聖女の旅立ち2
母の事を伝えると、レオン様は号泣しながらそれはもう喜んでくれた。
母本人は守護霊気取りだが実際に妖精として存在しているので、おそらく魔法も使えるのだろう、と。
妖精は一つの属性を極めている存在で、大体服や羽根の色に属性が現れる。母は全体的に黄色っぽいので雷魔法を使えるそうだ。
中々レアらしい。
ついでに、母は私を聖女とは呼ばないので名前をカミングアウトしたら王様は忘れてましたって顔して照れてました。おいやっぱりか。
まぁ確かに不都合なかったけどさっっっ!
シャリティアさんにもお伝えして、こっそり呼んで下さいと言ったら母ごと抱き締められた。こっちは信用されて無いと思われていたみたい。反省します。
そんなこんなで旅立ちの準備はシャリティアさんがほぼ終わらせてくれました。出発は明日の朝にして、後は外出用の服を準備しておくだけだったのだけれど………。
「ズボンが良いです。」
「「駄目です。」」
「でも!外に出たら散歩以上に動き回るし、何なら私収穫手伝ったりとかもしますし!」
「「駄目です。」」
「真顔の拒絶がガチで辛い………!」
「今もスカートやねんからもうええやん。」
「それは、此処では女の人がスカートしか履かないんだと思ったからで…だってシャリティアさんパンツスーツじゃないですか!!!」
そう。異世界でお城とかメイドさんとか当たり前だから、此処でも定番(?)の女の人は踝まであるなっがーいスカートであまり肌を出さない決まりなのかなって。
迷惑かけたくなくて苦手なスカート我慢してたのに。
クルーレさんは仕事着であるいつもの騎士スタイル。
シャリティアさんは私のいた世界の、いや動きやすく柔らかい素材何だろうけど、バリバリなキャリアウーマンみたいなパンツスーツ着こなしていたのである!
ズボンええんかいってなるでしょ!ならお願いするでしょ私もズボンが良いですー!
下世話な話、股擦れだって気になるんですー!
「あら。メイド服ではもし万が一、聖女様に不貞を働こうとする者がいた場合対処しきれないのでこちらにしましたのに。」
「姉上は護身術としてかなりの武術を体得しております。こちらの方が存分に振る舞えるのですよ。…私も女性だけの空間には中々踏み込めませんので。」
「それに未婚の女性は必ずスカートと決まっております。未婚でもズボンをお召しになり、尚且つ側に男性が居りましたら………その男性は交際を断られているのにずっと付きまとっている、と言う風に見えますが宜しいですか?」
「ごめんなさいスカートで良いですだからクルーレさんそんなしょんぼりした空気出さないで知らなかったんだからしょうがないでしょ!!!」
信じてもらおうと哀愁漂わせた背中にへばりついた私は気付かなかった。
姉と弟がアイコンタクトで「「せっかくの着飾る機会を奪われてなるものか」」といった会話をしている事を。
母も気付いていたが、元々娘の着せ替えが好きだったので止める気が最初からなかった。味方がいない。
二人に「これなんか良くない?」と服を指し示しながらすっかり打ち解けてる母に、もういーか、と諦める私でした。
――――――――――――――――――――――
次の日の朝。
馬車に荷物を詰め込み、出発する直前に一悶着あった。
赤毛騎士(名前忘れた)の襲来である。
金の輪っかを頭からかぶるという珍しい姿に、魔力制限の装飾品ってあれかーと呑気に思ってた。
西○記のおさるみたい。
「どうか聖女よ、この度の非礼をお許しください!」
膝ついて騎士のポーズしてるけど、馬車が勝手に行けない様進行方向で座り込んでるあたり小狡い。
「許すも何も、謝る相手は私では無いですよね?」
チラリとクルーレさんを見て、首を横に振る。まぁ許さないですよねー。
「お許しくださるなら、どうか私に巡礼の供をお申し付けください。」
「いやだから私じゃ無いでしょ。しかも、え、嫌です。来ないでください。」
「その様な事を言わず。私には解って居ります。秘密を握られ、あの場ではああ言うしか無かったのでしょう?私からも王に訴えます。どうか勇気を出してください!一緒にあの化け物を断罪しましょう!!!」
「会話のキャッチボールしろよっ!!!」
今、無性に頭を掻きむしりたい!
でもシャリティアさんにお揃いに結い上げて貰ったから出来ない!
「なあ、どしたんあの人。頭パーなん?」
「阿呆とは聞いていましたが、此処までとは思いませんでした。」
「あんなんしか考えられへんなんて可哀想な人やなぁ。」
母とシャリティアさんにガチの同情されてるとも知らずに赤毛はペラペラ喋り続ける。
要約すると。
私は騙されている哀れな聖女、自分がお救いするのでこの装飾品取って!ついでに名誉挽回したいので旅のお供にして!
だそうです。
あと赤毛がしゃべくる中ひとっことも言葉を発しないお方がいるのですが。
御者を買って出てくれた兵士さん達が顔真っ青にして体ブルブルさしてますが。
ゆっくり後ろを振り返れば、笑顔の黒騎士様が居た。笑顔です。超キラッキラ輝く笑顔です。
目だけまっっっったく笑ってないけどね!!!
頭に黒くてごっついツノ生えてる幻まで見えるわ!暗黒オーラまで見えるわ!!!
「ややばい黒騎士様がビーストモードになっちまう!」
「誰か!王を呼んできてくれ!俺たちじゃあ止められない!!!
「聖女様も少し離れて!!!」
「え?え?」
ビーストモード?何その技名?
なんかのゲームであったな。
「なぁみっちゃん。あれってクルちゃん頭から動物の耳生えてない?」
「へ?」
なんと私が見たツノは幻ではなく、ツンと立ち上がった黒い犬っぽい耳だった。




