新婚さんと王子様の問答4
引き続き残酷な描写が混じります。
それでも宜しかったらどうぞ。
気付いたら、見覚えのある場所にクルーレさんと共に倒れていた。
「……ここ、女神の山?」
「美津っ、無事ですか!?」
「みっちゃん大丈夫か〜?わ、私は目の前ぐるぐるぐる〜でな〜。」
クルーレさんの頭上から、お母ちゃんが目を回して転がり落ちてきた。
「わ、私は大丈夫やけど……お母ちゃんの方がやばいな。」
「……お母様は、今の転移魔法で酔ってしまったみたいで。ほら美津、腕こっち!」
「はーい。」
ドラゴンで乗りつけたことのある、あの少し開けた広場に私達は居た。
てかクルーレさん、そんな車酔いみたいな言い方……てか今、転移魔法って言った?
「……ええ。馬鹿王子に、皆と引き離されました……私の治癒魔法は、まだ自信が持てなくて……取り敢えず、傷はこれで……。」
クルーレさんは来ていたシャツを裂いて、私の腕をぐるぐる巻きにしてくれた。いつ見ても腹筋すげぇ。
折れた左腕は……良かった。腕から骨がものごっつ突き出てる訳やなかった。セーフ!
まあ、それでも青痣通り越して気持ち悪い紫色になってるし、伸ばしたヒジと手首の間が歪んでるから、折れてるのは確実やな。
……あ、巻いた所からすぐ赤くなってる。気付かんかったけど、結構出血してたみたい。
「……クルちゃん。私が巻き直したろか?」
「うっ。」
「……あは。良いよ、お母ちゃん。……ありがとうなぁ、クルーレさん。」
確かに、見るも無残なぐちゃ巻きやけど。
クルーレさんが一生懸命巻いてくれたのが嬉しいから。このままでええよ。
「……呑気な、奴等だな!」
私の背後で動く気配がして、振り向けば顔を左手で覆い、上半身を血染めにした王子様が立っていた。
……その目には、まだ私達の姿は写ってないやろうけど。
目みたいな細かい役割の多い器官は、修復には時間も魔力も多く必要って言ってたな。
……流石の王子様も、一瞬では無理か。
「……呑気やなくて、余裕があるって言うてくれへん?あんたみたいな阿呆とちゃうねんから。」
「っはは!……その減らず口を、今すぐ閉じろ。俺がどうして、この場所に連れて来たと思ってるんだ!」
顔を覆っていた手を外すと、先に傷だけ塞いだようで出血は止まっていた。
それでも両目は切り裂かれ、痛々しい傷痕が残ってる。
よく見れば、王子様の背後でふよふよと浮かんでいる石がある。……ただの石みたいなのもあるけど、水晶玉や宝石っぽいのも混ざってる。
「美津、気を付けて……この周辺も、あの浮かぶ鉱石からも馬鹿王子の気配がします。……噂通り、アレは魔法に関しては天才の様です。姉上よりもコントロールがずっと上です。」
転移魔法も、吐き出した石を基礎にして発動させたみたいです。
クルーレさんの小さな声に、私は頷く。
成る程……ならこういう時の為に魔力を、石に貯金してたって事か。
そんで今の女神の山は、王子様の貯金の山。
王子様は初めから、私をこの山に連れて来るつもりやったんやな。
「……女神の話を聞いていたのか?美津にはもう、聖女としての能力は無い。瘴気を回収する事は不可能だ。」
「……聖女の力の源は、女神ティアラの魔力、聖女が愛子へと向ける愛……それだけあればいいんだ。」
「……?だから、みっちゃんはもう魔力無いって言うてるやろっ。分からんやっちゃなぁ!」
「…………なあ、クルーレ。お前…………ガキの頃に童話なんて読んでたか?」
「は?」
「何言う……はうわぁ!!?」
「お母様!」
「お母ちゃん!?」
私が狙われると思っていたクルーレさんは、抱えている私ごと結界で包んでいて、お母ちゃんがその結界の真上に移動しながら王子様に話しかけちゃったから……つまり結界の外やった!
ティアラちゃんが移ったんかこのうっかり母ちゃん!?
今度はお母ちゃんが、球体で青白い光の……多分、王子様の作った結界の中に閉じ込められて、王子様の頭上に連れてかれてる!まだ目が見えてない筈やのに位置把握し過ぎやろ!?
「出せやごらあっ!!!」
べちべちバリバリとお母ちゃんも色々してるみたいやけど、頑丈な結界みたいでヒビも入らん!
「ちょっと!お母ちゃん離せやアホボケ王子!!!」
「……妖精っていうのは、それぞれの元となった要素が長い時を掛けて結晶化したもの。初めはただの鉱石だったのを、大昔に可愛くないからって理由で、ティアラがあんな姿になる様に設定したらしい。」
「おい無視すな!」
王子様は、笑顔やった。
微笑んでるって言った方が正しいかもしれん。
微笑みながら、顔の前に移動させたお母ちゃん入りの青白い球体を、手のひらで転がして遊んでる。
「うわ、わ、あ、遊ぶなぼけぇ!」
「……この妖精は、お前の母親だ。向こうで確かに死んでたのに妖精の姿で存在してるって事は、……ティアラの魔力を多量に取り込んで、この姿なんだろ?」
「!…………向こうって、何や。……それにあんたには、名前以外、お母ちゃんの詳しい説明してない筈やけど?」
「……ははっ、不思議か?……俺はさ、お前に感謝されても良い事、けっこうしてるんだがなぁ?……結果的に、クルーレと番いになれたしな?」
「……まさか……。」
クルーレさんは私を抱きかかえたまま……きっと、私と同じ考えに行き着いた。
でもそれは、一番ありえへん事や。
……だってそれは、ティアラちゃんしか無理な筈や!
「……世界を越えるには、確かな道筋と膨大な魔力、それをコントロールする精神力が必要なんだ。……俺には三十年以上掛けて、純度の高い魔力を溜め込んだ鉱石や水晶が山程ある。それに魔法のコントロール、これにも自信がある。道筋は……ティアラが知ってるからな。」
「……お前が、美津を選んだと言うのか?」
「……ああ、そうだ。今回の聖女の選定は、俺がやった。瘴気を浄化する部品として、聖女を使うつもりだったからな。……道具は、自分で選びたかった。」
王子様は、あっさり肯定した。
私を聖女に、部品にする為に選んだ、と。
私が、……初めから道具なんだ、と。
「俺を連れてるから制限が付いてな……帰るまでの期間は、一日。出た所が海の上で丁度船が通った。……試しに幻覚の魔法で姿を隠し近寄ってみれば、いきなりの当たりだ。俺は運が良かった。運命さえ感じた!女神の、ティアラの加護だ!!!」
「……それが、私やったって?」
「ああそうだ!お前にくっ付いていた守護霊は小動物姿だったが、その質が異常に高かった。それが決め手だ!」
「「「……は?」」」
……しゅ、守護霊?いきなりのオカルト系?
お母ちゃんもクルーレさんも、勿論私も、変な顔してるやん!?
「……ああ、信じられないか?……生まれた時から、クルーレが心を読む様に。俺も生まれた時から、死んだ人間……所謂幽霊が見えるんだ。だから分かった。あんな強力な護衛が居たお前は、きっと元の世界で何かの神に捧げられる生贄の血筋だとなっ!……どちらにせよ死ぬなら、俺が有効活用して何が悪い!?」
「……い、生贄だった?美津が?」
「「いやんな訳あるか!!?」」
思わずお母ちゃんとハモった。
おいおい本気でオカルト話なん!?
てかそれ、あんたの思い込み凄い混ざってるから!
私、ごく普通の一般家庭出身!神社もお寺も関係無い、ふっつーの一般家庭!
ノー守護霊!ノーオカルトです!!!
「ふん!好きに言ってろ!……俺は半永久的に部品とするつもりで、お前を選んだ。不死にするにも、魔力的な基礎能力が高くないと出来ないからな……それにお前の死んだ母親から、お前の人となりも聞けた。能力の有無を確認する間、クルーレに押し付けるつもりだった。一応、気にしてやったんだ。有り難く思え!」
「黙れ屑が!!!」
「けっ!私はあんたと話した記憶なんか無いわ!巫山戯た事ぬかすなら黒いビリビリ落とすぞごらぁ!!?」
「……はっ、死んでる間の事だからな、そりゃ覚えてる訳ないだろ。……俺はティアラに、お前を聖女として連れて行こうと言ったが、初めは却下された。条件に合わなかったからな。」
「!………………生まれ育った世界に、絶望して、いないからっ……それ、も。……お前か!お前が美津をっ!?」
「ははっ……クルーレ、お前知ってたか!……そうだ、未練が残ってると道筋から外れ、世界と世界の狭間に落ちて二度と戻れなくなる。……それじゃ意味がない。せっかく見つけたのに、……勿体無いだろ?」
おい、ちょっと待てや。
絶望してないと、連れてこれない?
クルーレさんが知ってた?何を?
……私を、諦められへん王子様は、どうしたん?
……私、今、ここにおるやん。ティアラちゃんが、望み叶えてくれたから。
船が事故に遭ったから。
「…………あんたが、船の事故、起こしたんか?」
「…………ははっ。」
その笑い声が、答え。……何それ。
「……ああ、ティアラは知らないぞ?あいつの隙をついて、魔法でちょっとな。……でもあの船、意外と脆くてな……しかも、お前の望みは自己犠牲!ティアラに言って大急ぎで帰ったんだ。……もう少しで、お前が死ぬところだった。危ないところだ。」
「貴様あっ!!!」
「クルーレさん!あかん!お母ちゃんがまだ向こうにおんねん!」
「!ぐぅるるる……っ。」
クルーレさん……いつのまにか耳だけやなくて、牙まで生えてる。それも、めっちゃ鋭いやつ!
漫画のキャラとかの可愛いちょい八重歯とちゃう。
何か食いちぎる為の、ほんまの牙や!
「そうそう!母親は大事にしろ。……この母親のおかげで、お前はやっと役目を果たせるんだからな!」
「……黙れ黙れその口閉じろっ!!!何度言えば分かる!?美津にはもう聖女の、……女神の魔力は無い!」
「ティアラの魔力なら、ここにあるだろうが!!!」
「ふぎゅっ!」
「お母ちゃん!?」
お母ちゃん入りの球体結界を持ちながら左腕を勢いよく掲げる王子様の姿…………って、待って。
……まさか、まさかまさかまさか!!?
「っはは!目が潰れて、よく分かったよ!こいつはティアラの、純度の高い女神の魔力の結晶!おまけに都合良く、お前達は親子!……魂の結びつきがそれだけ強ければ、娘と同化する事も容易だろうさ!」
「同化って……それ、絵本の…………そ、そんな事したら……っ!?」
「ははっ、何か問題あるのか?……元の魂だけの存在に戻るだけだ!本来の、死人の姿になぁ!!!」
病気と知らされた日から、いつかの別れを予感してた。
それでも何年も治療を頑張っていて、倒れる前日までとてもとても元気で、……意識不明になってしまった時も、すぐに目を覚ましてくれるって家族皆で思ってた。
お別れは、もっと先やと思ってて。
それでも死んでしまったお母ちゃん。
ティアラちゃんのうっかりなサプライズで、帰って来てくれたお母ちゃん。
…………また?
また、そんな覚悟も出来てない内に。
お母ちゃんが、居なくなる?
「……あ、あかん!そんなん、絶対許さん!!!」
「ははっ!許すさ。…………お前じゃ無くて、お前の母親がな?」
「はっ!?何言っ……けんっ、げほっ!」
「………………………………え、みつ?」
あれ。
叫び過ぎて、口に手あてて咳き込んだだけやのに、なんでやろ。
手が、真っ赤や。
「美津!!?」
「い、いやああああああ美津ぅぅーっ!!?」
吐き出した血で赤く染まった手を確認した後、私の意識は途切れた。




