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空気清浄機


黒い妖精さんが残酷な事を口にします。

しかし今、彼女に悪気はありません。


それでも宜しければどうぞ。



「部品てなんや!人の娘捕まえて何言うてんの!?クルちゃんこんなんほっといて、さっさとみっちゃん迎えに行こっ、場所は分かってんから!!!」

「ええ、そうですね。」

「え!待って待って!これから大事な話になるのよ!もう少し聞いてよ!」

「「うるさい邪魔!!!」」

「いやん冷たい!」


黒い妖精を取り敢えず無視した私達は、ピーター様に事情を話しドラゴンを借りて女神の山に向かうことにした。


ピーター様は突然の事と女神を名乗る黒い妖精に半信半疑になりながら、それでも私の願いを聞き入れ、数人の兵と姉上(説明の途中で何度も頭を叩かれた。魔力で強化していてそれなりに痛い)と共に女神の山を目指してくれた。


この向かう途中、黒い妖精は私達と共に行動し、そして話し続けた。

その言葉はけして大きな声ではなかったが聞こえ、まるで頭に直接語りかけている様だった。




「あの子の愛情はとってもとっても強くて、今まで呼んできたのとは全然種類が違っていたの。そのおかげなのかは分からないけど、瘴気の回収がクルーレと仲良くなる度に強く、早くなったわ。」


「今もね、自分を置いて死のうとしたクルーレを嫌いになれなくて、愛したまま。あの状態で今も瘴気を取り込んでるのよ、凄いでしょ?」


「それでね?今のあの子は罪悪感でいっぱいなの。」


「自分の悲しみの為に子供まで道連れに死のうとして、申し訳なくて仕方がないの。」


「今も言ってる。ごめんなさい、許して、赤ちゃんに私はなんて事、ごめんなさい、クルーレさん嫌いにならないで、って。」


「だから言ってあげたの。許されたいなら一生をクルーレの為に、世界の為に祈りなさいって!」


「彼女ならクルーレへの想いがある限り、何処に居たって瘴気を取り込めるわ。私の山は丁度、世界の中心。彼女が山に、()()()()()()()()()()瘴気を取り込みながら浄化もスムーズに行われる!」


「子供を殺そうとした人とはクルーレも共に生きたくはないでしょう?お腹の子供はまだ命の光が灯っただけで、肉体がしっかりある訳ではないから私の魔法で取り出せるから安心して?あ、クルーレの(まじな)いを解いて、クルーレの新しい奥さんの身体に宿してあげる!私の加護があるから無事に産まれるわ!」


「それでね?いつまでも祈れるように、あの子は死ぬ事の出来ない身体にいじっていくの。まあ私ってうっかりが多いから、慌てたりして()()()()が壊れない様にゆっくり変えていくから安心して!時間をかけちゃうとマグマの中だから、すこーし熱いかもだけど。でも先に、大事な身体が燃えないようにはするから安心して!」


「ほら!これからの瘴気は彼女がどんどん取り込んでいくわ!マグマの中で一緒に浄化もしてくれて、彼女の世界ではこういうの一石二鳥って言うんでしょう?」


「これでやっと、私の愛する世界(こどもたち)が瘴気から救われるわ!」






そんな事を、耳を塞ぐことが出来ない私達は、聞いていた。




――――――――――――――――――――――




女神の山、火口近くにあるドラゴンが降りられるひらけた場所に降りた私が最初に口にした言葉は、お母様と同じでした。


「「お前は死ね」」


私は魔力で強化した剣で。お母様は手加減なしの()()()で。


私が黒い妖精を真っ二つに。

そのあとの雷で、黒い妖精は黒焦げになって地に落ちた。





「「酷い。母親にこの仕打ちは酷いわよ?」」





二つに分かれた筈の黒い妖精は、一瞬後には()()()()()()()に変化した。


………ちっ、分身体では意味が無い。本体を殺しましょう、お母様。

私が目を向ければお母様にも伝わって、大きく頷いてくれた。


「もう遅いわ。」


見上げた空の一部が歪んだと思った次の瞬間に現れゆっくり降りてきたのは、姿絵に描かれていた女神そのものだった。




黒く波打つ美しい髪。


黒に赤を落とした蘇芳色の瞳。


私と、同じ顔。


女神は慈愛のこもった眼差しで、私を見る。

……ああ、虫唾が走る。


私から彼女を、美津を奪っていったくせに。



耳が出たままの私は剣先を女神に向け、睨みつける。殺意を込めて。



「美津を返してください。」

「彼女はすでにマグマの中。誰も触れられないわ。」

「私の妻だ。返せ!!!」


私の怒鳴り声に少し悩んだ女神は、しかしすぐに笑顔で答えた。


「ああ!結婚の誓いを気にしてるの?大丈夫。貴方は忘れてしまうのに、私があんな誓い許すわけがないでしょう?無効に決まってるわ。」

「そんな、結婚まで無かったことになさるの!?」

「当たり前よ。聖女は()()に居ないと駄目なんだから!」



姉上の言葉にも笑顔で答える女神。


平然と。

私のはじめての、唯一だった幸福を、奪っていく。


美津の誓いの言葉に嘘偽りはなく。

只々。

私の幸福が自分にとっても幸福なのだと、心から望んだからこその言葉だったのに!




「っ!私は、彼女以外選ばない!私の理想は彼女だけだ!」


あんなにも私に尽くそうと、愛してくれた美津以外の女なんか要るものか!!!




「そんな事ない。あの子でなくても、ほら、ピーターの娘はどう?彼に似て聡明で美しく、貴方の能力にも理解があるわ。貴方の子どもを産むに相応しい姫よ?」


女神は微笑みながら私に近寄るが、私が剣に力を込めるのを見て悲しげに諦めた。



……この反応。私は本当に[女神の愛子(いとしご)]らしい。

女神にとって私は、特に可愛く溺愛する子供。

所有物だとでも思っているのだろう。

……自分の好き勝手出来る存在だと勘違いしているのだろう。


そのくせ私に好かれたいと思っている、と。


ふふふ。面白い。

何が面白いって。



「…好みじゃない。」



ピーター様の一人娘、ミッシェル様は確かに美しいのだろう。

こげ茶の髪に青い瞳。きりりとした目元に小さな口。

オリヴィエ様の様な媚びた表情などせず、凛とした才女と呼ばれるに相応しい振る舞いをなさる方。好感は持てる。

しかし………あの細い身体では、私が抱き締めると骨を折ってしまいそうだ。



「私の母親気取りなのに、女神は何も分かっていない。」

「わ、私は貴方のことなら産まれてから何でも知っているわ!勿論、成長した今の貴方の事だって!」


慌てる様に両手を振り否定する。

動きが稚拙で、成る程確かに()()()()な性格だ。分かり易すぎる。


「では、私の女性の好みのタイプは?」

「そんなの、知ってるわよ。私は貴方の母親も同然なんだから!貴方の好みは、貴方の能力を知っても受け入れてくれる心優しい娘よ?」

「三十点!!!」


私の代わりに、今まで黙っていたお母様が答えてくれた。


……美津の元に一人で飛んで行こうとするのを姉上が引き止めてくれていた様だ。

今は姉上の側を離れて、私の肩の近くに浮いている。


「ええ。そうですね。今のはそのくらいの点数が妥当です。」

「どうして!?」

「ふん!そんなんも分からんってあんた、クルちゃんのお母ちゃん名乗るの百万年早いわ!!!」

「な、なによ!なら貴女は分かるっていうの?」

「余裕やな!!!何せ私は、クルちゃんの義理のお母ちゃんやからな!!!」

「お母様………っ!」


わざわざ私と女神の間に移動したお母様は、胸を張って言い切ってくれた。その後ろ姿に今にも私は泣きそうです。


「いいか、よう聞け!クルちゃんの好みはなぁ!」


小さな体に似合わない大声を出しながら、お母様は私を指差して、言った。











「イチャイチャした時に噛み付いて、首とか太ももとか綺麗に歯型が残る肉付きがいいぽっちゃりした身体で、ベロベロ舐め回すのが心地よいツルスベなもち肌で、ちょっと弱いところつついただけでひんひん鳴くような敏感さで、トドメに声フェチなクルちゃんのどストライクな可愛い声持ってるちょっとマゾっ気がある私の娘しか居らんのやこのアホ女神が!!!」




女神、姉上、ピーター様、その護衛の騎士数人が固まって石になったのが、見ていて分かった。


しかし、いや。

流石お母様です。良く見てますね。


私が、美津で一番気に入っているのが声だって知ってるなんて。誰にも言っていなかったのに。



「はい、それで百点です。」

「でも次美津あんな風に泣かしたらなんでか出た黒いビリビリの刑やからな!」

「気を付けます。」


私は真顔でお母様に答えてから、その後女神を睨みつけ、鼻で笑ってやった。


「ほら、何も分かってない。」


女神は私に嫌われたと思い顔色を真っ青に染めていた。知るか。


達成感に満たされているお母様を頭に乗せて。

私は固まったままの女神も姉上達も放置して。

スタスタと軽い足取りで火口に向かい次第に走って、走って。


その勢いのまま火口に飛び込んだ。



「「クルーレっ!!!」」


女神と姉上の悲鳴が聞こえる。


女神はどうでも良いが、姉上。私は大丈夫ですよ。





ただ、夫婦喧嘩して飛び出した帰ってこない妻を。

義理の母について来てもらって迎えに行くだけ。


それだけの話に、してみせますから。





今回。

妖精さんによってバラされた性癖、声フェチ。

笑い声も好きですが、特に泣き声(鳴き声)が好きというオマケが付きます。ああ、彼は救いようがありません(汗)


匂いや声で相性の良い相手を探すのは獣人特有のもの。興奮すると耳が出てしまう黒騎士様は、声に敏感なのでした。


黒騎士様の場合はもう一つ。抱き締めるのも優先順位が高いです。


幼少期から聖女様と出逢うまで全力で誰かに甘えた事が無い黒騎士様。

子供が当たり前に親からしてもらえる抱っこも、その能力ゆえ経験がほぼありません。


子供が力の限り親に抱きつく。当たり前の愛情表現さえ出来なかった黒騎士様は、聖女様を相手に実行中。


顔や体格(太りやすいとか)は母親に似た聖女様は唯一、骨太な所が父親似。


お父ちゃんは八人兄弟の末っ子。実家と親戚揃って安産型の家系。島っ子は頑丈が取り柄です!(偏見)


多少、力を込めても首が無事なら聖女様は平気なのでした(笑)



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