聖女と美人の約束
城から出るだけで一苦労でしたが、何とか瘴気浄化の為の第一歩を出せました。
母も私の背後霊を自称していたので、城の外にまでは行かなかったらしく、二人の気分はちょっとした異世界旅行になりつつあります。
窓から外を眺めると、道は整備されてるけどのどかな田舎風景って印象が強い。
空の色もお昼間らしく明るく青く、雲の色も真っ白。
これから行く何処かの空が紫色になってると思うと、本当に私はファンタジーの世界に居るんだなと妙な感動を覚える。
私がどれだけ浄化出来るかはクルーレさんに対する気持ち次第で、こればっかりは行ってみないと分からない。
慌てず気長にやらせてもらおう。
「聖女様。」
「はい。」
呼ばれて振り向けば、真剣な表情のクルーレさん。
無言で私を見ていたらしいクルーレさんが、私の目を覗き込みながら、私の右手を握りしめた。
「私と結婚して下さい。」
「「…………………………………………へ?」」
私と母は二人、石の様に固まったのは言うまでもない。
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空気を読んだ母がシャリティアさんの所まで逃げるのを流し見て、私はクルーレさんに視線を戻した。
ハグや膝抱っこはされたけど、ちゅー含む性的な接触とか何も無かったのでそういうのに興味ないか、……クルーレさんは美人だし、もしかしてトラウマ的な何かがあって、と恋愛音痴の私は思ってましたはい。
結婚という言葉出るなら将来子供とかも考えるだろうし、あれ、クルーレさんそういうのしたかったの全然分かんなかった!!!
私の困惑と驚きは手のひらから伝わっていて、クルーレさんは苦笑しながらも私から目を逸らさない。
「………本当は、何もかもが初めての貴女に合わせてゆっくり進んでいこうと思っていました。しかし貴女を知るほど、私は我慢が効かなくなる。」
「が、がまん?」
「全く信じてくれませんが、貴女はとても素敵な女性です。身も心も暖かく、とても優しく純粋で……他の者が貴女を知ればきっと私から奪おうとするでしょう。もう知っての通り、私は騎士の様な高潔な魂などありません。己の欲に忠実なだけで、騎士としての立場はその為に必要だったのです。」
クルーレさんは私の肩に頭を乗っけて顔を見せなくした。耳がすごい真っ赤です。多分、私も同じくらい赤いと思うけど。
人生でそんな女性として褒められた事ないし。
そりゃあ両親には可愛い言われたけどそんなの親の欲目というやつやし。
「美津様は私を知っても、…獣の私を見ても貴女はそれが私の個性として受け止めてくれた。……私には自信がありません。魔力があっても、見目が美しいと言われても。私の心は貴女と違い、とても醜く、汚い。いつも黒いマグマに心は侵され、貴女の傍でだけ……貴女と眠る時だけ悪夢も見ない」
手を握られたまま、私の肩に頭を擦り付け甘える様な仕草をするクルーレさんはずっと、ずっと震えたままだ。
「どうか、お願いです。私だけの貴女になって。」
ずるい人。
手だって握ったまま。ずっと私の心を見てるのに。
知ってるくせに、そんな縋るみたいな目で見つめて。
私が断らないって、解ってるのに口に出せと言う。
何と言う事でしょう。実はクルーレさんは策士やったみたい。騙されてしまった。
それでも。
クルーレさんは私が大好きだって所と、私がクルーレさん大好きだって所にお互い嘘は一つもないもんね!
「不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします!」
歳だけとったお子様な私ですが、ちょっと位は無理したって大丈夫やから。……だから我慢ばっかしないで、私に色々教えてね。
未来の私の旦那サマ!
照れて顔を真っ赤にしながら手をぶんぶん上下に振れば、満面の笑みのクルーレさんにそのままひっぱられ頬とうなじに手が回って。あれこれは早速?
「「それはストップ!!!」」
母とシャリティアさんの教育的指導チョップがクルーレさんの頭に直撃しました。
あ、と思い首を回せば、シャリティアさんとその隣で浮かぶ母の姿が。おおそうですここは狭い馬車の中。
御者の人もびくびくしながら馬を操ってるよ。
………またしちゃった、公開プロポーズ。
抱き締められてたのがいつのまにか膝抱っこに変わって頭に頬擦りされてるけど。
私って重いのに全然気にならないって笑って終了。ガッチリ抱え込まれて放そうともしやがらない。
……まぁ幸せ感じちゃったから、私も同罪やな、うん。
シャリティアさんは女神に感謝の祈り捧げてるし。おかんはずっとニコニコしてるし。喜んでくれて嬉しいです。
「これなら思ったより早く見せれそうですよ。お母様。」
「えホンマっ!?」
「ん?何を?」
母とクルーレさんは一度目を合わせて、それからニッコリ笑った。
「ふふ、今は内緒です。ねぇ?」「そうやね。今は内緒やなー!」
仲良くなって良かったーと思いながら、私は「ふーん」とあまり深くは突っ込まなかった。
「お父ちゃんも喜ぶかなー。孫ふえるの。」
母のちっさなちっさな声で呟かれた言葉は私には聞こえなかった。
[妖精さんのお願い]
結婚に興味を持たない娘でした
家族に対する愛情がとても強く、その想いをからかって来る他人に感情を向けるのを時間の無駄だと早い段階で諦めてしまっていた
、、、私が病気になって、あの娘は友人と遊びに行くのをやめてしまった。
元々数少なかった高校時代の友人とも、幼馴染と言える小学生の頃の友人とも
同窓会がある、とハガキを見つけた時は無理矢理行かせたけれど、あまり興味を引かなかったようで
仕事場と家とを行ったり来たりの生活が続く
申し訳なく、可哀想な娘と思いながら
私だけの可愛い子供だとも思ってしまった私は
そんなあの娘を置いて死んでしまった
母親失格だと今でも思う
そんな時、気付いたら小さな体になっている事に気付いた
異世界とか聖女とか、何でも良かった
あの娘を、私の娘を好きだという子が現れたから
あの娘の愛情深さを笑うことなく、素敵な事だという綺麗な顔をした黒髪の騎士
誰よりも何よりも、私の娘を優先してくれる
私の娘が可愛い事に気付いた子だった
そんな理想的な旦那様、逃す手はない!
「なあなあイケメンさん!」
「クルーレとお呼びください」
どうかどうか。うちの娘と一緒に居てあげて
一途に想ってくれたなら、あの娘はその何倍もの気持ちを返してくれるから
家族を想うように、とても大事にしてくれるから




