聖女と美人の結婚式
聖女様視点になります。
何考えて言ってるのかな黒騎士様?と思いながら読んでやってください。
それから早かった。
私を抱き上げたクルーレさんは執務室で仕事中のピーター様に、今すぐ結婚式をするので準備して下さいとほぼ殴り込みで訴え。
ピーター様も何故か拒絶もなく二つ返事でオッケーし。
ならレオン様達にも知らせをとシャリティアさんが泣きながら手紙を風の魔法で送った。
クルーレさんとシャリティアさんの実家であるスティーアさん家は、お父さんが足を悪くしていて高速移動出来るドラゴンでの飛行が難しいと返事が来たそうです。
何日も前から分かってたら馬車で来れたのに、とも書かれていて……お兄さんもお父さん置いていけない、とお返事されたらしくシャリティアさんがしょんぼりしてました。
……う、うん。お手紙からもしょんぼりした空気を感じる。すっげー哀愁漂うお手紙って分かる。
なんか所々濡れて乾いたようなシワがあって涙なのかと私は疑ってます。……良かったクルーレさん、ちゃんと愛されてるよ!
色々片付いたら、皆で里帰りしましょう。
だからしょんぼりせんと、そん時紹介してよお姉様!
とまあ、そんなこんなあったのが昨日の話。
そして次の日、本日正午。挙式です。
「いや早すぎじゃね?」
「皆ノリノリやもんなー。」
「………お母ちゃんもね。まだかな?」
「ヴェールは大事やろ!?」
「くっ付いてたら多分何とかなるよー?」
「あかんの!化粧はシャリちゃんにしてもらったけど、細かいのは私がしたいの!」
「はーい。」
ふよふよと浮かびながら最終チェックをするおかんの姿を、シャリティアさんと二人で微笑みながら見ていた。
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ミスティリアでは結婚式に決まったドレスや色はない。
皆好きな色、もしくは相手の髪や瞳の色で選ぶそうです。
それなら私の場合は黒とか暗めの赤色になるのですけれど。
……憧れていた訳ではないけれど。
着るんだったら、やっぱり白いドレス着たいじゃん?
シャリティアさんに色について困惑されたので説明すれば、大喜びで城中のメイドに伝達。
お招きする方達にも伝えて、クルーレさんと真逆の色のドレスを着る事を周知してくれた。
これから結婚式では白が流行るな、と。
メイドさん達の反応に私とおかんは思いました。
『私はあなたの色に染まります♡』なんて。
皆も乙女チックやね。いやぁ私もか。照れる。
ドレスの方も、私が体型を気にしているのを知っているおかん監修のもと、シャリティアさんが高級そうな布でしゃしゃっと。
……いや本当にしゃしゃっと魔法で造って下さいました。魔法ってすごい。
首元がVの形で、飾りはなく胸元スッキリ。スカート部分も身体のラインが分かりづらい、絵本の中のプリンセスみたいなフンワリ具合で花をモチーフにした飾りやレースで可愛い。
染めたことの無い、セミロングのゆるい天パの私の髪も綺麗に纏めてくださり感謝してますよ!
お化粧までしてくれて!私もおかんも無器用でよく色々はみ出しちゃって!(涙)
控え室でクルーレさんが私を見た時の反応は珍しかった。
いやークルーレさん、耳出しながら真っ赤になってぼんやりしてて。おかんにつつかれても犬耳擽られても無反応。
そんな姿に呆れたシャリティアさんに邪魔だと首根っこ掴まれて追い出されるまで、私から目を逸らさなかった。
………いやぁ、照れるなぁ。
しかしこの時。
一番大変なのが、ここからだと。私は忘れていた。
だって私。
大勢の見知らぬ人の前で話したり、行動したりするかしこまった席が大の苦手だった。ビビリだから。
幼き日の授業参観での一人朗読、直立不動でひとっっことも言えなくて皆に笑われおかん困らしたもん。
その事を、嬉しさのあまりうっかり忘れていた。
さぁここからは、大変です。
式が始まり、広く豪勢な教会の中には沢山の人、人、人。
うわー。知り合いがほぼいねーっす!
前の方に固まってて教会の入口付近誰もいねー!!!
(あ、しんぞういたい)
あ、これまずいと気付いたのはきっとおかんだけでした。
私の顔色を見て、妖精さん(おかん)は私の肩らへんを飛び回りながら「あれはにんじんあれはかぼちゃあれはじゃがいも」と暗示をかけて下さいました。
心が、少し落ち着きました。
ありがとう、お母ちゃん。
気分的には一時間(実際は十分)くらいかけて通路を歩いて、やっとクルーレさんの所に辿り着きました。
騎士の礼服は別にあるらしいのだけれど。
我儘言わせてもらって、私とおそろで白いタキシードにしてもらった。格好いい。
見た目はホンマに物語の中の王子様って感じやな。
中身は体罰OK(レオン様に対して)スプラッタOK(敵意見せた相手に対して)の実力主義な騎士様ですけども。
緊張を消そうとそんな事を麗しの横顔を眺めて考えれば、クルーレさんが私の視線に気付いて目線だけくれる。
神父様役に何とピーター様が名乗り出てくださり(そういう資格を持ってるらしい)、ありがたいお言葉を延々とつぶやいていく。
しかし申し訳ない事に、私は女神様に対しての小難しい感謝の言葉とかを言われても右から左になってしまった。
だって。クルーレさんがカッコよく、綺麗に笑ってる。
私を見下ろす目が優しくて、チラリとお腹も見てくれる。
これから私は、クルーレさんの家族になる。
淋しがりやの旦那様に、早速賑やかな家庭を提供出来ると思うと不安よりも喜びの方が大きい。
「――――、それでは新郎。誓いを。」
「はい。」
新郎新婦はお互い、自身に誓う言葉を相手に捧げる。私らの世界でいう誓いのキッスですね。
これは婚姻の魔法に縛られ、そう簡単には解除出来ない。
だからこの世界では、死別で別れる事があっても離婚では殆ど無いそうだ。
「私、クルーレ・スティーアは美津・岡田を生涯愛し、死した後も変わらず愛し、想い続ける事を誓います。奪おうとする者は、誰であっても消し去る事を誓います。」
うっとりした笑顔で恐ろしい言葉を交えての誓いに、お客様の半数以上がドン引き(一部の乙女たちはきゃーきゃー言ってる)したのが分かりました。
うん。クルーレさんの魔力でそれ誓うともうただの怨念じみた何かだよっ!?
お姉様とお母ちゃんの悲しそうな声が近くで聞こえた気がする。………気のせいにしときたいな!
「う、うむ。それでは新婦。誓いを。」
ピーター様が(気力で)頑張って進行して下さり、次は私の番。
「は、はい!」
思わずの大声に皆様のくすくす声が聞こえた。うううしゃーないやん!
えっと、えっと、誓い誓い誓いぁああ昨日頑張って考えたのに〜っ!
「わ私、美津・岡田はクルーレ・スティーアを、生涯………」
私が誓える事。私が約束できる事。
クルーレさんを見上げる。
誓いの言葉を言ったうっとり笑顔のまま、私と目を合わせるクルーレさん。
うん、一個だけ。
私が有言実行出来る事、あるよ!
左側で私を見下ろすクルーレさんの両手を取って、目一杯の笑顔で言ってやった。
「生涯、私はクルーレさんが幸せに笑える努力をし続ける事を誓います!」
これから一緒に居たら、色んな事があると思う。
悲しい事も。苦しい事も。もしかして死にそうな目にあう事もあるかもしれない。
でもそれと同じくらい、それ以上に嬉しくて、楽しくて、幸せな事がこれからあるよ!
私はクルーレさんが笑ってくれたら幸せやから。
私の幸せの為にも、ずっとずっと笑ってて。
お腹の中の子も入れて、お母ちゃんやシャリティアさんや、家族皆で幸せになろうね。クルーレさん。
もう、淋しくないからね!
だから笑ってて!
「私、クルーレさんの笑ってる顔がいっちゃん好きなんですよ!」
「………私も、美津が笑ってるのが一番好きです。」
クルーレさんは、くしゃりと顔を崩して笑ってくれた。目尻にキラリと光る涙が見える。
私が好きな、幸せ感じてる時の顔だ。
「…………ここに誓いは成された。二人に、女神の祝福があらん事を。」
ピーター様の言葉に、割れんばかりの拍手と、頭上から色とりどりの花びらが舞う。
クルーレさんは私を抱き上げてほっぺにちゅーしやがりました。あ、乙女の悲鳴が聞こえる。
おかんも、シャリティアさんも泣きながら拍手してくれて。
レオン様と王太子殿下も笑顔で拍手。
貴族のお偉いさん方も微笑みながら私達を見送り、ピーター様もその場から動かず、小さく手を振りながら私達を静かに見送ってくれた。
「そうですか、貴方は………ただ貴方に縛り付ける為だけに誓うのですね……それでは貴方以外、救われないでしょうに。」




