驚愕の事実
次の日の朝。
私とクルーレさんは手を繋いで部屋から出て、母とシャリティアさんと合流してからレオン様と王太子殿下に女神の山へ向かう話をした。
リアーズ国にも魔法で手紙を出してもらい、王族として見届ける役目はミスティー国の王太子殿下に任せる、と返事をされたそうだ。
儀式で使う道具は現地で部下から貰ってほしいって……ピーター様どうしたのかな?来ないなんて。
……も、もしかして。私を探してる時、クルーレさんとおかんがなんか壊したりしたんかな。後始末えらい事になってるんじゃ……落ち着いたら、謝罪に行こう。うん。
そんなこんなで、午前中には城を出発出来るが本当に良いのか、と王太子殿下に確認されたけど。
クルーレさんを見る。
微笑んだまま、私を見下ろしてる。……うん。
「大丈夫です。これが最後じゃないから!」
私は笑ったまま、そう言えた。
労わるように少しだけ強くなった繋いだ手が、嬉しくて、でも悲しくて、少し淋しかった。
ああダメダメダメ!マイナス思考ダメ絶対!
「…………。」
皆と共に様子を見ていた小さな女神様も、何か考える様な表情のまま、私達と山に向かった。
女神の山には、昼過ぎに到着した。
ドラゴンの降りられる場所は広場の様になってはいるが、岩山なだけあってゴツゴツしてる。
それでも座れないことはない。
これから大仕事になるだろうと、腹が減っては戦はできぬという観点で私とおかんで作ってきたおにぎりを食べてから浄化作業に入ることに。
「はい。女神様もおかんと一緒で食べれるやろ?これお食べ。」
「えっ!?それ私の分!」
「おかんは私の分あげるから。流石に緊張して量食べれんもん。ほれほれ半分に割ったるよどれにする?」
「…………シャケのやつ!昆布じゃなくてシャケ!」
「はいはい。」
おかん用に作った小さいおにぎりを女神様に渡してから、私は自分のを半分にしておかんと一緒に食べた。
女神様は少しぼんやりしてから、ゆっくりとした動作で渡した小さなおにぎりをもぐもぐし始めてた。
そして、食べながら泣きはじめた。いやなんでや。
「えっまさか泣くほどおにぎり嫌いやったん!?」
「多分違いますわ。」
(もぐもぐ)
「色々自分のした事とか考えてるんだろう。」
(もぐもぐ)
「ふん!自業自得や。」
(もぐもぐ)
「……だから言ったでしょう?優しくされたら分かるって。」
(もぐもぐ)
口をそれぞれ動かしながらそんなこと言う皆様。おい。
「いや皆めっちゃ他人事でおにぎり貪っとるし!少しは気にして!?」
「気にしなくて良いです。お母様の言う通り自業自得ですから。」
「クルーレさんの笑顔がこわいです!」
「うふふふふ。そうでしょう?なら私の機嫌がこれ以上悪くなる前にこの話を終える事をお勧めします。」
「わたしおとなしくおにぎりたべます」
(もぐもぐ)
ううう。クルーレさんの恐怖政治に負けてもうた。
いや、まあ。そりゃあ女神様のノロイのせいでややこしい事にはなったけど。それとこれとは別というか。
女神様も皆、っていうかこの世界の人達を助けたくて、瘴気を何とかしたくて頑張っただけやし。
結果的に私らが大変になっちゃってるけど、そんな言ったったらかわいそ、あ、いたいいだいいだいクルーレさん頭撫でる手!力すっごい入ってる頭蓋骨ミシミシしてる痛いですごめんなさい無心でおにぎり咀嚼しますから!マジ勘弁首もげる頭砕ける!!!
「貴女って人は………まったく。」
私がクルーレさんの監視の下おにぎりを食べ終わるまで、女神様も食べながら泣いていた。
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食後の一服も終わり。
先頭が女神様、次に王太子殿下。その後ろにシャリティアさんと、その肩に座ったおかん。
私はクルーレさんに手を繋いでもらって、道なりに進む。
目的地の火口はすぐ見えた。
「落ちたら溶けそう……。」
十メートル以上の距離があるせいなのか、思ったよりもマグマの熱風がこちらに来ない。遠目でも分かるくらいマグマがボコボコと湧き出てる。
それでは、と私がその場に膝を付いたのを見て、クルーレさんと王太子殿下が周りに水晶玉を並べる。
ピーター様に瘴気の確認をされた時に持たされた物と大きさが一緒で、数が六個。
私の前にいた妖精姿の女神様の姿がブレて、瞬きした次の瞬間にはナイスバディな神々しい姿に変化した。
「へ!?」
てか顔。顔がクルーレさん。綺麗なおめめも一緒ですね。なにそれ。え?
やばいつまり女装したらクルーレさん女神様なれるって事で?あれ???
私が混乱している間に(皆スルーって知ってたの?)瘴気は無事に水晶玉に移された様だ。美しく透明だったのが、今はもう真っ黒。
「クルーレ。前に。」
「…………。」
クルーレさんが無言で私の前に立つ。
あ、そっか。もう私の事、忘れちゃうんや。
「美津。」
名前を呼ばれる。私は膝をついたまま、頭をあげてクルーレさんを見上げる。
「貴女が私を信じてくれた。なら、私達はこれからも大丈夫ですよ。」
……うん。私は大丈夫。
だってクルーレさんが笑ってる。自分だって怖いと思ってるだろうに、私が不安にならない様に笑ってくれてる。
それだけで、私も頑張れるよ。
「うん。クルーレさん、また後でね!」
「…はい、また。」
クルーレさんは正面の神々しい女神様に相対し、手を差し出した。
ああ、これで。
そして私が力一杯目をつぶって祈るポーズで待っている事数十秒。
「…………………………記憶、消さなくてもいいの。」
「「「「は?」」」」
「…………………………ふえ?」
女神様の言葉に、全員が注目した。
「呪いはきっかけに過ぎないから、それだけ消しても記憶も想いも消えないわ。………今までの愛子は聖女たちを嫌っていたから。ほら、嫌いな人に好かれるのは気持ち悪いし辛いでしょ?だからいつも一緒に消していただけで、無理に消さなくても問題ないの。」
「何故、今まで黙っていた。」
「………………ちゃんと、自分の目で見て、聞いて、確かめたかったの。どんな子なのかって。」
「そうですか。それで?」
「私は女神だから、お供えされたのが食べ物の時は、供えてくれた人の気持ちで味が変わるの。………………おにぎり、甘くて優しい味で、美味しかったわ。」
「…………そうですか。」
「おい。それならクルーレは、」
「美津様の事、忘れなくて良いのですわね!?」
「……ええ。呪いはもう取り除いたから。聖女の寿命も削らないし、何も変わらないわ。」
「みっちゃん!ぼけっとせんと!クルちゃん忘れんでええねんて!!」
「ふえ?え?」
「………美津。」
クルーレさんが私の方を向いて、両腕を広げる。
目に涙を浮かべて。嬉しそうに、顔をくしゃりと崩して笑っている。
私を見て、また笑ってくれてる!!!
「く、く、ぐるーれざあああああぁん!!!」
「ふはっ、凄い顔になってますよ美津。可愛いからいいですけど。」
「ぞんなんゆうのくるーれざんだけやぁ!」
「そうですね。私以外が言おうものなら痛めつけて締め上げて後悔させますから。問題ないですね!」
「いづものごあいくるーれさんやぁ!!!」
「うん。思ってない。俺は思ってないから疑いの目で見るなクルーレ!!!」
「それはそれでむかつきます。美津はこんなに可愛いのに。」
「理不尽すぎるだろお前っ!」
頭におかんを乗せたまま、私は溢れる涙も鼻水もそのままにクルーレさんに抱きついて。
私はしばらく、喜びで泣きわめいた。




