降り続く六月の雨に、花は散る――
雨が――降り続いている。
冷たい滴が、六月に咲いた季節外れの桜の花びらを散らしていく。
地に着いた桜色の花は汚れ、穢されて、流れ逝く。
青空の見えない灰色の厚い雲の下で、雨に濡れた制服姿の彼女が立ち尽くしていた。艶やかな長い黒髪も、重く湿り気を帯びていた。
手には見慣れた不可思議な青白い刃。
足元には、うつ伏せに倒れた年配の女性の姿がある。
見えた横顔――穏やかに目を閉じた顔付きには生気が感じられなかった。
「……せん…ぱい」
まさか、と思った。
先輩は――そのひとの命を奪ったというのか?
疑惑を必死に振り払う。
そんな筈が無いじゃないか。
俺は知っている。彼女は何時だってその物憂げな瞳と浮世離れした雰囲気を崩さなくて、面倒くさがりで、天邪鬼で。けれど笑うと可愛らしくて、それに俺には優しい。
それにきっと、お母さんの事で悲しい想いをした事があるひとだ。
詳しくはまだ話してはくれないけれど。
そんなひとが――誰かの命を奪ったりするだろうか?
「先輩……」
呼びかける。
振り返る彼女。相貌が俺を捉える。物憂げな瞳はやはり崩れない。
彼女は何も答えない。何も答えてはくれない。
冷たい雨が容赦なく、傘を持たない俺達の身体に降り注ぐ。
雨に濡れるふたり。
どうして先輩は、何も言ってはくれないんだろうか。
何か言ってくれれば、きっと言葉を掛けてあげられるのに。返す事ができるのに。それなのに――
「からきた…くん……」
彼女が俺の名前を呼んで、ただ俺を見つめ続ける。
降り続く滴が頬を伝って、落ちていく。
その様がまるで俺には、泣いているように見えた。
それでも彼女は何も言わない。
それは彼女が、魔女だからだろうか?
彼女は魔女だった――ひとの理から外れた存在だった。
だから、命すら刈り取ったというのか。
新章、開幕。
一部の総括となるお話です。ここまで甘かった分、ここで伏せていたものが色々と出ます。
この章の終りでふたりがどうなるかは、お楽しみに。




