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人生数回めのマジギレ



私のカンが言っている。

あの赤毛の騎士はクルーレさんに絡んで、嫌がらせに鍛錬の邪魔をしているのだと。


なんかこう、ビビッと!クルーレさんの不機嫌受信したよ!


これは、あれだ。

私が迎えに行って一緒にレオン様の所に逃げちまおう。


周りを見回して、安全確認。

まだあまり無理は効かないので、テレビで見た太極拳体操してるオバチャマ達をイメージしてゆっくり、ゆっくり動く。


よしよし、一人で立ち上がるのにも慣れて来た。

………シャリティアさんは、まだ来ない。



それでは鬼の居ぬ間に、黒騎士救助作戦開始や!




――――――――――――――――――――――


目があった途端、クルーレさんはふんわり笑って、私の後ろに誰も居ないのに眉をひそめた。


「聖女様、なぜお一人で………姉上は?」

「レオン様の侍女の方に連れられて行きました。私は向こうのベンチで待ってたんですが、……その、いつまでも一人は淋しくて。クルーレさんが見えたから一緒にレオン様の所に連れて行ってもらおうと」


思いまして、まで言おうとしたのに突然私とクルーレさんの間に外見年齢三十路の赤毛騎士が割り込んだ。


あっ!久しぶりのクルーレさんガン見したいのに、こいつ!!!


近くで見ると全体的に野生的な……若干色違いの王様を彷彿とされる大きな姿にビビる。レオン様は濃い蜂蜜色の髪にエメラルドグリーンの瞳で、赤毛の騎士の瞳は濃いめの灰色だった。


「そう言う事でしたら私がお連れします。さぁこちらに手を」


いやいやいや、知らない人とおてて繋ぐの嫌ですよ。


「………いえ。私はクルーレさんにお願いしてるんです。鍛錬終わったんでしょう?クルーレさんも一緒にご飯食べましょうよっお願いします!」


ちょっと強引だけど、クルーレさんいいよね怒らないよね大丈夫だよね!


赤毛とクルーレさんとを交互に見ながらそう言えば、クルーレさんは笑って頷いてくれた。


「承知しました。行きましょう聖女様。」

「お前は下がっていていい。私が連れて行く!」

「聖女様は人見知りなので、慣れ親しんだ者とでなければ緊張なさいます。今回は諸事情で外れていますが私はまだ聖女様付きの護衛です。オックス様はまたの機会になさいませ。」

「っ化け物風情が調子に乗るな!」


赤毛騎士の大声で少しびくついてしまう。

それを見たクルーレさんの眉間もピクリと動き、ちょい不機嫌な声音で話した。


「オックス様。王命をお忘れか?」

「黙れ!お前の様な者に聖女を任せるなど、王は間違っている!私がお連れする!」

「ちょっと!勝手に話進めないで下さい!」


腕を掴まれそうになったので自分を抱き締めるみたいにして手を死守。

あんな力強くぐわっと来たらせっかく無くなって来たアザがまた出来ちゃうよ!


「っっ聖女様は何も分かっていない!あれは貴女様の心を盗み見る魔物です!実の親にさえ捨てられ、人に紛れ戦場で生きるしかないおぞましい化け物なのです!」

「はぁ?」


なんと?


「貴女様が今欲しいと思うものを、口に出す前にあの男は用意しませんでしたか?気がきく男などではない、アレは触れるもの全ての思考や記憶を読み取るいやらしいモノ!聖女は騙されているのです!!!」


赤毛騎士のこの言葉に、でかい身体越しに見えたクルーレさんが震えたのが見えた。


「聖女様これは何事です!?」

「ええいまたお前かオックス!」


そこにシャリティアさんと数人の騎士を連れたレオン様が向かってきた。

見当たらない私を探しに慌てて来てくれたみたい。


熊の王様と般若化したお姉サマに赤毛を引き渡し、私は交わらなくなった視線の側に近寄った。



下を向いたままのクルーレさんに近寄れば、身長差のお陰で顔がよく見える。


やっぱり、接触禁止令出された時と同じ表情。

泣きたいのを我慢して、無理して笑ってる顔だった。



その表情で、私は理解する。赤毛の言った言葉に事実が混ざっていた事に。

あんなにも私に触りたがって、何かを確かめてた事に。



…………………あーあ。しょうがないなぁ。

男はいざって時情けなくなるって、本当みたいやねお母ちゃん。


私はゆっくり腕を持ち上げ、あと少しでクルーレさんの顔に触れるって所までにとどめ、見つめた。


「クルーレさん。私に言いたい事ありませんか?」

「………っ」

「言いたい事。ありますよね?」

「………わ、私は…」


私相手にしどろもどろになるクルーレさんは超レアなので、心のアルバムに多めに貼り付けれる様ガン見しといてやろう。


「正直者には特別に、赤毛が言った事は無かったことにしてあげます。」

「……………………………………え?」


私の言葉にクルーレさんは綺麗な瞳を大きく見開きながら首を傾げ、王やシャリティアさん、赤毛やその他諸々までがこちらに注目してるのが分かった。

公開プロポーズに魅力などまっっったく感じない私は、ただただ恥ずかしく、顔を真っ赤にした状態で叫ぶ様に言った。


「だーかーらー!正直に!クルーレさんの口で!最初っから説明するなら全部許したるって言ってんの!嘘やと思うなら私のてぇ握ってええよ!! 」

「……聖女様……………。しかし私は、貴女の嫌いな嘘を、」

「嘘ついてない!!!」


私の大声にみんなビクついたのが分かる。でも我慢の限界なんです。私の羞恥の限界なんです!


「クルーレさんは一回も嘘ついてない!私の頭撫でんの好きで、私を膝抱っこすんの好きで、私に餌付けすんの好きで、私が恥ずかしがってギャーギャー騒ぐの見るの好きで、私が笑ってるの好きで、私と手ぇ繋いで眠るのが好きやろ!!!間違ってたら言ってみいや!どれが嘘や全部本当やろうがこのアホボケカス!!!」


顔赤くなり過ぎてまじやばい。

何が私の事好きでしょう?だよ。超上から目線だよ。ガチで自分がキモい。そのふとい身体のどこから自信が来たんだよって話だ。

でも、あの泣きそうな顔は。


少しだけ、自惚れていいかな?

私に嫌われたくないからだって。だからあんなに悲しげだったんでしょう?



「はい。……怖くて怖くて、堪りませんでした。」


私、おかしい事言った?間違った事、言った?


「………聖女様の言う通りでした。私は貴女に、一度も嘘を口にした事はございません。……少しだけ、隠し事があっただけです。私のした悪い事は、それだけでした。」

「…う、ゔん……そうでじょゔっ?」

「はい。そうでした。……こんなに泣かせて、申し訳ありません、美津(みつ)様。」


ぼろぼろ溢れる涙を、クルーレさんは自分の右手で優しく拭って、左腕で抱える様に私を抱き締めてくれた。


一番最初に言えなくて、それから聖女様呼びが定番になっちゃってズルズルと口に出せなかった、おとんが付けてくれた私の名前。


誰にも聞かれない様、クルーレさんは小さくこっそり呼んでくれた。


甘い感じは今回で終わり、またいつも通りのグダグダに戻ります。

ブックマークして下さる方も居られる様で、ありがたい事です。

日々楽しく書いていきます。

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