美人は約束破ります
前回に続き黒騎士様視点になります。
こども。
わたしのこども。
わたしの、かぞく。
かのじょのなかに、わたしのかぞくがいる
「嬉しい?嬉しい?」
「いやこんだけ泣いてて嫌ゆうたらただの変人やん。」
「口からも聞きたい乙女心が分からんのかおかん!」
「あんたのおとんは無言で頷くだけで顔変わらんかってんもん!しゃーないやん!」
「あれなんかの時……居酒屋行ったときかな?一番目の時こっそりトイレで泣いた言ってたけど。私とあきちゃん(弟)聞いたけど。」
「なにそれ知らんし!言えよ!私の目の前で泣けよ!」
頭を撫でられながら、頭上で交わされる楽しげな会話を聞いていると。
私の考えていた事がとても滑稽で、愚かで、くだらない事なのだと思える。
ずっと、私は母を傷付けた罪人なのだと思っていた。
それどころか、私を産んだばっかりに命を縮めて亡くなったと聞いて。私は人殺しなのだと思ってしまった。
そんな私に、子供が、家族が出来る。
愛しい彼女が産み落としてくれる!
ああ。私は今、こんなにも幸福だ。
「…ひっく…………う、嬉しい。」
向きを変えて、彼女のお腹に優しく抱きつく。
あまり力を入れないように、そっと。
「いや、まだ形も何も出来てないからあれなんですが?そんな気使わんでも。」
「廊下の途中で検査してくれた人達がおってな。みっちゃんのお腹の所の検査した時様子変やったから私が聞いてん。そしたら受精してますって言われてもう、もう!」
お母様はぺちぺちと頭を叩くが全く痛みを感じない。
頬が勝手に緩んでいくのが分かる。
お腹に耳を当てて、身体の中の音を聞いてみる。
彼女の心臓の音。
内臓の動く音。
とても落ち着く、彼女の生きている音。
いつか、遠くない日。
この身体から、心臓の音が二つになるのだ。
「…………ふふふ!」
そうか。ならしょうがない。
彼女が生きていないと、この子は産まれてくれない。
私と彼女の、大事な家族。
この子が居るなら、彼女は私を忘れない。
ずっとずっとずっと、私の事を愛してくれる。
義理堅い彼女は子供の父親である私以外、絶対に受け入れない。
本当に嬉しい。
死ぬのは私だけで良い。
ああ、でも。確実にしておこう。
私以外、絶対に手出し出来ない様にしておかないと。
「ねえ、美津?」
「ん?何?」
私に微笑んでくれる、私だけの愛しい人。
誰にもあげない。何処にもやらない。
ずっと、私のものだ。
「結婚式をしましょう。」
「「え?」」
母娘は似たような顔で私を見る。
私は心からの喜びでほころぶ顔のまま、彼女に目を合わせた。
「できちゃった婚しましょう?」
「今は授かり婚と言うんです!!!」
顔を真っ赤にして言葉の羞恥に叫ぶ彼女に、私は心の中で謝罪した。
私は貴女を看取ると言ったけれど。
ごめんなさい、約束を破ります。
どうか、私の我儘を許して下さい。
これからは、私の子供と生きてください。
私の事を愛したまま、ずっと。
私が死んだ後も、ずっと、私を想いながら貴女は生きていて。
色々とこじらせている黒騎士様と気付かない聖女様。
黒騎士様は母親に対しての罪の意識がずっとあり、彼は自身が『要らない命』と考えています。
己の命で彼女を雁字搦めにしようとする黒騎士様。
子供を授かり、未来の事を考え始めている聖女様。
温度差の激しい二人にしばらくお付き合い下さい。




