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巫女の使い



若干気持ち悪い描写が混じります。


あと今までで一番文字数が多いと思います。

私的にキリ良いところが見つからなくて。全部放り込んでみました。


それでも宜しかったらどうぞ。





「くわっ、元巫女よ、何をするのじゃ!」


私は頭の上に鎮座した喋る鳥を、むんずと掴んで自分の手のひらに乗せ、初めて目を合わせた。


「……君、可愛いね。」


お兄様の言う通り、どうやって飛んで来たのか、まん丸としたもこもこな黒い身体に短い翼、小さなオレンジ色の嘴。つぶらな赤い瞳。


どことなくクルーレさんっぽい色合いも好みドストライクです!めっちゃ可愛いよ!


「くわ!コウヤはこう見えて、立派な八咫烏(やたがらす)なのじゃ!可愛いは、褒め言葉では無いぞ!?」

「……モトミコ、とは何だ?美津の事なのか?」

「ヤタガラスって、何?」


クルーレさんとお兄様、顔近い。前後で圧が強い!


「……えっと、巫女っていうのはこっちの世界で言う……教会の関係者みたいな人やな。昔話とかやと、神様とお話出来たり、神様の怒りを鎮めたりする女の人が多かった筈で……八咫烏も、私の産まれた世界で昔話に出てくる、妖怪……こっちでいうと、ドラゴンとか妖精みたいな存在に近い……かな?」


「……まあ、その様な認識で良いわ。貴女は元巫女……見つけた時にはその男に娶られた後であったからの。……はぁ、もっと早う見つけ、連れ帰れたらのぅ。残念じゃ。」

「「「「「え!?」」」」」



つ、連れ帰るつもりやったん!?



……あ、そういえば。

王子様が私の守護霊……動物の姿って言ってたよな。

まさかこの子が、私の守護霊?



……えっ、そっちもほんまやったん!?私知らんねんけど!?



「お前……私から美津を、奪うつもりだったのか?」



あ、やばい!マッハの勢いでやばい!

背中からの圧がやばい!!!



「……ふん。安心せい、もうその役目は無くなったわ!我らの主人が、……お眠りになられたからの。」

「ご、ご主人様が?」


「……そうじゃ。我らも主人のお側に馳せ参じる故、お世話する筈であった貴女に……最後の別れを言おうと思ってな。……そう思い近くに寄れば、なんぞ立て込んどる様子。……特に、あの男に取り付く()()はなんじゃ。これ以上放っておいたら、数日もせんとあの男死ぬぞ。」

「レオが!?」


「……うむ。あの者レオと申すか。……随分と長い間、取り憑かれていたらしいの。あそこまで魂に食い込まれて、よう今まで生きとったな。」

「た、た、助けて!助けてあげて!どうしたら良い!?教えて!?」


「ティアラちゃん……。」



ティアラちゃんは地面に膝をつき、私の両手を握りコウヤと名乗った丸い鳥に泣きついた。



……どんなに酷く、残酷な事されても。

好きやと思ったら止まらないんやね。ティアラちゃん。……その気持ちは、ちょっと分かるなぁ。

私の背中にくっ付いた身体が、一度震えたのが分かった。



「……私からも、お願い。コウヤ君……やんな?何か知ってて、方法あるんなら教えてくれへん?」

「っ美津!!!」


背後から私の正面に移動したクルーレさんは、般若みたいな顔してる。……うん、私もただの、人間やからね。気持ち的には王子様の顔面、往復ビンタ千回くらいしたい気分やねんけど。



「……それとこれとは、話は別やねん。」

「でも!」


「王子様の為やない。これはティアラちゃんの、私の友達の為や。……大丈夫やから、怒らんとって?……それで、なんかある?」

「……なら、炎はあるか?出来たら業火と呼べそうな強い炎が望ましい。」


「炎…………あ、魔力の込められたマグマなら、この坂を上った先にあるよ?」


お兄様の言葉に、コウヤ君は大きく頷いた。


「うむ!……兄者!兄者!照れて隠れるのは止めよ!はよう出てこい!……この最後の別れの時!我ら役立たずと罵られずに、主人の元に帰れるやもしれんぞ!!!」


「……わ、わふっ!」

「えっ……犬!?」



コウヤ君に兄者と呼ばれて岩陰から出て来たのは、何と黒い小さな子犬。コウヤ君と同じ赤い目に、オレンジ色の首輪。


子犬は尻尾を振りながら私の足に遠慮がちに擦り寄ってきたので、コウヤ君を肩に乗せてから抱き上げた。

……尻尾の勢い、すっごい増した。嬉しいみたいやね。


「わん!」

「これは兄のエンロウ。兄者は言葉が不自由じゃが、能力的には何の問題も無い。悪しき魂を()()のが大得意じゃ!」

「わおーん!」


多分、凄いでしょ!?と言いたいのを胸張って表現してる二匹。……うん、可愛い。



「我らの力も制限されとるが、元々ここにある力を使えば何とかなるやも知れん。……さあ兄者、我らの主人に楽しい土産話を持って帰ろうぞ!」

「わん、わおーん!」




私の肩と腕から飛び出した二匹は、バチバチと激しい静電気の様な音を出しながら眩しく光り、マグマ煮えたぎる火口へ飛んで行った。



「……い、犬も空って飛べるんやね?」

「……言いたい事は分かりますが、少し落ち着きましょうか、美津様。」

「いやー。あの子達飛ぶの早いねー。」

「……もう、好きにしたらいい。」

「クルーレ……ごめんね。美津を、怒らないでね。」

「……別に、怒ってない。」



私達は、いつのまにか弱って気絶してた王子様(放置し過ぎた。反省!)を仰向けに転がして二匹の帰りを待つ事に。



この時、聖女として瘴気を回収する能力も復活している筈の私が近寄っても(背中に旦那様くっ付けた状態)王子様に纏わりつく瘴気は、少しも無くならない。……むしろ、濃くなってる様な?


ティアラちゃんも、ここまで酷いのは初めて見ると言っているから……相当危険な状態らしい。


この世界の必要悪でもある瘴気なので、少なからず纏ってしまう人は確かに居るらしいけど……王子様のは、ティアラちゃんに出会った頃と比べても、普通の人の何十倍の量。


クルーレさんが産まれてからも、次の聖女を迎えに行く魔力を貯める為に十年単位で眠っていたティアラちゃん。

指輪で会話だけしていたから……王子様のこの状態を、知らなかったらしい。


スティーアさん家でも、妖精姿だったから分からなかったらしいけど……これ以上濃くなったら、人の目に見える程に、周りにも悪影響及ぼす凶悪な瘴気に変化するかもって……何て迷惑な!!?



ティアラちゃんが半泣きで王子様を膝枕してあげて、時々頭を撫でて……頭によく、瘴気が纏わりつくから。頑張って払うように必死に撫でてる。

……オマケで私の旦那様の頭を撫でると、雰囲気が少し明るくなった。現金なやっちゃ。



「待たせたのー。」

「わんわん!」



十分程で帰って来た二匹は、一回り大きくなっていた。



「いやー久方振りの食事での、腹一杯じゃ。」

「くぅん。けぷ。」

「え……ま、マグマ、食べたの?」


悪食、ここに極まれりと言いたい。


「そうじゃ。我らとは(ことわり)の違う世界故、何でも一度身体に取り込まねば……うっぷ。己が力には出来、ぬ……むう。……もうこれで良いか。ほれっ!」



ぼふんと大きな音と砂埃が舞い、私達は咳をしながら口と目を急いで塞いだ。ぺっぺ、口に砂入った!



「おお、何とかなったな!」

「げほ、げほ……ぅえ!?人になってる!?」



私の目の前には、声が同じなので……多分、コウヤ君が浮いていた。


ボロ布纏った、半裸の成人男性で、背中から黒い大きな翼が生えてる。身体中に赤色の……痣か刺青っぽいのもある。意味分からん模様やのに、なんか和風っぽい。


そんで背中くらいまでの長い黒髪姿で、顔は……隈取り、やったっけな。活発そうな男前顔に、赤色の化粧を目元に施していて、これも和風で神秘的な雰囲気。



でも……うん。大事な所は隠れてるけど。

ほぼ裸な姿は、ちょっと恥ずかしい。



「…………え、それじゃあ……こっちのが……?」

「……………………ぐるるぅ。」



乗用車一台分。ドラゴンと同じサイズの犬……いやあのシュッとした顔、狼!

犬じゃなくて、狼さんだったんですかエンロウ君!



大きな頭で私の身体全体をスリスリされる。尻尾ぱたぱたしてる。うん、可愛いと思うよ。

しかし悲しいかな、仕草は子犬のままやのに、大きさのせいで尻尾からぶおんぶおんと大きな音と大量の砂と風が舞うけどな!ぺっぺっ!



「おお!これならば我ら()()に戻っても大丈夫そうだな!」

「ぐおおぅ!」

「んぺっ!……え?それが本体と違うの?」


嘘やろ。まだ進化すんの!?


「ん?まあ、そうじゃな……それで、我らの()()よ。我らを()()()()はこの一度のみ(ゆえ)、心して聞け。」

「!……は、はい!」

「我らは巫女に扱って貰わねば役立たずな()()。それ故に、所有者の巫女が何を望むかで能力の強さも変わる。……巫女は我らに、何を望む?」



コウヤ君は真っ直ぐ私を見下ろしてくる。真剣に。



「私の望みは………………ティアラちゃんの、私の友達の、大切な人を助けたい!」



例えムカつく相手でも、腹立たしい相手でも、しばき倒したい相手でも。

……そいつが、病人で。しかも、私の友達の大切な人って言うんなら。


助けてやるのが、友達(わたし)です!

この気持ちに、嘘はないよ!



私の決意の言葉に、コウヤ君は子供の様な、キラキラの破顔を見せてくれた。

うん。クルーレさんとはまた違った笑顔の眩しさです!



「ああ、良かろう!……我らの選んだ巫女は、陽だまりの似合う正しき女子(おなご)であった!()()()()()迎えられず残念ではあったが、これもまた運命よ、のう兄者!」

「おぉん!」

「は、はぁ!?何それ!?」


何で唐突にネタをブッ込んだのコウヤ君!?


「おいそこの変態カラス!聞き捨てならんぞ美津は私の妻だ!!!」


ほら!私の旦那様反応しちゃったよめんどいよ!


「ややこしくなるから少し黙りなさいクルーレ!」

「いやでも!」

「……これはなんと。心の狭い男よのぅ……心配せんでも、主人の妻となるのは生娘しか許されぬ。お前の子を身籠ってる時点で無理じゃ。……それより、説明して良いかの?」

「「「「お願いします!」」」」


私、お兄様、お姉様、そしてティアラちゃんは元気なお返事させて頂きました。

クルーレさんはお姉様に足蹴にされて、黙り込みました。今急いでるから、許してね!



そして話を聞いてみると、コウヤ君達は日本の神様達の道具や武器に宿っている、付喪神と呼ばれる存在らしい。

二人は昔から悪霊を祓うエキスパートとして、色んな神様からも一目置かれてるんやって。

……日本ってか、私の産まれた世界、色んな神様居るんや。……もしかせんでも、日本神話マジもんなんか?びっくり。



弟のコウヤ君が相手の身体から悪霊を引き剥がして、兄のエンロウ君が焼いて浄化する。



そんな危なそうな事はさせられない、とクルーレさんは言うけれど。

コウヤ君達を扱えるのは、巫女の資格があった私だけらしいから……せ、責任重大!でも頑張る!!!



そしてコウヤ君とエンロウ君は私の目の前に並び。

とても嬉しそうに、誇らしそうな笑顔を浮かべて、口を開いた。



「天照らす神よ、夜添える神よ、嵐統べる神よ!!!陽だまりの巫女の願いを聞き届け、……我等に役目を、在るべき姿で応える許可を与えよ!我等は炎狼(えんろう)更夜(こうや)!邪悪を祓い、焼き滅ぼす力与えられし御使(みつかい)なり!!!」

「るおおおーーん!」



彼等の宣言の言葉と眩い光に、私達は思わず目を瞑ってしまう。



そして、次に目を開けた時。

私の目の前には、薄ぼんやりとした光を纏った、二本の抜き身の刀が浮かんでいた。



赤く光ってるのが、炎狼君。

白く光ってるのが、更夜君。



何でだろう。分かる。



『さあ巫女よ。アレを祓い、浄化せよ!……巫女にも、もうアレの姿が見えるはずじゃ。』

「ぇ…………うげぇ!?」

「美津!?どうしました!?」



背中をクルーレさんに支えられながら、刀を手に持った途端。

頭の中に更夜君の声が響いて、そのまま王子様を見れば…………豪華で美しいドレスを纏った骸骨に、絡みつく様に羽交締めにされている王子様が居た。


王子様の頭に……白髪を数本だけ生やした状態の頭蓋骨を擦り付け、彼の首に腕を回し、腰に足を絡ませへばり付いてるその姿は……ドレスが綺麗過ぎて、瘴気の黒いモヤと相まって、おぞましさが増長してる。



……見てるだけで、吐きそう。



これが王子様の、子供の頃から見てる世界?

他人が汚く見えるって……こういう事?


ティアラちゃんが言ってた、瘴気を纏ってる人って……こういう事?



……それなら、確かにティアラちゃんは……王子様にとって、この世界で唯一の美しい存在に見えたのかもしれん。



……何やねん。あんなんされて、周りも少なからずあんなんばっかやったら、そりゃあちょっぴり頭おかしくなってもしゃーないやんとか思っちゃうやん。



可哀想とか思っちゃうやん!あーあーずーるーいー!

しばきにくくなったやないかボケぇ!!!



『巫山戯てる場合ではないぞ!さあ巫女よ、我の名を呼び存分にチカラ振るうが良い!!!』

「う、うん!……更夜君!王子様から、彼女を引き剥がして!……せいや!」



私は掛け声と共に、王子様に近寄って顔の横……頭蓋骨目掛けて、右手に持った更夜君の刀で突き刺した。


皆には、王子様の顔すれすれの地面に突き刺した様に見えるんやろな。

……刺す気ないから、そんな怯えんとってティアラちゃん!



『〜〜〜〜〜っっっ!!?』



骸骨は声に出来ない叫びを上げながら王子様と私から離れ、……無い目玉で私を睨んでいる様だった。気持ち悪くて、怖い。

でも彼女は、更夜君の光を嫌って、私に攻撃したくても近寄って来れない。



そしてこの時、私はぷちん、と糸の様なモノが切れる感覚を味わった。


王子様を見ると、纏わり付いてた瘴気が無くなってる。

……全て、骸骨になってしまった彼女が持ったまま離れたみたいや。


『うむ!(えにし)が断たれた!次は兄者の番じゃ!』


私は背中にクルーレさんくっ付けたまま(ずっと結界張ってくれてる。感謝!)骸骨に近寄り、左手に持った炎狼君を掲げた。



「…………炎狼君!彼女が……ナタリア様が、どうか安らかな眠りにつける様に、……悪い所、全部燃やしたって!!!」

『るおおん!!!』



雄々しい獣の雄叫びと共に、左手に持った炎狼君の刀から、とぐろを巻くみたいに()()()が噴き出て……離れた場所に居た骸骨を、一瞬で包んでしまった。



あんまりにも勢いが強すぎて……というかこの黒炎、天まで届くっていう火柱になっちまってて……クルーレさん達にもバッチリ見えてるみたい。



王子様はティアラちゃんに引きずられて。

お姉様はお兄様に、私はクルーレさんにお姫様抱っこされた状態で強制的に戦線離脱させられました。



『…………ぐぎゃあああああああああああっっっ!!!』

「母様!?」



彼女の叫びに目を覚ましたのか。

見ると、ティアラちゃんの制止を振り切って、黒炎に向かう王子様が居て……私とクルーレさんに気付いて、こちらに方向を変えて来た。


お兄様達が追いかけてこようとするが、私は首を横に振って止めた。……大丈夫。



素敵で無敵な旦那様、ずっとスタンバイしてるから!



クルーレさんは王子様に隠れて笑ってから、私を降ろして背にかばってくれた。



「それ以上、美津に近寄るな。」

「……っ、何、やってる、あの炎を止めろ!あれはっ、あれは俺の母様なんだぞ!?」

「……そんなん、知ってるわ。」

「……!お、俺が……お前の母親を死に追いやったから、その復讐のつもりかっ!?」



……おおぅ。なんという卑屈で頓珍漢な奴や。



「……はぁー。そんなつまらん事するかボケ!んな事したら、私がお母ちゃんにしばかれるわ!これで、あんたの母様は在るべき場所に行けるの!……ほれ!ちゃんとお別れしとけ!色々な文句と仕置きは、その後や!!!」



私が炎狼君で指し示した先を半信半疑で見た王子様は、次の瞬間には驚き、半泣きになり…………最後、泣き笑いの顔に落ち着いて走って行った。



向かう先には黒い炎も、ドレスを着た骸骨も綺麗さっぱり無くなっていた。



美しい白髪……うーん、銀髪かな?

その美しい髪を綺麗に結い上げた、凛々しくも優しげな女性が居るだけやった。黒いモヤモヤも無い。


ティアラちゃんも後から付いて行ったから……多分、大丈夫。



ぽふん、と音を立てた後、刀だった二人は最初の小動物姿に戻って私の目の前に浮いていた。



「ほんまにありがとうね!炎狼君!更夜君!」

「…………上手く、行ったんですよね?」

「うん!髑髏のお化け姿から、綺麗な姿に戻ってた!……あれ、もう見えなくなってる。」


さっきまで、二人話す姿が確かに見えたのに。

今は、ティアラちゃんが側に居らんかったら独り言言ってるだけの怪しい人や。


「そりゃあそうじゃ。あれは我らの所有者の視界。一時的な契約ではこれが限界じゃ。」

「……そっかー。それでも助かったわ、ありがとう!……二人はこれから、どうすんの?お礼もしたいねんけど!」

「……いいや、長居は無用じゃ。……我らも、在るべき場所に帰らねばな。……行こうか、兄者。」

「……きゅうん。」


私は炎狼君にほっぺを舐められ、更夜君にはスリスリされ。


「さらばじゃ、我らの唯一なる巫女よ。……達者で暮らせ。」

「わん!」



ぽふんと軽い音と共に、二人の姿は消えた。

本当に、あっという間の別れ。


私の守護霊やったっぽい、二人(二匹?)




「なあ、クルーレさん。」

「はい。」

「私な、子供の頃から動物好きやってんけど……結構、嫌われるタイプでなぁ。昔はそこまで太ってなかったと思うねんけど、近寄っても怖がられて逃げられて……可哀想やから、自分から近寄るのはやめて、公園とかで散歩してる犬、離れた場所で、よう見ててん。」

「…………はい。」

「でも近所に一匹だけ、私に近寄ってくれて、しかも触らせてくれてた犬居て……炎狼君くらいの、小さな黒い子犬。若いお兄さんが飼い主で……引っ越すまでは、よう触らしてもらっててん。」

「っ!…………そう、なんですか?」

「……うん。懐かしいなぁ。急に思い出したわ。……守護霊って言うくらいやから、私が気付かんかっただけで、……小さい頃からの付き合いなんかな?」

「……そうかも、しれませんね。」

「……うん。」




ちょっぴり淋しく感じてしまい、私はクルーレさんに思いっきり抱きつく。

……今のクルーレさん上半身裸やから、ちょっと照れるけど。頭撫でてもらうの嬉しいから、ええかな。




「おお〜い!美津殿無事か〜!!?」

「煩い叫ぶな私を離せおい聞いてるのか能無し筋肉ゴリラ!!!」




聞いたことのある叫び声に上を見上げれば、…………クライスさんをお姫様抱っこしながら器用にドラゴンに跨る、レオン様が見えた。




筋肉の、有効活用……かな?




後方に、涙目の王太子殿下とオリヴィエちゃん。もいっこ後方に居る騎士さん数人も、顔色悪くドラゴンに跨ってるね。


……そっか。私達が居なくなった後、クライスさん達が助けを求めたんやね。そんで黒い火柱見えて、慌ててこっちに来てくれたんや。


そうですか。ありがたいです。






でも……うん。何やろこの脱力感。






私とクルーレさんは抱きしめ合い、ぎゃいぎゃい叫ぶおじ様二人をしみじみと眺めました。まる。






聖女様と黒騎士様、そして王様は通常運転でした。




そしてこの下に、少しネタバレの含まれる小話があります。


ドキドキを楽しみたい方はラストが投稿された後に。

先に安心したい方は、このまま下の方に進んで下さい。










ご都合設定と言われても、仕方ないです。


それでも言いたい。

私は、ハッピーエンド主義!




それでは。






























[狼と鴉の旅立ち]



「くう〜ん。きゅうん。」

「……兄者、泣くのはよせ。あの娘は幸せになったのじゃ。……もう、我らは必要無い。」


「……わうぅん。あぅん。」

「……我らの主人の嫁となれば、護身用で刀も必要であったろうが…………この世界で、あの男が夫ならば要らぬだろうよ。むしろ我らが側に居れば、危険が増す。……去るがあの娘の為よ。」


「きゅう〜ん。くうん、わふっ!」

「……くわっくわ!娘は最後まで気付かんかったのう!自分の頭にくっ付いた()()()()に!…………少しの贔屓は、主人もお許し下さるさ。あの娘の泣き声は、耳に痛いからの。……兄者も魂砕いたのじゃ、同罪であろ?」


「わうん!」

「くわっくわっ!ああ、それでは行こうか!……主人が()()()()()()前に我等が先に砕けては、本末転倒じゃ!」


「わん!」



そうして小さな二つの影は、異世界ミスティリアから姿を消しました



大事に見守っていた、娘の行く末を垣間見て

彼らも、在るべき場所へと帰ったのです





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