人生初のエライ人らに会いました
少しだけ読み辛く悲しい描写がありますが続けて投稿予定の話がほのぼのしたお話ですので、そこまで重くはないと思います。
それでは。
熊っぽい王様は、脳味噌筋肉なのではなかろうか。
「おお聖女よ! 具合はどうだ!? 年端もいかぬ娘に傷が残るなど許されることでは無い!!!」
「いだいいだいいだいいだいがらやめてえーっ!!」
2メートルはあるだろうゴリマッチョ(鎧装備付き)相手に転がった状態で私に逃げ場など無く、万力で肩を掴まれ揺さぶられればそりゃあ泣き叫ぶと思うねんけど!!?
私が叫ぶのと同時にバギッと大きな音が聞こえて、ゴリマッチョな熊が放物線を描きながら吹っ飛んだ。
……………人って、あんなに飛ぶんやね。
熊が入ってきた扉まで、4、5メートルありそうやのに。
蹴っ飛ばすクルーレさん、すごいね。
てかクルーレさん足……え、まって立ち上がった後ろ姿めっちゃ背高いねんけど!!?
190はあるんちゃうの。
何それベッドに腰掛けてる時違和感無かったよ。何それどんだけ足長いねん!
自分の短い大根足にちょっと涙を浮かべてしまった私はさておき。
蹴り飛ばされても元気に起き上がる熊(王様)に近寄りながら、クルーレさんは腰にあった細めの剣を抜いて、穏やかに微笑んでる。
「王よ一度退室して下さいいえやはりこちらに貴方様程の大男が騎士相手ならいざ知らず小柄な女性と触れ合うのが罪と理解するまでそこの壁に磔にして差し上げましょうさあご起立願います王よ」
「すまん!ほんっとうーにすまん!ワシが悪かった謝る謝るから剣を下ろしてくれクルーレ!!!」
………うんクルーレさん怒らすのは絶対あかんやつや!
―閑話休題―
「あー、では改めて。ミスティー国、国王を務めるレオン・ミスティーだ。この度は召喚に応えてくれたこと、国として、そしてこの世界に生きる者として感謝する。」
頭に立派なタンコブ二つ(クルーレとシャリティア作)乗っけたゴリマッチョ熊…王様は小さな椅子に腰掛けた状態で私に頭を下げている。ツッコミどころ満載やけど、一つ気になる事言いましたよね。
「いや応えてませんけど。」
「「「え?」」」
いや、え?って。だってさ。
「私船から落ちて大怪我して、気を失ってたはずなんです。目覚めたらもうこの部屋やったし、返事のしようがないですよ。」
「いや、しかし聖女よ。現に貴女はここに居る。」
「いやだからですね?」
「ミスティリアの女神は聖女の望みを一つ叶え、その対価として我らの世界に招くのだ。歴代の聖人、聖女達はみな願いを叶え、その成就を見届けてからこちらに来ているらしい。」
「………そんな事言われても。私さっきまで寝てたんです。分かりませんよ。」
ベッドに転がってるだけの私にどうしろと。
「………聖女様は何故船に?」
「え? …………あぁ〜、父の田舎が小さな島で、兄弟達の休みが奇跡的に合って。……母のお骨を納めてあげようって話になりまして。それで。」
私はチラリと左手を持ち上げた。白い布に包まる箱。
「………それは?」
「…母です。一緒にこちらに来てしまったようで。」
入っているのは母の骨壷なのだ。
……………てか、あれ。何かおかしい。
「おお、なんと母君とな………それは辛かったであろう。」
私、なんで海に落ちたんだっけ?
「? 聖女よ、また傷が痛むか?顔色が悪いぞ?」
怖気が背筋にのぼる。手の感覚も無くなって、箱をコロリと手放してしまった。
だって、だって!!!
「お、弟が!」
「ん?」
「わ私達、船に乗ってて、お、弟が船酔いして甲板に出て、そしたら急に船がぐらーってなって、兄貴が大声出して、弟が海に落ちたって……兄貴に駆け寄ろうとしたらまた揺れて、私も海にっ、落ちて、船、ふねひっくりかえって………っ!」
「聖女様!?」
「おい、どうしたっ!」
「………………っ!」
誰かに手を握られたけど、その感覚さえ消える。
頭がいたい。
グラグラする。
あの時と同じ、わたしの目の前はまた真っ暗だ。
――――――――――――――――――――――――
苦しい
空気が吸いたいのに入ってくるのはしよっ辛い水と苦い空気
喉が痛くてたまらない
右腕も変に曲がってるから
きっと折れてる
それでも構うものかと左腕を抱える様に腕を回し、白い箱を手放さないように、流れてきた浮いてるトランクに私は掴まった
さっきまで乗ってた船が炎を吹き、べきべき音を立てながら傾くのを私は見た
いつのまにか痛いくらいの大粒の雨まで降り注いで
でも炎はどんどん大きくなって
どうする事も出来ない私は一人海の中
私の家族が亡き者にされようとしているのを見ていた
「たすけて」
「たすけてください」
「かわいいおとうとなんです」
「いつだってあとをついてまわってくれた」
「きかいにつよくてわたしのけいたいとかもあきちゃんがしてくれたんです」
「あにたちはとしのはなれたわたしとおとうとともよくあそんでくれたんです」
「うちにはおかねなくていちばんうえのあにきはいえがせまくなるからってだいがくいかずにしゅうしょくしていえをでてくれたんです」
「そのあとしゃっきんしたりわるいおんなのひとにだまされたりしたけどにくめないひとだったんです」
「ちちはびょうきになってつとめていたかいしゃやめてしまったのにそれでもがんばってははとふたりでわたしたちをそだててくれたんです」
「そんなははがガンになったときもだれよりもいしゃよりもだいじにだいじにかんびょうしてたんです」
「こんなのってない」
「かえして」
「かえして」
「ひとりはいや!!みんなかえしてぇーーー!!!!
ああああああああああああああああああああああっっっっ!!!」
どれだけ叫んだろう
血反吐吐くほどって、きっとこんな感じだとおもう
声がかすれて、小さく見えた島から船が何隻か向かってくるのを私はぼんやり見ていた
私以外に海に浮かんでる人なんて居ない。こんなに叫んでも返事一つ聞こえないんだから
なにもかも遅い
そんな時、場違いな明るい声が聞こえてきた。
(なら、返してあげる)
「……ほんとう?」
(ええ。代わりに貴女をくれるなら)
「……うそつかない?」
(私は人ではないから、嘘偽りを口にする意味がないわ。あなた達、人とちがって)
「……なら、みんなたすけてね。いたいのもくるしいのも、わたしだけでいいから」
(あら。彼らの怪我も請け負うの?とても苦しむ事になるわよ)
「かあさんなら、おなじこというもの。すっごいいたがりのくせに。いつだってこどもゆうせんやってん」
(………ふふ。分かったわ。貴女はとっても良い子ね。彼女との約束通り、優しい旦那様を見繕ったから安心してね?)
「へ?」
(大丈夫。楽しみにしてて。きっと誰よりも貴女に優しくて、きっと貴女も大好きになるわ)
その言葉を最後に、目の前に薄ぼんやりな光が漂って。
蛍みたいで綺麗やなぁって思いながら私はまた眠ってしまった。
――――――――――――――――――――――――
(なでなで)
「……………ふふ。」
あれから半日。聖女様はまだ目覚めない。
自国では[麗しの黒騎士]、小競り合いを起こした相手には[血染めの死神]と呼ばれる弟は、今日も嬉しそうに聖女様の手に触れ有り余る魔力を送り続けている。
少しでも傷が、痛みが和らぐように、と。
「……ねぇクルーレ。」
「なんですか、姉上。」
「貴方、聖女様が目覚めてからも彼女に触れていたけれど何故かしら? 王命を頂いてはいないのでしょう?」
貴方は人に触れるのが嫌いなのだから
「何か問題でもありますか?」
身内にしか見せない穏やかな表情を聖女様には初めから見せていたのだから。気になるに決まっている。
早速兄上と父上に知らせを出しましたとも、ええ。
「………今の貴方の姿を見たら、王女や見合いをして下さったご令嬢方がなんと言うのでしょう。」
「姉上が言わなければ大丈夫ですよ?」
「王はおしゃべりです。」
「ふふふ。では問題ありませんね。」
穏やかに微笑みながらそう言う弟が、少し怖かった。