新婚さんは前途多難
やっと始まりました。続編です。
暫くは週一投稿にお付き合い下さると嬉しいです。
そして初っ端からいきなり性的な表現あります。
そして黒騎士様が安定のヤンデルさんです。
それでも宜しければどうぞ。
皆様、お久しぶりです。
私、岡田美津と申します。
あ、現在は結婚して美津・スティーアになりました!
旦那様は、ミスティーのお城に勤めている騎士様で、皆に怖が……げふんげふん。一目置かれているクルーレさんです。
私の様なふとい女をお嫁にもらって下さり、また子供まで授かり。幸せいっぱいで、本当に、ありがたい事だらけなんです。
……ありがたいの、ですがね?
……実は私、今誰にも相談出来ない事があります。
一応、夫婦二人で相談して決めた事ではあります。
でも本当に、これで良いのかどうか分かりません。
……私にとっては、離婚も視野に入れての、大事な話だったのですが。
女神様の本体がマグマの中で眠る様に封印されてから、一ヶ月と少し。
私が異世界[ミスティリア]にやって来て、約四ヶ月となりました。
私は、この女神様事件の数日後から毎夜、クルーレさんのベットから逃げられないでいるのです。
「……余所事考える余裕、まだあるの?」
「っひん!ご、ごめんなしゃ、」
「……駄目。許さない。毎日は疲れるからって、美津の為に加減してあげてたのに、ひどいね?……もっとしようか。」
「!や、ややぁ。もぅむり!」
「ふふ、駄目。……私に可愛がられるの、嬉しいくせに………………嘘吐き。」
「あ、あう、ぅ、うそちゃう!うそ、ゆうてない、もん。」
「違うでしょ?本当は、なんて言いたいの?……その可愛い口で、正直に言えたら、また可愛がってあげる。……ね?」
「……………………………………ほんと?」
「うん。ほんと。」
「………………わたし、いがいの……、」
「……うん。」
「………………おんなのひとに、えっちいこと、し、しないでくださぃ……ひっく。わたしと、……えっち、できなくなっても……す、すてないで、くだしゃ、」
「捨てない。絶対に、私は美津を離さない。……子供が産まれて、美津が落ち着いたら、ちゃんと去勢しますから。そうしたら、美津の不安、無くなるでしょ?ね?……それまでは、もう少し私につき合って?」
「……ぐす。……うん。」
どうして、私が大好きなクルーレさんとの離婚を、……それ以前に、他の女の人に取られるなんて考えたのか。
クルーレさんが、去勢なんて怖い事、しようとしてるのか。
それは、一ヶ月前に遡ります。
妖精姿の女神様と共にミスティーのお城に戻って、数日後。
妊娠中であり、なおかつ瘴気回収が規格外扱いだった私の為に、健康診断をしてくれたんです。
その結果。
私は今後、如何なる理由があろうとも。
魔法の治癒が必要な大怪我を負ってはいけない、と初老の女性医師に診断されました。
理由は、……今の私には、魔力が無いから。
言語を司る女神様の魔法は、確かに私の身体に残っているけど、それも微々たるもの。
料理で火を使うことさえ、今の私は一人で出来ない。日常生活が送れない程魔力の無い私が、強い魔法で何かされた場合。
私の身体は魔法に耐えられなくて、肉は裂け骨は砕け……最悪、死んでしまう可能性が高い、とお医者様は言いました。
……軽い切り傷を癒す程度の治癒魔法は、問題無いらしい。
でも今後、私を治療する場合は薬品や医療器具を使った縫合によるものの方が、確実で安全らしい。
例えば、私が瀕死の重傷を負って、クルーレさんに治癒の魔法を掛けられたとしたら。
私の身体では、その治癒の魔法がとどめの一撃になってしまう。
……夜、魔力量が規格外のクルーレさんにベットに引きずり込まれても、私が平気だったのは……与えられた魔力を、お腹の我が子が自身の成長の為に取り込んでくれていたから。
……もし。私が妊娠していなかったら。
それを知った時のクルーレさんの取り乱し方は……怯え方は、半端では無かった。
お医者様の言葉に、私は隣に座って一緒に聞いていた旦那様を見上げた。
クルーレさんの顔は、青を通り越して真っ白になって、泣いていた。
大粒の涙を零しながら発狂したように泣き叫び、取り乱した魔力が膨れ上がって暴走しかけるのが分かった。
クルーレさん自身にも分かったらしく、私から素早く離れて、自身の両肩を抱きしめる様にして出来るだけ小さくなり、医務室の隅っこで蹲って動かなくなってしまった。
医務室全体がびりびりと震え、窓や棚のガラスにヒビが入り、お医者様だけでなく、おかんやお姉様、女神様もクルーレさんからの魔力のプレッシャーで動けなくなっていた。
……私、以外。
私は普通に椅子から立ち上がり、普通にクルーレさんに近寄り、……簡単に、上から覆いかぶさる様に抱きつく事が出来た。
ぶるぶる震えながら首を振り、離れて、と言外に伝えてくるけど。
「………………大丈夫。」
全然、平気だよ。
だってクルーレさん。私が怪我しないように、私の方に魔力が向かない様に、今もコントロールしてるでしょ?
私の事、ちゃんと守ってる。大事にしてくれてるよ。
ほら、今も私抱きついてるのに、全然ビリビリ来ないよ。痛くもないよ。皆苦しそうなのに、私は平気。
だから、私に触っても、大丈夫。
それに……私、今の話聞いて、ちょっと、怖かったんやなって。
……今、触ってくれないと。私も泣きそうなんやけどなぁ?
「…………ん。」
そうしてやっと、少し落ち着いて私に縋り付いてくれた旦那様。
私のお腹に顔を埋めて、安心した様にすりすりと甘えてくれるクルーレさんを見て……この時、私はこの人の妻として、子供を産んだら離婚した方が良いのでは、と考えてしまった。
びくり、と身体を一度震わせて目をこれでもかと見開いて、私を見つめるクルーレさん。
いやだって、夫婦の円満さには少なからずボディランゲージって必要だと思う。
お医者様の話が本当なら……赤ちゃんが産まれた後、私はきっと、奥さんらしい事が出来なくなる。
男の人は、その、定期的に発散させないと身体に悪いってどっかで聞いたし。
そういうお店があるのは、勿論知ってるけど。
……私がいつもされてた事、クルーレさんが他の女の人にするの、……すごい、嫌やもん。
私の旦那様やのに!って、絶対文句言って、……私、我慢、出来ひんもん。ぐすっ。
……そしたらクルーレさん、私の嫌がる事せえへんから。えっちい事、我慢しようとするやろ?
クルーレさんはひっつき虫やから……そんなん、我慢さしたら辛いやろ?クルーレさん、可哀想やん。
……私のせいで我慢させるの、ものすごい、嫌や。
それなら、私がクルーレさん諦める為にもすっぱりきっぱり別れて。
私以外の奥さん、迎えたほうが……クルーレさん、幸せなんちゃうかな?
家族にはあまり聞かせられない、私の気持ちを無言で伝えたら。
私に縋り付く腕が、ぎちり、と音がなるくらい強くなって、身体に痛みが走る。
「ふゔっ!」
呼吸が止まりそうなほど、骨が折れるんじゃないかと思うほどに、強い力で。
「…………わたしからにげないって、はなれないって、いま、ちかって。……でないと、こどもごとあなたをくいころして、わたしも、しにます」
耳を生やした、美しく、涙を流す私の旦那様。
……美しい、と呼べる顔やのに、どうしてかな?
今のクルーレさん、口から血を滴らせている肉食獣にしか見えない。
……私は青褪めた顔で「もう言いませんごめんなさい」と、素直に口にするしかありませんでした。




