諸悪の根源
ほんの少し性的な接触を匂わす表現があります。
あと聖女様が少し口汚く罵る表現があったり、暴力的表現などがちょいちょい含まれます。
モラル的にどうなのそれ?な表現もあります。
聖女様は役割を与えられて『聖女』をしているだけで、ちょっと鈍感な所があるだけの特別でも何でもない普通の女性です。
黒騎士様のおかげで少しマシになりましたが、自分に自信もありません。
世に言う完璧な人物ではなく、失敗も間違いもしてしまうということを念頭において読んでやってください。
「美津、ごめんなさい。私が全部悪いです。謝ります。何度でも、それこそ一生でも謝ります。少しだけ、私の話を聞いてください。」
「いやや、やあや、ぅうゔっ、ひぐ、触んなあっ!」
うずくまり咽び泣く彼女を抱き締める。
暴れようとするが、その腕を押さえつけながら片手で顔を上げさせる。
涙や鼻水でどろどろの顔に、どれだけ彼女を傷つけたのか。
そんな彼女の汚れた目元を私は、べろりと舐めた。
うん、しょっぱい。
「ひんっ!?」
驚いてくれたおかげで涙は止まったようだ。良かった。
私はそのままおでこ、頬、鼻、顎と顔中をべろべろ舐めまわして綺麗にしていく。
閨では顔どころか色々と舐めていたので慣れたものだ。
………お母様が邪魔しない様、口を押さえながら遠い目をして見守ってくれているのが心に刺さるけれど。
今度、雷のお仕置きを甘んじて受けよう。
「きた、きたなっぷ!汚いやめろや!!!」
「美津に汚い所はありません。」
「っ呼ぶな!あんたなんかにっ名前呼ばれたないっ!どけ!離れろボケが!!!」
ばちっと頬を叩かれ顔を押しのけられる。
……叩かれた私よりも美津の方が痛そうなのが、辛い。
「美津………。」
「あんたなんか知らん!…殺したろか思たけど、自殺志願者やもんな!私が手ぇ汚す必要無いもん!勝手にどこぞで死にさらせ!!!」
「…………………………。」
「私かて、勝手する。あんたのお願いなんか聞いたらんっ!さっさと死ね!どっか行け!!!そしたら、そしたらっ、」
「私の後を、追うのですか?」
「!!!」
身体を震わせて、唇を噛みしめる姿が痛々しい。
私が触れているのだから、バレないわけが無いのに。
『悲しい』『淋しい』『好きなのに』『大好きなのに』
『笑顔の下で死ぬこと考えてた』
『私を置いて』『子供を置いて』
『ずっと一緒は嘘だった』
『私の誓いを無視した』『私の想いを無視した』
『許さない』『許さない』『許さない』
『……………わたしをおいていくなら、あなたがいちばん、いやがることをしてやる』
『あなたがいなくなるなら、そばにいないなら、こどもといっしょに、』
美津の真っ黒な瞳から、大粒の涙が溢れる。
怯えて逃れようと身をよじるけれど、私の方がずっと力が強いから無意味だ。
「みっちゃん、あんた………。」
「………貴女との約束を破ろうとした私への嫌がらせで、子供と一緒に死ぬんですか?」
「…………っう、ぅああああ、あああぁあああああああんっ!ああああああああああっ!!!」
私の腕の中で泣き叫びながら頭を抱えて小さくなろうとする美津を見ながら、どれほど傷つけ絶望させたのか思い知る。
それでも。手酷く裏切ろうとした私の事を嫌えない貴女が、こんなにも愛おしい。
自分の歪み具合に驚く。
私は、今までよりもずっとずっと、今の貴女が好きだと思っている。
「美津、聞いて。私は、」
「はい。ストップ♡」
「え、」
ぱちん、と。
まるで灯りを灯すスイッチを押した時のかるい音が響いて。
腕の中の美津が、消えた。
「………………み、つ?美津!!?」
「みっちゃん!嘘、どこいったんこれ、魔法?なんの魔法なんよ!?」
「まさか……転移、魔法?そんな、あれは召喚魔法のような大掛かりな仕掛けが必要で!こんな何も無い場所で出来るわけがない!!!」
「出来るわよ?」
後ろからの声に私とお母様が同時に振り返れば、そこには妖精がいた。
黒い服の妖精が居た。
どうして今まで気付かなかったのか。
この妖精はお母様よりもずっと強く、濃い魔力を持っているのに!
私は剣を抜いて、黒い妖精に突き付けた。
「美津は、私の妻は何処だ。」
「聞いてどうするの?」
「連れ戻す。私は彼女に、言わなければならない事がある。何処にいる、知っているのだろう言え!!!」
「私の山に居るわよ?」
「お前の山?何処の住処だ!?」
「………違う、女神の山や!クルちゃん、この妖精女神様の声とおんなじや!!!」
「は、女神?この妖精が!?」
「間違いない!私に鏡の事教えてくれた声と同じや!!!」
黒い妖精はにっこり笑いながらぱちぱちと拍手をしていた。
「正解!まぁ正確には私は分身体で、本体は聖女と一緒に山に居るわ。」
自称女神の黒い妖精は、嬉しそうに、楽しそうに私に話しかける。とても、気安い雰囲気で。
「………何故、突然美津を連れて行った。わざわざ浄化の為に迎えに来たとでも言うのか?」
「いえね?貴方が良い感じに聖女を壊してくれたから、部品として使えるのはあのタイミングがちょうど良かったの!」
私とお母様は固まった。
………部品?
今、この黒い妖精は彼女を部品と言ったのか?
「そう。とっても優秀で、これから壊れにくくなる部品。これでこの世界は救われるわ!」
黒い妖精はそう言って、晴れ晴れとした笑顔を私達に向けた。




