二度あることは三度ある?
クライスさんの足……正しくは腰と足の付け根部分らしいんやけど、具合がそんなに良くないからと長時間のドラゴン飛行が出来なくなったので、皆さんはミスティーのお城には帰らず、重傷者以外は近場のスティーアさん家で一晩過ごしました。
ちなみにクライスさんは、息子のシリウスさんと一緒にドラゴン乗ってました。
……具合が悪くても、断固として姫抱っこは拒否してました。まる。
そして次の日の朝。私とクルーレさんは寝坊しました。
これからの話をする為、また朝食を取る為に急いで食堂に行ったのですが……。
食堂前で警備してくれてる騎士の人達……おい。
全部私に丸投げしやがった。だって半笑いやった!
あれはツッコミは任せた!な完全なる半笑いやった!!!
食堂の壁に出来た大穴は魔法で簡易的に塞いで、後日業者さんにちゃんと修理してもらうことになってます。
そして食卓を囲む面々は……なんとも、楽しそうにお食事されてました。
「ほら!レオ口開けて!両手使えないんだからっ!ね!」
「……い、いや。俺は何日か食べなくても……それに俺は罪人だから、皆と同じ席なのもおかしい。せめて床に転が」
「い、いいの!ご飯は大事だから、……あっおはよう美津!ねっ良いわよねっ!?朝ご飯大事よね!?」
「…………………………うん。もう好きにして。」
「ほら!美津がいいって!口開けて、レオ!」
「…………あ、あーん???」
「あーん……えへへ♪」
「……どうしてかしら。女神様が、美津様と出会ったばかりの頃のクルーレに見えますわ。」
「えっ、そうなの?」
「……まぁ、一応親子になるんだ。似てる部分もあるんだろう。」
「………………見た目以外で、女神に似てると言われるの、私とても複雑なんですが。」
「……むぐむぐ。しかしクルーレの父親が、むぐむぐ。レオナルドとは…………はっ!なら、ならクルーレは、ワシの、……ワシの初ま」
「その口、縫い付けましょうか?」
「ひぃぃ!?」
「……私達とクルーレ様って、つまり?」
「……腹違いとは言え、俺達の兄の子になるから……甥っ子だな。」
「ひぃん!?」
「そうですよ……俺とも親戚になるんですよ。ややこしいったら……。」
「……なんや、つまり今日は親戚の集まりと。」
家族会議、大事やもんね。
「「「「「「「「なんか違う!」」」」」」」」
「むぐむぐ……いつもこんな感じなのか?」
「うふふ、楽しいでしょ?」
「……見てる分には、それなりむぐっ。」
両腕両足がっちりと拘束されて椅子に座ってる王子様は、ティアラちゃんの餌付けに四苦八苦してた。
だって口にまだあるのに突っ込まれてる。
初心者あるあるやな!苦しいよね!知ってる知ってる!私もクルーレさんにようされた!
そんな賑やか過ぎる朝食が終わり、これからどうすべきかの話し合いが始まった。
クライスさん達は席を外そうとしたけど、もうここまで知ってたら一緒に考えて欲しいとのレオン様の一声に、同席したままになってる。
「……まず、確認なんだが……本当に、美津殿に魔力が戻ったのか?……確かなんだな?」
「……ええ。お母様のおかげで。」
「……そう、か。」
……ああ。そんな皆、しんみりせんでも。
「……大丈夫ですよ、レオン様!」
「……美津殿。」
「お母ちゃんの事は、……暫く、淋しく感じちゃうのはしゃーないんです。私達がすぐ立ち直ったりしたら、それはそれでお母ちゃん、淋しがって逆ギレして、皆が黒焦げにされちゃうかもしんないし!」
私が精一杯の笑顔でそう言えば、レオン様は苦笑しながら頷いてくれた。
皆も、微笑みながら頷いてくれた。……気を遣ってくれて、ありがとう!
「それでは、……次に、女神よ。貴女が今ここにいるなら、瘴気は今後どうなる?」
「……昔と変わらないわ。何もしないでいたら……空は黒く、雲は紫に染まる。そして水や作物は毒に侵され、人も動物も、死んでいく。……だから私は、山に戻る。……今度こそ、皆と……美津達と、お別れになるわ。」
淋しそうに、それでも決意を込めた瞳で私を見つめるティアラちゃん。……え?
「な、何で!?」
「……今の私、分身体を作るだけの魔力も無いの。だから、本体だけで山に……。」
「そ、そんなん!私の魔力使えばええやん!元々お母ちゃんの……ティアラちゃんのや!返すよ!」
「美津……ありがとう。そう言ってくれて、凄く嬉しい。……でも、それは絶対にしない。美津の命が脅かされる事を、……美智子が、助けた貴女を、二度と危険な目には合わせないわ。……これでいいの。」
「よ、良くないわ!何簡単に諦めとんねん!ちゃんと考え!……お母ちゃん理由にして、楽すなやボケっ!!!」
「っひん!はい!」
私が怒鳴りつけて、やっと諦めムード消したティアラちゃん。全く油断も隙もないなぁ!ネガティブ禁止!!!
……クルーレさんやお姉様周辺もガクブルしてるけど、無視や無視!
クライスさんだけうんうん頷いてくれてるの、凄いありがたいです!ね!ネガティブ禁止!
「あー……こん中で魔法が得意で詳しい……お姉様!何かちょろっとでも気になった事、無い?」
「!…………こほん。この場合の解決策が、女神様を分身体を作れるまでの魔力回復であるなら……女神様は普段、どの様に魔力回復しているのですか?人と同じ食事や、時間経過のみ?」
「えっと……うん。お供え物はそこまで回復出来ないけど、年単位で眠れば。でもここまで魔力が無くなったの、私も初めてで……いつもは十年単位で眠って、魔力を貯めて、……聖女達を探しに行くための、準備をして……あ、そういえば!レオの側は居心地が良かった!」
「……そ、そうか。」
「…………誰が、惚気を言えと?」
あ、旦那様に殺意が芽生えてる。
頭撫でとこ。……落ち着いてねーまだ始まったばっかやからねー?
「えーと、ティアラちゃん。クルーレって名前の死神さんが降臨しそうなので。……続きがあるなら、詳しくどうぞ。」
「はっ、ごめんなさい!……えっと、えっと……レオの側に居ると、私の魔力の流れが良くなるっていうか……分身体が隣に居る感覚に、近くて。それが不思議で、初めてシャルーラが連れて来た時は挙動不審だったって笑われたの。」
おっ?
と言うことは?
「分身体に近いって事は……。」
「王子様の魔力でティアラちゃんの魔力補給、出来るかもって事!?」
私の叫びに、ティアラちゃんは引き気味やけど気にしない!
「わ、分からない。必要無かったから、試してないの。」
「……やってみる価値はあるな。レオナルド!」
「……なんだ。」
「お前が長年溜め込んだっていう鉱石や水晶、宝石の類、……お前の事だ、まだ予備を持ってるだろう?その全て、女神に差し出せ。」
「……ティアラ。俺のが、欲しいか?」
「!……う、うん!欲しい!」
「そうか……お前が欲しがってくれるなら、俺の全部、やる。」
「レオ……っ!」
ティアラちゃんが半泣きで感動してる。
うん。それは、ええねんけど。
「…………なんやろ。王子様の言い回しが、ちょっと恥ずい。」
「……王子様、感じ変わったね?もっと屑っぽかったよね?」
「兄上…………瘴気に引きずられて、色々と負の感情が上乗せされていたのでしょう。あれがおそらく、素の王子です。……天然タラシの餌食になってたんですね、女神様。」
「ティアラ…………餌食になってますわね。」
女性陣プラスお兄様の毒入りのツッコミに、しょんぼりした王子様の犬耳頭を撫でて慰めるティアラちゃんが居ました。
……全身拘束されてる王子様の頭を撫でてる、ボンキュボンなティアラちゃんの、図。
……何でやろ。見てるだけで、恥ずい。
待機していた騎士に鉱石の隠し場所を教えて取りに行ってもらっている間に、あーだこーだと会議は続き、……ビラは只の悪戯で、内容が真実ではない事、むしろ聖女が居たから進んで浄化していた、と女神であるティアラちゃん本人を連れて、教会や町に直接説明に行く事になりました。
教会にある昔からの教典には、ティアラちゃんの絵姿があるから……お偉いさんは確実に信じてくれるはずやって。
行くのは、王子様とティアラちゃんの、二人。
元々浮いてるティアラちゃんと、自力で飛べる王子様。
護衛として、女神を、妻を死ぬ気で守れとレオン様に命じられて……王子様は小さく頷き、床に転がったせいだけでなく、顔を上げられなくなった。
ちなみに、何故座ってた王子様が床に転がってて、こんな感じで話が纏まったのかと言うと。
ティアラちゃんに詳しく話しを聞いていけば……山に自身を封印するのも、正しい手順で解除すれば魔力消費も少なく、また瘴気も殆ど吹き出さない筈らしいから……なら、ちょっと考えたら分かった筈やねんけど。
私も気付かなかったの、反省せな!
悪霊瘴気は別として、一度普通の瘴気はまとめて取り除いてる。そして今、空気清浄機として復活した私がいる。
一気に大量の瘴気でなければ、少量を定期的に取り出せば……私の魔力が無くなる心配も無い。
次に瘴気が人に悪影響をもたらすまで溜まるには、数十年と言う時間が必要。……それなら。
「ティアラちゃん。山にずっと居る必要、なくね?」
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
うんうん。美しく揃ったハテナですね。
「例えば……朝の九時、山に出勤。昼時少しズラして……そやな、十三時から十四時まで、一時間の昼休憩。……その後、また山に入って、……夜の六時、うーん出来たら七時まで山居てくれたら助かるかな。……夜中は特殊な仕事以外、皆寝てるやろうから、そんな魔法使わんやろし。そんで、レオン様とピーター様、国王様達が協力してくれるなら、週に一度、魔法を出来るだけ使わないって日を法律として作って貰ってさ!国民に周知してもらって……信仰心の強い人は守ってくれるやろうから、効果はあるはずやし。そしたら、本体で山に入らんで良い日も出来る。王子様とも二人、ゆっくりラブラブ出来る時間あるんとちゃうかな?」
女神の山の登山口とか、……淋しかったら、スティーアさん家の近くに家建てて、そこから出勤したら良くない?
二人とも、ばびゅんと空も飛べるんやし。
この私の提案に、ティアラちゃんは号泣しながら何度も頷いた。
首がもげるんじゃないかってくらい何度も何度も縦に振って、レオン様に直接お願いして。
王子様も、椅子から転げ落ちて拘束されたまま、土下座っぽいポーズで床に転がってお願いして。
レオン様は、勿論だと破顔しながら頷いてくれた。
うん。ピーター様も、必ず賛成してくれる。皆でお願いしたら、きっと大丈夫や!
明るく楽しい未来が見えた所で、時間が来たので皆で昼食を取ることに。
えぐえく泣いてるティアラちゃん用に私がホットケーキを差し出せば、涙を引っ込めて飛び上がって喜んで食べてくれました。
……朝は私が寝坊して、お姉様達に作ってもらったからなー。寝坊理由は、察して下さい。
「……うふふ、やっぱり美津のくれる食べ物が、一番甘くて美味しい!」
「美味しい言ってくれるのは嬉しいねんけど……もうお姉様とかオリヴィエちゃんも普通にしてるやん。私と変わらんと思うけどなー?」
「うーん。そうなんだけど……やっぱり、皆と違うのよね?」
「…………ならお前は、神に仕える血筋だったか。」
「え?」
私とティアラちゃんの会話を聞いていた王子様が、そんな事を言い出した。
「……ティアラに対する感情が周囲と同じなら、残るのは身体的な違いしかない。……お前は元の世界で、何らかの神に仕え、支える役目を持つ血筋だったって事だ。……ティアラも女神だからな。神に当てはまる。」
ほうほう。その可能性もあるのか。
日本にも、色々神様居るらしいし。……私を助けてくれた優しいもふもふ兄弟も、ご主人様に会えたかなぁ?お別れしたの昨日やけど、元気かなぁ?
「………………それで女神は、美津に懐いてる、と。……私の妻は、世話係だと?」
「お、思ってない!そんな事思ってない!」
……私、穏やかに色々考えてたのに。
何ですぐに脅すような八つ当たり始まるんかなうちの旦那様は!!?
「あーあークルーレさん!その顔怖い!……ほら、クルーレさんもデザートでホットケーキ食べていいから!蜂蜜か……クライスさんのくれたジャム、どっちする?」
私がささっと取り出した数種の瓶に、似た者親子は素早く視線を送り、そして指差した。
「苺ジャム!」
「私、今度はママレードにする!」
「よしよし。……ちなみに、仲良くするならお姉様特製のヨーグルトアイスもセットで付くねんけど?」
「「仲良しです!」」
二人は肩組んで仲良しアピールをしだした。
うんうん。最近のこの二人、ちょろくて助かるわぁ。
「はいはい。では大人しく着席しましょーねー。」
「「うん!」」
「……………………あれは、いつもなのか?」
「……ええ。クルーレ様もティアラも、美津のご飯……特に、おやつに目がないのですわ。」
「父上のジャムを食べてから、余計に扱い易くなって……こちらとしては、とても助かりますわ。」
「シャリティア……そんな、幼児の様に扱わんでも。」
「……レオン様は、あの姿を見てもそう言えるのですね?」
二つの皿に、ぬくぬくのホットケーキと冷たいアイス、それぞれのご希望のジャムと溶かしたビターチョコをおまけでトッピングしてあげれば、桃色ほっぺで喜ぶ二人。
一口頬張って、ふにゃふにゃ笑顔を浮かべるクルーレさんとティアラちゃん。
同じ顔で喜ぶ二人、目の保養です。眼福です!
クライスさんも、美味しそうに食べてくれる姿見て、ちょっと微笑んでる様に見えなくもない!
「…………幼児二人と、母親に見える。」
「でしょう?」
楽しい昼食も終わって程なくして、鉱石を取りに行ってくれていた騎士達が戻って来た。
室内では何があるか分からない、とスティーア家の庭で試す事になり、皆で外へ。
ドラゴンに括り付けられた袋からは大小様々な鉱石や宝石が大量に入っていて、約三十キロの袋が、全部で八つ……え、多い。
実はすっごい節約家やってんな、王子様。
ティアラちゃんは親指程の長細い鉱石を、試しに一つ、砕いてみた。
砕いた瞬間、ティアラちゃんの身体が少し光って……。
「ど、どう?」
「……うん、うん!私の身体に、魔力に馴染む!補充出来るわ!」
「やったぁ!良かったなぁ王子様!ティアラちゃん、王子様のおかげで助かったで!!!」
「いっ……!?」
ばしっと一発背中を叩いてから、鉱石砕く作業を手伝う為に、私はティアラちゃんの側に行った。
後からクルーレさんとお姉様、オリヴィエちゃんも一緒にお手伝い。
殿下は城から持って来させた書類を片付ける為に、部屋を一室借りてお仕事。
クライスさんも、シリウスさんが居るからと従業員を呼んでお仕事しに行きました。
果物も生き物やから、ちゃんとお世話しないとね!
だから、後ろで王子様の見張りとして残ってくれたお兄様やレオン様(いや国王も働け)、そして王子様の会話を、私は知らなかった。
「…………あれ。」
「……ん?どうしたレオナルド?」
「ぁ…………いや。……っ……俺とした事が。……小さすぎて、今まで気付かなかった。…………ははっ。」
「…………何で笑ってるの、王子様?」
王子様が、私の後ろ姿。
正確には、私の後頭部を見て笑っているのを不思議そうに眺めるお兄様が居たなんて。
まだ知らない私でした。
次で、ラストです。
最後までお付き合い下さると嬉しいです。




