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番外編[聖女と黒騎士のお散歩デート2]



お母ちゃんの「お昼食いっぱぐれるでー?」の声に、状況を理解した私達二人はあたふたしながらも腕を組んだまま、早歩きで城門を突破した。



兵士さんの顔が真っ赤だったのは暑さのせいだと、思いたい。ぐすん。



城門から町までは、馬車で行くと十分。歩きだと三十分くらいの距離らしい。


せっかくだからお散歩……健全な運動もしたいと言う私の言葉に、クルーレさんは笑って頷いてくれた。


歩道と馬車用の道は、ちゃんと線で区別出来るようになっていて、人も馬もドラゴンも歩きやすく走りやすく整備されている。こちらも国の違いを感じてしまう。

ミスティーは城周辺は道の整備が行き届いてたけど、途中からでこぼこ道も結構あった。何度かお尻が痛くなって、それを知ったクルーレさんは、余計に私を膝の上に乗せてくれていたのだ。

今だって、クルーレさんとは足の長さ、つまり歩幅が全然違う。にも関わらず、私は全くしんどくない。


……私の旦那様、やっぱ優しい!


「……私が、出来るだけ貴女に触っていたいと考えたからでも?」

「それでも私が嬉しかったのは事実なんで、細かい事は気にしなーい!」


腕に頬をくっつけ笑いながら上を向けば、桃色ほっぺのままなクルーレさんが居る。可愛い。


「……麗しいや美しいは良く言われてましたが、可愛いと言うのはきっと美津だけですよ。」

「あははっ!」


照れてる顔は確かに美人さんやけど、絶対可愛いが勝つよ!


「……美津の方が、可愛いですよ?」


クルーレさんは見ていた私の口に、ちう、と一度吸い付いてからそんな事を言う。……心臓、痛い。


「ほら、可愛い。ね?」


またまた何も言えなくなった私が下を向き、無言で歩き続けていれば頭上で楽しげな笑い声があがる。


しばらく歩いて、でも性懲りも無く笑顔が見たいと私が見上げれば、今度は顎をクイっとされて、帽子に隠れていた耳に吸い付き甘噛みまでされた。


「ひぅ!」


ぃいいきなり何すんの!?

思わず腕を振りほどいて耳を庇う。顔はタコのままです。

何ゆえベットの中でいつもする事、お外でするのかな!!?

恥ずいからやめてって言うてるのに!!!



「ふふ、ごめんなさい。でもほら、着きましたよ?」

「へ?」


そう言われてちゃんと前を見れば、いつのまにか目の前には頑丈そうな石造りの壁。そこに馬車が二つ並んでも入れそうな大きな門があった。


町に入る人をチェックする門番さん二人が、ぺこりとこちらを見てお辞儀してくれました。



赤い、顔のまま。



「先に言わんかいこのセクハラあほ旦那!!!」

「ははっ、ごめんなさ、いた、痛いですよ美津っ。」

「嘘つけ痛ないやろ!頑丈さが取り柄やろあほっ、ほんまあんたあほやろマジで!!?」

「も、ふふっ、ごめんなさぃ。あははっ!」



背中をばっしばっしと叩いても、涙流しながら笑い続けるクルーレさん。いや今のどこがツボったん!?


門番さんの「どうか中で、町の中でお願いします」の言葉に従い、私はタコの赤さのままぺこぺこ頭を下げ、クルーレさんはまだ笑ってるので手を握り引きずる様にして門を通過した。



「……俺もう家に帰りたい。嫁もふりたい。」

「……俺も。彼女の羽根の手入れして、癒されたい。」



虎と鷹の獣人でもある門番の二人は、そんな会話をしながらも、交代まで警備を怠らなかった。




――――――――――――――――――――――




この町は、私がテレビで見たことのあるヨーロッパの町並みに近いと思う。


住居はほぼレンガ造りの三角屋根で、町の雰囲気を損なわない程度に形も均一に建てられてる。


外見は確かに代わり映えしない家ばかり。

だけど、表札の代わりに玄関口を彩った花や、木や、雑貨でその家の個性が出てる。手作りなのか魔法での加工品なのかは分からないけど、でかさはクルーレさん並みの木彫りちっくな置物が置いてある家もある。

……日本でもまだ、時々見るよね。狸の置物。あれにそっくり。洋風ちっくにワインの瓶担いでるけど、顔は狸。

うん。存在感あるよ。素敵と思う。今は、近所の子供達の足腰鍛えるアスレチック器具になってるみたいやけど。



町並みを楽しんだ後に、ここに来るまでに叫びすぎで酷使した喉に飲み物を、とクルーレさんにお願いして、食事処やお買い物客で賑わう商業区域に連れて行ってもらった。


お金の数え方は、ミスティー国を旅した時に教えてもらったので、大丈夫。


ミスティリアでは銅ミル、銀ミル、金ミルと呼ばれる三種類の硬貨を通貨としている。

銅ミル一枚でお茶か、ノーマルなコッペパンが一つ買えるので、百円くらいなのかな。


銅ミル十枚で銀ミル一枚。約千円。


銀ミル十枚で金ミル一枚。約一万円。


物価が日本と変わらないみたいで助かった。うん。



買ってもらった桃の味がする水を飲みながら、私は小さい子供のようにきょろきょろと忙しなく首を動かす。


商業区域は大通りを挟むように飲食店、商店、露天が綺麗に並んでいて、その人混みもすごく多い。


城が近いのもあってこの町はそれなりに大きいみたいで、昼食の為にここに来た人や買い物に来た人でごった返している。

……梅田か、ここ(関西の主要駅の一つ)



はぐれない様にクルーレさんの腕にしがみ付いて、ストローをちうちう吸いながら甘い水を飲む。

あーうまー生き返るー。


「あーすっとした!クルーレさんも飲む?」


大きいサイズを買ってくれたので(銅ミル二枚)まだ半分以上残ってる。ひょいと持ち上げクルーレさんの顔に近付ける。


「………………ぁむ。」


一拍おいてからストロー咥えてちゅーっと吸うクルーレさん。

ほっぺがいきなり林檎になったよ。何それ可愛い。


私に色々セクハラ紛い(紛いちゃう。完全なるセクハラや/byおかん)の事する癖に、まわし飲みに照れるとは。


旦那様の照れる基準が分からん。


「……私も、美津と同じでデートした事ないんですから。何がどうって、分かりませんよ。」


照れて拗ねながら、カップを押し戻す旦那様。

ふむ、成る程。私らはどちらも初心者ですものね。

なら、しゃーない。


「だったら、一緒に色々やろうや!失敗もきっと楽しいって!クルーレさんは?何したい?先にご飯か、後にご飯かだけでもきめ、」

「「あのー!!!」」


私の背中側からの大声に、ビビリの私はしっかりと、クルーレさんの腕にしがみ付く。



…………これは、あれや。


おかんとお姉様が一番心配していた、デート中に起こる確率が、一番高い事件案件では?



「お兄さん、今からお昼ですか?」

()()()が居ても構わないんで、私達も一緒に連れてって下さいよ!」

「…………。」



髪色と同じ、それぞれが茶と金の猫耳の生えたナイスバディな二人組が、クルーレさんに話しかけている。……い、妹。確かに同じ黒髪やから、私この世界の人の基準で見たら小さいから。



だから、しゃーないんです。


しゃーないんですよ、クルーレさん。



「お兄さん本当にかっこいい〜!黒髪って事はお城勤めですよね?()()()も自慢でしょ?」

「見ない顔だから、ミスティーから旅行かなんか?オススメの肉料理出すお店があるんです!行きましょうよ!」



茶髪のお姉さんがクルーレさんの腕に触れようとして、その次の瞬間顔色を変えて飛び退いた。

金髪のお姉さんも、顔を蒼褪めながらゆっくり後ずさっている。



流石、猫の獣人。飛び上がり方が野生的です。



ビリビリとした空気が伝播する様に周囲に広がっているのが分かる。何人かが異常を察知して周囲を見回している。バレるのも時間の問題やな。



「ふふ…………妹。……私の、妻なのに……妹。」



クルーレさんが独り言を口にしだした。あーこれやばいなー。


以前、ミスティーでの旅の途中でも、クルーレさんはこんな感じになっていた。

私達の婚約を、周囲の人達に信じてもらえない事に、とてもとてもショックを受けていた。



こんなに大事に、愛を込めて接しているのに。周囲には伝わっていない、という事実。



獣人は個人差は勿論あるけれど、独占欲が強い傾向にあるらしい。これが私の愛する人、と周囲にアピールして顕示欲を満たす、もしくは牽制して手出しされない様にする獣人が少なくない、とお姉様は言っていた。



だから。

クルーレさんは今とてもショックを受けていて、……キレてるのです。



『美津様に掛かっています。主に人命が。』

『みっちゃんがしっかりせな!命大事に!!!』



はい、お姉様。お母ちゃん。

私、頑張る。



猫耳お姉さん達の命を助ける為に、きゃっきゃうふふな楽しいデートを、血みどろスプラッタ悪魔の行進にしない為に!



私、頑張る!






頑張れみっちゃん。


負けるなみっちゃん。


血染めの死神が召喚されるか否かは、君の手腕にかかってる!

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