聖女の隣国訪問
今回から、色々な説明やら分からなかった部分が分かっていくと思います。
お付き合い下さったら嬉しいです。
迎えのドラゴンが現れたので、王族二人としばしのお別れを告げながら城門前に移動する途中。
赤毛騎士がクルーレさんの前に立ち塞がった。
王太子殿下が前に出ようとするのを、クルーレさん本人が止めて、一歩前に進んで相対した。
「……………………。」
「言いたいことがあるならどうぞ?私達は貴殿のように暇ではありません。」
「………そのお綺麗な顔で、随分な事言うようになったな。」
「そんな事をわざわざ言いに来たのかお前は。」
「っちちが、俺は、その……っ、」
王太子殿下のツッコミにおろおろと視線を泳がせるので、私がクルーレさんの背中を押して前に進め。
クルーレさんは右腕を持ち上げて赤毛騎士に差し出した。まるで、握手を促すように。
「!」
「言葉に出来ぬならどうぞ?私はもう気にしないので。」
「お、俺が気にするだろ!」
「オックス様が考える事など、どうせ姫か姫か姫か、と姫一色でしょう?今更です。」
「!!!」
真っ赤になった顔のまま、舌打ちした赤毛騎士はばちんと音が鳴るくらいのタッチをして逃げて行った。
「………。」
「素直じゃない赤毛ですね。ツンデレ?」
「………そうですね。」
あんな顔じゃ、言いたかったのが「ごめん」の一択だって私にも分かるよ、うん。
『ごめん』
『それでも俺は姫を恋しく思うから、またきっと突っかかる』
『だから次は、お前と普通の喧嘩をする』
クルーレさんは嬉しそうに微笑んで、私と手を繋いで歩くなか、こっそりとそう教えてくれた。
うん。喧嘩友達出来て良かったね、クルーレさん。
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一度昼休憩があっただけで、朝からずっとドラゴンに跨り飛び続けた私達。森を越え何処までも続くような岩の山脈(国境らしい)を越えて、夕方に私達はリアーズ国の城にたどり着いた。
「ああー。今回もなかなか、はいはい。分かりました。ようこそおいで下さいました聖女様。此方がお呼びしましたのに慌ただしくお出迎えも満足に出来ず申し訳ない。」
此方に視線を向けることなく、執務室でザカザカ書類をさばいて行くインテリ眼鏡なヒョロ長いこの人がリアーズ国、国王のピーター様。
金髪に青い目、レオン様より若いかな?
此方も国王呼びが好きではないそうなので、名前で呼ばせて頂きます。
「いえ、お忙しいのにお時間くださり有難うございます。取り敢えず、瘴気の濃い場所を先に教えて頂いたら明日には出発しますよ!」
そうですか、と書類を見たまま返事をするピーター様。
私は笑顔ではいと答えたが、クルーレさん達はちょいと機嫌が悪い。ぱっと見扱い雑に見えるからかな?
でもピーター様の目の下にクマが見えるあたり、仕事優先で頑張っている姿に私は好感が持てる。日本人は(ある意味)お仕事好きやしね。
真面目な人は嫌いじゃないよ!
シャリティアさんが王太子殿下から預かった書類(瘴気の事とか姫様に関しての謝罪文とか色々)を渡し、確認させてほしいので皆さんは先に夕食を、と勧められ私達は別室で食事を取りながらピーター様を待つ事にした。
食後に持参したクッキーを母とクルーレさんに与えながら待っていると、少し草臥れた雰囲気を背負ったピーター様が現れた。
手には書類が数枚、あと占い師が持ってる様な水晶玉とともに。
「お待たせしました。姫の事はお気になさらず、と殿下にお伝え下さい。そんな事よりも、えー此方が瘴気の濃い地域の分布図。特産である鉱石が多く排出される山周辺が濃い傾向にあります。そして此方が生息するドラゴンのおおよその個体数。まだ知らせはありませんが、万が一凶暴化すると大変ですからね。装備を準備する目安にどうぞ。あと聖女様。」
「はい?」
「はいどうぞ。」
「え?え!?」
書類を隣にいたクルーレさんとシャリティアさんに。
気難しそうな見た目やのに姫様の無茶振りを気にしないとは。まあ怒られなくて良かったーとか考えていた私の両手の上に水晶玉を置くピーター様。
すると水晶玉が一瞬で真っ黒になった!えなにこれ!?
「ほうほう。レオン国王のうっかり早とちりかとも考えましたが、事実でしたか。疑って悪いことをしましたね。」
「ピーター様、これは一体何ですか?話によっては国王と言えど許しません。」
「ああ、これは失礼を。もう結構ですよ。」
ひょいと軽い感じに水晶玉を取り上げると、玉はすぐに元の透明な姿に戻った。
「あの、それは?」
「いやいや。僅か二ヶ月足らずで世界のおよそ半分の瘴気を回収など、前代未聞ですからね。ああ、この水晶は瘴気に反応して色を変え、黒に近ければ近いほど瘴気が濃くなるので確認にはもってこいなんです。」
淡々と話すピーター様に私達は固まります。いやだって。
「私、浄化出来てないんですか?」
「ええ。ミスティー国内の瘴気自体は今、聖女様の中にありますよ。」




