エクストラ その3・1
恒例のエクストラです。
いつも甘さ増しのエクストラです。
今回もです。書いてる作者が死にそうです(笑)
夜が訪れる、その前に――
1
六月も半ばになろうとした頃の、ある休日。
梅雨に入り天気が曇る事も多かったけど、その日は朝から快晴だった。
青空の天気の下、俺は――殻木田順平はいささか緊張して駅までの道を歩いていた。
「……」
少し立ち止まって、自分の身なりを確認する。
どこもおかしい所はないよね?
部屋を出る前にもした事だけど、また繰り返す。
仕方ないよな、と思う。
――だって今から、生まれて初めて女の子とデートをするんだから。
約束の時間である十時より、二十分程前に待ち合わせの場所に着く。
駅の下の交番近く。
その辺りを見れば、そのひとは既に来ていた。
腰まで届く長い艶やかな黒髪、物憂げな瞳、細い手足、整った顔立ち。
和風な容姿で、どこか浮世離れした雰囲気がある。
それから、そのスタイルも良く――胸も大きい。
あーごほん。
兎に角だ、綺麗なひとだった。
虚木小夜――俺の学校のひとつ上の先輩。
先輩は落ち着きが無さそうに辺りを見回していたかと思うと、バックから手鏡を出して自分の顔や髪を細かく見たりしている。
彼女に声を掛ける。
「先輩、おはようございます!」
そう挨拶をすると、ビクッと小動物のように身体を震わせてから俺を見た。
「あ、おは、おはよう…殻木田くん……!」
身体の震えが伝わるように言葉も揺れていた。
「か、殻木田くんは…早いのね……」
「先輩も早いですね!」
俺は出来るだけ、平静を保って返事をする。
そうしないと、こう先輩の緊張した雰囲気に呑まれてマトモに会話できなくなる気がして。
「う、うん。あなたとのデートだし…遅れたらイヤだったから……」
俺の顔を見てから俯いてしまう。
先輩の仕草に――なんだろう、ただ胸がときめいた。
そんな彼女の服装を見て気が付く。
白い夏物のワンピース。
それは前に山岡と出かけた時、後ろから俺達を見守っていた先輩が見ていたもの。
「先輩、そのワンピース……」
「うん、どうかな……?」
顔を上げる事なく視線だけを送ってくる。
「凄く似合ってますよ、可愛いです!」
彼女に笑い返す。
すると、顔を赤くしてより深く俯いてしまう。
ワンピース姿の先輩と並んで歩く。
最初の目的地の映画館へと向かう為に。
その間、会話はあんまり無かった。
こちらから何度も話題を振ろうとするんだけど、先輩の返事はどこか上の空で。
色んな意味で新鮮だった。
普段はこんな事になることもなく、普通に話しているのに。
先輩の視線が俺を見ては泳ぐ。
何を見ているんだろう?
「先輩?」
「な、何でもないから!」
視線を逸らされてしまう。
少し寂しく思った。
何かあるなら言って欲しいと思った。
そう思った時だった。
手にぬくもりを感じたのは。
見れば、先輩の手が俺の手を握り締めていた。
俺達の手は繋がれていた。
「せ、先輩……!」
「その…手を繋いだら……ダメ?で、デートしているんだし……」
微かに震える手と、俺を見る視線。
ああ、そうか。さっきから先輩は――
――そんな彼女をいじらしく思った。
「いいですよ、手を繋ぎましょう――」
細くて滑らかな、その手をできるだけ柔らかく握り返す。
「殻木田くん……」
柔らかく微笑む先輩。
それから、俺達はいつものように話をする。
他愛のない事を。




