女神様
皆、私が落ち着くのを待ってから、瘴気の浄化を行うことにした。
と言っても、瘴気を取り込んだ水晶玉をマグマへと投げ入れる簡単なお仕事なのですが。
「これで、終わり?」
「……そうですよね、女神。」
「そう。これで、…………終わりよ。早く帰りなさい。」
「うん!ありがとう女神様。……そうや、バタバタしてておとんとか助けてくれたお礼言ってなかった。そっちもありがとうね!鏡の腕輪も、今も付けてるんですよ!!!」
いつおとんの方と繋がってもいい様に、左手首に付けたままにしている。
………そういえばもうあれから一ヶ月以上過ぎてる、よな?そろそろ繋がるかもっ!結婚と子供の事言ってあげな!
「またお城に来たら、今度こそクッキーあげますね!泣くほど不味くも上手くもないふつーのやつで良ければやけど!」
「貴女のくれるものは、多分私には美味しいわ……………でも必要ない。私は、もうお城には行かない。誰にも会わない。」
「え?なんで?」
女神様はクルーレさんに似た顔を泣きそうに歪め、私を見つめた。
「私は瘴気を浄化しないといけない。」
「え、燃やす作業そんなに大変?」
「いいえ?作業は簡単に済む。問題はこれからの瘴気の事。」
「これからの?」
「余計な事を話すな!」
クルーレさんが突然、怒気も露わに私と女神様の間に入ってくる。え、何?
「大事な事よ。それに、もう彼女は聖女ではない。瘴気と共に私の魔力も回収されたから、部品にはなれないわ。」
「は!?ちょ、ちょい待ってよう分からん。部品ってすごいなんか怖い単語使ってるけど?わ、私?」
私って部品やったん!?
「彼女は、美津は何処にもやりませんっ、絶対に!!!」
クルーレさんだけじゃなく、シャリティアさんも王太子殿下も私をかばう様に前に出る。
おかんは私の頭上で浮かびながら、バチバチと激しい音を立てて電気を纏ってる。……で、電気の色が黒く見えるの気のせいかな!?すっごい毒々しくて黒通り越して闇色やねんけど!!!
「だから、もう彼女は部品にはならないわ。………なるのは、私。」
「「「「「え?」」」」」
全員が、女神様に目を向ける。
女神は微笑んでいた。少し、淋しそうに。
「私自身を部品としたら、今の私自身の人格は消えるの。植物、水、風、大地。全てが私になるけど……でもそこに、私の感情や意思は存在しない。私の人格、個性は無いの。でも、私は………損するものなのよね?」
女神様は私を、……ううん。私の頭上にいるおかんに目を向けて言っている様だった。
「私は、私の世界を愛しているわ。その気持ちに嘘はない。でも、浄化の方法を知ってるのに何もしなかったのは……私が、消えたくなかったから。私の心が無くなるのが、嫌だったから。……全部、私自身の為だった。」
女神様はさっきの私みたいに祈る様に胸の前で手を組みながら。
その目に涙を浮かべ、それでも見たことのある顔で微笑んでいた。
いつか見た、泣き笑いの顔。
嫌われるのが淋しくて、悲しくて、でもそれはしょうがないんだと。
諦めて笑うクルーレさんと、同じ顔。
「今更だけど………世界が生きているなら……私一人の損は当たり前なのよね?」
「…………そうやな。お母ちゃんはそんなもんや。」
おかんの言葉に女神様は頷いて、ふよふよと私達の頭上に浮かびながら火口の真上にまで移動して、私達に手を振った。
「さぁ、早く帰りなさい。私の可愛い世界。今日から、貴方達が瘴気によって害される事は無いわ。」
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私達はドラゴン達の待つ開けた場所まで戻って来た。
あとはこのまま城に帰るだけ。それだけやけど。
皆の表情は複雑だった。だって、素直に喜べない。
「う、ひっく。」
「……美津。そんなに泣かないで。」
「だ、だって。女神様、淋しそうやった。人格無くなるって、忘れるって事やろ?クルーレさんさっきまで忘れるってなってて、あれと一緒なんやろ?そんなん怖いに決まってるやん!」
「………それは、」
「いや。これが一番自然な事なんだろう。この世界の問題を異世界の住人に頼る事自体、本来ならおかしいんだ。……聖女が気にする事ではない。」
「そうですわ。さぁ、お顔をこちらに。」
「…………………………………。」
「ぐす。ん?お母ちゃん?」
シャリティアさんに顔を拭かれながら、お母ちゃんが先程まで女神様と話していた場所を見ている。
おかんが気になり後ろを見ながらのよそ見歩きをした結果。
私は、足元のへこみに気付かずこけた。
クルーレさんのナイスフォローで顔面擦り剥けは未遂ですみましたが。
「大丈夫ですかっ?」
「へ、平気!………あ、お母ちゃん!こんなとこでもビリビリしたん?焦げた穴出来てるやんか!」
「え?………あー、そう言えば女神様に一発お見舞いしたなぁ。」
「え!いつの間にっ!?」
「いや、まぁ色々あっ……………………………あーーーーーっ!!!」
「ど、どしたんいきなり!?」
お母ちゃんがいきなり叫び、クルーレさんの頭上で高速で旋回しはじめた。いやマジ何事!?
「クルちゃんクルちゃんクルちゃん!分身!女神様、分身!!!」
「え………………………………あっ!!!」
おかんとクルーレさんがマッハで火口に駆け上り、待つ事約三十分。
様子を見に行こうとした私達に、火口から降りてくる人影が見えました。
クルーレさん一人。
そして、妖精さん二人が帰ってきました。
感情・記憶だけを取り出して妖精型の分身体に保護し、女神としての能力を本体の人型と共に浄化に使われるようにしたそうです。
マグマの中なのにまるで眠る様に横たわっている女神様を確認して。瘴気の流れが正しく動いている事も確認して。
魔法で出来る事はとてもとても少なくなるらしいけど。
女神様は人格が無くなる事も、一人ぼっちにもならなくて良いみたいです。
「………クルーレは、私が居ない方が……、」
「美津が泣いて暮らすより苦痛な事など私には無い。……私の妻と、お母様に感謝するんだな。」
「……………わたし、ぐすっ。」
「あーもー!泣かんでええねん!お腹減ってるから暗くなんねん!私のマドレーヌ分けたるよ、ほれ口開け!」
「あが、むぐむぐ……………甘くて美味しい…ぐすん。」
「マドレーヌやねんから甘いに決まってるやろ!ええい泣くのはもうええねん!!!」
「………ふふっ。もう仲直りしとる。」
それじゃ、皆で仲良くお城に帰りましょうか。女神様。
お母ちゃんの普段の装いは、
自身の魔力で作られた黄色のワンピース(色は変更不可、デザイン変更可能)、
自身の魔力で作った買い物カバン風のショルダーバッグ(お姉様&聖女作のミニミニおやつ入)です。
生前、病気になってからカロリー制限されて好きな食事もおやつも食べれなかったお母様を知っている聖女様。
お母様に食べたいと言われたら、お菓子もおかずもお姉様と一緒にせっせと作ります。知らない料理は教えてもらいながらになるので、元々普通に出来ていた料理スキルが現在右肩上がり中。
黒騎士様とお母様は胃袋がっつり掴まれてます。
そんなこんなで、明日最終話です。




