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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
二月の夜の闇は昏く、深く
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二月の夜の闇は昏く、深く 3

     2


 死。


 死について俺が思い出すのは――

  ――家族を全て喪った交通事故の時の事。


 あの時、お父さんが新しい車を買って。

 それで、みんなでどこかに行こうって話になって。

 お母さんも妹も、それを楽しみにしてて。

 それなのに――

 その日、俺が、俺が余計なことを。我儘を言ったばかりに、みんなが。


 お父さんも、お母さんも、妹もみんな。

 ――死んだ。


 ああ。


 車がスピードを上げた途端、破裂音がして、凄い音がしながら、視界がグルグルと回って。みんなの悲鳴が聞こえて。身体が色々な所にぶつかって痛くて。

 そして、気が付けば。


 目の前には、隣に座っていた妹が血まみれで倒れていて。


 あああ。


 それは、前に座っていたお父さんもお母さんも同じで。


 ああああ。


 声を掛けても、大声を出しても、泣いても、喚いても、泣き叫んでも、誰も、何も答えてくれなくて。

 痛かった。

 身体が。

 でも、それ以上にココロが。


 みんなはもう、ドコにもいない。

 どこにもいない事が――分かってしまった。


 あああああああああああああああああああああああああああ――



 「――っ」

 ハッとして目を覚ました。

 「はあ、はあ……」

 全力で走った後のような、荒い息を吐く。

 額を、頬を撫でると冷たい汗を搔いていた。

 それは身体も同じだった。

 (久々にユメに見たな……)

 最近あまり、見ることもなかったのに。

 頭が重い。

 頬の傷跡が痛む。

 アパートの自室、ベッドの上。

 閉じられたカーテンの隙間から零れる光。

 時計を見れば八時を示していた。

 ひとり暮らしを始めてからの概ね、いつもの起床時間。

 (よし、起きるとしましょうか!)

 そう、思い直し気持ちを切り替える事にする。

 朝からクヨクヨしてても良い事なんか、きっとないでしょう!

 ベッドを降りて、着替える。

 「うう……寒い…」

 着替えようと、上着を脱ぐと肌寒い。

 流石は二月。まだ冬の朝は寒い。


 着替えた後、冷蔵庫から食パンとヨーグルト、レンジで温めたレモンティーを用意して朝食にすることにした。

 「いただきます」

 ひとり、手を合わせる。

 朝食を美味しく頂いていると、ベッドの枕元の携帯の着信音が鳴り響いた。

 「はいはい、今出ますよ~」

 携帯を取り、掛けてきた相手を確認すると電話に出る。

 「順平君、おはよう。元気にしていますか?」

 「おはようございます、叔母さん」

 俺は叔母さんに最近の出来事や、ひとり暮らしについて話す。

 それらの話を叔母さんは、相槌を打ちながら聞いてくれる。


 家族を喪った後、俺は子供のいなかった叔父さんと叔母さんに引き取られた。叔父さんと叔母さんは良い人達で、俺を実の子供のように育ててくれた。ひとり暮らしをしたいと言った時も、最初は俺の事を心配して渋っていたけれど最後は了承してくれた。それでも、三日に一度は電話を掛けてきてくれる。

 俺は大切にされていると思う。

 本当に。

 そう、分かっているのにどうして俺はあの人達から離れようとしているのだろうか?


 それは――あの人達が良い人だから。

 俺なんかにはきっと、モッタイナイから。


 朝食を食べ終えた後、洗濯をすることにした。洗濯自体は叔父さん達の家に住んでいた頃からしていたので、特に苦労はない。

 「はあ……」

 ただ、洗濯が終わるまで手持無沙汰になってしまった。

 暇だなぁ、中学の卒業式、それから高校の入学式まで特にすることもない。今日は友達から手伝いや頼み事もない。

 本でも読もうかな……

 机の上、教科書と一緒に立てかけられた本の中から一冊のマンガを抜き出す。それをベッドに座り、読む。

 ――現代とは別の歴史を辿った世界。そこには〝超人〟と呼ばれる者達がいた。彼らの多く者が〝正義の味方〟でありたいと願いながらも、時代の流れの中、人々の望む正義、求められる正義は移り変わる。その中で超人達は自身の正義と世界のズレに苦しみ続ける。時として、怪物と扱われながらも、彼らは幻想のような正義を求め続ける。

 マンガの内容は大体、こんな感じだ。

 元々、このマンガは俺のものではなかった。

 事故の後、しばらく入院していた病院で同室だった子から譲り受けたものだった。

 それは、持ち主であるその子よりも、借りて読んだ俺の方がそのマンガを気に入っていたからだったと思う。

 内容も男の子向きだしね。

 ――順平くん。

 そう、俺を呼んでいたあの女の子は今どうしているだろうか?

 元気にしているだろうか?

 読み終えた後、元あったところに本を戻す。

 その隣には一体のロボットのフィギュアが置かれている。

 マンガの中に登場するロボット『エクウス』だ。

 いやーコイツのフィギュアが出ると模型雑誌を読んで知った時には、すぐにお店に走ったね。そして、貯金の殆どを注ぎ込んだよ。

 ただ――部屋の中を見渡す。

 テレビとか掃除機とか服といった生活必需品を除けば、私物は数冊の本とそのマンガとフィギュア、事故の前まで習っていた剣道具ぐらいしかない。


 お前の私物ってホント少なくて、引っ越し楽だわー

 そう笑って引っ越しを手伝ってくれた友達は〝通り魔〟に襲われて――


 アイツの為に俺は何ができるだろうか?


 俺は未だ、見つかっていない〝通り魔〟を捜したい。

 これ以上、傷付く人を出さないためにも。


 ふと、思う。

 昨日もそんな事を考えていた気がする。

 そして〝通り魔〟を捜しに夜の街に出ていた気がする。

 なのに、その時のことがどうしても――思い出せない。

 頭の奥にモヤが掛かったように。


 どうしても――


 俺は昨日の夜、何処で何をしていたんだ?

 そして、いったい何があったんだろう?


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