この世界で私をそう呼ぶのは……一人だけ。




「…………クミル。私が……みっちゃんなら……パパ……こ、こっちは?」

「クルちゃん!」



……今度は、発音バッチリ。

クルーレさんの頬を軽く叩きながら、クミルが呼んだあだ名は…………っ!



お姉様達も私達夫婦同様、床に膝をついてクミルと視線を近付ける。…………というか、皆の視線、クミルと私の頭を行ったり来たりやね。



最近ティアラちゃん、遊びに来てなかったから。

……長期戦覚悟してたから、私。



「じょ、上手に言えたなぁ、クミル!だ、………………誰が、……ぐすっ、教えて……くれたんっ、かなぁ?」



私の涙まじりの質問に、クミルは不思議そうに……私の頭を、指差す。




「きいりょのようしぇいしゃん!クルちゃん、わるこしたりゃ、ビリビリなの!」

「えっマジか私の独り言筒抜けやった!!?」




……クミルの声に返事をしたの、私じゃないよ。




「お、……っ!」

「あ……あれ?めっちゃ目が合う。クルちゃんとシャリちゃんとめっちゃ目が合う?……もしかせんでも見えてんの?聞こえてんの!?」

「おがあちゃああああああんっっっ!!!」

「うぎゅう」

「み、みちゅつぶれてりゅ!おがあしゃまつぶれてりゅ!」



夫婦揃って鼻水垂らして、懐かしい重みを両手に握りしめて胸に押し付けてしまうのは、許してほしい。



黒髪おかっぱヘアーの、小さな、黄色い服の妖精さん。

口から魂出かけてるけど、もう少しだけ、我慢して。



「うー。みっちゃん、よいこーなの。なくの、めっなの。」

「うえっ……ひぐ。……ゔん。ずず……大丈夫。みっちゃん……っ、泣き止むよ。……ひっく。……おかえり。おかえり、お母ちゃん!」

「けふっ、…………けほ。……ゔん、ぐすっ。た、ただいま、美津!」




無敵で素敵な、クルーレさんの腕の中。

私とクミル、そしてお母ちゃん。


クルーレさんの背中を喜びで叩くお兄様とお姉様。

クライスさんは優しい表情で、私達を見守ってくれてる。




ここに、やっと。

私の家族が、揃ったね!





この日の夕食に強制招待された二人。


王子様「……複雑なんだが」

女神様「うふふ。おじいちゃんに似ちゃったわ」

王子様「……少し、出掛けてくる」



これから、怖ぁいお化けを見てしまうかもしれない、将来有望過ぎる小さな孫の為に。


悪霊瘴気の消す方法探すのと同時進行に。

悪者を狩る、必殺◯事人ちっくなまだら頭のおじいちゃんが誕生したりしました。


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