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それぞれの夫婦



聖女様視点に戻ります。




「俺の処遇は、お前に一任する。……拷問するなり殺すなり、好きに扱え。」

「いや要らんからそんな権利!?」



クルーレさんとクライスさん、それに顔面腫らしたレオン様と困った顔したティアラちゃん達と共に私に近寄って来た王子様はそう言って来た。



え、何いきなり怖い事言ってんの!?



……はっ!まさか、瘴気無くなって少しはまともになった?


……こうかばつぐん過ぎやろ。



「何故だ。」

「……そこで何故って即答返ってくんの怖いな。……ティアラちゃんの事は?どないすんの?」

「……お前達が居れば、ティアラは淋しくないらしいからな。……瘴気の事も、ティアラが納得して役割とするなら、構わない。……俺は犯した罪の、罰を受ける。だから好きに扱え。」



「「「「「……………………。」」」」」



か、確実に瘴気が無くなったおかげや!

言葉に棘の無くなった王子様……常識っていうか、モラルが復活してる!







……どうしよう。違和感半端ねぇ。偽物?(本物です)



これがマトモな状態って言うなら……瘴気って、マジで怖いモノや。身体と心に悪過ぎる悪性腫瘍や!こっわ!!!



「…………。」



驚いて考え込んでる私の前に無言で立った旦那様が、王子様の胸ぐら掴んで持ち上げて……って!?



「ちょちょちょクルーレさん!?」

「クルーレ待って!ちょっとだけ待って!」

「シリウスから美智子殿の事も聞いた!確かに、レオナルドは許されぬ事をしでかした!それでも……それでもっ、頼む!助けてやってくれクルーレ!!!」

「……そうか。俺を殺したいか、クルーレ。……そうだな、聖女だけでは無い。お前にも、殺す権利がある。好きにしろ。」

「レオ!?」



大人しくされるがままの王子様と、無表情に睨みつける私の旦那様。…………あれ?


……確かに怒ってるけど……いつものぶっ殺したいです顔、……では無いね?



「…………私が、何故お前の望みを叶えなければならない?」

「っ!」

「死んで償う?そんな事をしても、私の母上も、美智子様も、誰も戻らないのに?……楽をするなっ!!!」

「……っ!なら、なら俺にどうしろと!?どうすればお前らは満足する!?」


涙こそ流れてないけど、王子様は後悔でいっぱいです、な顔でクルーレさんを睨みつけてる。


クルーレさんはそんな王子様に……ラスボス感増し増しの、あくどい笑顔で答えてあげた。


「……ふん!私達へのご機嫌伺いをする前に、己の番いに言わなければならない事があるんじゃないのか!無責任な男は、捨てられたって文句が言えないんだぞこの屑め!!!」

「「「!」」」


王子様をティアラちゃんに押し付けて、クルーレさんは私達をお姉様達の所に連れ出そうとする。



「クルーレさん……。」



うん。……そっか。そうやね。



「さーさーお父様行きましょう!ほらレオン様!その顔、お姉様に直してもらいましょうねー!」

「う、うむ!そうだな!しかし……直して、くれると思うか?」



誇り高いクライスさんを辱めたレオン様に、お姉様はお怒り中です。



「あー…………かかと落とし受けてからなら、治癒してくれるかも?」

「……ぅうゔ。み、美津ど」

「ああ、レオン様?代わりに美津に治癒してもらったりしたら……楽しみですね!」

「かかと落としを受け入れよう!」

「……座った状態なら、私の拳でも良いのだが。」

「ぃいいいやだ!クライスのは嫌だ!魂から痛みが来るから嫌だ!!!」

「うん。クライスさんの拳には何の呪い込められてんの?」



えっえっとティアラちゃんがオロオロしてる間に、私達はお姉様達と騎士達の固まっているエリアに移動しました。



ティアラちゃんの本体を護衛していた両国の騎士様達は、岩山の登山口で重傷の状態で見付かってます。

応急処置だけこの場でして、それぞれのお城で本格的に治療するそうです。



オックスさんも重傷っぽかったのに、オリヴィエちゃんが心配で何度もお願いして付いて来たんやって!愛や!

なので今は、しっかりお姉様監視の下皆で治療してます。


……まあ。オリヴィエちゃんは今、お姉様にしがみついて泣いてるんやけど。お母ちゃんの事、聞いたんやろなぁ。



……私達、幸せもんやな。お母ちゃん。



私は歩きながら、前を歩くクルーレさんの背中を撫で、心の中でありがとうを告げた。


立ち止まったクルーレさんは、私を見下ろし……とても優しく、微笑んでくれた。



「時間は掛かるかもしれませんが……美津がいつでも休憩出来る様に、私も、少しは余裕があって、頼り甲斐のある男になるんです。……お母様に、怒られて雷落とされるの嫌ですから。」

「!……………………う、ん。…………ゔんっ。ぐすっ。」



そして子供の様に抱き上げられた私は、クルーレさんの首筋に顔を埋めながら、泣いた。


声も出せず。ただ静かに。力一杯しがみついて。


くっ付いてる身体が、頭を撫でてくれる手があったかくて。

私はクルーレさんに抱き上げられたまま、公衆の面前で、泣き続けた。




家族を失った、胸にぽっかり空いた喪失感を洗い流す為の涙なんだと思いながら。



明日の朝、笑って皆におはようを言える様に。

私は今、流せるだけの涙を零し続けた。






今日は、もう一杯頑張ったから……ええよね?


また、明日頑張るから。許してな……お母ちゃん。




――――――――――――――――――――――







「…………。」

「…………。」

「……ごめんな、ティアラ。」

「……それは、何の謝罪?」

「……何だろうな。色々あり過ぎて、……お前を泣かせた謝罪、が近いと思う。」

「…………許さないわ。」

「そうか。」

「…………むぅ。…………で、でもっ!私の……あっ、最初に好きになった所言えたら、許すの考えてあげる!」

「え…………………………最初っから、全部だな。」

「全部は無いって美津が言ってた!」

「…………でも、それ以外の言葉が思い付かない。笑ってるのも、怒ってるのも、泣いてるのも、困ってるのも……全部綺麗で、可愛かった。……そういうのは、何と言えば良いんだ?」

「…………………………………………。」

「?」

「……そうだわ。初めて会った時のレオって、こんな感じだった。最近のレオがちょっとおかしかっただけで。……ふふ。こういうの、天然タラシって……美智子なら言うかしら?」

「???」




そんな感じでおもろい感じに仕上がってると知るのは、次の日の朝の私でした。




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