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番外編[聖女と黒騎士のお散歩デート3]



魔力によって空気の振動が起こっている、と気付いた人達によって私とクルーレさん、そして猫耳お姉さん達を中心に、周囲から人々が距離を取り円形の空間が出来てしまった。


ああ。すっごい目立ってるよ。泣きたい。

ヘルプしたいけど、頼れるお姉様とおかんはお城の中。


ここには、私しか居ない。


……頑張れ、私!旦那様の癇癪を止めれずして、何が嫁か!!!(なんか違う)



「クル、…………いえ、()()()!そんな事で怒らず、もう行きましょ?ね?」


クルーレさんと組んだままだった腕に、ぐりぐりと自分の頭を擦り付ける。帽子が痛んじゃうかもだけど、気にしない!


今は緊急事態!!!


「!!!……あ、あな、た?」


良し、私に気が向いてくれた!


「そうですよ!私の()()()なんですから、どっこもおかしくないですよ!()()()って呼ぶの。……嬉しいでしょ?」


照れながら、確信してる事を小さくちらっと言っておく。

私は名前呼びが嬉しいので今のままが良いけど、クルーレさん、()()()()()()って言葉に憧れみたいなの、あるでしょ。知ってんだからね!


「ほら、()()()のお願い聞くのは()()()の甲斐性って言うし!行こうよ!」


腕を組んだまま、猫耳お姉さん達とは逆方向に進んで歩く。

もう、空気の振動は感じられない。


「…………はい、行きましょう。」


落ち着いてくれたクルーレさんに一安心して、そのまま歩きだした私達。


「えっちょっと待って、」

「馬鹿っ!やめときなって!()()()だから、あれ多分ハーフよ!番いがいるのにちょっかい出したら殺されるって!」

「えーでもー。」

「奥さんに感謝しないと。あの魔力、私達八つ裂きだったかも知んないのに!」

「むう、……分かってるわよ。」



後ろの怖い会話を、ちらっと聞きながらの逃走劇。


私良くやったよね!褒めてねお姉様!お母ちゃん!

私、一人で何とか出来たよ!



そして、歩き続ける事、たったの数分。



昼時の為、軽食を販売して賑わう露天が多く出店している区域にて。私は今、くじけそうです。



「こっちのお店美味しいんですよー!」

「ここの串焼きが絶品で!」

「ちょっと私が声かけてんの!邪魔しないで!」

「貴女こそっ、どきなさいよ!」

「妹さんは何が好きかしら?お姉さんが買ってあげるわよ?」

「「ちょっとそこ!抜け駆けしないで!」」



目の前で繰り広げられるリアルキャットファイト(猫の獣人だから)

しかも、今度は三人。増えるって何それ。


そんなか。私の旦那様はそんなにも魅力的か。

納得は出来るけど、そんなホイホイ獣人ばっか引っかからんでも良くないか!!?



「わ、私は妹じゃなくて!この人の妻で、っす!」


でも、ここで負けたらお姉さん達の命に関わる。

諦めたら駄目よっ、私!

私に何か買ってあげると言った、虎耳のお姉さんに必死な思いを伝えれば。

私を下から上にゆっくりと見て、それからクルーレさんの顔を見る虎耳のお姉さん。


不機嫌だけど、今はまだクルーレさん、怒ってない。

まだ耳ないから、我慢してるんだね。偉い!




すると虎耳のお姉さんはぷっと吹き出し、私の顔を見ながら、嘲笑(わら)った。




「妻?貴女が?……あははっ!どうしてそんな()()()()()事言うのかしら?」



私は、ぱっとクルーレさんの腕から離れた。

……不味い。不味い。私の馬鹿。見られた?


……心の中、見られた?


今、私……あんまりにも当たり前に否定されちゃったから、だから一瞬、本当にちょっとだけ、悲しいなぁって……今考えたらアウトな事……。


冷や汗ダラダラの状態で、自ら離れ、人一人分あけた場所に立つクルーレさんを見る。



「大丈夫ですよ、美津。すぐに()()を消しますから。安心してください。」


クルーレさんは耳が出た状態で、暗黒を背負って微笑み、虎耳お姉さんの首を右腕一本で持ち上げていた。お姉さん、顔色真っ青です。



私の顔色も真っ青ですよ!!!



「ゆ、ゆ、許してあげて!放してあげて!死んじゃいますってっ!?」

「……何故?私の妻の言葉を信じず、あまつさえ傷付けた。死ぬしか許される道は、コレには無い。」

「も、もう悲しくないです!だから、ねっ!手、放して?」



左腕に縋り付いてお願いする。飲みかけのカップが地面に落ちたが、構っている暇はない。

獣人は身体が丈夫だって言うけど、クルーレさんの馬鹿力で急所の首掴まれて、無事なわけない!



「お願いだから……ぐすっ。」



半泣きでくっ付いてると気付いたのだろう。

クルーレさんは慌てて引っ掴んでたお姉さんの首を手放して、両手で抱き締めながら私の頭に頬を寄せる。


麦わら帽子も足元にいつのまにか落ちていて、直接、柔らかい頬が頭にくっつく。……あったかい。

帽子が犠牲になっちゃったけど、許してシャリティアさん。



「ああ美津、泣かないで。……もうアレは居なくなりましたから。大丈夫ですから、ね?」


鼻をすすりながら、腕の中で身体を回転させ周囲を見れば、確かにお姉さん達は居なかった。



しかし、その代わりに。

露天商の皆様が、心配そうにこちらを見ていて、すごく、目が合います。でも合ったと思った途端、逸らされる。


……うん。お城でも、良く見られる光景。

クルーレさんに目を付けられたくないから、逸らすんですよね、皆。理解が早くて助かります。



「なあ、兄ちゃん。あんたハーフ?それか最近はあんま見ねぇけど、先祖返りってやつか?」



そんな中、上半身裸で串焼きを焼いているおじさんが、作業したままそう聞いてきた。勇者か。


「……何故聞くんですか、そんな事。」

「……いや、そんなすっげぇ殺気と魔力ばら撒いてんのに、耳しか出てねぇから。向かいの奴と俺も獣人のハーフでな。ほれ、しまってた羽がビックリしすぎて出ちまって、服がビリビリだよ。」


確かに、油とか、炭からの火の粉もあるだろうに上半身裸はおかしいと思ったけど。


露天の横から覗き込めば、下に布切れとなった服の残骸。

おじさんの背中からは、いかつい顔とは似合わない、真っ白の羽。鳥の獣人さんとの、ハーフ?


「……耳を出したままで居れば、良いんですよ。」

「え?」


串焼き屋の向かい、こちらは薄く焼いた生地に、カリカリに焼いた肉と、数種の野菜を煮込んだ具沢山のソースを巻いて食べるらしい。ご飯系のクレープやな。


声を掛けてくれた店主は穏やかそうなおじさんで、犬耳が生えている。パタパタ音がするから、尻尾もあるのかな?この人もハーフなんや。


「……あまり、貴方の周りにはちゃんとした獣人が居なかったのですね。可哀想に。苦労されたでしょう?」

「どうして!……、分かるんです?」

「……純血の獣人は、良くて自由人。悪く言えば傍若無人な性格の人が多いのは否定できませんからね。人の血が混ざった私達ハーフでもそういうのが居ますし……興奮しすぎると体毛が増えたり、肉球や、顔が獣そのものになったりと個人差も多いんです。」


私の父も中身も外見も面倒臭くて、とため息をつくクレープ屋のおじさん。……苦労、したんやねぇ。


「逆にハーフは普段、耳も尻尾も羽も出てない。興奮すると出ちまうのはどの種も一緒だが……あと、番いと一緒に居る時は耳とか羽を出しっぱにするってのが、獣人の血を引く者の常識だ。知らなかったんだろ、あんた。……あんまり親と仲良くないか、もしくは孤児かなんか、か?どっちにしろ、結構苦労したんだな。ほれ、これでも食っとけ。俺の奢り。嬢ちゃんも、ほれ。」


串焼きを笑顔で差し出すおじさんに、私は甘える事にして、受け取る。


「有難うございます。……むぐむぐ。うん、すっごい美味しい!貰っとこうよ、クルーレさん。」

「……はい。」


刺さっている豚と野菜をもぐもぐしながら、私は笑ってクルーレさんに串焼きを差し出した。


クルーレさんも頷いて、静かに、噛み締めながら食べていた。耳は、貰ったアドバイスに従って、出たまま。



人の気遣いと甘辛いタレのおかげで、二倍美味しいね。


お向かいのクレープも気になるので、一緒に食べて、また町をぶらぶらしましょうね。旦那様?


「……はい。」


手を繋いで串焼きを食べる私達を見て、笑うおじさん達。




本当に、有難うございます。




クレープまでしっかり頂いた後(こちらも奢ってくれた。感謝!)クルーレさんは露天のおじさん達に言われた通り、耳を出したまま町をぶらぶら。



すると、本当に声を掛けられなくなりました。



一瞬、クルーレさんの顔に反応する女性陣も、耳のある姿で私に触らせている、と知るや否やさっさと踵を返すのだ。


純血の獣人は耳が出たままなので、見分けが付くように、会話はするけど番い以外の女性には必要以上に触らない者が多数だと。確かに言っていたけど。

私が耳のあるクルーレさんにくっ付いてれば、声をかける女の人は居ない。


人と獣人の珍しいカップルだなぁ、と少し思われるだけみたい。良かった。



「……私、獣人の証のこの耳、嫌いだったんです。」

「……うん。知ってる。」



感謝していた、恩人であるお母さんを傷付けた、誰とも分からない父親との唯一の繋がり。


父親に似ていくと言われる姿の、獣人の象徴のような犬耳を、クルーレさんが好きな訳がなかった。



私は雑貨店と服屋さんの間に小道を見付けて、そこにクルーレさんを押し込んで、私も入り込む。


「クルーレさん、しゃがんで?」

「……はい。」


片膝ついて、クルーレさんの顔は私の胸くらいの高さ。

私はずっと触りたくて、今まで気を使って出来なかった犬耳の生えた頭を、思いっきり撫でた。


子供の事を伝えた時も耳を出して泣いていたけど、……気を遣って、あまり触らないようにしていたから。今やっと解禁。


大きくピンと立った犬耳。クルーレさんは擽ったそうにするけど、嫌がらないで、私のされるがまま。


耳の触り心地は、動物好きの私からしたら最高です。髪と同じで、耳の毛もさらりと滑らか。キューティクル、大事。


……犬は犬でも大型の、それこそ狼とかの獣人さんかも知んないね。……もしそうなら、ちょっと嬉しいかな。



「私の生まれた国にも昔は狼がいてね。他の動物って結構、番い相手が死んじゃったり、子作り終わったらバイバイしちゃって、結構取っ替え引っ替えなのもおるみたいやけど……狼は生涯に、番い相手だけなんやって。一途やねんて!」



クルーレさんと、一緒やね。

私だけ好きって、一番愛してるって言ってくれる。そんなクルーレさんと、一緒。


……嫌がらなくて、ええのに。


自分の事、嫌いにならんでも、ええのに。


実力は最強で、なのに意外に泣き虫で、怖がりで、甘えん坊な。


私の可愛い、旦那様になってんから!



「私、一緒に居るから。ずっとずっと、出来るだけ長生きして、側に居る。……だから、クルーレさんがおじいちゃんで、私がおばあちゃんになっちゃう頃でもいいからさ、いつか好きになってね?」



私が大好きなクルーレさんを、クルーレさん本人も好きになってね?


それまでは私と、今はお腹の中にいる赤ちゃんや、お母ちゃんやシャリティアさんが、皆が代わりに、クルーレさんを大好きでいるから。



生えた耳を撫でながら、私は旦那様の頭を抱き締める。

静かに涙が流れていくのが、落ち着くまで。



私に縋る腕が嬉しくて、愛しくて。



「美津……美津、それでも、私……っ!」



……うん。

無理しなくていい。ゆっくりでいいよ。



私、待ってる。

ずっとずっと、待ってる。



結婚って終わりじゃなくて、始まりらしいから。

だから、大丈夫。






それからも、ぶらぶらと目的もなく歩いて。


お店を覗きながら、あーでもないこーでもないとくだらない事で笑って。


お母ちゃんご要望のお土産を仕入れてから、私達の初デートは終了した。


お城に着いたのは、夕食まであと少しと言う時間。早めに帰ろうと言っていたのに、思ったより遅くなってしまった。



「ただーいまー!」

「あっ!おかえりーどうやったデート!?」

「うん!楽しかったよー!ね!」

「はい。本当に、……本当に楽しい一日でした。」



お土産に、露天商のおじさん達オススメの、シャリシャリの砂糖がごっつ甘い小さな菓子パンを買って帰ると、お母ちゃんは飛び上がって喜んだ。


いや、実際に私の頭の上で高速旋回し始めてんけど。

クルーレさんの鼻先、無くなるんじゃってくらいの速さやねんけど。


お母ちゃん、病気になる前は焼いたトーストにバターと砂糖かけたシュガートースト、好きやったもんね。


お店で味見させてくれたけど、ほんまに、ごっつ甘いから沢山は食べれない。でもこの一口大の大きさ一個だけやと、ただただ幸せ感じるだけっていう優れたおやつ。


リアーズの女性陣に今、人気やねんて。

例え砂糖の塊でも、一個だけやったら、罪悪感少ないもんね。気持ち分かる!



そして、食べるならご飯食べてから、とお姉様に怒られるお母ちゃんの顔、おもろい。


くすくす笑いながら、私は先にお風呂やなーと行こうとすれば、 ……あれ?


「クルーレさん?」


何故か離れない、繋がれたままの、手。

瞳を潤ませながら私を見つめるクルーレさん。


…………あれ?まさか?



「姉上。私と美津の食事は、明日の朝で大丈夫です。」

「「「えっ!」」」


ひょい、と重いはずの私を抱き上げたクルーレさん。


「………ん。明日で、大丈夫ですよね?」

「……………………ふぁ、い。」


しっかりがっつり口に吸い付かれた後のメロメロな私に、抵抗する術など無かった。



――――――――――――――――――――――






ふと、意識が浮上した。



私は目蓋を無理に押し上げ、ベットの中、腕の中にいるはずの美津を確認する。……良かった。ちゃんと居る。



美津はまだ眠っていて、その目元には、涙の跡がある。

……起きない様にそっと、目蓋をペロリと舐めてみれば。

しょっぱい筈なのに、どことなく、甘い味がする。



「…………嬉しい、な。」



この数日の間、美津の頭の中は、私の事でいっぱいだ。


私の事が好きで、大好きで、ずっと一緒にいたい、と。


…………私が、獣人の血を引いていて、良かったって。嬉しいって。



なのに。



「……忘れ、たくない。」



何もしなければ。


今日の、この幸せな記憶まで、無くなる。




……そんな事、絶対に、認めない。


美津の頬を撫でると、気持ちいいのか私の手に擦り寄ってくる。私だけじゃなく、美津も私に腕を回すようにくっ付いてきて……可愛い。



「…………私の番いだから、美津も、私だけですよね?」



狼の番いは生涯、一人だけですものね?


例え一人、残されても。

一生、その狼だけのモノ。



なら貴女は一生、私だけの、愛しい人だ。



「美津。……愛してます、ずっと。死んだ後も、貴女だけですから。」



だから貴女も、一生、私だけを愛していて。



口に一度だけ吸い付いて、しっかりと腕に美津を抱き込んでから、……少し思い直して、頭の位置を少しずらし、眠りについた。


美津の心臓の音が、よく聞こえるように。





今夜もまた、私は良い夢が見れそうだ。






これにてデート話は終了しました。



本編で、みっちゃんが自殺しようとした黒騎士様に怒り狂った理由は沢山あります。

しかし最たるものは、ずっと待ってると言ったみっちゃんを無視して、一人置いて待ちぼうけ喰らわせようとしたのが大きな理由です。


一生懸命、精一杯の愛情を込めて伝えた言葉を無視された事が、みっちゃんには耐えられない程の苦痛で、絶望だったんです。



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