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取り敢えず、一発



今回は王子様視点。

それでも宜しければどうぞ。






俺は、夢を見ているのか?

それとも俺が生き絶えて、同じ世界に存在しているからと、見え方が変わったのか?



「……かあ、さま?」



……骨じゃない、生前と変わらない美しい姿。


誰に言っても信じてもらえなかった。

女神であるティアラでさえ、魔力や瘴気は見えても……魂の姿は見えないと。



「……レオナルド、大きくなりましたね。」



優しく微笑む笑顔の母様が、俺は一番好きだった。

誰よりも綺麗で、魔法が得意で、頭が良くて。



だからそんな母様を裏切った親父が、俺は憎かった。




……愛していた分、憎しみは募っていた。


何度も、何度も。

城を出てから、俺は頭の中で泣きながら、何度も親父を殺していた。





「私は何と、愚かな事を貴方に……愛しい息子を虐げるなど、あってはならぬ事です。」

「お……俺は、また母様と話せただけで……っ!」



母様が俺に縋ったのは、執着していたのは……親父を愛していたからだ。

枯れる程涙を流し、時が経つにつれ肉は腐り、動く骨になっても……親父への愛だけで、この世にとどまり続けていた。母様の想いは、本物だった。



その愛の証の俺を……母様は手放したく無かっただけだ。



「……まだ、私を母様と…………ならば、レオン様を許してあげて。……あの方は、私を裏切ってはいないのです。」

「……!他の女を、妻に迎えたじゃないか!母様が弱って、死にかけてたのに、見向きもしないで他の女の所に行ったじゃないかっ!俺の事もっ……放っていたじゃないか!城から出た後も、探すそぶりも見せなかった!!!」



俺の髪と瞳の色は、魔力の質や量を勝手に判断されて、聖女召喚に利用される可能性が高かったから。


その事で母様の弟は死よりも酷い苦痛を強いられ、心を病み……聖女が死んだ数年後に、静かに息を引き取った。

だから母様は俺を守る為に、常時魔法を使い続けてくれたんだ。


……産後の、弱った身体で。


俺が三歳の誕生日を迎える頃になって、自分一人の力で姿を変えられる様になってから……母様は死んだ。



死因は、病死とされた。

でも本当は、魔力不足による衰弱死。



……母様は、俺の為に、死んだ。



「…………私が、レオン様に頼んだのです。レオナルドを、外に出して欲しい、と。だからもう一人……息子が欲しい、と。」

「え……。」

「このまま城に居れば、いつか必ず、私の弟の二の舞になる。それだけは許せなかった。……私の息子を、あんな強欲な女に振り回される人生を、青春を過ごさせるなんて……レオン様は、初めは養子を取ると言ってくれたの。私以外、きっと愛せないからって。」

「!」

「……でも、私が止めた。国を治めるのは、レオン様の血筋にして欲しかったから。……それに、あの方は暑苦しいほどに情が深いから。……共に歩く人に、必ず情が湧く。……あの方が、一人淋しく残りの人生を過ごすよりも、ずっと良い事だと思ったの。」

「母様……。」

「……貴方の側に行かなかったのも、城の者たちに、貴方を追わせない為。顔を見たら、……抱きしめずには、愛さずにはいられないのよ。レオン様は、そんな人。だから愛した。……瘴気に侵され、そんな事も忘れてしまった私を救ったのが、招かれた聖女だなんて。……うふふ。そんな事もあるのね?」

「…………レオ?大丈夫?」



優しい小さな声に隣を見れば、オロオロと周囲を見回しながら浮かんでいるティアラが居た。


「瘴気は、無くなってるみたいだけど……レオのお母さん、もう大丈夫?レオの事、殺そうとしない?」

「ティアラ…………お前、俺の心配をしてるのか?」


でもさっきまで、俺の事は嫌いになったって……。


「だ、だって、レオ死んじゃったら悲しいわ!淋しいわ!……シャルーラや美津や美智子に酷い事したレオは嫌いだけど!大っ嫌いだけど!……そこは別なの!……美津も別だって、言ってたでしょ!?」



美津……俺が見付けた、今回の聖女。


聖女の能力は勿論だが、性格が善人なら、クルーレに役目を押し付けてもティアラが文句を言わないだろうと、……その程度にしか思ってなかった。



働き者だが、本などの趣味の物を片付けるのが苦手。

幼い頃のトラウマで男性不信気味で、本人は恋愛とは無縁だ、と既に諦め……一応体格も気にしながら生活していた。

母親思いの、優しくて良い子な娘。



……良い子な娘は、あそこまで口汚く相手を罵れるものか。

……母親の認識にはやはり、贔屓が混ざるな。



「…………ああ、言ってたな。」



それでも、殺そうとした俺に……母親を死に追いやった俺に。情けをかけられるくらいには優しいらしい。



「……貴方にも、大切な人が出来て良かった。」



正面を見れば、母様は笑っていた。

とても幸せそうに。とても眩しそうに。



「レオナルド。あの人に似て……不器用で、優しくて、とても愛情深い、……私の可愛い、愛しい息子。……どうか、幸せにね?」



涙で目の前が霞む。

ゴシゴシと手の甲で拭えば、もうそこに、母様は居なかった。






「レーオーナールードー!!!」

「うがっ!?」

「あああレオ〜!?」


ドラゴンに体当たりされた様に吹き飛ば……されなかったが、ゴツゴツと暑苦しい生き物に羽交締めにされた。く、苦しい。




「ぉおおお!レオナルド!父が不甲斐ないばかりにっ!お前に何という苦痛を!?許せとは言わん!ワシを、ワシを痛めつけてくれぇーっ!!!」

「……そこは殺せ、という所なのでは?レオン様?」



親父の後を付いて来たクルーレとクライスは呆れ顔だ。クライスは杖を忘れたのか、クルーレに体を預けながらだったが。



「待て、クルーレ。……俺が殺してやるから、そこの馬鹿王はさっさと王子を離せ。」

「嫌じゃ!久し振りに会ったのに、何故そんなに冷たくするんだクライス!?」


「なら、俺の……俺の絶望を思い知らせてやろう!安心しろ、足一本使えずとも、お前を痛めつけるのは容易だ!」

「お手伝いします、父上。」


「クルーレまで!何で!?」

「全ての原因が、貴方が馬鹿すぎるからな気がするからです。」


「気がするだけで!?」



……いや、強ち間違いでも無いな。


俺は何とか親父の拘束から抜け出し、懐から、手持ち最後の一粒である水晶玉を取り出した。


それを見たクルーレは目の色を変えて、クライスと親父の腕を引っ張り後ろに庇った。……ははっ!仲良しか!


ティアラはやっぱりオロオロと俺とクルーレの間で浮かんでいる。……困った顔も、やっぱり綺麗だ。



俺は水晶を握り潰して、保存されていた魔力を取り込んだ。……小粒でも、身体強化が出来るくらいの魔力分は確保出来たな。



「安心しろ。もう聖女に興味はない。」

「……それを、どう信じろと?」

「……そうだな。こう言えばいいのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……そいつを、殴ってスッキリしたいだけだ。今の俺はな。」



クルーレとクライスは俺の顔を見て、それから二人顔を見合わせ、同時に頷いて。

一応偉い筈の、ミスティー国の国王を二人で蹴り転がした。



「うがっ!?」

「息子からのご指名ですよ。良かったですね。」

「存分に痛めつけられろ。そして死ね!」

「クライスは相変わらず口が悪いな!?クルーレ達が心配だからと言うから運んでや」

「その舌引っこ抜くぞ糞が!」

「ひいぃ!クライスが怖い!」

「…………ははっ。」



呑気な奴らだ。

阿呆みたいな事して、泣いて、怒って……それでも。



いつも最後には笑って、楽しそうで……本当は。

俺も()()()混ざりたいと思っていた。



ティアラに、クルーレの様子を伝え始めた時から。



遠く、隠れて眺めながら。

俺は羨ましくて、堪らなかった。



……俺も家族として、親父達と一緒に、笑いたかったんだ、と。




「…………許可も出たな。それなら取り敢えず、一発。……歯ぁ食いしばれ!糞親父!!!」

「わーわー待て待て!心の準備が……ぐはぁっ!!!」




本当は。抱き締められて泣きたくなる程嬉しかったなんて。


……死んでも言わないけどな!







取り敢えず、殴られ王様を安定のオチとしまして。


続編も残り三話となりました。


こんなグダグダのお話にお付き合い下さり、ありがとうございます。


ではまた。



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