自身を殺す、その棺 5
アニ友を見て回り何冊かのマンガを買ってから、俺は山岡とヤクドに訪れて軽く腹ごしらえをした。
ハンバーガーを食べ終えた後、ふたりでコーヒーを飲みながらマンガを読む。
俺は先ほど気になったものを、山岡も俺と同じようにロボットの書かれたマンガを読んでいた。その表紙のロボットは、頭に髑髏のレリーフがあり海賊のようなデザインをしている。
「山岡は何を読んでいるんだ?」
「これかい?」
山岡がマンガの内容を話してくれる。遠い未来の宇宙、木星の帝国の野望と影で戦うために名前を変えた男女とその戦いに加わった少年の物語。
聞いていて、とても面白そうに思えた。
そう答えると気になるのなら、後で貸そうかと言ってくれた。
「ありがとう!」
俺は頷く。
「いいよ。この作品のファンが増えてくれるなら!」
山岡も笑った。
そんな俺達の座る席から少し離れたところに先輩はいた。
先輩もまたマンガを買ってきたらしく、杏仁豆腐とアップルパイを食べながら読んでいる。そのマンガはアニ友で手に取っていたものだろうか?
先輩がマンガから視線を上げて俺を見る。
なんでだろう?
先輩は俺をジト目で睨んでいた。
その唇が小さく動く。遠くて声は聞こえない。
ただ、その唇の動きから察するに――
『――とうへんぼく』
唐変木、かな?
えっと、なんでそんな事を俺は言われているのでしょうか?
先輩はいったい何を読んでいるのかな?
少女マンガ?
なら、無理ですって!
昔、妹の持っていたマンガを少しだけ読みましたが、普通の男子にはあんなイケメンな行動はとれません!
それから俺達はゲームセンターに来ていた。
多くの高校生がそうであるように、俺達も小遣いが多い訳ではない。
だから、少しのお金で楽しめる場所を選んだ。
中学の頃に友達に誘われて何度も来た事はあったけど、高校に入ってからは一度も来ていないので久しぶりだった。
液晶のゲーム画面から零れる光と溢れる電子音。それを見つめては操作して、プレイに熱中する人々。それは少しだけ非日常的にも思えた。だからのめり込むのだろうか。
「殻木田君って、どれかした事のあるゲームってある?」
山岡の質問を受けてゲーセンの中を見渡す。どれも本当に少しだけした事のある程度のものばかりだった。
ただ、その中で視線を吸い寄せられたものがあった。
そのゲームはふたりのプレイヤーが、各々のロボットを操作、協力して戦うというチームバトル戦だった。他のプレイヤーとの対戦モードもある。画面の中では色々なロボットが所狭しと動き回っている。
見ていると普段読んでいるマンガに登場したものに似ている、あるいは最近放映しているアニメのものまでいる。
「あれかな?」
指を差して伝える。
「あれなら僕は結構やり込んでいるから、殻木田君と一緒にプレイしても上手く援護できると思うよ。やってみる?」
「うん!」
俺は頷いた。
ふたりで隣りあって座り、筐体の前の置かれたイスに座る。コインを落としスタートボタンを押すと、ゲームが始まる。
使用する機体セレクト画面に移る。
さて、どれにしようかな?格闘型や射撃型、バランス型。沢山の機体がある。チームバトルである以上はバランスを考えて編成する必要がある。
「山岡はどれがいいと思う?」
俺は初心者なので、経験者の意見を仰ぐ事にした。
「僕は殻木田君に合わせるから好きなのを選んで」
その言葉で自分の好みで選ぶことにした。
「これにしようかな?」
「雪崩だね。幾本もの剣と突撃用のアーマーを装備した近接機体。少し難しいけどいいと思う。じゃ、僕はこれで」
選んだのは山岡が読んでいたマンガで登場した海賊のような機体。
マントを着込んでいて、巨大な槍を持っていて紫色をしている。確かバランスのいい機体だったと思う。
ステージを選ぶとゲームが始まる。
前に少しプレイした時の事を思い出して、なんとか敵を倒していく。
ミスもするが、そこを山岡がすかさずフォローしてくれる。その事でなんとかステージをクリアしていく。
三面ほど進んだ時だった。突然、警告音が鳴って乱入を示すメッセージが表示される。ちょっとビックリした。
「えーと、山岡どうしよう?」
相手が熟練者だったら、俺はてんでお荷物だろう。
「とりあえず、頑張ろう!なんとかなるかもしれないよ!」
「分かった!」
対戦が始まる。相手の機体は天帝と呼ばれるものと、緑の色をした狙撃機体。
どちらも思いっきり遠距離の機体である。
俺の機体、剣ばっかり持った近接機体ですよね。
接近できないとお話になりませんよね?
こんにゃろう!
開幕当初からバンバン弾が飛んでくる。躱すので手一杯だった。
死ぬ!このままでは為す術も無く殺られる!
「殻木田君、そのまま回避を続けて!僕が突撃できるタイミングを作るから!」
「おお?」
山岡が突撃する。機体に攻撃が集中する!
しかし、その攻撃は山岡の機体にはダメージとならなかった。
着込んでいるマント、それ自体が一定のダメージ受けて剥がれるまでは射撃攻撃を無効化してくれるのだ!
相手が一瞬、動揺したところにライフルで攻撃を加える。そこからすかさずサーベルを抜いての追撃。
相手は反撃を試みるが、それを躱す山岡。完全に手玉に取っていた。
上手い!
敵の体制が大きく崩れる!
「今だよ!」
「この瞬間を……待っていたんだ!」
俺はブーストを吹かして突撃した!
その後、結果から言うと――勝てませんでした。
それでも、僅差の勝負までもっていく事はできた。
だからふたり共、負けたけれどそれなりに充足感はあった。
「殻木田は筋がいいね。続けていけば、きっと上手くなれると思うよ。また一緒にやろうよ!」
「こちらこそよろしく!今度はもっと上手くなって足を引っ張らないようにするから!」
ゲーセンの壁に背を預けて、ジュースの缶で乾杯して互いの健闘を讃える。
それからふたりで色々なゲームをする。音ゲーやレーシングゲーム、そのどれもが山岡は上手い。
「山岡はゲームが上手なんだな!」
「どうかな?やり慣れているだけだと思うよ。その……剣道の試合の無い休日に始めた事だから」
少し顔が曇る。その事は不本意だったのかもしれない。
そんな風にゲーセンで遊んでいると気が付いた事があった。
店内の一角にプリクラなどが並べられた女性同士、及びカップル限定コーナーなんて所があることに。
そこに手を繋いだ男女が入っていく。なんか見ているだけで気恥しかった。
「普通の男子にはなかなか縁がないよね、ああいう場所は。殻木田君は行った事ある?」
「俺も無いかな」
「だよね~。高校卒業までには一回くらい誰かと付き合ったりすることあるのかな?」
山岡が溜息を吐く。
よく分かるよ、山岡。
そして、そんな一角を見つめているひとがいた。
先輩だ。
なんだろう。先輩は随分とキラキラした目でその場所を、そこにいるカップル達を見つめている。
それから俺を熱の籠った、それでいて何かを期待するような眼差しで見る。
視線が合わさると、俺に柔らかく微笑んだ。
――すごく可愛いと思ってしまった。
胸が詰まる。
せ、せ、先輩。何で?
そうだった!
俺、近いうちに先輩とデートするんだっけ!
あの、そんなに期待されてもどうしたらいいかなんて分かりませんってば!
途中までは普通の男子高校生の休日。
筆者もそうでした。
最後は……ナイワ~
ちなみに小夜がカップルコーナーを見つめている時。
「殻木田くんとデート…殻木田くんとデート……!」
これしか頭にはなかったとオモウノ~




