プロローグ「神様が俺のゲームのファンでした」
私の作品に興味を持ってくれてありがとうございます。
初投稿ですがよろしくお願いします!
「進捗どうですか?」
“街づくりシミュレーション”と呼ばれるジャンルでヒット作を世に送り出せたものの、続編の良いアイデアが浮かばず残業している俺に向けてその声はかけられた。
「いや、全然ダメ。こないだのミーティングで『街づくりの次は国づくりだ』なんて大風呂敷を広げてみたけどさ、どの要素を入れたらいいかサッパリ決まんないわ」
聞きなれない声だったが、敬語だ。
あまりやり取りしたことがない後輩か派遣の人だろうと思い、液晶ディスプレイを見たまま返事をする。
「そうですか、それでは続編のリリースにはまだまだ時間がかかりそうですね……」
「かかるだろうね。期待してくれてる上には悪いんだけど、こればっかりは神様の力でも借りないかぎりすぐには解決できそうにないよ」
“街づくり”と比べると“国づくり”は考えるべきコンテンツでいっぱいだ。国民、領土、資源、法律、外交などなど、どの要素を入れてどの要素を外せばいいのか。
自分にとって新しい挑戦ということもあって決まらない。
「なるほど。私が手を貸せばいいわけですね?」
「『自分に良いアイデアがあります』ってか? 自信満々だな(笑)」
この手の大口を叩くのは新人によくあることだ。「俺にもそんな時期があったな」と思わず口元がゆるむ。
どれ、この元気の良い後輩の顔でも見てやろうと振り返ってみると――ひとりの老人が立っていた。
「えっ?」
少し混乱した。会社で一度も見たことがない顔がそこにあったからだ。しかもなぜかギリシャ神話っぽいローブを着ている。
コスプレか? 違う部署で打ち上げパーティーでもやってるのか?
「あっ、もしかしてお客様ですか? これは失礼しました。てっきりウチの新人かと……」
「いえ、私は客ではなくあなたの作ったゲームのファンです」
――おかしなことを言う爺さんだ。
ウチの会社はこれでもセキュリティのしっかりとしたビルのワンフロアを借り切っている。ただのファンが通行証が必要なゲートを通れるわけがない。
もちろん無理やり突破することもできるだろうが、それだと今ごろ大騒ぎになっている。
「それは、どうも」
ほかの社員に招待された関係会社の人のよくある社交辞令だろう。そう受け取っておいた。
「困りましたねぇ。私はあなたのゲームの続編が出るのを楽しみに待ってるんですよ」
と言われても、ゲームの輪郭すら決めきれていないのだからこっちは続編どころではない。待つ方も大変だろうが、作るほうはもっと大変だ。おとなしく待っていてもらいたい。
「すみません。なるべく早く出したいとは思ってるんですが……」
社外の人間にうかつなことは言えない。さっき口が滑ってしまったような気もするが、あれはノーカンだ。そもそも招待した人を放置している奴らが悪い。俺は悪くないぞ。
「ええ、私も楽しみに待ってます。そこでどうでしょう? 私が力を貸すというのは」
勘弁して欲しい。「ぼくのかんがえたさいこうにおもしろいゲーム」に付き合っている暇なんてないのだ。
週明けには進捗会議の予定が入ってる。なのに企画書はほぼ真っ白。
この真っ白を「ちょっと書いてあるかな?」くらいまで埋めるために残って作業をしているのだが、それを理解して貰えるとは思えない。
「ありがたい話ですが、部外者の方に手伝っていただくわけにもいきませんので……」
だから早く帰って欲しい、マジで。だんだんイライラしてきた。
「しかしさきほど私の力を借りたいと」
「いや、借りたいと言ったのは神様の力であってあなたのでは……」
「だから私、神様です」
「……は?」
何言ってんだこの爺さん。人の会社でボケるのはやめて欲しい。
ほどほどに話に付き合って帰って貰うことにしよう。
「あー、そうなんですね。それは失礼しました。じゃあ早速ですが神様の力を貸してもらっていいですか?」
「分かりました。続編のためなら喜んで」
爺さんの声がそう聞こえたかと思うと、突然、俺の視界は真っ白になった。
「えっ? なんだ!?」
そう驚いたのもつかの間、次の瞬間、俺の視界にはどこまでも広がっていそうな大地と、一人の美女が映っていた。
そして、美女は微笑みながらこう言うのだった。
「ご就任おめでとうございます、大統領!」
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