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新婚さんと王子様の問答




見た目には変化のない、しかしぐったりとした王子様を担いで戻って来た旦那様の清々しい笑顔に、私は紅茶とクッキーを差し出しました。


「お疲れー。はいどーぞ!」

「ありがとう、美津。……あ、姉上!やっぱり私、女神のように魔力量のある人間の心、見れないみたいなんです!……念の為、後十個くらい魔力制御具付けましょう。美津に害があったら大変です。…………むぐむぐ。あ、このいちごジャムのクッキー、おいしい。」

「そう、分かったわ……あら、ちょっとクルーレ!座ってお食べなさい!はしたないですわ!」


そう言いながら、腕輪、ネックレス、額飾りと色々持って来たお姉様はテキパキと王子様に取り付けていく。

……魔力制御具って確か、先にクルーレさんに十個渡してたよな?


まだ、付けるんやね。

いやー私の為に。ご心配お掛けして、申し訳有りません。



「…………あの量の制御具、え、えげつない。」

「え、魔力抑えるだけなのでは?」

「…………あれ一個で、十キロの鉛仕込まれてるんじゃってくらい、重く感じます。」

「…………えげつないですわ。」



えーっと?にーしーろー…………追加分入れて二十個。という事は、……全部で二百キロ。



うん。間違いない。

クルーレさんと、シャリティアさん。えげつない。



王子様を床に転がした状態で、両手両足を縛って任務を完了したお姉様も混じり、仕事の終わったお父様とお兄様二人も参加したお茶会を始めて、二十分後。



「…………ふ、ふざけた、ことしやがってっ。」



芋虫の様にうごうごしてる王子様が出来上がってました。



「あ。美津、シャリティア様、起きましたわ!」

「……では、ソファに運びます?」

「クルーレさーんお願いしまーす!」

「むぐむぐ…………ふぁい。」

「あーあークルちゃん。飲み込んでからでええって。」

「……意外に食い意地はってるよな、お前。」

「んぐっ…………だって。ジャムのやつ、おいしいです。」

「なら、クライスさんにお土産でお願いしよか。何味がいい??」

「…………っ!全部!無くなったら、また送ってもらえる様に言いますから、全種類!」

「く、クルーレ、ブルーベリーは?ブルーベリーも全部に入ってるわよね!?」

「あーはいはい。ティアラちゃんとクルーレさん、二人一緒にお願いしに行こな?」

「「うん!」」

「……それで兄上。父上は?」

「ああ!クルーレの食べっぷりを見て、土産にしてやろうって工場を見に行ったよ?私が行こうとしたんだけど、自分が選びたいんだって!」

「あらあら。」











「無視するな!!!」


あれ。なんでか半泣きの王子様にチェンジしてる。

おやつを飲み込んだクルーレさんに襟首掴まれ、引きずる様にソファに移動した王子様は、既にグロッキー気味。

そりゃ重いよ。だって二百キロやし。



クルーレさんみたいな肉体派なら良いけど、王子様はどう見てもザ・魔法使いって感じやから余計に辛いやろうなー。

…………うん。魔法剣士ちゃうな。魔法使いやな!もやしっ子やな!



「ティ、ティアラ!こいつら何だよ!説明しろって!」

「……あーうるさい。私は今おやつを食べてるの。話しかけないでよ最低男。」

「!!?」


あ、顔が真っ白。ショック受けてるなー。

絶対に嫌われないと思ってた相手に、妖精姿の真顔で冷遇されると心臓抉られるみたいでこうなるよなー。分かる分かる。


でも話進まんから、助け舟は出そう。


「ティアラちゃん。食べててもいいから、これからの事お話しようや。マフィンもいる?」

「…………いる。」

「俺よりマフィンかよ!?」

「もぐもぐ……ふん!美津のお菓子はみーんな甘くて美味しいの。当然よ!……シャルーラのくれた物と、同じくらい甘いんだから。もぐもぐ。」

「……っ!あの女と、…………同じ、だと?」


食べ続けるティアラちゃんから、私をぎらりと殺意を込めた目で睨んでくる王子様に、流石にビビった私はクルーレさんの背中に隠れた。……うごうごな芋虫やけど、ちょっとだけ、怖い。


私の頭を撫でて、クルーレさんは王子様に目を向けた。

……あ、やべ。私の旦那様、暗黒背負ってる。



「……おい、馬鹿王子。美津を見るな。」

「ぁあ!?」

「次、美津がお前のせいで怯えたら、……去勢する。」



……おおう。男性陣の青褪め方がはんぱねぇ!


お兄様とオックスさん、声も息も出さずにささっとクルーレさんから距離取った!

王子様は逃げられないので、がくぶる怯えて震えるだけ。……うん。自業自得。



クルーレさん……いや、自分の息子に脅され大人しく座っている王子様を囲む様に椅子とテーブルを設置。



さて。まずはどうしよう?


ちらっとクルーレさんを見ると、小さく頷いてから、事件の発端だったあのビラを数枚取り出した。



「このビラを撒いたのは、お前か?」

「…………。」


無言の返事に静かにキレ、立ち上がって王子様の座るソファに近寄ったクルーレさん。


どがっ!と力を込めて王子様の足の間を踏み抜いたクルーレさんは、一昔前のヤクザにしか見えません。こわい。


「時間の無駄だ。早く、言え。」

「っあーあー俺だよ!ティアラが、俺の番いがいつまで経っても戻らねぇから!……国の発表なんか、信じてなかった。でも、聖女と黒騎士が結婚したって話を聞いて……山も、立ち入り禁止になってて。」


何ヶ月も張り込んで騎士達の隙をつき、気絶させ入り込んだら。

マグマの中で惚れた女が眠っていた、と。


「瘴気が無くなれば……勝手に浄化してくれたら……ティアラは妖精じゃなくて、ずっと、あの美しい姿で、俺の側に居てくれる。二人で暮らせるって、…………だから、俺は!」

「…………それで、美津を?」

「……ああ、そうだ。聖女共はクズばっかだからな。……絶対に召喚に関わるな、関わったら最後、俺の母様の弟みたいに、苦痛と嫌悪を表に出さずに何年も過ごすせいで、頭がおかしくなるんだ!」


そんな聖女を道具にして、何が悪い。

王子様は、そう言いたいらしい。


……成る程。聖女召喚に関わった当事者、身内やったんか。そんなん聞かされてたら、私に対する当たりが強いのもしゃーないかな?


しかし、しゃーないと思ったのは、私だけの様です。


「……今までの聖女達と、美津を同じにするな!」

「そーや!美津は可愛い可愛い私の娘やねんからな!そんなクズみたいな奴らと同じにすんな!」

「それはっ……は?娘って……ティアラの分身じゃないのか、お前。」

「ちゃうわ!私は正真正銘、美津のお母ちゃんの美智子さんや!勘違いすなボケ!!!」

「…………………………へえ?そんな事も、あるのか?」

「あんねん!」


いや、なんの会話や。


「あー。私の事はいいから。……王子様の気持ちも、状況も、少しは分かりました。でも私達がいっちゃん聞きたいのは、ティアラちゃんの希望を、望みを……王子様、あんたが叶えられるかどうかや。」

「…………ティアラの、望み?」

「そう。……ほら、ちゃんと自分の口で言うんや。……あんなんでも、まだ自分の旦那やって、思ってるやろ?」

「…………うん!」



そうして、ティアラちゃんはクッキー片手に話しだした(すぐにクッキーはお母ちゃんに回収されました。流石に駄目っす)



約束を破って会いに行かなかった事への謝罪。


聖女だった私は、もう魔力を持っていないから部品にはなれず、また今の状況にティアラちゃんが納得している事。


私達との生活が気に入っていて、レオナルド様とも、本当は一緒に暮らしたい事。


でもそれとは別に、シャルーラさんの事を許せない事。



「シャルーラは、私の力を必要としなかった、初めての友達。…………彼女を傷付けたレオを、……何の疑いもなく信じてしまった私自身を、私は一生、許せない。」

「ティアラ…………俺は、ただ、お前の望みを、」

「…………なあ、その()()()()って、今言うのやめぇや。すっごい恩着せがましい。」

「……っな!」

「いや、だってティアラちゃん本人は嫌やってんで?シャルーラさんの同意もなく行動した王子様が。……あんたは優先順位勘違いして、失敗してん。だから今怒られて、嫌われる一歩手前になってんの!もっと危機感持ちぃや!」

「……は?き、嫌う?ティアラが?この俺を!?」



この反応。やっぱり王子様はティアラちゃんの変化に気付いてない。

王子様に恋して、子供が出来て、人に近くなったティアラちゃんに。



「……そりゃあ、嫌うかもしれんやろ?ティアラちゃんも私も、一途な()()とちゃうもん。……だからクルーレさん、私をすっごい気遣って聞いてくるもん。何が嫌って。なー?」


私の言葉に王子様はクルーレさんの方を見て、頷く姿をしっかり見た。


「ええ。私はこう見えて、とても怖がりで、淋しがりやの甘えたなんです。美津に嫌われたら生きていけないので、どこまでして良いのか、いつもお伺いしてるんですよ?」


貴方は凄いですね。嫌われても平気なんでしょう?と微笑むクルーレさんを見て王子様は首を大きく横に振る。


「……い、嫌だ。ティアラ、ティアラ!!!」


嫌わないで、とその顔に乗っけて懇願してる。

甘えるみたいなその表情は、確かにクルーレさんに似てる。……やっぱり、親子やなぁ。


「……なら、私のお願い聞いてくれるの?お城で、皆一緒に暮らしてくれるの?私の大事な人達を、二度と傷付けないって。…………私の我儘、レオは、叶えてくれるの?」

「…………………………っど、努力、する!」

「……それって、どんな努力をするの?私の考えを変える努力?レオの考えを変える努力?どっち?」

「…………………………お、俺が、変わる、努力をする。だからっ、俺を嫌うなんて、言わないでくれ!ティアラが居なくなったら、俺、……俺には誰も、居なくなる……っ。」

「……………………そんな事はない。」



王子様の泣き言に返事をしたのは、杖を片手に、背中のリュックに溢れんばかりの瓶を詰め込んできたクライスさんでした。




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