新しい約束
ほんの少し性的な表現があります。
だいぶぼかしてますが腹立たしい事この上ないです。
それでも宜しければどうぞ。
『………私の話を、お母様から聞かされた時の記憶を取り出したのに。何故目覚めない。魔法での治癒もまだ効果が無いぞ?』
『うっうっうっ………剣向けないでぇ私のせいじゃないわよ……この子が勝手に思い出したからよぅ。』
『………幼い頃の事か?』
『くすん。…そうよ。彼女のトラウマ。幼い頃の負の感情そのもの。……大人になってから子供時代の記憶を取り出すのって力技だから、無理しちゃうと人格形成に影響でて性格変わっちゃったり最悪廃人になるかもしんない。』
『思い出すきっかけを作ったのはお前だ。どうにかしろ!』
『ぅううこわい………なら、記憶を書き換えたらいいわよぅ。』
『どうやって。』
『うゔぅクルーレが冷たい。…えっと、えっと……さっき取り出した聖女の負の感情が詰まったこの水晶を、一粒でいいから飲み込んで。これは彼女の一部だから、飲み込んだまま聖女と接触してくれれば私が二人を同調させられる。彼女の記憶に貴方は入り込めるから、そこで少しだけ出来事を変えて、事実として上書きするの。』
『………他の水晶は?』
『瘴気も多量に含まれてるし、私の山で火口に放り込めば浄化出来るわ。』
『………全部です。』
『?』
『全部、飲みます。その水晶を下さい。』
『えっ!?』
『彼女の気持ちが消されるなんて、そんなの私が許しません。』
『クルーレ貴方…………っ瘴気を取り込み過ぎたら身体も弱るし、寿命も縮むってピーターも言ってたでしょ!?そうじゃなくても、こんな強い感情取り込んだら貴方の心までおかしくなるかもしれないのに!』
『……私は獣人の血が濃い為、普通の人より長生きで身体も丈夫なんだと思ってましたが………違う。女神の愛子だからなんでしょう?」
『!ど、どうして知ってるの!?』
『ああ、やっぱりそうなんですね。カマかけただけです。』
『!!?』
『流石の私も、女神の心は覗けないようなので。……ただの人間に近付くだけです。この身体が、彼女と同じ時間を生きられるなら問題ありません。』
『クルーレ……………………そんなに、あのこがいいの?』
『ええ。女神は上辺だけの情報でしか人を判断出来ない様なので、分からないでしょうね?』
『ぅうゔ…………………分からない。』
『きっと、目覚めた彼女に優しくされてら分かるでしょう。さあ、さっさと渡しなさい。』
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美津の結晶を飲み込み、すぐに意識が遠のいたのがわかる。
……ふと気付けば目を開けていて、私は公園に立っていた。
ジャングルジムと呼ばれる、鉄の棒を組み合わせて出来た遊具。
ブランコと呼ばれる、座れる振り子のような遊具。
いくつかの丸太で出来た足場と小さな砂場。
子供が十人も遊べば少し窮屈に感じるかもしれない位の広さの公園だった。
公園を囲むように、大きな集団住居が三つ並んでいた。
その一つと公園を繋いでいる、木々がアーチ状になっている道がある。
大人では服が葉っぱだらけになるだろう細い道は、子供が公園への近道として使っているのだろう。
その道から出てきた、女の子。
赤とピンクのワンピースに、黒い動物の人形を持った女の子。以前彼女の夢で見た、幼い頃の美津だ。
美津は周囲を見回してから、道から出ようとした。その時だ。
「みっちゃん」
男の声が、聞こえた。
薄汚れ、清潔とは言えない服。風呂にも入っていないのだろう事は分かる。
だが、その男に顔はない。子供が落書きで白く塗り潰したように私には見えた。
……これは、彼女が記憶していない、という事か。
だが、声だけはしっかり聞こえる。私も、聞き覚えがある声だ。
彼女の夢で聞いた声だ。
「みっちゃん、おいで」
男は美津に手を伸ばす。あの時の夢と同じ様に。
このまま、男はひとけの無い所に美津を連れていき。
そして、彼女の顔を欲望で汚すのだ。
「誰が許すか!羨ましい!!!」
(あんたしばくぞごらぁ!!!byお母様)
どこからか聞こえた声を無視して、私は美津を飛び越え男を蹴り飛ばし踏みつけた。そして背後できょとんとしている幼い美津を見て、私は微笑んだ。
男は踏みつけたままで。
幼い美津は男を見て、それから私を見て頬を真っ赤にした。……どうしよう。食べたいくらい可愛い。
………変態の行為は絶対に許さないが、美津が可愛いのは認める。本当に。舐め…撫で回したい。連れて帰りたい。
……ああ違う。目的を忘れてはいけない。
「駄目でしょう?名前を呼ばれても、知らない人には近寄っては行けません。」
「あぅ、ごめんなさぃ……お兄ちゃん、だあれ?びじんさんやねぇ!」
初対面の私にもまったく警戒心を抱いていないこの様子に、私は苦笑してしまう。
「ふふふっ、有難うございます。私は………将来の、貴女の旦那様ですよ。」
「だんなさま?」
「はい。美津のお母様と、お父様見たいな家族になるんです。……私のお嫁さんは嫌ですか?」
「……………ううん!なる!わたし、びじんさんのおよめさんなる!」
「ありがとうございます。じゃあ、これは約束の印です。」
私は抱き上げた美津の頬に触れるだけのキスをして。
彼女は恥ずかしそうな、でも嬉しそうな声で笑ってくれた。
…この夢から覚めても、彼女は笑ってくれるだろうか。
そこまで考えて、私の意識はプツリと途切れた。
次に目を開ければ、目の前に顔を真っ赤にしたお母様が居た。
「覚悟は出来てるな、バカ息子や。」
バチバチと黒い雷を放電しているお母様。
どうやら私は寝言として、色々口に出していたようです。
ベットの上、美津の眠る隣(防音の魔法かけてる)で説教を聞きながら、それでも上手くいった事を喜ぶお母様を見て私も安堵した。
本来なら。
汚れを拭ってやる事なく放置され泣き喚く美津を近所の大人達が見付け、保護はされる。
だが周囲は彼女を哀れに思うどころか知らなかった住人にも面白おかしく吹聴し、知識も何も知らぬ自身の子供にもそれとなく伝え皆で、美津を見ては嘲笑うようになり、……彼女達家族は慣れ親しんだ家を引っ越した。
当時、金銭に余裕のなかった彼女達はこの日より苦労が増えたようだった。
そして美津は無意識に大人の男を怖がる様になっていた。忘れていても心の奥でトラウマになっていたのだろう。
成長しても恋の一つ出来ない美津を、お母様は哀れに思い、それは大事に、大層可愛がった。
……お母様は、これからも一人で生きていくだろう美津の面倒を一生見るつもりでいた。
しかし自身が病に倒れ、逆に美津に面倒を見てもらって。
それどころか想像よりも早くに亡くなってしまって。
お母様はずっと悔やんでいた。
今回の事で、お母様の心が少しでも軽くなったなら。
笑っている私を見て反省が足りないと雷を落とそうとするお母様を、美津が驚いてしまうのと流石の私も命の危険を感じたのでなだめるのに苦労した。




