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聖女の変化

前回から引き続き、濁してますが性的表現があります。大丈夫とは思いますが怪しいと思われた方はこっそり教えてくださればありがたいです。


では。




遅めの夕食が終わる頃、レオン様と王太子殿下がやって来た。

二人共疲れ切った顔で、姫の相手が大変だったんだなと同情してしまった。


「二人には何と言えば………娘の教育が行き届かず申し訳なかった。」

「こちらも瘴気の問題が解決次第、結婚が滞りなく行われる様出来るだけの事はするつもりです。」


おやおや。なんとも好意的。

嬉しかったので、王太子殿下にも敬語は無し、クルーレさんと話すみたいにしてほしいとお願いしたら笑って頷いてくれた。

年上の人からの敬語は疲れるから助かった。


クルーレさんはもう慣れたけど、やっぱり違和感があったのです。


「そういえば、皆さん本当に反対しないんですか?」

クルーレさんみたいな素敵な人に、私みたいなふとい新参者。姫様以外にマトモな性格のご令嬢って居るのでは?


「「そんな恐ろしい事しない。」」

(ぶるぶる)


「ふふふ。」

「恐怖政治かい!」


王族二人の怯え方がはんぱねぇ!

一瞬で青褪めて脂汗流れ出したよ!

私が晩御飯作ってる間にどんな脅し方したらこうなんねん!!!


私が駄目でしょもうちょい穏便にとか言っても、うふうふ笑って誤魔化す黒騎士様。おいまた同じ手で理不尽に物事押し通す気マンマンだこの人!


「クルーレ………あんなに楽しそうに……!」

「あいつがふつうに笑ってる……聖女って癒しの魔力を発してるのか?」

「魔力ではなく、聖女様の性根が健やかなのです。周囲の人間が裏表なく接するなら、弟はあの様にひねた性格にはなりませんでした。」

「……娘が彼氏とイチャイチャしてるのは嬉しいけど、………………やっぱちょっとさみしいな〜。」


外野が色々言ってる。

しかもおかんはふよふよ寄ってきて私の肩に乗っかり、クルーレさんに「イチャイチャしても良いけどほっとかれ過ぎると私がつまらん!」って文句言いだした。おい。


皆さん話を戻そうか。うん。



「えー、それで瘴気浄化っていつからまた始めれば良いです?明日から?」


この城には姫様居るし、さっさと移動した方がクルーレさんも楽なはず。


「そう急がなくても大丈夫だぞ?」

「聖女が訪れた村だけでなく、その周囲の町村で浄化の兆しが出始めている。今朝から報告が多く届いてな。その確認もあって私がそちらに顔を出すか、一度呼び戻すかどうか悩んでいたら、」

「姫がドラゴンを寄越したんですね?」


クルーレさんのツッコミに、王太子殿下は肩を落とした。


「……そうだ。勝手にリアーズ国のドラゴンに跨り、勝手に国に帰還し、勝手にクルーレ達を呼びもどしたのだ。」

「王太子殿下には、慰めの言葉も見付かりません。」

「いや、妹が迷惑をかけた。お前のお陰で色々と証拠も出てきたからこれで罰せられる。」

「えっ!?」


姫様罰するって、そんなに酷いことクルーレさんにしてたのっ!?

私の怒りに反応したのか、王族の方々は怯え、黒騎士様はきょとり顔だ。


「ち、違うぞ聖女よ。オリヴィエは城に居た頃から気に入った騎士やメイドを好き勝手に扱っていたらしくてな。クルーレのお陰で証拠と証言が取れたのだ。」

「クルーレのお陰で泣き寝入りせず証言しに来てくれたんだ。道具も見つかったしな。」

「……道具って?」

「……まあ、拷問器具の様なものです。」

「「ひいっ!」」


私とおかんはクルーレさんの答えに怯えて互いを抱きしめあった。

あんな可愛い顔して、拷問ってそんなえげつない事を!?


「クルーレさんそんな人に付きまとわれて……そりゃあ怖かったよね。」

「うちの娘で癒されるなら抱っこしてええよ。あんたよう頑張ったなぁ。」


おかんに頭を撫でられたクルーレさんは、正面から抱きついた私の背中を優しく撫でてくれた。



「……まあ拷問っちゃそうだな。」

「エロい方面だが。」

「聖女様達の耳に触れぬよう。クルーレにお仕置きされますよ?」

「「はい!」」


なんやかんやと時間も遅くなり、また明日の朝に執務室に行く約束をしてこの日は解散した。




――――――――――――――――――――――







私は城ではおなじみになった天蓋付きベッドに寝っ転がり。

結婚宣言したので誰にも(母にも)止められる事なくクルーレさんは隣に居る。


今更だけど。

隣に身内以外の、それも男の人が居るなんて。

変な感じ。


「私、まだここに来て二ヶ月経ってないです。」

「……そう言えばそうですね。」

「不思議。ずっと昔からクルーレさんと一緒に居るみたい。」


身内以外の男性は苦手だった。

仕事場の人とも、仕事上雑談もするし笑うし、楽しいと思うけれど。

あんまり近寄られたり、触られたりするのは苦手。恋愛音痴というのはそんな所もあって、気持ちが浮ついても積極的に出来ないからだった。


クルーレさんには初めから手を繋いでも頭撫でられても平気だったのに。

あんまりにも美しくてそれどころじゃなかったのかもしれないけど。


「一目惚れってホンマにあるんやねぇ。」

私とは無縁やと思ってた。


私の言葉にクルーレさんは目を大きく見開いた後、私との距離を縮めて腕の中に囲った。

私が逃げ出さないように、強く。


「私は、今回とても頑張りました。」

「うん。」


自分だけじゃなく、他の犠牲者の為にもなったからね。


「クルーレさんは偉いね。」

「……私が偉いと言うなら、約束を覚えてますか?」

「約束?」

「ご褒美が、欲しいです。」


あ、膝枕の時のだ。


「…………しょ、初心者なのでゆっくりめにっん、む」


背中がベッドに沈んで、上からクルーレさんがのしかかる。

口の中があったかくてやらかくて、頭の中がふわふわで。

腕のまわった身体も撫で回されて。



「美津、美津、愛してます、美津。お願い、私を、私だけを愛して。」



ああ、そっか。

私ってやっぱりお馬鹿。

心の中覗かれてても、バレてても。

しなくちゃいけない大事な事ってあるやん。

こんなに素敵で無敵な黒騎士様でも、怖くてたまらないのに言ってくれたのに。


「クルーレさん」

「わたし、クルーレさんがすきです」

「はじめてあったときからたぶんすきだったんです」

「わたしね、いまおもいだしてもはつこいとかわかんないから、たぶんクルーレさんがはつこいですよ」

「ちゅーもクルーレさんがはじめてやから、クルーレさんにはじめていっぱいもらってもらえてわたしうれしい」

「あいしてますよ、クルーレさん」

「いうのおそくなってごめんね。なかないで」


私に口付けながら縋り付くこの人を、愛おしく想う。

私に嫌われるのが、捨てられるのが一番怖いと怯えるこの男性(ひと)に好かれて、離さなくて良い事に喜びを感じる。

そんな自分が私は怖いと思うのに、クルーレさんは嬉しそうだ。


「私は、待ってたんです。やっと私だけの貴女になった。」


止まない口付け。

嬉しいと泣く美しく、愛しい人。




また、ほんの少しだけ自惚れよう。



これは夢でも幻でもなく、現実だと。

私はやっと受け入れられそうだから。


聖女様は今の幸せに現実をあまり感じていませんでした。ハッピーエンドの物語を読んで、自分も幸せを感じてる。そんなイメージです。


この日、やっと自分の事なのだと自覚してくれたようです。



ちなみに。

聖女様と妖精さんは、黒騎士様が蔑ろに(冷たい扱い)されていたと思っていて、まさか性的虐待チックなトラウマとは思っていません。

ここらへんの鈍さは、遺伝だと思われます。

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