たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<6>春の遠足大発進
AWACSさんが今日の演習の帰りの会で言いました。
「来週はコーライ半島まで1日遠足だ。当日用意する物や当日の日程についてはプリントを配っておくので確認しなさい」
プリントには
○月○日
行先:コーライ半島上空
集合時間 午前8時 A滑走路
解散時間 午後3時頃 A滑走路
持ち物(航空機用)
○リュックサック(遠足用)
○水筒(お酒を入れてきてはいけません)
○おやつ(食べ切る量だけ!)
○常備薬(薬を飲んでいる機体)
○ビニール袋(ごみを入れる)
○ウエス(機体が汚れたときに拭きます)
(*)お弁当はこちらで用意します
(赤字で)護身用の機銃以外の兵装ミサイル,爆弾などは絶対に持ってこないようにして下さい
気を付けること
○時間を守りましょう
○整列の順番を守りましょう
○相手国領空内では迷惑をかけてはいけません
○ごみは袋に入れて持ち帰りましょう
○みだりに赤外線レーダーをロックオンしたり機銃を撃ってはいけません
と書いてあります。
「それでは解散」
たっくんはバービーの演習用リュックを背負って飛び出しました。
「あ,待ってよ」
足の遅いB2君もかばんを肩にかけて後を追い掛けました。
2機を見送った後F35は帰り支度をせずにAWACSさんのところへいきました。
「どうしたの」
気になってA10ちゃんもついてきました。
「どうしたライトニング」
「来週の遠足ってようするに今核実験とミサイル発射を繰り返す北コーライ共和国上空への抑止のためのデモ飛行ですよね。どうして遠足なんて言い方をしたんですか」
毎日新聞やインターネットニュースで世界情勢のことを調べているF35は思っていることを質問しました。
するとAWACSさんは
「そんな本当のことを言ったらあの臆病者のB2スピリットが参加すると思うかね? 」
「ああ,確かにそうです。でも先輩は?」
「ラプターは逆の意味で危険だ。抑止のためのデモ飛行なんて言ったら大喜びで相手を挑発飛行したり念のため一発だけなら誤射だと言い張って何かやりかねないだろう。心配は少ない方がいい」
「ああ,そうです。僕もそこまで気が付きませんでした」
F35はしまった,そこまで考えてなかったという顔をしました。
「だからあの2人にはあえて普通の遠足だと言い張っておくのが上の人間の方針だ。だから君もこれを任務だと思わないでただの遠足のようにふるまうことだ。持ち物もプリントの通りだ。間違っても演習用の装備をしてはいけない。…いいね?」
「はい,分かりました」
「それとラプターとスピリットには余計なことを言ってはいけない」
「あの2機なら大丈夫。本当にただの遠足だと思い込んでいるわ」
とA10ちゃんは言いました。
遠足の前日,F35は初任給で買ったばかりのデジタル一眼レフカメラを取り出して準備をしました。
「これで謎のベールに覆われたノースコーライを撮影してやるぞ」
F35はたっくんとは別の意味で遠足を楽しみにしていました。
そこへたっくんとB2君とA10ちゃんがやってきました。
「おーい,みんなでマックスバリュへ遠足のおやつを買いに行くぞ」
とさそいにきたのです。
「あっはい」
F35はカメラを大事にしまって外へ出ました。
4機が基地の外のパンプトン市内のお店へおやつを買いにタキシングで出発していくのを確認してから(市内ではタキシングで移動します)ホワイト少佐とジェイムスン中佐が話していました。
「しかし中佐,今回のデモ飛行ですがパイロットなしで彼らだけで大丈夫でしょうか」
「なぁに。心配するなって。あくまでこれはただの遠足だ。戦争でもするなら俺達が乗っていかなきゃならねーがただ飛ぶだけだからな。それにこのデモ飛行の狙いはただ,北コーライをけん制するだけじゃない。あいつらがパイロットなしでも自主性を持って行動する訓練でもあるし,基地の外でのルールやマナーを勉強する意味もあるんだぜ」
「しかし国もスパルタですね。その機会を北コーライへの抑止飛行とからめるとは」
「そうかな。俺はちょうどいいと思うけどな。あいつらだって中東で対空ミサイルの中を飛ぶ仕事が増えるんだから,今の実戦任務の少ない期間中にぴったりのトレーニングだと思うけどな」
遠足の朝,全員が滑走路に集まりました。
たっくんは遠足用のバービーのリュックサック,B2君のリュックサックはナイトホークさんの手作りです。
A10ちゃんはぬいぐるみ型のリュックサックを背負っています。F35は大事なカメラを守るためにかっちりとしたシンプルな機能性の高いリュックでした。
いつものようにたっくん,F35,A10ちゃん,B2君の順番に離陸しようとするとAWACSさんが
「今日は遠足用の整列で行く。スピリットが先頭でその後ろをラプターとライトニングが並列で並び,1番後ろがサンダーボルトだ」
と言いました。
「えっ,僕が先頭?」
B2君は不安になりました。
「大丈夫だ。私の後を付いてくるだけだから問題ない」
引率のAWACSさんが言ったので
「はい…」
とB2君が返事をしました。
今まであまり編隊の先頭になった事がないB2君です。
それでも一度離陸するとAWACSさんの後ろを一定の距離を取りながら飛行するだけなので楽なものです。
ときどきB2君が
「みんな,ついてきてるの?」
と心配そうに言います。
「大丈夫だって。それよりもっと早く先行けよ」
とたっくんは返事します。
「でもたっくんの姿がレーダーでは見えないよ」
「先輩のレーダー反射断面積は昆虫以下ですから前向いてたら見えないですよね。でもエンジン音は聞こえてるでしょう?」
とF35。
「まもなくコーライ半島上空だぞ。いいか,君達は指示されたとおりに編隊を組んで高度15000フィート(約4572m)前後を維持して飛ぶんだ。いいね?」
AWACSさんが言うとたっくんが代表して
「分かったよ。そんなに何回も確認しなくても大丈夫だよ」
と返事をして,AWACSさんが指示した地点をB2君を先頭にする陣形で飛びました。
B2君もたっくんもなぜこの陣形で飛ぶのか分かっていないようでしたがF35はちゃんと分かっていました。
デモ飛行なのですから相手国に本来はステルス機であるはずの大型爆撃機のB2君の姿を目立たせて誇示する必要があります。
でもそれが分かると臆病なB2君は逃げ出してしまうでしょう。だからF35は黙っていました。
「なぁ,弁当まだなのかよ」
たっくんが不満を言いました。
「そういえばどうして弁当は各自で持参じゃないんですかね?」
とF35が聞くと,AWACSさんがたっくんを指差して
「各自で最初から弁当を持たせるとこいつのように好き勝手に食べ散らかすからだ」
と言ったのでまたしてもF35は納得させられました。
「そうだ,おやつあったじゃん」
とたっくんはリュックから昨日買ったお菓子を出しました。
野球チップスの袋を開けるとあまりたっくんの好きじゃない球団,要するに『ヨミウリカイアンツ』の選手のカードが入っていました。
たっくんは『ハンシンタイガンス』の大ファンなのでカイアンツは大嫌いなのです。
「くあー!なんだよーこいつはいやなんだよーくあー!」
とた
っくんが不満を言うとB2君は
「僕その人好きだけどなー」
と言いましたのでたっくんが
「あげるよ。カイアンツなんて縁起でもねーや」
とB2君にカードを押し付けました。
「ありがとう!じゃ,僕もお礼にこれあげるよ」
とB2君はやまとの味カレーの小袋を1つくれました。
「あんがとよ!」
たっくんはもらった味カレーはリュックにしまって野球チップスをボリボリ食べました。
「そろそろ北コーライ上空だぞ。高度5000フィート(約1524m)まで降下して飛行しろ。ルートは各自のアビオニクスに送ったからその順番で飛ぶように」
AWACSさんが言ったので4機は指示されたとおり高度を下げて飛びました。
一瞬F35とA10ちゃんは緊迫しました。もしかしたら北コーライには対空ミサイルがたくさん用意されているかもしれません。
しかし同時にF35は初めて見る北コーライの都市を上空から写真に収めたいというのがありました。
そこでリュックからカメラを出すと緊張しながら北コーライの上空写真をたくさん撮影しました。
たっくんは
「俺達の国と違って何もないところだなぁ」
とのんきに言いました。
「そうみたいだね,思ったより建物も少ない」
B2君が言いました。
北コーライの領空を離れるとF35もA10ちゃんも本当にほっとしました。
次に今回の遠足と同時期に南コーライと北コーライの国境付近の山で在南コーライでたっくんたちのウラシア合衆国の陸軍と南コーライ民国の陸軍が合同演習をしているのでそれを見学します。
たくさんの戦車が動員されています。
もちろんこれらの様子もF35はしっかりとカメラに収めました。
たっくんがリュックからB2君にもらったやまとの味カレーを開けようとするとウラシアの陸軍の人間の若い兵隊さんがやってきました。
「それ,やまとの味カレーだろ?俺大好きなんだ」
「こんなのスーパーに30円でいくらでも売ってるぞ」
「いいなぁ。俺も早く国に帰りたいなぁ。国の食料品がうらやましいよ。毎日の食事はちゃんと自分達の口に合うようなものが出るけれどこういう細々した嗜好品はなかなか手に入らなくってさ」
とその兵隊さんは言いました。
「そうだ,その味カレー俺にくれよ。代わりにいいものをあげるよ」
と兵隊さんはたっくんに大きなチョコレートを見せました。いわゆる軍用レーションのハイカロリーでかたいやつです。あまりおしいチョコレートではありませんがとにかく大きいので
「いいよ」
とたっくんはやまとの味カレーとチョコレートを交換しました。
「でもこんなチョコレート食いたくないし誰もほしがらないよ」
とたっくんがチョコレートを持って困っていると今度はもっと若い南コーライ人の兵隊さん達が珍しいAI型軍用機のたっくんたちを見学にやってきました。
するとその中の1人が
「君が持ってるそのでっかいチョコレート,外国のだよね。実は僕,珍しいチョコレートの包み紙を集めているんだ」
と言いました。するとたっくんはもともとこんなチョコレートいらなかったので
「こんなかたくてまずいのほしいか?じゃあ何かと交換するか?」
と聞くと
「ほんとうに?何と交換しよう?そうだ,いいものがある」
と段ボールから南コーライ製カップ麺をたくさんくれました。
「やった!こんなにたくさんもらっていいのかよ?」
「うん。軍隊はカップ麺をたくさん支給してくれるんだけど食べ飽きちゃってさ。こんなのでよかったらたくさんあげるよ」
とたっくんは段ボールごとカップ麺をもらい,当然リュックサックに入らないのでウェポンベイにしまいました。
「若いのにいい奴だなぁ」
若い南コーライ人の兵隊さんを見送りながらたっくんが言いました。
「そういえば南コーライって徴兵制なんだそうですよ」
F35が言いました。
「なんだそれ?超平成?次の年号か?」
たっくんが聞くと
「違いますよ。僕達の国だと人間の軍人は志願者を募って教育してなるものでしょう。でも徴兵は健康な男子なら有事に備えて28歳までに人生に一度は兵隊にならないといけないんです」
「ふーん,じゃあ俺達も徴兵制みたいなもんじゃん。生まれたときから戦うことが決まってんだからさ」
たっくんの返事にF35もAWACSさんもAWACSさんに乗っていた人間の軍人たちもはっとしました。
確かにそうです。軍用機達は人間と同じ人格を持っていますが生まれたときから軍用機なので職業選択の自由はなく年を取って退役するまで兵役が続くようなものです。
確かに徴兵制とよく似ています。今まで誰もそこまで気が付かなかったのです。
でもたっくんは自分の発言の重要さに気が付いていないようで数分後にはもうB2君と昨日見たアニメの話を楽しそうにしていました。
そのあと,たっくんたちはイムジン川とハンガという川が合流する広い展望台に行き,そこでお弁当を食べることになりました。
お弁当を配ってもらってみんなで川を見ながら食べようよと話しているとたっくんは川向うの小さな町を指差しました。
「あっちにも町があるぞ」
「こっちは南コーライ,あっちに見えるのが北コーライの町ですよ。川を挟んで僕の目測だと3kmくらいしか離れてないですよ」
とF35。
「さっきも思ったけど北コーライってずいぶんと静かな国だよね」
とB2君。
「でもあの町,なんか変だぞ。人が誰もいない感じ」
たっくんのレーダーはF35と同じくらい高性能なので誰か人間を探しているようでした。
何か変なのは静かなだけではありません。おそらく農村なのでしょうが,ところどころ真新しいビルも建っていてなんだかちぐはぐです。
「多分あのビルはハリボテでしょう。なにしろ北コーライは国家予算をバンバンつぎ込んでミサイル飛ばしまくってますから」
とF35がさらりと言ってのけるとB2君が
「え?そうだったの?」
とお弁当の折詰の蓋を開けようとするのを止めて真っ青になりました。
F35はしまった,と思いました。
「じゃあもし対空ミサイルでもあったら僕たち撃たれてたの?」
とB2君。
「だ,大丈夫に決まってるでしょ。B2君はステルス機だし私はステルスじゃないけどそんなに大きくないしもしそんなミサイルがあっても見つかるわけないでしょう」
とA10ちゃんがあわてて取りつくろうとしましたが
「でもっ,でもっ」
とB2君は割りばしを握ったままおびえて真っ青になっています。
「でも実際は何もなかっただろ。へーきへーき」
とたっくんはお弁当を開けました。中身はおむすびにソーセージにたまごやき,からあげに海老フライまで入っています。
「僕…さっきのことを思い出すと震えが止まらなくなってきたよ」
とB2君はすでに終わったことについても怖がっています。
でもみんなは気にせずお弁当を開けて食べています。
「すんだことにびびるなんて不思議な奴だなぁ」
とたっくん。
「僕…怖くなってきた。お弁当食べれない。たっくん食べていいよ」
「やったね!」
たっくんはB2君の手つかずのお弁当をひったくりました。
「だめよ,たっくんB2君もちゃんと食べないとだめなんだから」
A10ちゃんが言いました。
するとAWACSさんが来て
「スピリット,緊迫する実戦ミッション時でもきちんと食事がとれるようにならないと力が出せずに命の危険があるんだ」
とB2君に優しく諭しました。
「…うん。そうだね。やっぱりたっくん僕のお弁当返して」
「ええっ,話がちがうじゃねぇの。せめてこのからあげはもらうぜ」
とたっくんはからあげをとったものの,素直にお弁当をB2君に返してくれました。
水筒のつめたいお茶を飲んでお弁当を食べていてるとB2君も少しずつ元気になりました。
ところでたっくんはお弁当を食べてから退屈になったので1つ気になることがありました。
それは川向うのあの北コーライの小さな町です。
あそこに本当に人はいないのでしょうか。
ふと川向うの町に何か人影が動いたような気がしました。
「第一村人発見!」
たっくんはF35とA10ちゃんがB2君のケアをしているすきを抜けてこっそり川向うに向けて離陸しました。
離れてしまえばレーダー反射断面積が世界最小のたっくんは誰にも知られることはありません。
たっくんは川を越えて対岸にたどり着きました。
沿岸は農村なのに有刺鉄線が張られていて物々しいです。
「やっぱり変だな」
たっくんは頻繁に郊外まで卵農家におつかいに行くので大体農村というものがどういうものか知っていたのですがずいぶん様子が違います。
まず,農村なのに畑は荒れ放題,雑草が少し生えているだけです。とくに作物のようなものは見当たらないのです。
でも今はそれよりもさっき見た第一村人の影が気になります。
たっくんは上空からもう一度人影を探しました。
いました。
見つかりにくかったのは相手が小さな子供だったからです。
「なんだ子供か。まぁいいや」
たっくんは子供に近付きました。
「おおい」
すると子供は戦闘機が近づいてきたので攻撃されると思ったのか逃げようとしました。
「待てよ。お前ここの第一村人だろ。他の人間はどうした」
とたっくんは聞きました。
「この近くには俺の家族しか住んでないよ」
子供は変な形のサングラスを持っていました。
「ふぅん。で,お前は何してたの。サングラス持って遊んでたの?」
「違う。両親と兄弟のために食べ物を探してたんだ」
「ずいぶんとガキのくせにしっかりした奴だな」
「ガキじゃない。俺はこれでも14歳だ」
「えっ」
たっくんはびっくりしました。相手があまりにも小さかったので小学生くらいだと思ったのです。
おそらく栄養状態が悪いのでしょう。
「それで食べ物は見つかったのか?」
「軍隊の倉庫に行けば何か見つかると思って危険を冒して中に入ったけど連中がめちゃくちゃ大事にしている箱を1つ取ったら中身はこんな何の役にも立たないサングラスさ」
と小柄な少年は言いました。
「なぁ,あんた外国の飛行機だろ。何か食べ物を持っていないか?」
「えー」
たっくんはウェポンベイにコーライ文字で書かれた段ボール箱いっぱいのカップ麺を持っています。
しかしこれはたっくんが基地に持ち帰って人間の独身寮で売りさばこうと思っていた大事な商材です。
「えーと,そんなに食いものに困ってんならここから逃げたらいいだろう。もう14歳なら3kmくらいの川なら泳いでいけるだろ」
「それはできない。だって両親や小さい兄弟を置いてはいけないよ。もし俺一人逃げたとしても家族に何かあったら…」
たっくんは先週J20に追いかけ回された時友達を置いて自分1人で退避することができなかったことを思い出しました。
「そっか…しょうがねぇな。ならがんばるんだぜ…」
たっくんはそう言いましたがどうも心がもやもやします。
「あー!もう!しょうがねぇな!お前の持ってるそのクソダセぇサングラスと交換してやるよ!」
とたっくんはコーライの文字が書かれた段ボールを差し出しました。
「ええっ,ほんとに」
少年は中身を見て驚きました。北コーライと南コーライは文字が同じなので作り方食べ方も分かります。
「これだけあればしばらく家族みんなで食べられるよ」
と少年は大喜びでたっくんにもっていたサングラスを出しました。
「こんなくそだせぇもんいらねぇけどしょうがないからもらっといてやる」
そろそろ帰らないとたっくんがいないとみんなが大騒ぎしても困ります。
たっくんはサングラスをウェポンベイに放り込んで離陸しました。
「じゃあな,親とか兄弟とか大事にしろよな」
たっくんは少年に主翼を振ってまた川を越えて戻ってきました。
展望台ではまだF35とA10ちゃんがB2君のケアをしていました。
するとAWACSさんが
「みんなそろそろ帰ろう。15時前には基地に到着しないといけない」
と言いました。
「B2さんはまた先頭でも大丈夫でしょうか。先輩と変わった方が…」
とF35が言うとB2君は
「うん,だいじょぶ,みんなに話聞いてもらったし少し元気が出たよ」
とリュックサックを背負いました。
「だいぶ勇気が出たようだな。えらいぞ」
とAWACSさんがB2君をほめました。
そしてまたAWACSさんに続いてたっくんたちは無事予定通り基地に帰ってきました。
滑走路にはケビンが迎えに来ていました。
ケビンはたっくんのリュックサックと水筒を外しながら
「遠足は楽しかったかい」
と聞きました。
「うん,俺は色んなものを見たよ」
と言いました。
「そりゃいい,夕食のときにみんなや中佐にその話を聞かせてくれよ」
「いいよ」
とたっくんは言いましたがこっそり北コーライに入った事は黙っていなければ怒られてしまうと思いました。
F35は真っ先に自分のハンガーに帰り,カメラのデータを自分のタブレットとパソコンにこっそりコピーをしてからそのデータを自分の飛行隊長のホワイト少佐に渡しました。
北コーライの上空すれすれの航空写真は非常に貴重なので重要資料としてホワイト少佐は受け取りました。
さっそくデータの解析をするそうです。
たっくんはバードバスから出るといつものように晩御飯まで部屋で遊んでいました。
ウェポンベイからさっき物々交換した妙なサングラスを出して人間サイズなのでマイサイズバービー(身長100cmの市販されているバービーで1番大きいもの)にかけさせました。
サングラスを固定させるT字型のヘアバンドが付いていてそれをかぶせるとまるで頭にTバックのパンツをかぶせたようです。
「変態だな,これじゃ」
バービーをいろんな服に着替えさせてみましたがどのファッションにもこのサングラスは合いません。
「ただいまぁ」
ジェイムスン中佐が帰ってきました。
たっくんはマイサイズバービーを持ったままジェイムスン中佐のところへ行きました。
「おお,遠足は楽しかったか。後で話を聞かせろよ」
中佐はたっくんのキャノピーをなでました。
そこへホワイト少佐がやってきました。
「すみません中佐,今よろしいですか」
「いいよ」
「今日の遠足でライトニングが北コーライの上空写真を撮ったものをまとめましたら拡大写真から北コーライ人民軍の兵士の装備や使用武器の詳細が分かる画像が…」
「あいかわらずお前んとこのライトニングは仕事熱心で優秀だね」
ジェイムスン中佐はダイニングテーブルの椅子に座って言いました。
ホワイト少佐はふと中佐の横にいるたっくんの方を見ました。
「中佐,これは?」
「これって…しらねぇのか?ちょっと珍しい等身大バービーだよ」
「いや,このゴーグル…」
ホワイト少佐はたっくんのバービーの頭についているクソダササングラスをじっと見つめ手に取りました。
「おいおいいちいちこいつのおもちゃなんか全部は把握してないぞ」
「中佐,これはスラヴァ製の最新の赤外線暗視ゴーグルですよ」
「なんだって」
スラヴァ連邦はほんの20年くらい前までこの国と長きにわたって冷戦を続けていた超大国です。
「ラプター,君はこのゴーグルをどこで拾ったんだ?」
たっくんは北コーライに勝手に着陸したことがばれたら怒られると思ってうつむいてしまいました。
「北コーライの領土内で拾ったんじゃないのかな?正直に言いなさい。怒らないから」
と少佐に言われてたっくんは北コーライの領土内に着陸して現地の少年からカップ麺と交換に受け取ったと話しました。
「しかしこれで北コーライの武装についての解析がさらに詳しく進みますね」
とホワイト少佐が言ったのでジェイムスン中佐はまたたっくんのキャノピーをなでて
「野球チップスのカードから要注意軍事国家の重要な装備品とはとんだわらしべ長者だな。
まぁ結果としてお手柄だよ」
と言ったのでたっくんは褒められた理由も分からずにきょとんとしていたのでした。
次の日,演習のときにAWACSさんがみんなに北コーライ国内の公共放送のプロパガンダニュースを見せてくれました。
ニュースではなんとたっくん達4機が北コーライ上空を飛んだことに対して強く抗議しており,とりわけ先頭を飛ぶ巨大なB2君については『戦闘機と攻撃機を従えた黒い悪魔の爆撃機』と報じ,これ以上の挑発行為をすれば無慈悲な報復打撃を下し,本物の戦争の味を教えてやると報じていました。たっくんは北コーライのアナウンサーのロボットみたいなしゃべり方にウェポンベイを抱えて大爆笑していましたが隣でB2君は震えあがっていました。
「のんびりと飛んでいた自分が怖いよ,あの人達僕のこと無慈悲な反撃をするって…」
「でもかっけーじゃん,黒い悪魔の爆撃機って」
たっくんは大して気にも留めていないようでした。
A10ちゃんも
「ほんとね!戦闘機と攻撃機を従えて,なんてまるでB2君が私達のリーダーみたいよ」
も言ったので,
「…そんな,恥ずかしいよ」
とさっきまで震えていたはずのB2君は少しだけ笑いました。
AWACSさんはこう言いました。
「これだけ北コーライが物騒な言葉を使って報じてるんだから今回の遠足で君が彼らの上空を飛んだことは相当な恐怖になったと思う。相手に恐怖心を与えたことで遠足は大成功だし,君も今回先頭を飛ぶことで勇気が付いただろう。いいかい,君は君が思っているほど弱くないしそんなに色んな事を怖がらなくていい」
「僕,強くなれたのかな」
「強くなれたとも。君は無事北コーライの空を戦闘機達をひきつれて戦闘を飛んだじゃないか。そしてこれからも君はもっと強くなる」
AWACSさんの言葉を聞いてB2君はえへへとはにかみました。
和やかな空気になったところでたっくんが
「ま,国内最強の軍用機はこの俺だけどな」
と言ったのでF35が
「先輩空気読みましょうよー」
と言いました。
でもB2君は強いとか勇気があると言われることに慣れていなくて恥ずかしいので
「いいよ,1番強いのはやっぱりたっくんでいいよ」
と言いました。
でもそんなB2君の表情はいつもより少しだけ元気で明るくみんなには見えたのでした。
(終わり)