聖女と美人の内緒の約束
うまく投稿出来ていたら嬉しいです。
初の時間指定です。本日も二話投稿です。
召喚の日。
聖人、聖女と呼ばれる存在であっても、人間である事に変わりはない。
どんな醜い人間が現れるのだろう、と。
そんな事を考えていたと思う。
魔法陣に現れたのは傷だらけの、背が低く太った女だった。
どうしてか誰よりも先に足が動いて、怪我の治療を始めていた。
どうしてか誰にも触らせたくなくて、最低限の治療を皆で施した後は私が抱えて部屋まで連れて行った。
今思えば、それが彼女の言う[女神の呪い]だったのかもしれない。
私は彼女の事だけ考えていた。
誰の許可も命令もなく彼女の夢を覗き見て、目覚めてからも私以外の男を殆ど近付けず、側にいた。
彼女の心は家族で一杯だった。
怪我はないか。痛みはないか。本当に、生きているのか。
骨になった母親に家族の無事を願いながら。
不安を抱えたまま、彼女は私達に笑いかけていた。
時間が経てば、姉上や私の事を考えてくれるようになったけれど。
私は、物足りなかった。
彼女の心を私で一杯にしたかった。
彼女が家族を想うように、私の事だけを想ってほしい。
……人に愛してほしいと願ったのは、いつぶりだろう?
そんな事さえ最近は思い出さなかったのに。
とても不思議で、そんな自分の機嫌が良い事に変な気分だった。
にぶくて騙されやすい彼女は、私を優しい人だと言う。
今の私ほど、欲望まみれという言葉が似合う者も居ないだろうに。
綺麗で優しい心であり続ける彼女が欲しい。
その優しい性根のまま、私の事だけ考えて、私の事だけ心配して、私の事だけ愛してほしい。
これが[女神の呪い]の結果なら、構わない。
彼女は今、私の事だけ考えて、私の事を想って泣いている。
どうしたら傷付いている私を慰められるか、ずっとそれだけ考えている。
「………やっぱり。美津様はあったかいですね。」
今の私はきっと、誰よりも幸福だ。
初めて、欲しかったモノを手に入れる事が出来るから。
――――――――――――――――――――――
「………やっぱり。美津様はあったかいですね。」
頭と背中を撫でる手が優しい。
どうして自分が泣いてるのかな。本当はクルーレさんが泣き喚いてないとおかしいのに。
クルーレさんはずっとずっと、淋しかったのに。
何年も何十年も、自分の事を解ってもらえなくて、独りで淋しかったのに。
「ずびっ、……子供体温なのは自慢です。ひっく。風邪知らずです。」
「それは良いことです。病気になどならず、長生きして下さい。」
「……ゔん。頑張ります。」
「私は人と、獣人のハーフとの間に産まれたクウォーターですが、獣人の血が強く出ているようで、おそらく人より少し寿命が長く、身体も丈夫です。戦闘でも遅れを取ることはまずありません。」
……絵本で見た。
獣人の寿命は150年、長くて200年生きる人も居るらしい。成長も早く10歳でもう成人と変わらない姿になり、100歳位までゆっくりと歳をとる。クルーレさんが若く見えるのもその為だったのだろう。
「……ひっく。はい。」
「私は貴女と結婚して、共に歩んで、生きたい。もし、貴女が病や寿命で亡くなる時は私が必ず看取ります。だから貴女を看取った次の日、私が死ぬのを許してください。」
「…………っ!」
「私達はきっと、子供がいて孫がいてとても賑やかな家族になるのだと思います。でも貴女が居ないのは、私が独りで居るのと変わらないから。」
「ひっくっ、ゔぅ…。」
「お願いです。許すと言って?」
「うぅううゔゔぅう〜!」
私の記憶を見たんだね。クルーレさん。
クルーレさんのお願いは、母の言っていた言葉と重なる。
夜中にトイレに起きた私に気付かず話していた両親の会話が、今思い出しても胸に痛い。
『なぁ晃さん。私、頑張って長生きするから、晃さんも頑張ってな。』
『…あぁ。』
『そんでな、死ぬ時は私が死んでからにしてな。私、晃さんの死ぬとこ見たないから。』
『…あぁ。』
『一緒に死にかけても、私より一日は長生きしてな。絶対な!』
『…分かった。』
この数日後。母の容体は急変し、意識不明となった。
病院に運ばれたけれど、一週間と持たず、目を覚ます事なくそのまま亡くなってしまった。
最後まで目覚めると信じて、父は母の手を撫でさすっていたのに。
父はどんな気持ちで返事をしたのだろう。
こんなにも心の中がぐちゃぐちゃになってたのだろうか。
それとも何か違う想いがあったんだろうか。
…私は、母の気持ちが分かってしまう方だったから。
父の気持ちは聞いても分からないかもしれない。
「…………で、出来るだけ頑張る。長生きする、から。」
「…………はい。」
「だから、クルーレさんも、私より長生きしてね。一緒に死にかけても、私より一日でも長生きしてくれるなら、許したげる。」
私の我儘聞いてくれるなら、クルーレさんの我儘も聞いてあげる。
大事な人が目の前で居なくなるのは、もう嫌やから。
「はい。約束します。」
「うん。約束ね。」
一人は号泣。一人は微笑みながら抱き合って、ベットの上でそのまま眠った。
二人一緒に、悲しいような幸せなような、不思議な気持ちになりながら。




