番外編[拷問姫の憂鬱]
番外編三つ目、ミスティー国の王女様のおはなしです。まあタイトル見たら分かりますかね(笑)
三つに分けたので、先ずはこれ。
姫が帰ってくるまでの説明になります。
宜しかったらどうぞ。
お城の中は、私が中心で回っていた。
「姫は今日もお美しい」
「本日はこちらのドレスに致しましょう」
「堅物で有名な黒騎士様も、姫には微笑みかけてますもの。羨ましいですわ」
当然だった。
私は、この国の王妃の娘。王女なのだから!
私に好かれて、可愛がられて嫌がるなんて罰当たりなんだから!
なのに、どうして?
「どうして留学なんてっ!?」
「甘えず自分で考えろ。……いや、お前を甘やかし過ぎた私と父上を、恨みたかったらそうしろ。だがそのせいで、この国の損害になる行いを見逃す訳にはいかない。」
「そ、損害なんて!私何もしてませんわ!?」
「っシャリティア殿がクルーレを説得せねば、あいつは城を飛び出すか、……周囲の者を皆殺しにしたかもしれないんだぞ!?お前は、人を学ばなければならない。だかそれは、此処では駄目だ。」
お兄様によく分からない話をされた次の日、私はリアーズ国への軟禁生活を余儀なくされた。
決まりかけていたクルーレ様との婚約もうやむやになってしまって。
私は放心状態のまま、ドラゴンにくくりつけられた。
リアーズ国王女、ミッシェルと私は気が合わなかった。
メイドや騎士を、父親であるピーター国王を共に支え、働く同僚だと言って分け隔てなく接する姿を見ると、違和感しかない。
彼らは私達の世話を至上の喜びとしている者たち。可愛がってやるべき存在であって、対等などではないわ。
そう口にすれば眉間にしわを寄せ数時間のお説教。しかも部屋にはちゃんと椅子があるのに座ることも許されず、いつも立ったままで!
足のむくみが取れなくなるじゃない!
一体なんなの、もう!!!
毎日机に向かって読書、書き取り、読書、書き取り、読書。つまらない繰り返しの日々。
気分転換をしようにも、いつ見ているのか、良いところでミッシェルが邪魔しにくる。
ムカムカとモヤモヤが溜まっていく……。
こんな生活が数年。
私は今年、二十歳になる。
ミスティー国でもリアーズ国でも、王族が二十歳になると成人の儀を行う。必然的に国に帰ることが出来る。
これでやっと、息苦しい生活も終わる。
愛しい愛しい黒騎士様に、クルーレ様に会える!
微笑みを崩さず、模擬戦相手を叩きのめす凛々しくも麗しい姿が目に浮かぶ。
そんな方が、私に可愛がられて、その目に涙を浮かべる姿を想像して心が満たされる。
結局一度も閨を共に出来なかったから、帰ったら今度こそ誘ってしまおう。きっと楽しい夜になる。
そんな私の耳に、聖女召喚の知らせが届いた。
本来ならリアーズ国で行われる儀式だか、今回は魔力の多いクルーレ様が居るミスティー国で行われるらしい。
そんな、儀式に不慣れな国でしなくても……クルーレ様がこっちに来たら良いだけなのに、何故?
「来たくなかったからでしょうね。」
ミッシェルが意味深に私を見るが、意味が分からないわ。
何その目。まるで私のせいみたいじゃない!
そんな中でも時は過ぎて、私の帰る日が近づいている。ああ、クルーレ様は今日もお元気かしら?
聖女召喚の知らせがあってしばらくして、お兄様がリアーズに来た。
数年会わなかったのに、何も変わらない。
お父様のせいでお疲れ気味な表情も、昔のままだわ。
「お久しぶりですお兄様!私のお迎えに?」
「……元気そうだなオリヴィエ。少し前からリアーズには来ていたんだが、仕事で顔を見せるのが遅くなった。聖女の事は知っているだろう?」
「ええ。お怪我をなさっていたそうですが、どうなのです?」
リアーズで学ぶ中で、召喚された人が怪我してるなんて話、習わなかったのに。
「!………まぁ、なんとかなった。ク……シャリティア殿のおかげだ。骨折など傷が塞がれば、あとは失った血液を補うために食事をして安静にして、」
「クルーレ様は?どうしてます?」
お兄様の悪い癖だわ。長くなりそうな話を強引に切って、一番聞きたかった事を私は伝えた。
お兄様の眉間に皺が寄っているが、気にしてなんかいられない。
「………今お前は、聖女の話をしていなかったか?」
「もう分かりましたから、結構です。死んでいなければ浄化して下さるでしょうし、寝たきりでも構いませんもの。それよりクルーレ様は?」
婚約話がうやむやになり、結果的に待たせてしまっている私を、クルーレ様は怒っていないでしょうか?
「っ………お前は、この数年何をしていた?」
「ちゃんと勉強していました!本もたくさん読んで、ミッシェルに怒られながらもちゃんと!それで、クルーレ様はどうです?私を恋しがって下さってますか?ミッシェルに手紙を送る事さえ禁じられて、私はもう心配で。」
ほんの少しでいい。クルーレ様の近況を聞きたい!
「………お前は、何も学ばなかったようだな。」
「え?いえですから、」
「もういい。何も言うな。………クルーレに申し訳ない事をした。本当に。今、改めて実感した。俺の妹は想像以上に愚かだった、と。」
「お、お兄様?」
いきなり、何を?
「……成人の儀で帰ってこれると思っているようだから言っておくが、儀式が終わればお前はまた、リアーズ国に戻るからそのつもりでいろ。」
「どどうして!?お兄様待って下さい!!!」
「話は終わりだ。クルーレの事も諦めろ。あいつは…………今、聖女様に夢中なんだ。邪魔するだけ、無駄だ。」
「はあっ!?ちょっ、お兄様待って!お兄様ー!?」
お兄様は私の声が届いているのに。
一度も振り返らずに、部屋を出て、鍵まで閉められてしまった。
どうしてですか、クルーレ様。
聖女に夢中って、どうして?
私との婚約は、あの微笑みは、嘘だったと?
両国の問題である、瘴気浄化に必要な準備を進める城の中。
私は見回りの隙を見てドラゴンに跨り、ミスティー国を目指した。幼い頃、お兄様に教えられた事が役立つなんて。複雑だわ。
勿論、先に魔法でミスティーに手紙を送ってからの出発。
昔から可愛がっていた馴染みの騎士に、クルーレ様に急遽城に戻る知らせを送るように、と。
浄化の為に各地を馬車でまわっているのは、聞いていたから。
そして、私は知ったのだ。
聖女と婚約した、と。
クルーレ様の口から、直接。
妖精の魔法で前後の記憶はあやふやだったけれど。
治癒され目覚めてすぐに、姿の見えない二人を探して走り、追いすがってくるお兄様とお父様も振り払って、クルーレ様の自室前から離れなかった。
「おや、知りませんでしたか。私は姫が嫌いです。とても醜いですから。」
そんな言葉、知りたくなかった。




