スティーア家は素敵でいっぱい
スティーア家と思われる豪邸からこちらに向かって来る、美しいプラチナブロンドの男性。
髪色を見るとシャリティアさんに似ている事、そして早歩き出来ているから、足が不自由なお父様じゃないな。
「……クルーレ!ティア!」
「お久しぶりです、シリウス兄さん。」
「うふふ。お元気そうで良かったですわ。」
クルーレさんとシャリティアさんの言葉で、やっぱり馬車の側に来てくれたのは二人の兄、シリウス・スティーアさん本人でした。
ティアって言うのはシャリティアさんの愛称みたい。
近くで見ると、やっぱりシャリティアさんに似てる。目の色も、綺麗なアーモンド色や!
「手紙を貰っていたから、そろそろだと思っていたんだ!ああ二人共、その可愛い顔を兄に見せてくれ!……いや、その前にクルーレ!お前の妻は、私の義妹は何処だ?私も父上も、会えるのを本当に楽しみにしていたんだ!……ん?そう言えばクルーレ。その髪はどうしたんだ?それに、その抱えている、……子供?」
微笑みながらも、不思議そうな表情を向けてくるシリウスさん。
うん。お手紙にはビラの事もあって、一時避難したいんですって事しか書かなかったし。
外じゃ、誰に聞かれるか分からないし。詳しく話すなら、義父にも一緒に聞いてもらわないとね!
取り敢えず中に入れて、という事で。
大きな正門をくぐれば……広くてささやかな、手入れの行き届いた庭園のお出迎え。
季節もあるんだろうけど、薔薇みたいな高そうな花は無さそう。でも粗末って訳でもなくて……本当に、優しく癒される空間。元々綺麗な空気が、もっと綺麗になってる気がする。
後で絶対、ゆっくりお散歩させてもらおうと心に決めて、私達はクルーレさん達の実家にお邪魔しました。
見た目も凄かったお屋敷ですが、いやー中身も凄かった。
三階建てのクルーレさんの実家は大きいだけでなく、所々に飾られた年代物の壺や花瓶、壁に飾られた刃を潰してるっぽい剣、油絵等のアンティークグッズで溢れた素敵でオシャレなお家。
金持ちのゴテゴテ具合を感じない、適度に飾っている上品で素敵しかない家や!
馬車から降りるときに起きたお母ちゃんを頭に乗せ、二人で「おおー!」と興奮しながらきょろっきょろしてしまった。ミーハーか。でも止められない。
……ほんの少しだけ、サスペンスドラマで事件起きるのこんな屋敷やな、とか考えた私。消えろ!縁起でもない!
ちなみに女神様はこんだけ私達が騒いでいても、未だに夢の中。暇やからって寝すぎやと思う……マジでどんだけ寝んの?
「父上!クルーレ達が戻りましたよ!!!」
「…………叫ばんでも聞こえる、馬鹿が。」
「その様に仰らず!」
シリウスさんの案内で入った一階奥の角部屋には、濃い目の茶髪にアーモンド色の瞳を持つ強面ダンディーなおじ様が書類仕事をしていた。
机の横に傘立てみたいのがあって、そこに三本の杖が刺さってる。
この人がクルーレさんのお父様、クライス・スティーアさん。私の義父でもあるんやな!
「ほら!クルーレの!嫁ですよ!私の義妹で、貴方の義娘ですよ!そんな眉間のシワはお止め下さい、怖がってしまいますよ!!!」
私の背をぐいぐい押して、背中に暗黒背負い出したお父様に近付けようとするお兄様。あっ、まって。
そう言えば私、コスプレ姿のままやねんけど!?
「?……………………もう、産まれてたのか?」
「……父上?貴方の孫が、ここまで短時間でこれ程の成長するわけ無いでしょう?こちらが妻の美津です。可愛いでしょ?」
ビラのこともあり、変装してのお忍びの旅だったんです、のクルーレさんの言葉に無言で頷き、一番長くシンプルな杖を持って立ち上がったお父様。
この世界の人は皆大きいけど、今まで見た人と比べるとお父様はそこまで大きいと感じない。お姉様よりは大きいから、175センチとか、そんなもんやと思う。
それでも小柄には見えない、がっしりとした身体……柔道とか格闘技してる人みたいな体格、って言えば分かるかな?
正直に言うと、農家さんに見えない。
……お兄様は、お父様に似たんやね。顔以外は似てる。カツラ被ったら、後ろ姿見分けつかんやろうなぁ。
「…………幼女を嫁にしたと言うなら、クルーレ。お前の首を刎ねて私も自害しようと思ったんだが、……本当に違うんだな?」
「わたし、もうせいじんしてます。みそじの、いいとししたおばちゃんです。おねがいします。きがえるじかんください。」
コスプレ、こんな所に弊害が。
私は半泣きで、床に頭擦り付けながら土下座しました。
てかお父様。怖い言葉のチョイスが、なんかクルーレさんに似てます。血が繋がってなくても、間違いなくあんたらは親子です。うん。私が保証します。
なので、その剣が仕込まれてる怖い杖、仕舞って!
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鳥籠をお姉様とオックスさん、オリヴィエちゃんの三人に任せて、私とお母ちゃん、クルーレさんとでお父様達に今日の訪問についての説明をしました。
勿論、二人共マッハで着替えた後です!
純粋な結婚のご報告でない事が残念なんですが、と私がしょんぼりすれば構わない、とお父様は言ってくれた。
微笑みは無いけど、労りは伝わってくる表情。
……顔は全然違うけど、ちょっとだけ、私のお父ちゃんに似てるな。強面で鉄面皮がたまに傷な、優しい所。
「ふふ。私も少し似てると思いました。」
「あ、やっぱり?」
そー思うよなーと私も返事しながら、来客用のソファに座ったクルーレさんはお父様の前でも私にくっ付いて……いや膝に乗せるな。
急いで降りようとしてもお腹に腕回されて逃げられない。
「ええい家族でも人前では止め!」
「嫌です。久し振りの、やっとカツラも取れて化粧もしてない美津なのに。寝床も離されて、私は淋しかったんです!」
「クルちゃんもぶれへんなぁ?」
「納得せんとお母ちゃんも手伝って!」
「えーめんどい。別にそのままでええやん。いつもやし。」
「ほぼ初対面の旦那様の家族の前でする事ちゃうから!すいませんすいませんすぐ降りますんで!」
「「………………………。」」
ほれ見てみい!真っ赤になった私を見て、二人ともほけっと口開けてこっち見てるやん!呆れてるやん!恥ずかしいやん!
と思っていたら、お兄様の瞳からぶわっと涙が溢れ、て。え?
「…………ミツ、と言ったか?」
「はっ、はい!」
「お前は、クルーレに触られて本当に平気なのか?……そいつは、魔法を使わんでも力が強いからな。無理をさせられているのなら、そう言えばいい。」
えっくえっくと泣くお兄様をちらりと見てから、お父様は私にそう聞いてくれた。
…………ああ、そっか。
私は暴れるのをやめて、にへっとだらしない顔になるのが止められない。
「大丈夫です。ただ人前がすっごい恥ずかしいだけで、クルーレさんにくっ付くのは安心出来て、むしろ好きなんですよ。」
ただ今はめっちゃ恥ずかしいです!と私が力説すれば。
お父様はそうか、と。ほんの少し、眉間のシワを緩ませて返事をしてくれた。そんな所も、私のお父ちゃんに似てる。
「ぐ、ぐるーれ……よがっだ、よがったな……、えぐっ。」
「お前は泣き過ぎた。」
お父様に拳骨一発食らわされても、だって〜と涙を流すお兄様に、私達も笑ってしまった。
スティーアさん家は、とっても素敵な人達の住む、素敵がいっぱいのお家です。




