第4話「村ができたけど人がいない」
いわゆる「はじめてのけんちく」を体験してから1時間後、俺がいる場所は村と呼べるくらいの規模の集落になっていた。
小学校の運動場くらいの広さに数件の小屋が並んだ区画がいくつか点在しており、コテージキャンプ場に見えなくもない。
集落の中央には拠点があり、さながら「村長の家」という感じだ。
まだまだ資源は余っている。しかし、いきなり使い尽くしてしまっては何か起きたときにゲームオーバーまっしぐらだろう。これくらいで抑えておくのがプロの技というもの(キリッ。
「プレジデンテ、何やら変な顔をしていますが、おわったのですか?」
すかさずツッコミを入れてくるアテナ。なんてひどい性格をした市長秘書なんだ。爺さんも俺がやる気になるような人をつけてくれればいいのに。
などと思っていると、アテナの目つきが冷たいものへと変わっていく。
「……プレジデンテ、私ニ何カ?」
「い、いいえ。何でもありません。ところでそれなりに街ができあがってきたと思うんだけど、どう思う?」
「街というより村ですね」
「それは分かってる。でもいきなり規模の大きいものを作ってもアレだろう? こういうのはやっぱり手堅く進めていかないと」
「プレジデンテの自由になされば良いと思います」
「……あ、そう」
あまりのそっけなさに若干の悲しみを感じながら、俺は街、もとい村の様子を眺めていく。うん、人っ子一人いないな。
「ところで、これ人口とかはどうやって増えるの? 家からピカッと光って生まれたりするの?」
「さあ、私は存じ上げません。そもそも人が家から生まれると思っているのですか? 頭は大丈夫ですか?」
「い、いや。それは俺も思わないけど……さっきの開拓者とかさ」
だんだんと声が小さくなっていくプレジデンテこと俺。
「さきほどの開拓者はサービスです」
「そ、そっか。じゃあこれからどうしたらいいんだ? 住民を勧誘してくれば良いのか? それはなんだかゲームとしておかしいような気がするんだが」
「プレジデンテが作っていた“街づくりゲーム”ではどうだったのですか?」
「そりゃあ、家を作ったあとは時間経過で人口が増えるようにしてたさ」
「では、待てば良いのではないですか?」
これ、待っていてどうにかなるものだろうか。
こうしているあいだにも夜が刻一刻と近づいてきている。もう少ししたらあたりは真っ暗になるだろう。
「考えていてもしょうがない、か。じゃあアテネ、少し早いけど夕飯にして今日はもう寝よう。初日だし、俺も少し疲れたよ。ご飯はどうしたらいいんだ?」
「拠点のなかに食料があるかと」
良かった。自分で作らなくて良いようだ。料理なんてほとんどしたことないからな。「自分で作れ」と言われてたら、それだけで1日がおわっていたかもしれない。
村長宅(仮)のドアを開けてなかに入ると、部屋の真ん中には十人ほどが囲んで座れるような大きなテーブルと椅子が「ドン!」と鎮座していた。テーブルの上にはご丁寧にパンとスープと水が用意してある。
お世辞にも豪勢な食卓とは言えないが、考えてみれば残業していたときから今の今まで何も食べていない。気づけばお腹も「ぐ~~~」と鳴いている。
「じゃあ、早速食べようか」
「はい」
俺はアテナにそう声をかけてから椅子に座り、パンをちぎって口に入れていく。少し酸味のあるライ麦パンだ。これは時代設定をローマにしたせいだろうか?
できたら小麦のパンが食べたかったが、ワガママを言ってもしょうがない。麦粥じゃなくて良かったと安心するべきところだろうか。
まあ、ライ麦パンはスープに浸して食べればそこまで酸味も気にならない。
スープの方は豚肉と豆を煮込んだものに、醤油のようなものを入れたなんとも言えない味がする。エスニックというか、スパイスがきいた塩辛いスープだ。
そのままパンをスープで流し込み、最後に水を飲む。今は食事のことより街作りのことを考えるべきだろう。
明日からどうしよう? というよりも、人口をどうやって増やそう? やっぱり近くの街から連れてくるべきなのだろうか?
そんなことを考えながら、俺はベッドのなかで眠りにつくのだった。
「おやすみなさいませ、プレジデンテ」
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