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女神様の秘密


「絶対に、お母様と姉上から離れてはいけませんよ?」

「はい。」

「例え、リハビリ中に仲良くなったメイドや騎士相手でも、お母様達が居なければ、側に近寄っては駄目なんですよ?」

「……はい。」

「絶対に、一人になっては」

「あーあー分かったからはよ仕事行かんか!」


私は昨日と同じ台詞をしっかり三周分聞いてから、旦那様の背中を部屋から押し出した。


ガチャリと鍵を閉めた向こうで「美津ー酷いですー!」とか聞こえるけど。扉を蹴破るんかってくらいドカドカ音がするけど。無視無視。


「みっちゃん……。」

「美津様、流石にクルーレが哀れですわ。……本当に危険なのですから。ね?」

「……分かってますよ。」




私はもう何度も見た、A5サイズの白黒のビラを手に取った。




『我らの女神を取り戻せ!』


『マグマの業火に焼かれる、我らの女神を救え!』


『女神に招かれた異界の聖女を生贄に、』


『女神を復活させるのだ!!!』





このビラがミスティー・リアーズ両国でばら撒かれ始めたのは、三日前の夜。

女神様とお母ちゃんのおかげで鏡が繋がったのも、三日前の夜。



あの時。

女神様の異変の確認の為、シャリティアさんはレオン様と殿下の私室に魔法で手紙を送って……城内でも、限られた人しか私の側にいる妖精の正体を知らない。

だから執務室を集合場所にして、お姉様が向かっている途中の事。

通りがかった中庭で騎士達がざわめいているのに気付き、どうしたのか、と声を掛けようと中庭に出たら。



空から、数十枚のビラが雪の様に降ってきていたそうです。



後から分かった事ですが、城だけで無く近隣の町村にもばら撒かれていたらしいです。


内容は、先に挙げたようなものが書かれていて。


両国は、女神様が自らの意思で瘴気浄化の為に眠りについたと説明していました。

……でもこの文面を見たら、無理矢理マグマの中に女神様を閉じ込めてるって思っちゃいますよね?



なので次の日の朝。

ビラを見た女神信仰の代表である教会や市民から、訴えの書状が嵐の様にやって来た、と部屋に訪れたレオン様が言っていました。


心配していた女神様の本体を護衛していた騎士達は、気を失った状態で発見されたらしい。

女神様の本体は、自身で施した強力な結界の中に封印されていたので無傷。良かった!


……でも、良かったのはそれだけ。


気絶していた騎士達は、女神様の護衛とあって、両国合わせて十人程の手練れ。

相手は、救援の手紙を送る隙さえ与えずに数分で無力化した実力者。

しかも、単独犯の可能性が高い。



最初に不審者を見付けた騎士達が言うには、夜で暗かった事と相手が覆面姿だった為に顔も髪の色も見る事は叶わなかったらしい。


体格や声からして小柄(この世界の小柄やからどんなもんか不明)で細身、若い姿の男だろう、という事以外まだ分かっていない。

獣人だった場合、見た目の年齢は参考にならないから。



夜が明けての二日目。ミスティー国の各地でビラを確認され。


そして三日目、今日の朝にはついにリアーズ国内でも大量のビラが確認されたとピーター様からレオン様への報告があったそうです。


そんな訳で、私はクルーレさんから部屋から出る事、クルーレさんに許可された数少ない人物以外との接触を禁止されてしまいました。


食事も、部屋の備え付けキッチンで調理された物のみ。

食材は赤毛騎士とオリヴィエちゃんが変装して町の市場から調達してくれています。感謝!


「……私が人を八つ裂きにする所を見たいなら、別に部屋から出ても良いですよ?」

「絶対に、出ません!あほな事言ってないで、はよ仕事に行かんか!」



扉越しだと言うのに!何という恐怖の脅し文句!


ほんまに洒落ならん!私以外の他人の命、塵芥と思ってないかあのあほ旦那!!!(みっちゃん、大正解)



「…………くすん。」

「泣いてもあかんよ。女神様が正直に言わんから、そんな目に遭うんや。…………言う気になった?」

「…………ぅうゔっ。」


小さな両手で小さな口を自ら塞いで、これでもかと首を横に降る女神様と、呆れ顔のお母ちゃん。



私はこの二日、部屋から出してもらえなかった。



そして女神様も、クルーレさんがゴテゴテに強化した鳥籠に入れられ、しかも内側にも触れたらビリビリする罠結界まで施して完全に囲い、外に出られなくなってます。


どうやら、あの日女神様の本体に近寄ったいう人物は、女神様の昔からの知り合いらしい。

でも女神様は、誰だか決して言わない。


クルーレさんはこの女神様の様子とタイミングから、ビラをばら撒いた人物と本体に近寄った人物を同一人物、もしくはその協力者的存在と考えたらしい。


女神様が情報を提供するまで、私がおやつを与える事も、優しくする事も旦那様から禁止されました。


「女神様…………。」

「駄目ですわ。」

「で、でも。もう二日マトモなもの食べてないし!」


私がクッキー持って女神様へとにじり寄ろうとしたら、即座にお姉様に奪われてしまった。


「お母様の魔力補給と違って、女神にとっての食事は補給よりも嗜好品扱いですわ。……美津様の優しい気持ちが嬉しくて好んで口にしていただけで、食べなくても消滅などしません。却下ですわ!」

「……そうや。あんだけ美津に優しくしてもらっといて、隠し事するって常識無いんちゃう?考えられへん。」


可愛い顔に、、絶対零度な無表情を乗せてお母ちゃんは女神様を睨みつけてる。……こわい。


それでも女神様は、何も言わずに泣いて口を塞いでいた。……視線はクッキーに向いてるけど。



「…………だからやん。」



そうまでして、女神様が庇う存在。

前に女神様が教えてくれた、愛子(いとしご)って呼ばれる女神様のそっくりさんが、クルーレさん以外に居るって事ちゃうの?


……聖女召喚の為に黒髪・黒目の人物を王様達は世界中を探したはずやからって言われるやろうけど。

でもクルーレさんが見付かった後に産まれたって言うなら、話は別やん?


……あーでもそれなら、女神様が今までお城に留まり続けていた理由が微妙になる。


なんでもう一人には会いに行かないんかって事になるから、やっぱり可能性は低い、かな?


そんな風に皆でうんうん唸る中、私も引きこもっている間色々想像して、考えて。


そして一人、私がもしかしてって思い付いた人物が居る。

そしてその事に、私に触れていたのに……クルーレさんは、何も言わない。



何も言わずに、誰にも言わずに。

一人で色々と調べてるみたい。



「……女神様。言いたくないなら、名前は言わなくても良いよ。」


私はテーブルに置かれた鳥籠に、床に膝をついて女神様と目線を合わせた。


……女神様って根は純粋で素直やから、ちゃんと目を合わせて優しく聞けば、大抵教えてくれる。

出来るだけゆっくり、怯えない様に、早口にならんように。


「女神様に近寄った、昔からの知り合いって……………………クルーレさんの、血の繋がってる方のお父さん?」


私の問いかけに、お姉様とおかんは目を見開き、女神様は……視線を数分うろうろしてから、大人しく待っていた私の方に顔を向けて……言葉の代わりに小さく一度だけ、頷いてくれた。




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