人生初っぽい恋心
「貴女のその心が、世界の浄化に繋がるからですわ。」
「え?」
シャリティアさんは、教えてくれた。
世界の瘴気を浄化するには、この地をお造りになった女神の様に世界を愛さなければならない。
そもそも瘴気は魔法を使う事によって発生する負の成分で、魔法を使わなければ生活出来ないこの世界では必要悪らしい。
……排気ガスみたいなものと私は思えばいいのかな?
ヤバい。ガチの空気清浄機感出てきた。
つまり、仮に女神様が世界を想い魔法を使って瘴気を浄化しても、そのまま使った力の分、瘴気が出てしまう計算になる。
悩んだ末に見付けた方法が、異世界人に女神の魔法を使ってもらう事。
試しに連れて来た異世界人に女神の魔法を付加し、代わりに魔法を使ってもらった所成功したというのが聖女召喚の第一号らしい。
しかし女神の魔法を付加した時に想い、つまり世界に対する愛も付加されてしまい、一人めの聖女は心を病みすぐに亡くなったそうだ。
ただの人間では、女神の愛を理解することは出来ない。
でも人同士ならどうだろう。
この世界の人を愛してもらい、そして愛する人の世界を守るように考えてもらえれば。
どんな形ででも、異世界人に愛してさえもらえれば。
「…………なにそれ。」
女神様は言っていた。
私の旦那様を見繕うと。
成る程成る程、なんて事はない。
浄化に必要であったから、見繕うのだ。
私やその相手の人権は女神の中には無いのだ。世界の為には仕方ない犠牲扱い?何それ。
そして今回、私の伴侶に選ばれてしまったのは、きっと。
「………シャリティアさん。それは私の聞いて良い話では無いのでは?」
いや、どう考えても駄目だろう。
聞いた歴代の聖人、聖女様全員納得したとは思わない、絶対。
心情的に潔癖な人とかだったら一発アウトだと思う。
「ええ。この事は箝口令で口にする事を禁止されています。」
だったら、なんで?
「弟は関係ないからです。」
「っ!」
分かってる…………分かってるよ。シャリティアさん。
この話を聞いた瞬間に、私の無い頭でもちゃんと理解したよ。クルーレさんが優しくしてくれる理由。
「……か、勘違いなんて、してないですよ。私!」
「え?」
「なーんかベタベタ触られるし、ご飯はあーんしてくるし、手のひらや頭撫でられるし、二の腕もタプタプされていつのまにか添い寝まで……そりゃびっくりしたけどでもこんなふといの相手するの仕事でなけりゃしたくもないことだってちゃんとわかって」
「あああああああ違います違いますそうでは無いのです聖女様っていうか私に隠れて二の腕まであの子ったらいつのまに!!」
「だっ、だから勘違いなんって、わわたししてな」
「関係ないとは、そういう事ではないのです!聖女としての事情や、瘴気の問題など関係なく貴女様に接しているという事です!ああこんなにお泣きになられて……」
シャリティアさんの綺麗なハンカチで鼻をかんでしまうのは勘弁してほしい。マジ涙腺ゆるくなってるどうしよう。いい歳やなにホンマ情けない。
「ぅうゔ……」
「クルーレは魔力が強いというだけで本当に……本当に苦労と努力を重ねて騎士となりました。物腰は丁寧ですが、世の中を斜めに見て卑屈に心を歪める事も少なくありません。」
「そんなこと……」
「ええ。聖女様の前でその様な真似、弟は致しませんでした。いいえそれどころか、聖女様が現れてから卑屈に心を歪める事もなかったでしょう。……聖女様の隣で熟睡しているのも、今までのあの子ならあり得ない事なのです。私達家族と国王以外、敵だと思っているあの子が、他人の前で眠ることなど今まで無理だったのですよ?」
「…………。」
「私が禁を破りましたのは国に仕える者としてではなく、……あの子の姉としての願いです。あの子には敵が多い。歩ける様になりましたら、聖女様もこの城の中を移動する機会も増えます。きっと私が言わずとも、悪意ある誰かが貴女様にこの事を伝え、弟との仲を引き裂こうとするでしょう。………あの子の事、どう思って下さっていますか?」
きっと私の知ってる事はすごく少ないと思う。
嬉しそうに笑う顔。
びっくりした顔。
私をからかってちょっとご満悦の顔。
仕方なく差し出した二の腕タプタプを楽しんでた所。
王様叱る時専用の氷の微笑。
私がまた怪我しないか不安そうな顔。
私の手を握りながら、何かを確かめようとしてる所。
確かめ終わって、すごく安心したってふんわり笑う所。
ひとりぼっちになった私が淋しくない様に構ってくれてるのは、打算でしてるんじゃないって思って、いいよね?
「…………嫌いなわけ、ないじゃないですか……」
クルーレさんはお姉さんであるシャリティアさんにこんな心配されるくらい…苦しくて、悲しい事いっぱいされてきたんだ。
もし私と一緒にいて楽しいと、嬉しいと笑って……私みたいに悲しくて苦しいのがほんのちょっとでも遠のいてくれてるなら。その方が良い。
ホンマはくすぐったくて嫌やけど、二の腕もタプタプしてよいよ。
笑顔がとっても似合う黒騎士様が幸せだと笑えるなら、それで良い。
好きな人が嬉しいと、私も嬉しい。
…………結果的に女神様のゆうとおりってのが、めっちゃ癪にさわるんやけどな!!!
主人公は男兄弟の中でなんやかや可愛がられて来たので、実家にお金はないですが箱入り娘状態です。
なので新しく働く事になったパート仲間に、「同い年やのにいかついオバハンやなぁ」と思われたのが一ヶ月後には「また誰かに騙されていいように使われてないかな?困ってないかなこのお嬢ちゃん」に変わります。
考えてる事がほぼ顔に出るのが原因だと思われます。