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新婚さんは実家に帰りたい








お呼びが掛かったのは、本当に次の日の朝だった。

前日の昼からイチャイチャしっぱなしの私はグロッキーでしたが、途中食事休憩が入っただけまだマシかな?


聖女としての魔力持ってる時は、何日か食べなくても平気だったので(魔力による肉体保持が働く為)気を遣ってくれてありがとう。旦那様。


でもまあ、もう少し手加減してくれるとありがたいです。


「だから、責任持って運んでいるでしょ?」

「歩ける体力を残すような方向でお願いします。ガチで。」


お姫様抱っこだと、色々な事がモロバレ過ぎて私は恥ずいっす旦那様。




そんなこんなで執務室に到着。


お母ちゃんとお姉様、女神様とも再会。

女神様は相変わらず、えげつない結界鳥籠にインされてますが。



二人で相談した結果、レオン様達にはちょろっとだけ、嘘付くことにしました。ごめんね。

信仰心は目に見えない強い力やから、用心に越したことはないよね。敵を欺くためには、まずは味方から!



「懇意にしていた医者までああなんです。城内も安全とは言えません。赤子が産まれるまで、実家に引きこもります。」



……文句、ありませんよね?


言葉など無くても、暗黒の微笑み一つでオーケーされました。


こうして、私とクルーレさん、お母ちゃんとお姉様、置いていかれると思って泣きわめく女神様(想定内)でクルーレさん達の実家、スティーア家へと出発する事になりました。



悲しい事に、ドラゴン飛行は魔力無しの私には負担が大きいから、と旦那様に言われてしまい……馬車での移動に決定されました。


ああ、ジェットコースターみたいで楽しかったのに。残念。

しょんぼりしてしまった私の頭を撫でて慰める旦那様が居ました。くすん。



馬車だと一週間程掛かるスティーア家は、国境の岩山近くで果樹園を所有し、取れた果物でジャムなどの保存食、ワインなどのお酒を作って生計を立てているらしい。



瘴気問題で色々苦労が多く、ここ数年は本当に大変だったらしい。結婚式の不参加も、半分以上これが原因みたいやなー。

最近は落ち着いてきたらしく、クルーレさん宛にいつでも遊びにおいで、とお手紙が来てたなぁ。


私もご挨拶したくて、自己紹介的な手紙と結婚式の写真を数枚同封させて貰った時……お兄様から、返事の半分がありがとうと感謝します、と涙で滲んだような跡で埋め尽くされるお手紙を頂きまして。


うん。クルーレさんが愛されてて、私、嬉しい。


というかクルーレさん達のお兄様、重度のブラコン・シスコンですよね。

直訳したら「クルーレとシャリティアを宜しく」で済む部分の、言葉のチョイスが……うん。ちょっと照れる。


愛情深い所、きょうだい似ちまったね。


私を膝に乗せてるクルーレさんは、私の考えに照れて外を眺める事に専念しだした。可愛い。


……こんなに可愛い旦那様の為に、もっとご飯とおやつ、美味しいと思ってもらえるの頑張って作ろう。ガチで。




遡る事、一時間程前。




甘いもの好きな私とお母ちゃんは、勿論チョコも好きやけど、ジャムとかの果物系の甘いのも好きで。


出発したばかりの馬車の中、私はお母ちゃんとその話で盛り上がり、クルーレさんにお菓子や朝食で使いたくて、ジャムはこってりタイプかあっさりタイプどっち?と感想を聞いたら「昔は味が分からなかったから、家族に申し訳なくて殆ど食べた事が無い」と言われ。

……私達のしょっぱい気持ち、分かります?



え、ごはんのあじが、わからない?


そんな、そんなっ!?

この世の楽しみ、大部分損してるやんか!!?



私は旦那様の頭、ぐしゃぐしゃに撫でました。

クルーレさんは笑いながら、私と出逢ってからは美味しいって、味が分かるようになりましたからって言うけど。

……自覚したのは二十歳前から。お姫様事件で完全に味覚無くなってたって……。

お姉様も知らなかったのか、少し顔色悪い。


わ、私、ご飯とお菓子、もっと頑張るから!

お父様やお兄様にジャムとか……多分ドライフルーツもあるはずやから、分けてもらって、クッキーとかパウンドケーキも焼くから!



家族が一生懸命作ってる商品、美味しく食べようね!



半泣きになってる私とお母ちゃんと女神様に、ジャムの味はあっさりした甘さで美味しく、また今の時期の気候も、山から吹く風も涼しく気持ち良い場所ですわ、とお姉様が教えてくれた。


頭撫でないで。余計に涙が……ゔうぅ。



……あと実家の窓からは女神の山が大きくよく見える、とシャリティアさんがこそっと教えてくれた。



…………うん。泣いてる場合ちゃうね。

家族皆で協力して、ややこしい問題はさっさと解決して。


楽しい幸せな気持ちで、赤ちゃんを迎えよう。


あと、クルーレさんには一杯ご飯食べさせる!

細い身体やから、多少太っても問題無し!!!


取り敢えず、ばつが悪そうに笑ってる旦那様の膝の上にいる私は、しがみ付いて首筋に頭ぐりぐりしといた。喜ばれた。





「ぐすん。…………どうして、私が御者の真似事なんて……。」

「……ひ、いえ。オリヴィエ様が彼女の事が気になる、と王に直談判なさったんでしょう?」

「べっ!別に!わたくしは…………むにむになあかちゃんみたいとかさわりたいとかそんなのおもってな」

「いえそこまで聞いてません。」



馬車の御者は、なんとお姫様と赤毛騎士、もといオリヴィエちゃんとオックスさん。

オリヴィエちゃんは、クルーレさんとの話が聞こえてしまって半泣きで反省中です。


うんうん。悪い事、素直に反省出来るの、偉いと思う!



雑用で通っていた間に、お母ちゃんの「赤ちゃんはええぞ〜」洗脳を受けたらしいオリヴィエちゃんはレオン様に頼んでこの旅に同行。

その護衛で強制的にくっついてきたオックスさんもご一緒です。


ビラの事でよからぬ事を考える者がまた現れる可能性があるので、見知った人間、それもクルーレさんのチェックを通った限られたメンバーのみで旅立たねばならず、結局こうなりました。



誰に聞かれるか分からんので、お姫様や聖女、女神様って単語も禁止。

なので皆、名前で呼びあって女神様の事を「ティアラちゃん」と呼ぶことに。大事なお友達に付けてもらった、特別な名前なんだそうです。



へー。()()なー?誰かな?



そして、聖女と結婚したと世界で知られているクルーレさんも、今は目立つ黒髪を茶髪のカツラで変装。

……土魔法で髪色を変化させる方法もあるらしいけど、コントロールが難しいらしくクルーレさんには無理やったみたい。いつでも全力、危ないね!



私もお揃いの茶髪のカツラとお姉様のメイク術、あと三十路が着ないようなブリブリのワンピースドレスを着せられ……並ぶと、兄妹風に見える様に仕上げられたそうです。



…………しゅ、周囲の人には、ぽっちゃりした成人してない貴族の女の子に見え…………いや見えねぇよっ!無理あるわこのコスプレ!!!



「え、見えますよ?」

「この世界の人の目ぇ腐ってんのとちゃうんかな!!?なあ、お母ちゃんもそう思、」

「なぁなぁシャリちゃん。明日はこれ!ピンクのこれしよ!な!な!」

「宜しいですわよ?……なら、髪飾りはこちらになさいます?」

「うん!」

「聞けや!!!」

「……駄目よ、美津。いつも美智子、ああいう服で着せ替えしたいって言ってたもの。」

「そんなん美人のオリヴィエちゃんでやりぃや!」

「嫌よ!私もう成人してるのよっ!?」

「そんなんゆうたら私は三十路やん!」

「いいじゃない。見えないから。」

「なんで目ぇ腐ってる奴しかおらんのここ!!?」

「…………うるさくないのか、お前。」

「ふふふ。美津が可愛い。」

「聞いた俺が馬鹿だった。」




今日も馬車は、緊張感皆無な家族旅行らしい賑やかさで進みます。
















「…………呑気なもんだ。」



そう呟く、()()()()()()()()の若い男が様子を伺ってるのには、誰も気付かなかった。







[お姫様と赤毛騎士]



「…………。」

「あ、あの。オックス様?どうかなさいました?……もしかして、お口に合いませんでした?」

「あ、いえ滅相も!とても美味しいです!」

「……別に無理なさらなくても。」

「違いますよっ!ただ、……えっと。」

「?」

「……姫が、まだお小さい頃に、私の昇進祝いで下さった焼き菓子も美味かったなって、それを思い出しただけで……。」

「……まあ!そんな十年以上も前の事、まだ覚えてましたの?」

「…………はい。当時の俺には、勿体無いくらいでしたから。」

「???」




「あらあら。」

「頑張れ赤毛。」

「負けるな赤毛。」

「……なんで美津にまで応援されてるんですか。死にたいんですか。」

「だだだ黙れっ!あとお前は剣を抜くな馬鹿なのか!!?」




赤毛騎士、結構昔から恋心拗らせてた模様。

でもお姫様には、親戚のお兄さんとしか思われていない。


だって、お姫様の好みは黒騎士様みたいな細マッチョな美人顔。

赤毛騎士は、ゴリマッチョで強面な豪傑っぽい顔。


……頑張れ!( ̄▽ ̄)


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