家族と王子様の捕獲劇
スティーア家にお邪魔して、かれこれ一週間。
王子様は、未だ私達の前に現れません。
こちらで分かった事をレオン様宛に何度手紙を出してもボロボロになって戻って来るから、王子様は近くには居るっぽい。
皆が私とティアラちゃんを連れて周辺を探索してくれたけど……やっぱり、クルーレさんを厄介だと思ってるみたいで。
相手も用心深くなって、見付からない。
……まあ、来る事は分かってるし。
こっちにはティアラちゃんも居るから、向こうもそろそろ寄ってくるやろ、うん。
なので本日の私は、オリヴィエちゃんと二人で台所でティータイム用のクッキーとマフィンを作成してました。
護衛はオックスさんと、妖精さん二人。
皆で一枚ずつ、味見で口にクッキー放り込みながらの作業です。うん。ジャム乗せクッキー、うまうま。
私の旦那様とお姉様は、クライスさん達と果樹園と妖精の森の見回りと、一応、王子様の捜索をしてくれてます。
……クルーレさんは、食事時と夜寝る以外、私との接近を禁止されています。まあ、クルーレさんが居たら王子様、絶対現れないだろうからね。しゃーないねん。
夜はずーっとくっ付いてるから、まあ、別に良いやろ?
と私が言えば、あまり文句が言えないクルーレさん。でも、本心はくっ付きたいみたいで。
しまいには。
「……馬鹿王子に、八つ当たりしてやる。……さっさと現れろ。服で隠れてる所、全部殴って踏みつけてやる。」
とか言い出して。
いやー私の旦那様、地味に陰湿です。困ったちゃんですねー。
という事をクライスさんに雑談としてふったら。
「…………困った、で済ませるのか……美津は、面白いな。」
……よく分からんけど、クライスさんに褒められた……事になるのかな?まあ、認められたなら良かった!
そんな事を思い出しながら、最後に焼きあがって粗熱取れたマフィンをカートに乗せて、いざ食堂へ。
魔法で手伝えない代わりに、私に出来る事しないと!主にティアラちゃんとクルーレさんへの餌付け。
だって餌で釣ると、言う事聞いてくれるから。
……最近気付いたんやけど、実はこの二人、お菓子の好みが一緒。ティアラちゃんとお母ちゃんが取り合ってたお菓子、今ではクルーレさんになってるし。
見てて楽しいから多めに作ってると、バレてお姉様に笑われてしまう始末。
……だって、図体大きいのと小さいのの掛け合い、めっちゃ可愛い。可愛いは正義って、ほんまやと思う。
そこにお母ちゃんも混ざったら、ときめきが止まらないんですが?
そうアホな事思い出しながら、皆と廊下を進むと、先頭を歩くオックスさんが、止まった。
「…………本当に、来たな。」
「え?オックス様?」
「……前出たらあかん!」
私はオリヴィエちゃんの腕を引っ掴んで背中に隠した。お母ちゃんとティアラちゃんは、私達の頭上へ。
「ティアラ。迎えに来た。」
前方、四メートルくらい先に二十歳前後の、若い男が立っていた。
クルーレさんとはまた違った、美しい顔をしている男。クルーレさんは美人顔で、相手は美形顔って言えばいいんかな?
シャリティアさんと同じくらいの身長で……黒と白のまだら模様の珍しい髪。瞳の色は、ここからじゃ、黒にしか見えない。
……その瞳は、私の大好きな旦那様と、ここで出来た小さな友達と、同じ色をしてるんでしょう。
ねえ、王子様。
「レオ…………迎えって?……皆と、お城で一緒に、暮らしてくれるの?」
ティアラちゃんは、確認する様に、願う様にそう口にした。
「…………無理だ。この世界の奴等は、皆汚い。……綺麗なのは、ティアラだけだ。」
だから無理。という言葉を聞いて、私はお母ちゃんと目を合わせ、心を一つにした。
((中二病のヤバイ系タイプや!!!))
「……なら、レオとは暮らせない。帰って。」
「…………そいつらに、変な事吹き込まれたか?ティアラ……言っただろ?俺以外、信用するなって。」
ティアラちゃんを見つめる瞳は熱に蕩けて胸焼けしそうやけど。私達見る時の冷たさ!怖いわ!
「…………レオの事、信じてた。好きだったわ。ちゃんと。」
「あ?…………だったって、なんだよ。」
「…………シャルにお願いしたなんて、嘘でしょ?本当は、……クライスを、子供達を殺すって脅して、言う事聞かせたんでしょ?私、知ってるのよ!」
「………………………………ちっ。余計な知恵つけたな。」
「「「「「!!!」」」」」
ティアラちゃんは、握り拳をぶるぶる震わせていた。
お母ちゃんが手を繋いで、やっと収まるくらい。
……うん。あれはもう、悲しみの震えちゃうな。
私が、変な事して暴走しかけるクルーレさんを、殴ってでも、蹴ってでも、止めようとする時と同じや。
そして、オリヴィエちゃんが背後でこっそり送ってくれた手紙によって、クルーレさん達も王子様の後ろに到着してる。
……準備は出来た。さあ、言いたい事言って良いよ!
「っ巫山戯んじゃないわよ!!!」
「………………ぇ、ティアラ?」
ティアラちゃんの怒鳴り声を始めて聞いただろう王子様は、困惑です、と顔にしっかり書いてある。
でも、もう遅い。
女のマジギレ程、怖いものは、そうそう無いよ。
「馬鹿にしてるっ……ねえ、私、シャルが大好きだったの。レオは知ってたのに、知ってたのに傷付けた!」
「…………そ、それは、お前が望んで……。」
「私が望んだのは!シャルが良いよって言ってくれたらの話!無理矢理脅してなんて、……私は一度だって望んでない!最低よ!!!」
「ティアラ?何でそんな、怒って……?」
「……どうして怒らないと思うの!?私の大事な友達を、その家族を傷付けておいて!おまけに、新しく出来た友達にまで、酷い事しようなんて……っ!」
「……………………誰だ、その友達って。」
あ、呼ばれた。
「はーい。元聖女な友達一号でーす!」
「はーい。妖精仲間で友達二号でーす!」
「え?え?……と、友達三号ですわ!」
私、お母ちゃん、慌てるオリヴィエちゃんの挙手に目付きの怪しくなった王子様。私と、すっごい目が合うね。
「…………へえ。随分縮んだな、聖女サマ。最初は家畜みてぇにぶくぶ、」
どがしゃっ、と黒い雷落ちて王子様の目の前の床がえぐれました。
そしてこの隙に距離詰めた私の旦那様が、王子様の後ろから、腕回して腰から抜いた細身の剣で首かっ切ろうとしてるのも、同時でした。
王子様の額に、冷や汗浮かんでる。
「あかんな〜。お嫁に行った女に言う言葉としたらアウトやな〜。なぁティアラ。」
「…………そうね。美津はそんな悪口気にしないけど。普通、女性に言ったら駄目な言葉よね、美智子。……私の友達の悪口を、私の前で言うだなんて……レオなんか、大嫌い。」
「!!!ティ、ティアラ待て!」
「…………初めまして、オトウサマ?ああ。抵抗しても、続きを口にしても良いですけど、……多分、すごく、痛くなりますよ?」
私達がお菓子の乗ったワゴンを押して横を通り過ぎたのを見て、王子様の顔色は悪くなり、しかしクルーレさんの馬鹿力によって身動ぐ事も出来ず見送るだけ。
それ以前に、現在進行系で耳生やしてプレッシャー与えてるクルーレさんから逃げるのは、……多分無理やなー。
「お、お前……クルーレ、かっ!?」
「ふふふ。そうですよ?…………私の妻は、血の惨劇が嫌いなんです。だから私は、いつもいつも、美津に嫌われたくないからって、力加減をしてるんですけど……貴方相手だったら、少しだけ、お許しが出てるんです。」
取り敢えず、その薄汚い単語を紡ぐ、舌を引っこ抜きましょうか?
チラリと振り返ると、クルーレさんの恐ろしいうっとり笑顔でそう言われた王子様は、顔面蒼白になって震えてます。
よく見たら、王子様からまだら模様の耳と尻尾が出ていて、耳はぺたんこ。尻尾は股の間にはさんでる。
……うん。自業自得。
こうして、案外早く王子様を捕獲出来ました。
おやつタイムの後、尋問タイムに入りましょうか!




